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第267堀:託すのは絶望でなく希望

またせたな!!


二重の意味で。

今日はMGSV:TPPの発売。

そして、カヤとユキの秘話ここに。

では、お楽しみください。



託すのは絶望でなく希望



Side:カヤ



「正気に戻りなさい!! こんな奴らに手を貸す理由などありません!!」


あー、うるさい。

昨日は海でたらふく遊んで、飲んで、食べて楽しかったのに、1日過ぎればお仕事の日々。

いや、普通の仕事ならいい。

でも、今回はちょーっと今までとは方向性が違うので、凄くめんどくさい。


「聞いていますか!! 早く私を仲間の所へ連れて行くのです!!」


私は狐耳をペタンと伏せて、人の耳には両手をあてて塞いでいる。

なんでこんなことになったんだろう?

たしか、ユキたちが道中待ち伏せをしていた、馬鹿ーズの聖剣使いたちをたーちゃん率いる、アスリン十魔獣が一気に鎮圧、捕縛したんだっけ?

で、ローデイでサマンサを貰う話をして、それでローデイの拠点を手に入れて、ようやく、お荷物をウィードに連れてきたって話だった。

私やトーリ、リエルはタイキたちと一緒に学府で、待機だったし、当事者じゃないから現場の出来事をよくしらない。


「報告書どこだっけ?」

「私を誰だと思っているのです!! 同じ狐人族なら敬いなさい!!」

「知ってる、知ってる。なんちゃって、おもちゃの棒切れ振るう子供の勘違いバカメス狐でしょ」

「なっ!?」


きゃんきゃん五月蠅い聖剣使いへ適当に返答しつつ、このバカメス狐を捕えた時の報告書を探す。

えーと、机の上には特に見当たらないし、引き出しの中か、戸棚かな?

まず、この部屋に報告書がないということはない。

だって、この場所は聖剣使いを隔離する専用の牢獄なのだから。

今回、ユキたちを待ち伏せで襲撃しようとしていたバカ共は総勢5名。

戦力的には5人いようが、私たち1人にすら、傷も付けられない。

でも、どんな隠し玉があるかわからないし、変に仲間がいると粋がるので、分けて監視している。

スィーアとキシュアの時は全裸で色々踊らせていたし、ピースとも合わせたから、現在2人は大人しくなっていて、セラリアやルルア、シェーラ、デリーユから帝王学?なるものを叩きこまれている。

