第235掘:やったね、到着だ!!
タイトルは「やったねたえちゃん」のイメージです。
まあ、誰にとってのフラグかはわからんけど。
やったね、到着だ!!
side:ユキ
「……なるほど、流石はミスト様。素晴らしい用兵です。勉強になります」
「いえ、ミフィー王女様も、これを理解されると言う事は、騎士学校できちんと学んでいたという証拠です」
目の前では、仲良く王女様とミストが兵を用いた運用方法を話している。
……うん、隊伍組んで、かかれーって方法じゃそんなもんだろうよ。
いや、厳密にいえば、現代の用兵も昔と変わりがない。
敵の不意を突き、敵を崩し。目的を達成する。
これが大前提だ。
ま、これを行うのに、団体様でぶつかり合うのと、小隊で別れて急所を突くぐらいの違いだ。
それを行うまでに、ちゃんと見極め、情報を集めて、勝機を逃すなってことだ。
……使う武器によって変わるって大前提があるけどな。
片や剣や弓。片や銃やミサイル。
いやー、最初の頃は俺もゴブリンたちに剣とか持たせてたよな、主力武器として。
だけど、いまやスティーブを筆頭に、魔物たちは剣とか弓を嫌がるんだよな、銃火器の方が便利だって。
理解は出来るけど、ファンタジーの住人が言うセリフじゃないとおもうよ?
もっと夢見ようぜ、超絶剣技で敵をばったばったと倒すヒーローとかあこがれね?
いや、俺はそう言う奴を、狙撃でパーンするけどさ。
「ユキ殿はミスト様の話はどう思われますか?」
そんな事を考えていると、ミフィー王女が俺に話を振ってくる。
のんびり馬車の外を見てたってのに。
いや、用兵の話を聞いて、技術格差って無情だよなーって思ってたけどさ。
と、いけない、ミフィー王女になにか返事を……。
「ミスト殿の用兵は理に適っております。が、大事なのは、戦闘より目的を達成するということを忘れないようにするべきかと思います」
「どういうことでしょうか?」
「そうですね。敵を倒すというのは、目的を達成する手段の1つということです」
「敵を倒すのが手段の1つですか?」
首を傾げる王女。
んー、分かりにくいかー。
どう説明したものか……。
そう考えていると、横に座っているジェシカがかわりに話し始めた。
あ、セラリアとかは他の馬車だけど、リーアとジェシカは俺の護衛で一緒に王女と乗ってます。
「ミフィー王女様は騎士学校で学んでおられましたから、ユキの話を少し理解しにくいかもしれませんね。騎士学校では部隊や軍の運用方法、そして個人技量を磨くというのを重点に置いていたはず」
「はい、ジェシカの言う通りです。敵を倒し、国民を守るのが騎士のあるべき姿と、そう教わりました」
なるほどな。
そう言う意味では、敵を倒すことはよしとされるわけだ。
こういうのは単純でいいよね。
日本じゃ、武装することもままならないしね。
警察じゃ、撃たれても撃ってはいけない、みたいなアホな話もあるし、武力の行使を最低限って感じなんだよな。
「そうですね。それが騎士のあり方です。しかし、無為に戦場で命を散らすことを指している訳ではありません」
「無為に? 戦場で命を落とすのは騎士にとっては誉れでは? 最期まで国の剣であり盾であったのですから」
「確かに、戦場に立ったのであれば、命令を遂行する為、最期まで剣と盾を振りかざすのは誉れでしょう。ですが、その戦場を被害少なく、もしくは無血で勝ちうる方法があるのにも関わらず、ただ敵を倒せばいいというのは、自分と言う騎士のあり方に酔っているだけです」
「それは……」
「私たち騎士や貴族は狩りと称した遊びを行います。獲物を弓で狙い、仕留めます。しかし、狩人が弓で仕留めるのはあくまで遭遇した時のみです。通常、狩人は獲物がかかる罠を仕掛け、それを確認しにいくのです。わかりますか、ミフィー王女様?」
「……どちらも狩りであり、間違いではなく、違いがあるのは、目的、と言う事でしょうか?」
「そうです。戦もまた同じです。ですが、なぜか騎士はプライドを重んじる人が多い。戦いは敵を倒すこと。しかし、命を絶つことではないのです。投降してきた敵を皆殺しにすることはありませんし、それは誉れになりません」
「はい」
「ならば、少数の隊で敵の総大将を討ち、敵に投降を促すのは間違いではありません」
「それは、そうです。……なるほど、確かにミスト様の話した用兵は間違いではなく、しかし、大事なのは、それを利用しつつ、いかに被害を抑え、迅速に勝利を掴むという目的を忘れてはいけないのですね?」
「はい。ですが、ユキはそれだけを言いたいのではありません」
「?」
ん? どういうことジェシカさん?
