第268堀:持てる者 持たざる者
はい。
モンスター文庫を覗いている人はご存知かもしれませんが、
2巻は9月30日発売となります。
ま、挿絵やちょっと書き足したおまけ、専門店での特典SSが気になる人は買ってみるといいかも?
と、前回9月2日に投稿した時間が結構編なので、見逃してる人もいるかもしれません。
カヤとの秘話なので、読んでない人は読んでみるといいかも?
あと、活動報告でウィザードリィタイプのゲームを妄想する 5回をあげています。
興味がある人は読んでみてください。
ではでは、本編へ。
みんな、まだ学府編なんだぜ?
持てる者 持たざる者
side:ユキ
うん、休みが終われば仕事という日常に戻る。
これは、やはりどこの世界も一緒らしい。
で、休みから戻れば、仕事は溜まっていて……。
「で、マジで聖剣使い1人捕まえたって?」
さらに、厄介ごとが増えていた。
いや、考えようによっては1つ問題は減ったのだが、こうも立て続けに来ると、状況整理や書類仕事、その他もろもろで忙しくなる。
こう、少し間をおいてやろうとは思わんのかね。
「いや、そっちにすでに送ってるのに、なんで2度聞くんですか?」
タイキ君と俺は特別区にある海の砂浜、コテージのテラスでそんな話をしている。
ちなみに、タイキ君たちの休暇でここを解放している。
他の人の意見もほしいからな。
でも、タイキ君が聖剣使いを捕縛してしまったので、休暇中に確認をとる羽目になったのだ。
「……嫌でも聞きたくなるわ。仕事に復帰したら書類の山だぞ」
「あー、まあ、そうなりますね」
「1日、2日でなんであれだけ報告書が増えるか不思議だよ」
「そりゃ、俺が聖剣使い捕縛して、報告書書きましたし。そのあと、ウィードに送る手続きとか山ほどありますからね。何事も書類、書類ですよ」
「……学生からこっちに来たタイキ君からそんな言葉が出るとはな」
「そりゃ、俺もこっちじゃ王様ですからね。勇者の時の方がどれだけ楽だったか……」
「……よかったな。向こうでも立派に社会人やれるぞ」
「……生きるって大変ですね」
なんだこの、仕事に疲れて酒に酔う男達の様な会話は……。
「ま、それはいいとして、実際戦って、どう思った?」
「うーん、俺としてはなんであれだけ生きてきて、未だにあんな幼い考えになっているのか不思議ですね。私たちは間違っていない。周りが悪い。だから滅ぼす。それだけなんですよ。凝り固まっているにしては考えが浅いって感じがします。考えすぎですかね?」
「いや、俺もそう思っている。6人捕らえた全員がそんな考えだしな。誰か離反してもよさそうだろう? 実際行動を起こすまで、生きてきたんだから」
「ですよねー。考えたくないけど、裏がまだありそうですよね」
「ま、前任者を切り殺して、後に引けなくなったって可能性もまだあるしな」
「どっちもまだ、確証がないですからね。というか、裏があろうがなかろうが、面倒なことは間違いないですし」
そう言って、お互い苦笑いをする。
簡単に問題ってのは片付かないねー。
「タイキさまー!! すごいですよー!!」
海からアイリさんの声が届く。
さて、俺が聞きたかったことも聞いたし、そろそろ邪魔者は帰るか。
「いいぞタイキ君。アイリさんと一緒に遊んできてくれ。休みに悪かったな」
「いえいえ。学府の方任せました」
「おう」
ということで、俺は学府に戻って、学長たちへ報告に来たのだが……。
「くそっ、なんでこうも色々あるかね……」
知り合いの休暇の邪魔とか、日本にいた頃、平社員の俺だと絶対しないことだ。
でも、立場上やらないといけない。
あー、タイキ君の休み1日2日伸ばすかね。
やっぱり俺は、上の立場になるには向いてない。
下っ端根性が染みついてるしな。
「あの……、何か問題でも?」
そして、その疲れている様子を見ていた、学府の学長ポープリが恐る恐る聞いてくる。
そう、今は学府に戻って、建前上は親書を渡した報告になっている。
既にエオイドは報告を終えて退出して、残るは俺の本当の目的の報告だ。
建前上は学長が上、俺が下ではある。
が、現実は俺が上で、ポープリが下。