ユキが言うには、間違いの元は無知なせいらしい。

彼女たちが言う、絶対正しいことは、世の中ではありえない。

村という小さい世界にいた私だってそれを知っていた。

自警団には数限りがあるし、取捨選択はよくやっていた。

例えば、村に慌てて旅人が立ち寄って、仲間が大勢のオークに襲われているといわれて、助けに行くことはなかった。

村を守ることの方が先決、一応、旅人の仲間を助けにいく名目のもと、少数で偵察に行った。

まあ、時すでに遅く、男は喰われて、女は犯されすぎて孕む前に死んでいた。

で、規模からすれば、戦闘に特化している狐人族の私たちであれば撃退可能ではあった。

が、それには被害を伴う。

やるのであれば、撃退陣地が整っている村が最適。

その場で、旅人の弔い合戦をして無駄に死者をだすことを選ぶわけにはいかなかった。

と、こんな感じで立場が違えば、選ぶべき正しさは変わってくる。

彼女たちは、本当に自分たちが掲げるものが絶対正しく、それに誰もが賛同してくれると疑ってなくて、それを裏切られて、現在新大陸の人々を絶滅させる作戦を発動中。

というか、自分たちで主のダンジョンマスターを裏切って、切り殺しておいて、正しいもクソもないと思うが。

そう、変にちぐはぐ。私がさっき言ったように、おもちゃを与えられた子供だ。

初めて、木剣をもらった村の子供たちによく似ている。

だけど、その村の子供たちはすぐさま、大人たちとの訓練でボコボコにされて、現実を知るのだ。

自分たちに足りないものは山ほどあると。腕だけが足りないというわけではない、魔術も、村と仲間を守る知識も、ありとあらゆるものが足りないのだと。

だが、彼女たちには、それを教えてくれる大人が存在しなかったのだろう。

まあ、持たされた武器が聖剣とかいう、ナールジアさんのお手製に比べればおもちゃであるが、それでもあの新大陸では一気に強者となれる道具。

聖剣のおかげで、彼女たちは自分の意見を簡単に押し通す事が出来た。

で、最後は、自分たちが前任者をバッサリやったように、切り捨てられた。

それで、世界に見切りをつけたと。


自業自得だ。


これがスィーアとキシュアからの話を聞いて私が思ったこと。

そんなことを考えつつ、きゃんきゃん五月蠅い同族のバカを無視して、報告書を探している。


「えーと、見てないのはこの引き出しかな?」


とりあえず、机の引き出しはこれで終わりだ、ここになければ、戸棚のファイルの中か……。

多いなー。ここで見つからなかったら、ヘッドホンつけて寝よう。


「あ、あった」


その引き出しにはポツンと、ファイルが置いてありタイトルは「ローデイ道中の聖剣使い捕縛報告書」「聖剣使い人物資料」と書いてある。

えーと、作成はエリスか。

相変わらず丁寧だねー。

というか、一体いつの間にこんな資料作ったのか不思議だ。

いや、アイテムボックスでパソコンとか持ち運べるけど、私はそこまで仕事熱心じゃないし、報告書はテンプレを印刷してから手書き記入。

見た感じ、パソコン持ち込んで、全部パソコンで処理したみたい。

まだタイピング苦手なんだよなー。音楽聞くとか、映像見るのにはよく利用するけど。

そんなことを考えつつ、ファイルを机の上にだして「捕縛報告書」に目を通す。

目を通すが、大体聞いた通りの内容だ。

ちょっかい出す前に、クロちゃん達の先制攻撃を受けて全滅し、捕縛。

そのあとローデイまでクロちゃんたちに引きずられてくる。

その後は、エリスやデリーユ、ルルアの監視の元、中庭の馬小屋で寝起きが二日ほど。

ユキがサマンサの親御さんへ結婚の話と、ローデイ内部への根回しの話をして、ローデイでの拠点を確保。

その後、監視が厳重なウィードへ移動。

しかし、殺されないと余裕が出てきたのか、態度が悪くなる。

この状況で、スィーアとキシュアに会わせてもろくなことにならないと判断して、5人を別々の場所に収監、監視をして、再び頭を冷やしてもらうことにする……か。


「……あれ? なんで報告書見ようと思ったんだっけ?」


確か、経緯をよく知らないから、それを見ようってことだったから、これ自体は問題ない。

でも、何かほかの目的で報告書を探してた。

えーと、えーと……。


「……せんか!! 聞こえませんか!! いい加減にしなさい!!」

「あ、思い出した。あなたのことだ」

「お、思い出したって忘れてたのですか? 私を!?」


いや、厳密には、なんで私がバカメス狐の監視になったのかを調べていたんだった。

だって、五月蠅いもん。このバカメス狐。

のんびり昼寝もできやしない。

えーと、何々、個別に収監した聖剣使いの監視役は、私たち妻と魔物たちで行う。

誰が、誰の相手になるかは、人物資料に聖剣使いの情報をまとめているので、それを参考に選ぶようにする。

最後の一文に妙な不安を覚える。


「……聖剣使いの情報ね。……まさか同じ狐人族だからって安易な理由…なわけないよね?」


私は恐る恐る、人物資料を開く。

そして、私はきゃんきゃん騒いでいる、バカメス狐の項目を見つけた。


名前はカーヤ・レグメント。


……名前かぶってない?


