第241掘:聖女の願いの残り
聖女の願いの残り
side:ユキ
あーうん。
俺が完全にオマケね。
あの時はルルアと一緒に範囲回復魔術使ったけど、ルルアに全部持っていかれたか。
うん、分かるよ。
聖女様と一緒に来た男が大規模な回復魔術使えるとは思えないよね。
ルルアが全部やったと思うよね。
だってさ、俺が完全にほったらかしだもん。
「聖女様、どうか私の子供を見てください!!」
「お願いします!! 娘が、娘が高熱を!!」
「後生です!! どうか、夫の傷を見てください!! 崩落に巻き込まれて……」
まあ、外に出れば一般市民に見つかるわけで、あれだけ活躍した嫁さんたちは通りすがりの一般人とはいかなかったようだ。
「分かりました。ですがこんな往来の真ん中では治療をするわけにはいきません。大聖堂へ向かいましょう」
「すみません、道を開けてください!! これじゃ身動きが取れませんから!!」
ルルアとミリーがそう言って対応するが、周りを見れば山ほど患者?と思しき人がいるわけで、大聖堂には入りきれないんじゃないか?
そう思って、一緒にもみくちゃにされてるエリスとラッツに声をかける。
「エリス、ラッツ、これじゃ色々大変だ。すまんが2人は外回りで怪我人の治療頼む。やばそうなのは大聖堂に行くように言ってもらえればいいから」
俺がそう言うと、一斉に周りの人から視線が集まる。
……なんだこの男?って感じですけどね。
「くぉら!! 人の旦那に不躾な視線向けるんじゃねーですよ!!」
「私たちの夫に失礼な態度をとるなら治療はしませんからね!!」
その言葉で一斉に人が退く。
いや、なにに驚いてるんですかね。
俺を興味深々で見るのはやめてください。
「さあ、とりあえずルルアとミリーの治療がいい人は大聖堂へ、私たちの治療でいい人は広場の方へ来てください」
「その後、家から動けない人の訪問にあたります。ついて来てください」
そう言って、ラッツとエリスが人だかりを連れていく。
それで少し人が少なくなって、ルルアとミリーが残りを大聖堂に連れていく。
「護衛頼めばよかったな……」
「本当にね。まあ、でもいいんじゃない? 予定通りではあるでしょ?」
「まーな。予定通り、二手に分かれたよな。ニーナとお手伝いさん」
そう、あれから2日経ってようやく正式に神官の爺様に会うことを許されたのだ。
まあ、あの大騒動から5日で動けるようになるのは結構無理をしてるんだろうなとは思う。
それで、予定通りにどこかの秘密結社さんたちは宣言通りに城から出てきた俺たちに張り付いてきた。
何とわかりやすいんでしょう。
ね、簡単でしょ?
と、言わんばかりの尾行である。
とりあえず、俺は絵心がなかったので、ね、簡単でしょ?は理解できなかった。
「あなたね、せめてもう1人の名前ぐらい憶えておきなさいよね」
「いや、なんでかな、どうも今回の敵は名前が覚えられないんだよ。真っ向から名乗り合ったわけでもないし、こうパッとした美人でもなかった気がしたし」
「……あなたは美人や不細工で覚えが左右される人じゃないでしょうに、正直に言いなさい」
「うん、あんまり興味ない」
「はぁ……。でも、そんなやる気のない対応をしないと、彼女たちは生きてはいないでしょうけどね」
「……」
「なにせ、ピースの話が正しければ、前任者のダンジョンマスターを殺した相手。……私たちにとっては即座に排除しなければいけない相手よ。情報の価値は認めるけど、生かしておく理由はないわね」
セラリアの言う通り、安全を確保するならさっさと殺してしまうのがいいのだが、情報と人手の問題を解決できるのだ。
スィーアたちと話した感じ、なにか理由があってだろうし、相互理解ができれば上手く仲良くなれると思うんだが……、嫁さんたちにとっては俺の命を危険にさらす可能性、実績のある相手だからな。
酷い扱いで同情を誘っておかないと、今頃屍だったろう。
「まあ、あなたの酷い対応のおかげで、殺すという答えを出す前に、スィーアたちを人として見て話せたから、それが狙いなのはわかるけどね。本人たちは話したがらないけど、前任者を殺めたのは、相当な理由があったみたいね」
「殺しても敵さんの怒りを買うだけだしな。殺すのは真実を知ったあとでも、敵さん全員を捕縛した後でもいいだろ」
そう、始末するのはいつでもできる。