ポープリにとっては、非常にやりづらい相手だろう。
「いや、ポープリは悪くない。こっちの問題。まあ、ポープリもよくやっている、その書類仕事だよ」
そう言って、ポープリやララの机に積まれている書類を指さす。
こっちは羊皮紙が主流なので、獣臭いことこの上ない。
「ああ、それはご苦労様です」
「……ダンジョンマスターであろうと、こういうところはどこも変わらないのですね」
「ああ。ララの言う通り、組織として動いてるからなー。こういうことは当たり前にあるよ」
「確か、人を住まわせているのでしたか?」
「そうそう。殺して一度きりのDP回収なんて効率悪いからな。安全に住んでもらえる場所を提供した方がいいだろう?」
「確かに、理想ですが、よく人を住まわせられましたね。彼女、前任者も私も当時ダンジョンは生死をかけるところであって、人が住むなどと言う発想はなかったですよ」
「そこは簡単だ。奴隷を大量に引き取ったんだよ。戦争中だったしな、奴隷は大量に出回るから相場が下がる」
「なるほどー。人はそこからですか、それを考えると、彼女も同じ手法を取れたはず。って駄目か、彼女は研究一辺倒だったし」
……ん? なんか、話が雑談になってるな。
「と、なんか話がずれてるな。ウィードの話はまた後日にしよう」
「あ、すみません」
「申し訳ありません」
「いやいや、興味を持つのは当然のことだと思うから、落ち着いたら、ちゃんと案内するよ。謝ることじゃない。で、今するべき話は……」
「タイキ殿、勇者タイキ様が捕まえた聖剣使いのことと」
「クリーナの国への出国許可ですね?」
「ああ。それと、俺たちが捕らえた5人の聖剣使いの確認だな」
言葉にするだけで、山ほど厄介で報告書が大量に必要と言うことがわかる案件である。
ついでに内密にしないといけないので、こっそり処理しなければいけない面倒つき。
「……確かに、怒涛の勢いで物事が進みますね」
「でも、ユキ殿たちのおかげで、私の祖国は救われました。ありがとうございます」
「はぁ、ララに感謝の言葉を言われただけで儲けものだな。普段は感謝の言葉もないからな」
「そうですね。基本的に徹底して裏方で、表向きな功績はよそに譲っていますし」
「……と言っても、功績を受け取るとそれはそれで面倒」
「クリーナさんの言う通りですわね。私たちの目的を考えると、目立つのはとてもよろしくありません」
「そうですねー。これ以上厄介ごと押し付けられたらとてもじゃないけど回りませんよ」
護衛の面々はそう言って話に加わる。
ジェシカの言う通り、俺たちはなるべく功績はよそに譲っている。
が、ジルバの王とか、勝手にベータン押し付けてくるし、エナーリアでは王都襲撃があったからこっちも利用させてもらったが、それなりに名前が売れてしまった。
まあ、サマンサの親父さんたちにプラス評価になったから悪いことではないが。
でも、クリーナの言う通り、功績を真っ向から受け取ると、非常に面倒なことになる。
エナーリア、聖剣使いが守る砦を1日、半日どころか、ほぼ一瞬で制圧。
その勢いにのってベータンと一つの街を取り込み、援軍できたエナーリアの魔剣使いたちを大規模落とし穴、通称やらせ崩落事故で10万近くの軍を足止め、救援にきた救出軍も個別に撃破。そのあと、講和のために赴いたエナーリアで王都襲撃事件を防ぎ、裏で糸を引いていた大臣を捕えることに成功。
これらの功績に対する報奨を真面目に受け取ると、どっちの国でも重鎮レベルになってしまう。
それではサマンサの言う通り、まったく身動きができない立場になってしまう。
聖剣使いの暗躍を阻止する為、各国への足掛かりが欲しい現状では絶対拘束されるわけにはいかないのだ。
更に、リーアの言う通り、それらの功績からの報奨という立場の運営をしないといけない。
ウィードの仕事も未だあるのに、そんなの手が回らない。
ウィードを作る前は、実力を周りに示す必要があったから、強硬手段でセラリアを将軍にリテアとドンパチしたが、戦いと呼べるものはそれぐらいである。
それからずーっと内政だ。
と、いかん、いかん。
さっさと確認を済ませて、次の行動に移らないと。