種族は見た通り狐人族。


いや、同じ狐人族として恥ずかしすぎるできだけどね。

頭空っぽだもん。

容姿は私よりいい。スタイルはいいし顔も整っている。

髪の毛や耳、尻尾は白い毛で黄色の私とは違う。

で、えーと選定基準はと……。


ほかの4人にも言えることだが、今は興奮状態なので、なるべく同種族の妻たちを監視に充てて落ち着くのを待つのが最適と考える。

無理だと思えば、連絡は当然、人員の配置変更も考える。

しかし、まかり間違っても、ユキさんと彼女たちを個人的に会わせるのは、絶対に決して、してはいけない。

彼女たちは前任者を切り殺した前科があります。

だから、ユキさんがなんと言おうとも、個人で会わせてはいけません。

リーア、ジェシカ、クリーナ、サマンサにも厳命してはいますが、各監視担当者も細心の注意を払ってください。


なるほど。

そうなると、やっぱり私が最適か。

バカメス狐も興奮してるみたいだし、当分は無視で行こう。

下手に監視交代とか言ったら、ユキが出てきそうだし、ユキに何かあれば、私たちは悲しいし、聖剣使いたちは、もう人として死なせはしない。


「ひっ!?」


あ、ユキが傷つくところを想像して殺気がでちゃったか。

バカメス狐がベッドに逃げ込んで、丸くなってる。

はぁ、なんで捕縛した相手に、こんな良い環境を整えるかな、ユキは。

散々迷惑かけたんだし、こんな手間のかかる懐柔しないで、拷問して従順にさせればいいのに。死ねば捨てればいい。壊れたなら、ユキのおもちゃにでもしたらいい。

そこら辺は未だに甘い。

まあ、子供も生まれたし、おもちゃにするのは教育上よくないかな?

私も子供ができたら、おもちゃに対してなんて説明していいかわからないし。

……いや、ユキのおもちゃってことは、致すことだし、それは駄目だ。

私たち妻たちがユキのおもちゃになるべき。

うん、彼女たちが壊れた場合は娼婦館にでも送ればいい。

顔やスタイルはいいから、自分たちの食い扶持ぐらいは壊れてても稼げるだろう。

って、いけない、いけない。

まだ、拷問することになったわけじゃない。

あまりにも、バカメス狐がうるさいから、そっちの方向で考えてた。


「って、静かになってると思ったら。ベッドに入って寝てる……」


きゃんきゃん叫び声が聞こえないかと思えばこれだ。

……数百年ニートしてただけのことはある。

文句はあるが、今は静かだからいいか。

特に、変な記述もない……って私と同じ幻術スキルが使えるのか。

へー、長く生きてるだけはあるらしい。

幻術っていうのはユキに言わせれば催眠術の一種らしくて、地球の狐はそれでいろいろ悪さをして名前を残したのがいるみたい。

同じ狐として不名誉である。


「ふぁ。あー、畑仕事早かったから眠い。……寝るか」


一応私たちも夜勤での監視になることがあるので、敷布団がこの部屋にはある。

……大抵、夜勤は魔物たちに任せるが。

観察対象は寝てるし、特に何かしろともいわれないし。

マジで寝よう。

私はさっさと布団を敷いて、潜りこむ。

どうせ、交代のトーリが起こしてくれるだろうし……。

そんなことを考えながら、私はすぐに眠りに落ちていった。





きゃっー!! わっーー!!


ドンドン、ゴン、ガラガラ、ガシャン!!


そんな怒号で私は目を開く。

何かあったのか?

慌てて、現状を把握しようと辺りを見回すと……。


「村を焼き払え!! この村はガルツと通じている!! 村人一人、逃がすな!!」


そこには、とうの昔にユキに嵌められて、公に処罰されたくそ大臣がいた。

襲われているのは、私の村。

もう、無くなっている。

今あるのは村の皆を弔った小さなお墓だけ。


『夢……』


私は凄惨な光景を見ても心動かず、夢と認識する。

何度も何度も見てきた夢だ。

最近は結構見る頻度下がったと思ったけど、うーん、やっぱりまだ見るか。

私にとって、今までの日常が崩壊して、新しい時を迎えたきっかけなんだから。


『ほら、やっぱり人に救う価値なんてない。あなただってこんな酷い経験をしているならわかるでしょう?』


……どうやら、ただの夢ではないらしい。

振り返ると、カーヤがこちらを真剣に見ていた。

バカメス狐め。私が寝入った隙に精神干渉してきたか。

でも、放出系が禁じられているし、何で幻術が使えたのだろう?