今までいったことで大体間違いはありませんが?
「ミフィー王女様、貴女はエナーリアへ嫁ぐことになりますが、それで終わりではありません。嫁いだ先でもそこに住む民がいて、貴女はそれらを守る領主の妻となります。夫を支え、更に領地を発展させ、あるいは、ジルバ王族の血縁を利用して、有利な交易をすることもできます。……わかりますか?」
「……私は騎士ではなくなっても、自分が守りたいと思ったことは、目的は変わらない。……騎士になった理由は民を守り、平和を維持すること」
「はい、その気持ち、志を忘れなければ、決して道を誤ることはないでしょう。そして、私たちもミフィー王女様の知り合いです。何かあればすぐに駆けつけましょう。都合のいいことに、私は傭兵を夫に持っておりますので、身軽なんですよ」
「……ジェシカ、ありがとう」
ああ、なるほど。
こう言っておけば、あとでミフィー王女の旦那さんの領地は楽に色々できるわけだ。
ま、ジェシカからの本心の気持ちもあるだろうけどな。
「……と、あれがエナーリアの王都か?」
俺が不意に馬車の外に目を向けると、遠目に城が見える。
「みたいですね。迎えの隊がいるようです」
ミストにそう言われて、道沿いを見ると、確かに鎧を着込んだ一団がこちらに向かっている。
剣も抜いてないし、迎えだろうな。
こっちは馬車に乗る程の護衛しかいない。
ま、護衛が傭兵ってどうだろうな、とは思うけど、建前上王族だしな。
便利だよな、王族でーすっていうのは。
ロシュールの親父に話してみるか?
そんな事を考えていると、エナーリアの迎えが馬車の周りを固め、迎えの代表であろう、プリズム将軍と、エージル将軍は馬車の前に立つ。
「ミフィー王女様御一行、お迎えに上がりました」
大きい声でもなく、小さい声でもない、だけど、しっかり馬車にいる俺たちに声が届く。
なるほど、監視画面越しでしか見たことないけど、なんとなく将軍になるだけのことはあるって思うわ。
とりあえず、俺が主導で馬車を出ないといけないわけだ。
国内の移動なら、隣の馬車からお付きの人、セバスとかスーパーメイドがくるんだろうけど、あいにくメイドはいない。
ということで、護衛の責任者である俺がしないといけないわけだ。
仕方ないから、とりあえず馬車を降りる。
俺に続いてリーア、ジェシカと続く。
そして、ジェシカが辺りを見回して、異常なしと確認してから、再度馬車の扉を開け、そこからミスト、ミフィー王女が出てくる。
「お目にかかれて光栄です。エナーリア軍の将軍職を預かっている、プリズムと申します」
「同じく、エナーリア軍、将軍職のエージルと申します」
2人はそろって胸に手を当て、最敬礼をする。
いや、エナーリアの最敬礼はどうするのかしらんけど、多分王族相手だし、その類だろう。
「勇名を馳せるプリズム将軍自らお出迎えとは恐れ入ります。王都までは短い距離ですが、その間よろしくおねがいします」
「はっ、お任せください。全員配置につけ、ジルバの護衛の方々に迷惑をかけるな!!」
「「「はっ!!」」」
プリズムはそう告げると一斉に兵士が動き出す。
よく訓練されてるねー。
のんびりしているうちのゴブリンズとは大違いだ。
俺はそうやって兵士たちがキビキビと働いているのを見てると、エージルがこちらにやってくる。
「よう。そっちも無事に解放されたみたいだな」
「ああ、でもいきなりこの様さ。人使いが荒いよねまったく」
「そりゃ、仕方がない。将軍様だしな」
「それを言えば君もただの傭兵なのに、王女様の護衛とは大変だね」
「かわるか?」