「ポープリの言う通り怒涛の展開だが、やらないと終わらない。ま、身動きが取れなくなるような行動は避けつつ頑張るしかないな。で、手始めに、捕らえた6人の聖剣使いの写真付きの報告書は目を通しているか?」
「はい」
「確認いたしました。でも、わずか数日でここまで丁寧な書類を作るとはウィードの技術は素晴らしいですね」
ララは、羊皮紙の中で唯一白いコピー用紙を持って言う。
まあ、写真はないし、羊皮紙で手書きが主流だしな。
「エリスが徹夜で頑張った。後で会ったら労ってくれ」
「あー、エリスさんか。彼女ならできるだろうね」
「なるほど。納得です」
……因みに、この書類はこの新大陸の言語で書かれている。
つまり、パソコンに文字登録をして、わざわざ作ったのだ。
俺、エリス、ラッツ、ルルア、ラビリス、シェーラ、ザーギスは新大陸に来た直後はこの仕事でかなり忙しかった。
翻訳はスキルでできるが、日本語を英語へ、英語を日本語へ、これでニュアンスが変わったりするのはままあることなので、原文のまま記録できるようにするべきだという話で作ったのだ。
「目を通しているなら、聞きたいことがある。全員間違いなく本物だな?」
そう、あの聖剣使いたちが、ポープリが知る聖剣使いなのか、確認を取る必要があるのだ。
ポープリたちをウィードに招いてもいいのだが、未だ安定しない新大陸だ、ポープリがいない時に万が一トラブルがあると、かなり動きが遅くなる。
なので、報告書と俺たちのやり取りで簡略化しているのだ。
で、ポープリとララはその場で、報告書を再度確認して口を開く。
「間違いなく、6人とも本物です」
「はい。私も存じた顔です。しかし、不思議です。彼女たちが仲間の形見である聖剣を手放して、エナーリアの少女を聖剣使いに仕立て上げたという話はどうも腑に落ちません」
「ララの言う通り、その話は私も少し違和感がある」
この確認を行ったのは、以前ジルバ、エナーリアの攻防で聖剣使いを名乗る少女がいたためだ。
次代の聖剣使いがいるのであれば、捕らえた聖剣使いたちは、聖剣使いたちであったとしても、偽物、囮の可能性があるのだ。
しかし、その場合、俺たちを倒すために次代の聖剣使いを投入しないのは不自然だ。
「……この話は、捕まえた本人たちに聞くしかなさそうだな。で、彼女たちが囮でほかに行動を移すとしたら、どこになるか。そこが大事だな」
「と言っても、タイキさんが魔物の森での活動は事前に食い止めました。あとは、クリーナの国と、亜人の国じゃないですか? ほかの国は1つを残してすぐに飛べますし、残す1つもジルバの友好国。ジルバ王経由ですぐに私たちも動けますよ」
「やっぱり、その2国が怪しいな。既に魔物の森で活動してた聖剣使いもいるし、なるべく早くどっちの国も行きたいな。ポープリ、そこら辺はどうなっている?」
「んー、そっちはクリーナの方は問題ないよ。既に適当な親書は用意してるし、クリーナのお師匠は、サマンサのお父上同様、私の教え子だからね。今は宮廷魔術師だっけ?」
「……ん。その通り。でも、普段は森の奥に引っ込んで魔術の研究ばかり」
「と、クリーナの言う通り、ちょっと連絡が取れるまで時間がかかる。王宮の方へは連絡してるけど、クリーナのお師匠に連絡が行くのはかなり遅れるだろうね。ま、王宮とは話が付いているし、すぐに出て行っても問題はないよ。だけど、名目上、クリーナのお師匠と会わないのは問題がある」
「だろうな。俺たちはあくまでも、ポープリ学長の頼みで親書を届けている。それをほっといて、活動するのは目立つ」
「そこらへんで、拠点の設営に遅れが出るだろうね。誰かを残していくにも、コネすらないからね」
「……と言っても、即日旅に出るわけにもいかない」
「だね。ただの親書だから、慌てて飛び回るとかえって不審がられる。アマンダという竜騎士お披露目と考えても、ほぼ日帰り、どこがお披露目だよって話になる」
「少し時間を置いた方が無難か。竜騎士アマンダのお披露目という副題があっても、アマンダ自身の体力の問題もある」
俺たちは構わないが、アマンダは慣れない空の旅。