『夢だから、反応は薄いわね。まあいいわ、私に従いなさい。それであなたの復讐は遂げられる。あんな男に付き従う必要はないわ』

『寝言は死んでからいえ。バカメス狐』

『なっ!?』


カーヤは驚いた顔をしているが、私は容赦などしない。

即座に顔面にパンチをいれて、怯んだ隙に拘束する。


『ぐうっ!? な、なんで!? あの男に奴隷として使われているのでしょう!!』


はぁ、なんだこのバカは。

そして、夢もいいところになっていて、私と団長の一騎打ちになっていた。


「はははっ!! いいか、女、その男を殺せ!! そうすれば、村人は助けてやる!!」


いつか聞いた、助けるつもりのない言葉。

でも、私と団長は嘘とわかっていて、命を賭して、村人たちが逃げる隙を作った。

私が団長の胸にナイフを落とした瞬間、つかまっていた村人たちが、各々魔術を使って逃げ出す。


「ぐっ、くそっ!! 構わん殺せ!! 殺せっ!!」


そして私は、追いかける兵士を必死に倒していく。

せめて、少しでも多くの仲間が逃げられるように。

でも、今まで戦ってきたし、団長とも削り合いをした私はすぐに追い詰められていく。


「カヤ!! こっちだ!!」


だが、彼が私を助けて、引っ張りだしてくれた。

いつもは貧弱なくせに、この時は頼もしかった。

こういう男らしい顔もできるんだなーって、うれしかった。

でも……、斧が彼の頭に飛んできて、……終わってしまった。

……私は彼を弔うこともできないで、そのまま奴隷にされた。

号泣していた、彼や仲間たちを失ってしまったことと、それを守り切れなかった自分の不甲斐なさに。


『ねぇ、こんな世界があっていいはずないわ!! わかるでしょう!!』


その映像を一緒に見ていたカーヤは必死に言う。

でも、わかるわけない。


『私には理解できない。確かに、この出来事は死ぬほどつらかった。でも、それを何も知らない、幸せに暮らす今の人々を不幸にしていい理由にはならない。お前らがしているのは、ただ我儘で迷惑な八つ当たり。死ぬなら1人で死ね』

『それでもっ!!』


ま、絶望だけだったら私もこうなっていたのかもしれない。

だけど、私にはみんながいた。

何もかもなくして、それでも、私と同じように色々なものをなくして、必死に今を生きようとしているみんながいた。

そのみんなの中に、今までのすべてをかなぐり捨てさせられて、この世界に連れてこられた変な少年がいた。

でも、その少年はロクに泣き言も言わずに、神様からの願いをかなえるため、必死に頑張っていた。

本人はいろいろ非道なことをしているつもりだが、全然そんなことはない。

誰よりも、甘くて優しかった。


『それでも。同じ言葉を言って、私の夫はあなたたちとは違って、人を導くことを、いや自ら頑張っていくことを教えた』

『な、にを?』

『私は絶望で終わらなかった。いや、あなたたちも手を差し伸べてくれた人がいたはず』

『……』


そう、彼女たちにもいたのだ。

私にとってのユキのように、絶望の中で手を差し伸べてくれた人が。


『……見せてあげる。私の絶望の先を』

『え?』


夢なのは都合がいい、あの時を見せてやろう。

私の村の思い出はこれで終わりではない、続きがある。

そして、念じれば、あの時の風景がよみがえる。

家屋は焼け落ち、村の仲間の亡骸は獣にでも食われてたのか、骨しか残っていない。

でも、心なしか、あの時より穏やかな空気だった。

もう、ここには争いはないのだと。


「……ここが、カヤの村か」

「……うん」


私とユキ、その後ろにみんなが付いてきてくれている。

シェーラがいないから、確かウィードができる前の話だっけ?