「遠慮するよ」
そう言ってお互いに笑う。
「ユキ殿、そちらのエージル将軍とはお知り合いですか?」
「これは失礼いたしました。ミフィー王女様、私が魔物の軍と交渉をした際同席しまして、その時に知り合いとなりました」
マーリィ、ミストやオリーヴには報告しておいたが、伝わっていないのなら王女様にわざわざ話すようなことでもないと思ったんだろう。
「まあ、それではあの魔物の軍がこちらに襲い掛からなかったのはエージル将軍のおかげなのですね」
「え?」
「違うのですか?」
エージルはミフィー王女の質問に固まってしまう。
いや、食料奪って担保として捕虜になってましたってのは恥ずかしいよな。
まあ、国の面子もあるだろうし、フォローでもして貸しにしておくか。
「厳密には違うんですよ。エージル将軍とハイン将軍が来られていたのです。私が訪れた時には話し合いは終わられていたようですので、エージル将軍の反応からすれば、ハイン将軍が話をまとめたのでしょう」
「なるほど。ですが、エージル将軍も危険な任をこなし、私たちの道中の安全を図ってくれたことには間違いありません。ありがとうございます」
「いえ、将軍として、この地に住む人として、当たり前のことをしたまでです。今回の停戦がなれば、我が国とジルバとの間で流れる血を止められます。お互い不幸なぶつかり合いがありましたが、これを機に平和を共に歩めればと思っております」
「はい、その平和を築くために停戦を成功させなければなりません」
「微力ではありますが、私個人も、協力させていただきます。まずは道中、この剣にかけてお守りします」
エージルはそう言って、魔剣を抜き、両手で自分の顔の前に剣を構える。
恐らく、騎士か魔剣使いかはしらんが、独特の宣言方法なんだろう。
というか、ここまでエージルが化けるとはな。
伊達に将軍職に就いてるわけじゃないってことか。
さて、そろそろ兵士の配置も済んで、再び馬車に乗り込んで移動を開始する。
「さあ、いよいよエナーリア王都か。なにも問題がありませんように……」
何だろうな、願うこと自体がフラグな気がしてならん。
俺は、あいつら、親友たちみたいなミラクルなフラグ体質ではなかったんだけどな。
side:???
いよいよ、この日がやってきた。
この日の為に、あの日から血反吐を吐き、堪えて来た。
仲間も私の行動の成否を聞いて、続々と動き出す予定だ。
失敗しようが、成功しようが、もう止まらない。
あの時と同じだ。
いや、あの時から既に止まっていない。
私たちは、あの時からここまで歩いてきたのだから。
「この出来事が、この大陸での最後の悲しみになりますように……」
私は祈るように、あの剣を握り、魔力を流す。
「あっ、ぐ、うっ……」
全身に痛みが走る。
視界が明滅を繰り替えす。
予想より、痛みが酷い。
でも、当然だと思いもする。
この魔力は、皆の願いの塊なのだから。
「ふっー、ふっー……」
暫く激痛に悩まされたが、そろそろ落ち着いてきた。
処置は間違っていないようだ。
さあ、あとは始めるだけ。
「停戦を望み、それに手を伸ばした瞬間に滅びる。喜べ、それは悲劇などではない。当然の報いだ」
暗い道を歩き始める。
光が見えれば、始まりの合図。
「エナーリアという国は今日この日、消えさる」
さて、ここまで読んで誰にとっての「やったね、到着だ!!」フラグだったと思う?
さあ、始まるぞ、蹂躙劇が!!
ユキたちは無事に生き残れるのか!!
心配しろよ? 暗躍している、強大な敵っぽいのがいるんだから!!