そして、ローデイで実感した自分の微妙な立場。
覚悟を決めて、エオイドとの穏やかに暮らすために、現在は嫁さんたちと訓練の真っ最中。
普通に考えて疲労困憊である。
俺たちが海に行っていた間は、エオイドと一緒にベッドから動けなかったらしいからな。
こう、いやらしいムフフなことではなく、物理的に、筋肉痛とか色々で。
エオイドも俺やタイキ君から猛訓練だからな、2人仲良く、ベッドで休んでいた。
色気もくそもない、体を動かすと奇声をあげる状態だ。
「まあ、歯がゆい話だけど、ここは我慢して、今集めた情報の整理をするべきだと思うよ」
ポープリはそう言って、書類をひらひらさせる。
「だな。見落としもあるかもしれないし、今ある時間を有効に使おう。急いては事をし損じるってやつだ」
「なんだいその言葉は?」
ポープリが不思議そうに、俺が言った言葉の意味を聞いてくる。
こっちにはこういう諺はないのか。
「急いでいると、変なミスをして、目的を達成できないって話だ。急ぐことだけが目的達成の近道ではない。急ぐと速くというのは違うという言葉だな」
「言い得ていますね。素晴らしい言葉だと思います」
「はー、ウィードがある大陸はそんな言葉があるんだね。いや、実に興味深いよ」
「ま、こんな話もゆっくりできるように、しっかり今できることをやっていこう。情報整理や見直し次第でまた違う見方が出来るかもしれないからな」
と、こんな感じで1週間ほど時間を置くことにして、その間は情報整理をしつつ、学府の資料を漁るような感じだ。
その間に残っている聖剣使いが行動を起こせば、大義名分で動けるし、魔物の森の魔力間引きは順調に進んでいる。
魔力量的には、一国分の魔力を間引きしている。
霧華たちの報告によれば、アマンダのワイバーンもまだ序の口だったらしい。
魔力量が足らなくて覚醒には至っていないが、本場のドラゴン系も多数いたという報告が上がっている。
それも、20体近く。
怪獣王ではないが、まさに俺がおそれた、魔力が拡散してドラゴン軍団が現れる一歩手前だったみたいだ。
無論全部、服従か、死か、を迫って、半々といったところ。
交渉役はたーちゃんたち、十魔獣に任せた。
さっさと殺して魔力間引きしてもいいのだが、魔物たちは魔物たちで違った情報を持っているかもしれないからな。
協力してもらえるならそれに越したことはない。
しかし、そんなにうまくはいかなかった。
予定というのは、あくまで予定だ。
要らぬトラブルがあれば変更を余儀なくされる。
というか、俺は忘れていたのだ。
ここは学府。学園。
お約束のオンパレードだということを。
タイキ君と必死にそのフラグを折ろうと画策していたのに、メインイベントが多すぎてすっかり忘れていた。
運がよかったのは、既に話はまとまって、学長室から出る準備をしていたというところか。
バンッ!!
学長室が何の前触れもなく開かれ、そこから入ってきたのは、学府の制服の金髪イケメン。
「学長!! 学府第13位のアーデス・ギュース。只今戻りました!!」
「こらっ、ノックもしないで入る奴があるか!! 来客中だ! 出て行け!!」
ポープリは不作法を指摘して、さっさと出て行けと怒気を放つが、そのイケメンはどこ吹く風で、ツカツカと学長のテーブルの前まで歩いていく。
「殺します?」
「頼むからやめろ」
ここは学府、こんなことは日常茶飯事だ。
リーアの言うように、そんなことで殺していたら、一体、何人殺さないといけないことやら。
「聞いていますか、アーデス? 学府第13位とて、流石にこんな不作法は見逃しませんよ?」
ララが静かに言って立ち上がる。
魔力が冷気に変換されて、学長室の気温が下がる。
あー、ララは本質的には氷系なのね。
「落ち着いてください。学長、副学長、これにはわけがあるのです」
「それはわかる。が、来客がいる中で話すことではないから、さっさと出て行け」
ポープリはそう言って指を出口へ向けるが、そのイケメンは未だ動こうとせず、なぜか俺たちを見て、口を開く。
「いえ、出て行きません。この場に盗人がいるのですからね。そこの男。ユキだな?」
いきなり名指しとか死にたいの?