この時は、私が無理を言って、村にやってきたのだ。

死んだ仲間を弔ってやりたいって。

ユキは引きこもりがちだったから、ダメと言われるかと思ったけど、あっさり許可をくれて、みんなでこの村に来たのだ。


「……これが、私の名を騙ったロワールの」

「……」

「いい、2人とも、決して目をそらしては駄目よ。私たち上に立つ者が無能なせいでカヤの村は無くなった。その事実を受け止めなさい。そして、二度とこのようなことが起こらないようにと、戒めにしなさい」

「「はい」」


あー、この時はセラリア、ルルア、エルジュも来てたっけ。


「じゃ、皆の遺骨を集めよう。このままじゃ可哀想だよ。いいかな? カヤ?」

「……うん。お願い」


リエルがそういって、皆、思い思いに落ちている遺骨を集め始める。

私も、遺骨を集めようと動いたのだが、広場に棒が突き刺さっていて、それに向かって無意識に足を進めていた。


「だん、ちょう」


それはあの日、私の手で命を絶った自警団の団長の愛用の棍だった。


「それが、カヤが言ってた育ての親の団長さんか?」

「……ぐすっ。そう、私の親は病で小さいころに亡くなった。それを引き取って育ててくれたのが団長」


ユキは、他の皆と同じように気持ちが沈んではいなかった。

普通に、友達に話すように、棍のそばに横たわっている骨に手を合わせて、こう言った。


「団長さん。初めまして。俺がカヤを買って引き取ったユキといいます。心配でたまらないだろうけど、そこは心配しないでくれ、奴隷からはすでに解放しているし、彼女の好きなように生きてもらおうと思っている。だからさ、大丈夫」

「……ユキ」


私はその言葉に嬉しくて泣きたくなった。

……私は謝ろうとしていた。

生き残れと生きてくれと、文字通り命まで差し出した団長に。


「……だん、ちょう。お、おかげで、わ、私は助かりました。ありが、とうございっ。ううっ……」

『ほう。お前のことだから、てっきり、守れなくてごめんなさい。とでも謝るかと思ったのだが。世間にもまれたようだな』

「え?」


そこに霊体化した団長が立っていた。


『まあ、血まみれなのは許してくれ。霊体での体の維持は初めてでな。どうもうまくいかん』


そんな、どうでもいいことを頭を掻きながら言っていた。


「だ、団長」

『しかし、どうしてくれる。お前が生き残ったことを悔いて謝りに来るかとおもえば、前向きになりやがって。出てくるタイミングを逃したぞ。と、ユキ殿だったかな? こんな娘ですが、拾ってくれて感謝します』

「いえ、やっぱりいましたね」

『おや、ばれていましたか?』

「いや、なんとなくですが、実力者ならできるかなーと」

『ははっ、ものすごい慧眼ですな。生身があれば一つ手合せを願うところです。さて……』


団長はそう笑うと、身なりは血まみれだけど、立派に敬礼して、口を開いた。


『先に逝ってしまった村の者たちに成り代わり、感謝申し上げます。皆様方の弔いにきっと皆満足してくれるでしょう。本当にありがとうございます』


いつも自警団で練習していた、大きな声でハキハキと、いつもの団長の姿だった。


「いえ、カヤもすでに身内です。家族の弔いに付き合うのは当然ですよ」

『この時勢にそのような人格者はおりますまい。村1つ無くなりました、村人がアンデット化したり、近場に危険な魔物がいると思って当然です。ユキ殿の行為は立派だが、このような可愛い娘さんたちを連れまわすのは感心しませんな』

「はい。肝に銘じておきます」

『ふっ、ふはははっ!! 本当に変わった御仁だ。てっきり守れるから大丈夫というと思っていたのですが。なるほど、過信はせず、それでもカヤのために来てくださったのですな。皆々様、娘のために本当にありがとうございます』