問題は、なにがあって前任者が殺されたかだ。
ダンジョン運営についてのトラブルなら、俺も同じ失敗を犯す可能性があるから情報は得たい。
また、魔力枯渇の原因に関係しているなら絶対に知りたい。
というか、ピースに後は任せるとか言ってるし、殺したくて殺したわけじゃないのは分かり切っている。
何がどうなったかは知らんが、結果、人の絶滅を願っているけど、こっちはこっちの事情があるので、好きにやらせてもらいます。
「ひとまず、敵さんは宣言通りにこっちを監視してる。こっちはルルアたちをおとりに、のんびり大神官と話でもしよう」
「……こっちは敵の情報は殆ど手に入れてるのに、相手は未だルルアたちというか、ミリーしかしらないのよね」
「空中を飛びまわって魔物を殺して回ったのはミリーだけだしな、ミリーしか目撃されていない。まあ、分かれたエリス、ラッツに監視の1人がついて行ったし、俺たちのことを多少は調べたんだろうよ。こっちは隠してないし、さっさとベータンのことまで調べあげて、攻めてきて欲しいんだがな」
「それが1番早く終りそうよね。私たちが手を伸ばしていない場所で暴れられると抑えようがないわ」
そう言った意味でも、2人を生かしているんだけどな。
管理外の土地で魔力の大量拡散起こされてドラゴンが大量発生とかしたらもう大変だしな。
と、そんな事を話していると大聖堂にたどり着く。
「ようこそお待ちしておりました」
あの時の爺さんが部下を沢山引き連れて待っていた。
「お出迎えどうも。で、見ての通り、色々ついてきちゃったので、中で治療していいでしょうか?」
「ええ、流石聖女様たちですな。どうぞお使いください。シスターたちをつけますので、どうか民をよろしくお願いします」
爺さんはそう言うと、シスターたちに指示をだし、ついてきた患者たちを中に案内し、整列をさせてこちらがやりやすいように手伝ってくれている。
「とりあえず、俺たちは大神官さんと話してくるから、ルルアとミリーはこっちをお願いな」
「はい、任せてください」
「分かりました。そっちはお願いします」
2人はここに残って、患者の治療と追跡をしてきているニーナの足止めを行う予定だ。
で、俺とセラリアはこの大神官が話したかったことを聞くかね。
「では、お2人はこちらへ」
そう言われて、俺たちは周りを神官に囲まれて大聖堂の奥へ招かれる。
……真下ダンジョン化してるんで、ここは俺たちの庭も同然なんだけどな。
無論、監視でリーアとデリーユがスタンバイしてる。
ジェシカはミフィー王女の護衛な。
「どうぞお座りください」
案内された一室、応接室だと思うが、そこでお互いにソファーにすわる。
そして、控えていたシスターがお茶を入れてくれる。
無論紅茶。
緑茶はないんだろうな……。
そんなくだらないことを考えつつ、毒が入っていないのを確認して紅茶を飲む。
うん、やっぱり緑茶がいいわ。
「で、エナーリアの王族にかかわるべきではない。とはどういう意味でしょうか?」
俺がそんな不満を心の中で考えている間に、セラリアが本題を切り出した。
そうだよねー、セラリアは紅茶派だから気にならないよねー。
ここエナーリアに来てから、飲み物は紅茶ですよ。
ベータンにいた頃は自分勝手にできたけど、エナーリアではそれができない。
しかも一応来賓としてきてるから、あ、俺自分で飲み物持ってきてるんでってできないんだよ!!
分かるか、この日本人なのに、四六時中紅茶を飲み物として流し込まないといけない気持ちが!!
「ははっ、そんなに急がなくても。と言いたいところですが、お互いの立場上あまり長く話すのもよろしくないですな。手早く済ませましょう。よろしいですかな?」
「構いませんわ。ねえ、あなた」
「……ああ」
うん、緑茶飲みたい。
アイテムボックスからだして流し込みたい。
いや、麦茶でもいいから。
だから、さっさと話し終ろうぜ。
「エナーリアの王族にかかわるべきではない。と言ったことですが、単刀直入に申します。彼奴等めは只の簒奪者、聖女様から、いえ、勇者様たちから聖剣を取り上げ、国を奪い、奴隷のごとく扱ったその子孫たちなのです」
「……どういうことでしょうか?」
セラリアが大神官の話に目を丸くしている。
俺も驚いて緑茶から思考が戻された。
エージルが言った手記の内容と同じだ。
どこからこの話を仕入れたんだ?