嫁さんたちの目が殺しモードになっているんですが。
「こらっ!! 客に対してなんてこと言うんだ!! 撤回しろ!!」
「学長。目を覚ましてください。学長がこの男が連れた女に負けたと聞き及びました。しかし、それは巧妙な罠なのです!! 見てください、既に我が学府の第3位、第10位が取り込まれています。奴は、ジルバ、エナーリアから学府の戦力を下げるためにきたスパイなのです!!」
……なんでやねん。
でも、状況からみればその話もわからんでもない。
しかし、事実は全く違うので、周りの殺気はドンドン上がっていく。
だが、そんなことはお構いなしに、イケメンアホデスはこう告げる。
「ユキ、お前は自ら戦わず、女性を戦わせている!! それは人として恥ずべきことだ!! 私は人として、1人の男として、お前を倒して、彼女たちの解放を求める!! 彼女たちは戦争のための道具ではない!!」
正論、正論ではある。
しかし、しかしだ、やっぱりずれている。
ここは平和な日本であるなら、アホデスの意見はかなり支持されるだろう。
でも、ここは戦乱収まらぬ大陸。使える物ならなんでも使うのは当然。
そこで生きている奴がこんなことを言うからには……。
「で、本音は?」
「お前を倒して、彼女たちを振り向かせて見せる!! 羨ましいんだよこのやろー!!」
うん、納得。
実に青春な話である。
「まあ、話は分かったが、とりあえず、俺がスパイ云々は取り消しておけ。真面目に殺されるぞ?」
「え? はっはい!! 言い過ぎました、冗談です!!」
「ということだ、学長も副学長も落ち着いて」
「……アーデス。てめぇ、この場に残れ。いいな?」
「……首を切り落として、詫びるレベルの大問題ですが、ユキ殿からのとりなしです。それに感謝しなさい」
もう、素が出ている2人です。
女性って怖いよね。
「……アーデス。ユキに感謝しろ。ユキが止めなければお前を消し炭にしていた」
「ですわね。クリーナさんが黒焦げにした後、氷のオブジェにしていた所ですわ」
面識があるクリーナとサマンサも敵意剥き出しで、アホデスにドスの聞いた声を出す。
「で、羨ましいのはわかった。解決方法は? 倒すって言っても……」
「無論、魔術決闘だ!! お前も学府の生徒だろ!!」
「……はぁ、で? 決闘はいいが、成績の上下以外の賭けはしないぞ?」
「なぜだ!! 彼女たちを解放したまえ!!」
「いや、どこに奴隷の首輪が付いてるよ?」
この大陸でも奴隷は首輪によって制御されている。
しかし、ここまで魔術が衰退した場所で、術で縛る方法が残っているのは不思議なのだが、主に唱えるのと、道具として使うのに魔力の増減は関係ないようだ。
つまり、奴隷術式を書き込んだ奴隷の首輪があればそのまま使えるということだ。
ま、ウィードの方と違って、こっちの奴隷の首輪は術式が簡易になって、縛りも限定的だ。
細かく設定できない。逃げるな、命令に従え、自害するな。これだけである。
で、奴隷の首輪のついていない嫁さんたちは、自らの意思で付き従ってることになる。
いや、指定保護はしてるけどね。
「いやいやではなく、望んでユキといるのです。そちらにとやかく言われる理由は全くありません」
「ですね。私たちはユキさん大好きですから、何がどう転んでも離れるわけないじゃないですか。バカです?」
「……というか、ユキは団長。前線で戦うのは指揮官のすることではない」
「ですわね。皆を率いて前にでる指揮官も悪いわけではありませんが、それは軍という観点からみれば、やめてほしい行為ですわね。それを守っているユキ様に何も問題はありません」
で、4人がそう言ったあと、息をそろえて……。
「「「一片たりとも可能性は無いからさっさと消えろ」」」
おおう、俺も引きたくなるほどのドスが聞いた声ですわ。
アホデスなんて、後ずさりして、学長の机にぶつかっている。
「……まあ、100歩譲って、嫁さんたちの解放、意味ないけど賭けたとして、そっちは何を賭けるんだよ? 賭けは釣り合わない限り承認されないんだろ?」
俺は確認を取るように、ポープリに視線を向ける。
「ユキ殿の言う通りだな。そもそも賭けが成立しない。彼女たちの才能はとびぬけている。アーデス、お前は何を用意して釣り合いを持たせるつもりなんだ?」
「ぬぐっ……、そ、それは」
それも考えてなかったのかよ。
「いや、お前が無様に負ければ、その姿をみた彼女たちは目を覚ますはずだ!! 決闘を受けたまえ!!」
あー、そうきますか。
ん?