そして、ひとしきり笑ったあと、団長の姿が薄くなっていく。


『さて、心残りもこれでなくなった。……カヤ』

「はい」

『いい人たちに出会えたようだな』

「……はい」

『泣くんじゃない。確かに別れ方はつらかったかもしれん。だが、それで後ろを振り返ってばかりでもつまらない。私たちの冥福を祈ってくれるのなら、幸せになってくれ』

「はい!!」

『いい返事だ。今のカヤなら教えていいだろう』

「団長?」

『私からの最後の試験だ。森のいつもの場所に1体のアンデッドがいる』

「……それって」

『彼を安心させてやれ。そして、今を生きろ』


私は、団長が消えるのを最後まで見届けることなく、森の中へ駆け出していった。

いつもの場所、それは彼がいつも定期的に薬草をとっていた森の中の陽だまり。

そして、たどり着くと、頭に斧がめり込んでいる、人が立っている。

いや、アンデッドか、もう腐敗がすごい。

それでも、彼は立っていた。


「ウウッ……ガヤ、守る」


彼はまだ私を守るために、森の中で立っていた。

なんて、努力の空回り。

死んで気合い発揮しないでよ……と言葉にできなかった。

もう、涙が止まらなかった。

でも、言わないと。

彼を安心させないといけない、ゆっくり眠れるように。


「もう、いいから!!」


私がそういうと、彼は反応して、こちらを向く。

顔もすでに腐敗が進んでいるが、それでも彼の顔だった。


「グ? ガヤ?」

「そうだよ。私はおかげで助かったから!! もういいの!!」

「もう、いい? よく、わから、ない。これからも、ガヤ守る」


ああ、確かあの時彼は自覚していなかったのだ。

自分が死んだことを。


「……カヤ、俺が言ってもいいぞ?」


後ろから追いかけていたユキが、みんなが見守る中、そう言ってきた。

でも、これは私が言わないといけない。

だって……。


「ガヤからはなれ、ろ!! ボぐが、まも、る!!」


今でもずっと私を守ろうとしている彼にできる最後のことだから……。


「大丈夫!! 大丈夫だから!! タングは、もう休んでいいから!!」

「てき、じゃ、ない? 休ん、でいい?」

「うん!! 私を助けてくれたの。敵じゃないから、もう大丈夫」


そういうと、タングはその場に膝をつくように、足が崩れる。

もう、限界だったのだ。

地面に倒れこもうとするタングを慌てて支える。


「そう、か。なら、す、こし、休むよ」

「うん、うん」

「でも、あと、すこし、だけ……」


タングはそう言って、私から顔をそらして、私の後ろにいたユキを見つめる。

ああ、ユキはいつでも私を助けられるように、身構えていたのか。

だから、タングはあんなに警戒していたのか。


「ガ、カヤを、助けて、くれ、て。あ、りがとう」

「気にするな。そして、どう考えても大金星はお前だよ」

「一つだけ、あ、なた、にお願いが……」

「ユキだ。偽名で申し訳ないけどな。これも何かの縁だ、できる範囲なら何でも言ってくれ」

「ユ、キ。……カヤを頼みます。出来れば、僕のように無様においていくことがないように」

「ああ。任せとけ」

「……できれば、娶ってあげてください。カヤはきっとユキが好きだから。わかるんですよ、幼馴染だから」

「なっ、なにを!?」


ゾンビになってまで何を言っているのだろうか、この幼馴染は!!