「これは、大神官の私や高位の神官しか知りませんが、このエナーリアができた頃から伝えられている事なのです。いえ、エナーリアを作り上げたスィーア様からの最後の言葉なのです。スィーア様と同じ、卓抜した癒しの力があるのであれば、聖剣使いの可能性がある。だから、私の様な末路をたどる前に逃がしてほしいと」
「すみません。ちょっと理解が追い付きません。そもそも、国を作り上げた王ともいえる人が最強の武器を取り上げられ、国を奪われ、奴隷のように扱われたのでしょうか?」
「おお、申し訳ない。少し急すぎましたな。では、勇者様たちのことの起こりから……」
それから話されるのはエージルから聞いた内容と殆ど同じだ。
違うのは、スィーア本人から聞き伝えている分、内容が鮮明だった。
例えば、聖剣を奪われた経緯は、保管しましょうと言って渡したら紛失したとか、国を奪われたのは、どう考えても嵌められたとか、なんというか、人間不信になる話ってやつだ。
この大聖堂も実際はスィーアを閉じ込める為にあったらしい。
で、スィーアは同じように裏切られた仲間に助け出されて、今日へ至ると言う。
「私が思うに、聖女様たちは純粋すぎたのだと思います。国々も最初からスィーア様たちを貶めるつもりはなかったと思うのです」
「なぜでしょうか?」
「……今話したことは、主に、スィーア様のお話だけです。国からの視点は全くありません。しかし、当初は国のトップとしていたのです。それも数年は普通に国を治めていました。ですが、その後に今言った出来事が起こったのです。恐らく、国として飲むわけにはいかない政策でもあったのでしょう。たとえば亜人との融和政策とか……」
「なるほど、さっきのお話からすれば亜人との確執はその時からあった。だが、それを強行的に推し進めようとしたが為に捕らえられたと?」
「ええ、私も今やエナーリア教のトップです。いえ、本来は聖女様であるスィーア様の子孫が行うべきですが、スィーア様は友人に救われてから行方不明。それで色々と、国としての形の見たくもない部分も見てきたつもりです。ですから、きっと国として破綻しかねないと思ったのでしょう。そうでもしなければ、最強と言われたスィーア様たちに対してそこまでのことはしません」
「確かに、この大陸を救った相手を敵に回すには、余程の事が無い限りはしませんね」
……ふーむ、爺さんの言う通り、国としても結構な綱渡りをしてるのは確かだよな。
下手すれば、勇者たちから敵認定されて国そのものを滅ぼされかねない。
うわー、こりゃ国の歴史も漁らないとだめかな。
スィーアたちの言い分を鵜呑みするわけにはいかなくなったな。
「話は分かりました。しかし、あなたはそれでもエナーリア王族とは未だに繋がっている。でも、私たちに悪しざまにエナーリア王族を悪く言って見せた。これはどうしてですか?」
「簡単ですよ。為政者の1人として、エナーリア王族とは繋がってないといけませんし、政治もある程度は理解しております。が、あなたたちが聖女様の再来である可能性がある以上、これを言わないでスィーア様と同じような結末をたどって欲しくなかったがためです」
なるほど、立場を理解して、スィーアの願いを伝えたというわけね。
「あとは、私たち次第と言う事ですか」
「はい。そもそもその必要すらなさそうでしたが、ジルバで独立した傭兵組織と聞きましたぞ?」
「ええ、そんな所です」
「それなら、謀に利用されても器用に立ち回れそうですな。ですが、あなた方が聖女様、勇者様の再来という可能性がある以上、他国から変な動きがあってもおかしくない。それだけは注意してください。一応エナーリア聖都の人々へは術に長けた傭兵と言い聞かせております。聖女と呼ばれるのは、まあ我慢してください。ですが、他の国の貴族からすれば……」
「俺たちが勇者の末裔で利用価値があると思うかも知れないわけですね」
「そういうことです」
なるほどね。
これから調査で他所に行くときにはっちゃけると、勇者関連でトラブルに巻き込まれる可能性が高いってわけか。
ああ、真面目にニーナになんとかしてベータンに敵の勇者たちを集めて一網打尽にする方がいいな。そうすればベータンの人々はまあそんなもんだろうですませてくれるし。
くそ、やっぱり面倒ばかり起こるよな。
で、そのあとは、エナーリアの貴族の中で付き合うのはやめたほうがいい相手とかを教えてもらって、別れた。
さてー、さっさと緑茶でも飲んで、書類と今後の方針決めないとな……。
ちょっとややこしいかもしれませんが許して。
簡単に言えば、国々も好きで裏切ったわけではないかも?
という事実が出てきたわけです。
現在の明かさないといけない謎は以下の通り。
前任者を殺した理由。
勇者たちはなぜ国から裏切られたのか。
そして現在、人をなぜ殲滅することになったのか。
これに絞って謎解きをすると答えがでるかも。
まあ、予想ができた人は「あー、なんて言ったらいいんや」って思うぞ。
ヒントは全体的には悪意ではなく、全体の意志の問題ってところ。
じゃ、次回。




