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第243掘:生贄と悪巧み

調子に乗った。

このペースが稀だ期待しないでください。

さあ、お約束破る布陣を見よ!!

そして、思い出せ!! こいつがいたのだ!!

生贄と悪巧み




side:ユキ



「ぶっ」


目の前の少年は噴き出す。

しかし、それでは収まらなかった。


「あっはっはっはっは!! ひぃー、お腹痛い!! ど、どこのラノベの冒頭ですか!! き、きっつ、お、お腹が、ひぃ、あはははは……!!」


豪華な絨毯の上で転げまわって大笑いするこの少年、至って普通の少年であるが、新生ランクス国の国王であり、勇者である。

巷では勇者王と呼ばれている。

なんだ、ガオガイ◯ーかよ。

ウィード建国祭のトラブルで知り合い、俺にとっては唯一の日本人の知り合い。

その名もタイキ・ナカサトという。

彼もこの異世界に勇者として呼ばれ、こき使われる日々を堪え、ようやく圧制を敷く王族を打倒した。

だが、その王がいなくなった国を建て直す為、彼が王として君臨することになったのだ。

そのせいで、表向きに訪問するわけにはいかなくなった。

お互いに国の重要人物だしな。

ま、表向きにな。

タイキ君は基本的にオタクではあるが、馬鹿ではない。

だから、ダンジョンマスターが実は俺だと言う事や、魔力枯渇の件も話している。

というか、あっさり俺の指定保護を受けてダンジョン内では無敵仕様で喜んでいる。

これが外部に知られればウィードに降ったと見えるが、そこは誤魔化してあるので問題ない。

と、そんな話はいいとして、わざわざ一国の王のもとへお忍びで訪問しているのは、例の学府への編入の件を話しているのだ。

で、日本人のオタクらしく、その手合いの知識がある1人として笑い転げているわけだ。

テンプレ乙。と言う感じで。


「タイキ様、えーと何がそんなにおかしいのでしょうか?」

「陛下、ユキ殿に失礼ですよ。まったく、ユキ殿が相談してきたのに、笑い転げるとは何事ですか」


そして、笑い転げる勇者兼国王に話しかける2人。


1人をアイリと言って、タイキの嫁さんである。

アイリはタイキが便利屋勇者時代、コソコソと金を集めていた時に世話になった宿屋の娘である。

新生ランクスの立場上、貴族の娘と結婚するわけにはいかなかったのだ。

圧制を敷いたランクスの王族を義憤のもと、立ったのだから、タイキ君の嫁さんが貴族であれば、その貴族の意志があったのではないかと邪推され、新生ランクスにとってはよろしくないのである。