「それは、承諾しかねる。人の気持ちだからな。が、カヤに惚れられる男になるよう努力はする。だからゆっくり休め親友」

「ははっ、親友です、か。ありがとう。カヤ、幸せになってく、れ」


そして、タングはただの死体に戻った。

しばらく泣いた後、タングも村の皆や団長と一緒の場所に葬って、祈りをささげる。


「さて、帰るか」

「……うん」

「でも、その前に言わないとな」

「え?」

「カヤ、団長さんにも、親友にもいろいろ託された。迷惑かもしれないが、俺はカヤに一度はプロポーズしないといけなくなった。それまでは、一緒にいてくれないか? すぐにプロポーズすればいいだけだが、流石に親友の言葉を鵜呑みにできない。しばらく、カヤに見合う男に成れる様、頑張ることにする。いいか?」


そう、これがユキの妻たちへの初めてのプロポーズ?するよ宣言。

実は私が一番乗りしたのだ。

逆にユキへ大好きって言うのは沢山あったけどね。

しかも、団長と幼馴染の公認だ。

皆は砂糖を口から吐き出すって、言うけどね。


「……うん。その時を待ってる」


うん。

いい笑顔だ私。

大丈夫。そのあとしばらく時間がかかるけど、ちゃんとプロポーズしてくれるから。


『こんなのはまやかしよ!! いいわけ!! 話のすり替え!! あなたが失ったものは何も戻っていない!!』


その映像が切れて、ようやくカーヤはそう叫ぶ。

真剣に見てくれてたぶん、多少は落ち着いてきたのかな?


『で、なに? それで、今の幸せを、何も関係のない人たちを、昔なんて関係ない、今を生きる人々を、不幸にする理由にはならない』

『そ、それはっ……』

『さて、人の赤裸々な過去を見たんだから、お代はもらう』

『へ?』


首をかしげるんじゃない。

この思い出は、私とユキの大事な思い出の一つだ。

これを掘り出す羽目になったからには、しっかり落とし前をつける。


『あれ? 嘘!? 幻術が逆に利用されてる!? そ、そんなっ!?』

『とりあえず、バイオでハザードな夢を見た後、全裸で思い出の街で疾走する夢を見なさい』

『え、前半はよくわからないけど、後半はわかるわ!! なにその嫌がらせ!?』


否はない。

強制である。


「ふう。寝た気がしない」


私はそう言って眠りから目覚める。

とりあえず、牢獄へ目をやると、カーヤがうなされている。

その様子から、今はバイオなハザードか。

夢の中の能力は制限して普通の人と変わりないから、逃げることしかできない。

ゲームのクリーチャーもたくさん入れてるから、せいぜい頑張ってクリアするといい。

あ、夢で死ぬと夢のスタートに戻されるから、生還という条件を満たさないと夢から覚めない。


「ん? なるほど。これが、幻術が使えた理由か」


よく見ると私に彼女の髪の毛が届いている。

おそらく長い髪を結んで、こちらに飛ばしたのだろう。

これなら、自分の髪に魔力を通すだけでいいから、外への魔力の放出を制限してても幻術が使えるわけだ。


「……後で、報告しとかないと。その前に、ユキに抱き付いてこよう」


あの夢でなんか、ムズムズしてきた。

こういう遠慮しなくていいのは夫婦の特権だ。


「村の皆。団長。タング。今、幸せだよ」


そう呟いて、交代のトーリが来る時間までのんびりするのであった。




さて、いかがだったでしょうか?

確かに、恨みがあっても当然でしょう。

でも、それよりも、残った人がいるなら、誰だって幸せになってほしいと思うはずです。

自分が死んで、それでずっと引きずって、自分の墓場で泣いている知り合いを見たくはないはずです。


カヤがユキと一緒にいるのは、この話の結果。

ユキがカヤに見合うように頑張ったのです。

それを見ていたセラリアやラビリス、ラッツは嫉妬していましたがw


そして、このカヤとカーヤ、これで終わりではありません。

新大陸に入ってから言っていましたが、この大陸でのメインは亜人の嫁さん。

主に出番が薄かったトーリ、リエル、カヤです。

残るはクリーナの国、そして亜人の国。そして、最後の聖剣使い。


続きをお楽しみに。

あ、前書きで書いた通り「メタルギアソリッドV ザ・ファントム・ペイン」やるので、3、4日更新止まるかも?


だって「待たせたな!!」って言われて我慢できるやつがいるのか?


あ、ちなみに9月2日。本日休みなり!!

準備は万端!!


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