ちょっとまて、これって、利用できそうだな。
「わかった。賭けがないのなら、その決闘受けよう」
「「「え!?」」」
嫁さんたち、学長、副学長も盛大に驚いている。
「ちょ、ちょっとユキ。こんな小物に負けるとは露ほど思いませんが、護衛として認められません!!」
「そうです!! この手合いは汚いことするって決まってるんですから!!」
「……ん。肯定。ユキ、この決闘に付き合うメリットがない」
「ですわね。夫が無為に傷つく可能性は見過ごせませんわ」
まあ、普通に考えればそうなんだが、ちょっと視点を変えると利用方法があるんだよ。
「ふっ、この決闘を受ける漢気ぐらいはあったらしい。決闘は明日だ!!」
「いや、ちょっとまて、条件を入れたい」
「条件?」
そう、条件。
俺がこの決闘をただで受けるわけがない。
嫁さんたちも、条件の言葉を聞いてから静かになった。
よくわかってるね。
「特に不利な話じゃない。決闘の動機はモテないからだろ? だから、今回の決闘で終わるのは君だけのはずだ」
「……まあ、そうだな。ってモテないからとかじゃない!! 彼女たちを解放するために……!!」
「わかった、わかった。だからだ、こっちから知り合い2人も呼ぶから、そっちも俺たちに不満のあるやつを残り2人連れてこい」
「……残り2人は誰だ? 意味のない相手とは……」
「1人はタイキ君。俺と同じように嫁さん持ちだ。で、残り1人はエオイドだ。エオイドのことは言わなくても知ってるだろ?」
「あの、ハレンチ男か」
そう、このイベントを利用して、エオイドとアマンダの仲を進展させよう。
って、アホデスにも破廉恥って認識されるってのはよほどラッキースケベやってたんだろうな。
「勝ち抜きでもいいし、3対3でもいい。どうだ?」
「いいだろう。私にとっても都合がいい。同志なら山ほどいる。無論実力者もだ!!」
「……モテない同志?」
「そうそう。って違う!! 可憐な女性たちが目を覚ますことに賛同している者たちだ!!」
「ま、それなら決闘は受けよう。ということで学長、決闘の手続き頼みます」
「え? ああ、わかったよ。でもいいのかい?」
「まあ、嫁さんたちに良い格好見せるいい場所だし。頑張らせてもらいますよ」
なんか後ろで、録画とか、ほかの皆に連絡とか声が聞こえるが、まあ、嫁さんたちを納得させるためだから仕方ない。
「じゃ、えーと、アホデス。日にちは明日でなくてもいいからな」
「アホデスじゃない!! アーデスだ!! で、なぜ私が日にちをずらす必要……」
アホデスがそう言い切る前に、学長の手が彼の肩に置かれる。
「それは無論。てめぇが明日、動けない体になるからだよ」
「が、学長!?」
「まあ、明後日には動けるぐらいに手加減はしてやる。ララ、闘技場の用意だ」
「はい。わかりました」
「アーデス、これは仕置きだけが目的じゃない。お前だと、ユキ殿相手に数秒も持たない。それじゃ、ユキ殿にも観客にも失礼だ。せめて、1分持つぐらいまで鍛えてやる」
それがモテない男アホデスを見た最後であった。
いや、決闘が無しになるな。
モテない男、アホデスは更なる力をつけて、俺の前に立ちはだかるだろう。
……ん?
これだと、俺が敵役みたいじゃね?
ま、いいや。タイキ君とエオイドに話してこないと……。
次回、ラブコメの波動を感じる!!?
君たちは、どっちを応援する?
リア充対非リア充の決闘
勝っても負けても、結果は揺るがない。
しかし、それでも引けない戦いがあると、男たちは強大な敵、リア充に挑む!!
……いや、俺は一応作者だからユキ支持派よ?
アホデス支持派なんてわけないじゃないですか、やだー。
さて、最後に、いつもいつも、感想ありがとうございます。
誤字脱字の指摘から、面白いと言ってくれるかた、ここがつまらないと言ってくれる勇気あるかた。
全部目を通しております。
個別に返事を返せなくて申し訳ないのですが、いつも読んでいますので、これからもよろしくお願いいたします。