だから、どこからどう見ても一般人としか結婚できないのであった。

まあ、将来的には国と国の繋がりの関係上側室で貴族の娘を迎えるかもしれないが、正室は一般人でなければいけなかったわけ。

まあ、アイリへの結婚話はランクスどころか、ダンジョンでつながっている国中に知られている。

勇者王がわざわざ頭を下げ、結婚を懇願したラブストーリー。

詳しくは省くが、タイキ君がこの世界に来たときから世話になった話が、尾ひれがついてラブストーリーになったわけだ。


そしてもう1人をルースと言って、この国の親衛隊長である。

ルースはタイキ君が召喚されたときから一緒にいて、勇者のお付きとしてこの新生ランクスを建国するまで共に戦い抜いてきた友人である。

実際、タイキ君の知識を実現するために、色々手伝ってくれたのだから、彼自身の才気はとんでもないと思う。

だが、だからこそ、旧ランクスの体制に不満を持っており、何度か苦言を呈したが受け入れられず、貴族として孤立し、厄介払いのごとく勇者のお付きにされた。

元王族としては、彼が勇者と一緒に戦争や旅でもして、あっさり死んでくれることを願ったのだろうとタイキ君は言っている。

とまあ、しっかりした人なので、彼がランクスの王になってもよかったのだが、民衆の支持や国々の顔つなぎでは勇者タイキとしての方が便利なため、こういう立場にいる。


と、そろそろ笑い転げる勇者をもとに戻さないとな。


「君を必ず迎えに行く」

「ちょ!?」


俺がボソッと呟くだけでこの効果だ。


「約束を果たしに来た」

「すとーっぷ!! 待った!! もう笑うのやめてるから!!」


どこかの誰かのラブストーリーの名シーンの言葉である。

ウィードの劇場でも見られるし、嫁さんたちも見ていて、俺にそのセリフを言わせるというイジメをしてくる。

そう、真似るだけでも俺自身が苦痛を感じるのだから、本人のダメージは見ての通りである。


「お願いします、やめてください!! なんでも言う事聞きますから!!」

「ん?」


土下座する勇者王、これは諸外国の皆さまには見せられない。

因みに「ん?」は俺のセリフではない。

嫁さんのアイリさんだ。

断じてホモの話ではない。

そして、アイリさんの目は獲物を狙う目だった。


「よし、わかったやめよう。俺も本題に入りたい」

「はぁ、ユキさんその脅しは卑怯ですよ」

「笑い転げる方が悪い。あ、でもなんでも言う事は聞いてもらうからな」

「え!?」

「アイリさんの言う事を聞いてやれ。タイキ君本人は恥ずかしいかもしれないが、アイリさんにとっては大事なセリフだからな」

「ありがとうございますユキさん!! タイキ様、後でゆっくりお願いしますね?」

「は、謀ったな!! 謀ったなユキさん!!」


すかさずタイキ君がネタを振ってくる。


「君はいい友人だったが、君の父上が悪いのだよ」


俺がそう答えて、お互いニヤリと笑い、握手をする。

しかし、これについてこれるのは俺とタイキ君だけ、アイリさんも、ルースも、リーアもジェシカもついてこれない。

オタクだからこそ通じるものがある。

異世界においてもこのネタができるのは嬉しい限りだ。


「えっと、なんで握手何でしょうか?」

「さあ?」


不思議そうにしているアイリさんとリーア。


「何でしょうか? 日本人独特の暗号でしょうか?」

「すみません。私もよくわかりません」


この会話に深い何かを探ろうとするのはジェシカとルースだ。


「で、本題って何です? アニメやラノベの王道に入ったって報告じゃないんですか?」

「まあ、それで済めば笑い話でよかったんだが、タイキ君的に見てもやっぱイベント起こると思うよな?」

「そりゃ、普通の日本の編入ならイベントなんて期待するだけ無駄ですけど、ここは異世界で、しかも新大陸は魔力が減少していて魔術を使える人自体が少ない。その中でエリートを集めた実力主義の魔術の学府。そこに編入しますってこと自体フラグでしょうに。まさにお約束ってやつでしょ」

「そうだよなぁ……」


もう、この時点でフラグなのだ。

しかし、嫁さんたちもアイリさんもルースも首をかしげている。理解できていないのだ。

いや、まあ無理もないんだが。


「まあ、学生生活が無事に済んだとしても、そんな厄介な場所、その新大陸の人を殲滅しようとしている人たちにとっては最優先に近い対象でしょう? 結局はかかわることになると思いますよ。文献関係を焼かれる前にいけることはむしろラッキーぐらいに思ったほうがいいんじゃないですか?」


そうなんだよ。

聖剣使いさん達はエナーリアを始まりの狼煙としていたみたいだけど、これからは分散して各国を襲う可能性がある。

で、昔からの文献と実力者が集うこの学府を放っておくとは思えない。

だから、行くことは決定している状態だ。


「で、本題は起こるイベントを思いつく限り言えってことですか? それで防げるとは思えませんけどね」


タイキ君の言う通り、お約束があるのであれば、察知してさければいいし、先回りしてつぶせばいい。

手が回る限りな。

そう、俺1人では対応できるはずがない。

そしてイベントというのは否応なしに巻きこまれるものも存在する。


「突発イベントは避けられないですし、そうだなぁ、俺なら壁役か、分散を狙いますね」

「やっぱりそうなるよな」


防げないものに関しては生贄を捧げて回避するしかない。

あるいは、イベント対象者を複数用意するか。

となると、答えは1つしかない。

目の前に、オタク関連の知識を持ち、お約束のイベントを網羅している日本人が。


「あ、すみません。トイレ行ってきます」


勇者様はそう言って席を立とうとするが、そうはいかない。

ガッシリ肩を掴んで言う。


「タイキ君、確か羽伸ばしたいって言ってたよな? 丁度いいと思うんだ。ほら、お約束のイベントを体験できるなんてそうそうないと思うんだよ?」

「いえいえ、僕は傍観者、消費型のオタクなんで、画面や紙越しに物語を見て、笑って、ツッコムのがいいんですよ。あと、流石に体感なんてしてる暇ないですし、ほら、俺王様ですし? というか、わかりきっているトラブルに誰が首ツッコむかよ」


そう言って、肩に置いている手を握って肩から離す。

無論、力がかなり入っている、俺もタイキ君も。

しかし、こんなタイキ君の行動も予測済みだ。

彼も俺と同じ面倒はしたくないタイプだからな。

だから、ここでもう一手を打とう。


「ルース、新大陸にはドッペルで行ってもらうと思うんだ。問題あるか?」

「はあ、それなら何も問題はないと思いますが、政務も帰ったあとにしてもらればいいですし」

「ルース、俺行きたくないから!!」

「と、陛下は仰っていますから……」

「そうか、それなら仕方ない。新大陸の学府ならいい娘もいるだろうに、今のうちに新大陸の貴族と仲良くなっておけるし、アイリさん以外の嫁さんを迎え入れる絶好のチャンスだったのにな。こっちでは新大陸の貴族なんて意味ないから」


その瞬間ルースの目がクワッっと開く。

国を思う心が覚醒した瞬間だ。


「陛下、是非、ユキ殿のお手伝いをするべきです!! この機会は千載一遇、新大陸と表向きに国交がもたれたとき、我が国が一歩先を行くため、そして陛下の側室を入れるチャンスです!!」

「うっわ、凄い掌返しを見た!! アイリは嫌だよな!! 一緒にいる時間が減るもんな!!」


甘い甘い、すかさず俺は口を開く。


「アイリさんも一緒にどうですか? 誰も2人をしらない土地で、仮の体で2人っきりの生活が満喫できますよ?」

「タイキ様、是非ユキさんに協力するべきです!!」

「のぉぉぉーーー!!」


勝負あり。


「心配するな。そっちにイベントが固まったらフォローはする」

「はぁ、まあ、俺でもそうするでしょうし、分かりましたよ……」


よし、これで、イベントを分散できる。

集中しても、その手の知識がある2人がいるから、対処がしやすいはずだ。

くくく、誰が、王道な学園生活をやってたまるか。


「いいか、フラグは片っ端からへし折っていけ。その為に奥さんの同伴を許したんだからな」

「なるほど、そう言う意図ですか。確かに、そうすればチョロインとかは防げますね。最初から相手がいるわけですし」

「学府に入ることは確定だからな。教師とか事務員も考えたが、結構厳しいからな」

「教師も事務員もお約束だし、就職って意味で、半年で出ていくとか罪悪感たっぷりですね……」

「ああ、社会人として失格だ。だから、学生として潜入するのが一番だろうな」

「あー、なら実力主義のお約束の決闘とかどうします? 絶対来ますよ。君達の編入を認めないとかイケメンとか、お嬢様とか」

「それなら帰る」

「え?」

「いや詳しくは宿の方に移って、学長に文句の手紙でも渡しておこう。そうすれば、国からの要請だし、学生が文句言うのは禁句だ。大人しくなるはずだ」

「ああ、俺たちは一応ジルバってところの王様推薦ですからね。それを突っぱねるのは無しってことですか。じゃ、学長が周りを納得させる為に決闘をやれと言って来たら?」

「それなら、学長に決闘するための条件をつければいい」

「ふむふむ、余計な手を煩わせるんだから、こっちのやりたいことを譲歩させるわけですね」

「そうそう、元を正すなら学生を抑えられない学長の責任だからな、色々要求ができるというわけだ」

「あとは……そうですね。俺たち以前に主人公がいる場合は?」

「それは主人公の立ち位置次第だよな。邪魔するならぶっ潰す。巻き込まれそうなら、元をさっさと潰す」

「うわぁ、すげー楽しそうですね。ストーリーブレイカーですよ? いいんですか、その主人公が強くなったり、ヒロインと仲良くなるフラグ折って?」

「なら、タイキ君が責任もって巻き込まれればいい」

「お断りします」

「いい性格してるな」

「そっちこそ」


そう言って、お互い笑い合う。


「なにか、悪いこと考えてますね」

「ええ、あのタイキ様の顔、凄く悪いことを考えています」


悪いこととは失礼な。

トラブルがあると分かってるから対処を話し合っているだけだ。

そう、だから俺たちはなにも悪くない。


さあ、覚悟せよお約束よ。

その悉くをぶち壊してやろう。

俺たちは、傍観するほうが好きなのであって、当事者たちになるのは勘弁なのだ。


「と、ユキさん主人公たちが俺たちと関係ない場合は?」

「勿論楽しく鑑賞させてもらおう。リアルツンデレとか天然物だからな」

「流石!! メイド喫茶とかでツンデレやってもらうと引きますからね。天然物のツンデレは見てみたいです!!」

「だよな!!」

「ですよね!!」



あ、その時はやっぱり映像に収めないとな。

カメラは不味いか?

コールでこっそりだよな。

あ、なんか楽しみになってきた。



久々の登場タイキ君!!

ユキと同じ苦労人にして、オタク!!

2人が思いつくお約束を上回れるのか!!


ぶち壊す準備万端で、学府編開始。

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[一言] 謀ったな!謀ったなユキくん!のところで笑いが止まりそうにありません。塾なのにどうしてくれるんですか?(ガンタムネタは分かってしまうのできついですよォ)
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