第224掘:今後の行動
今後の行動
side:ユキ
「ふう、スティーブは簀巻きにしといて、休憩もいれたし、そろそろメインの話をしようか」
「メイン?」
トーリが首を傾げる。
「そう、これからが本題。新大陸における前任のダンジョンマスターの情報が手に入った。それは皆も知っていると思う。個人個人で会った人もいるようだが、改めて紹介しておこう」
俺がそう言うと、宴会場の扉が開き、1人の魔物が入ってくる。
首は無く、立派な騎士鎧をまとった魔物。
地球のデュラハンには大まかに二種類ある。
1つは首のない馬車を引く、首の無い妖精。
もう1つがゲームなどで採用されている首なし騎士。
後者の方が有名であるが、どちらも死を連想させるモノだ。
「デュラハン・ヴァルキュリアのピースだ」
「ご紹介に預かりました。ピース・ガードワールドと申します」
そう言って、彼女は持っている首のフルフェイスの兜をとる。
そこには、セラリアより少し年上だろうと思える、キリッとした金髪、碧眼の絵にかいたような綺麗な女性の顔が現れる。
いや、生首だけどな。
「お、女!?」
会話をしたことがない、モーブは驚いて席を立つ。
「いや、騎士が男だけなわけないだろう。そこのセラリアとか、部下のクアルとかいるだろ」
「いやいや、魔物で女って……いるな」
「おう、いるぞ」
モーブは否定しかけて、肯定する。
そう、普通に魔物の女はいる。
いや、厳密に言えば雌ではなく、女って分類な。
人の姿をした女だ。
人を惑わすための擬態で人に似通った魔物もいる。
「そういえば、なんで女タイプの魔物を使役していないのかしら? 綺麗な女性なら使いようも多岐にわたるでしょうに」
セラリアがそう聞いてくる。
「そんな使い方は好かん。と、いうか、既に何人も女タイプの魔物はよんでるぞ」
「え、気が付かなかったわ」
「ピースと同じ、デュラハン・アサシンの半数は女だぞ。なあ、霧華」
「はい、主様のおっしゃる通りです。セラリア様」
俺がそう言うと、音もなく、後ろからデュラハン・アサシンの霧華が現れる。
俺の会話から察したのか、兜と鎧を取っ払い、ショートボブの黒髪、黒い瞳の和服姿の女性が現れる。
霧華は俺専属の忍びみたいなもんだ、和服なのは、霧華の顔を見れば着せたくなる。
セラリアとかがいなかったら、多分夜の相手とか頼んでいたと思う。
他の皆にも、部下としてデュラハン・アサシンをつけているが、セラリアの方は男だったんだろう。
「まあ、女タイプを呼び始めたのは、魔王城攻略前後だからな。俺にとって霧華は最初の魔物タイプの相棒てことだ」
「なんでって、言うのはアレね。私たちが前に言ったように、ゴブリンとかオークの低コストで十分だったからよね?」
「そういう事だ。というか、それまではDPを無駄に使える状況でもないし、曲りなりにもセラリアが既に嫁ってことで来てたしな、あえて呼ぶのを避けてたんだよ。そして、冒険者ギルドとの話で魔物を呼んで、色々調べようって話があっただろ?」
「ええ、その時に?」
「そうそう、スティーブの嫁が見つかればなーってことで、色々呼び出してみたが……」
簀巻きにしているスティーブがうーうー唸っている。
「全部フラれた。がっつきすぎなんだよお前は」
スティーブは涙を流して沈黙した。
「……スティーブは魔物だから、相手が見つからないってわけじゃないのね」
「多分な。霧華、スティーブとお見合いした皆の意見は?」
「はい、胸を見すぎ、目が血走っている、ただやりたいだけに見える、などなど、私も同じ意見です」
「なるほどね……って、そういえば、霧華とか連れていれば護衛は、務まらないか……」
「はい、私はあくまでも部下です。いえ、いくら主様の寵愛を賜って、妻となっても、私は主様の命令には逆らえません。そこは何としても、セラリア様たちで護衛を増やしていただくしかありません。特に私の様な女としてしっかりした形を保っているのは、アンデットやゴースト、他は下半身が違う生物だったりが主です。情けない事に、新大陸での主様のドッペルの護衛はできないのです」
「そうか、アンデットやゴースト系は魔力の消費が激しくて、消滅するし、下半身がアレだと、悪目立ちしかしないわね」
「お分かりいただけて幸いです」
霧華はそう言って、下がろうとするが、アスリンから待ったがかかる。
「霧華ちゃん、まって、一緒にお話聞こう」
「アスリン様、大丈夫です。お話は、後ろから主様のコールから聞いていますし、周りの警戒もしなければいけないので」
「だめー」
そう言って、アスリンがすてて……と霧華に近寄って、首を取る。
その行動に、セラリアは驚いた顔をする。
傍から見たら、アスリンが首をねじ切ったように見えるからな。
普段は普通に顔をつけているから、魔物って認識が薄かったというのもあるだろうけど。
「まったく、お姉ちゃんは悲しいです。様呼びはやめてって言ってるのに」
アスリンはわたわたする霧華の胴体をほっといて、首をもって席に戻ってしまう。
「あ、アスリン姉様は、私たちの名づけ親であるからして、って、首返してください」
見ての通り、女タイプの魔物もしっかりアスリンをトップとして認めている。
「霧華、もうあきらめろ。最近アスリンと顔合わせてなかったお前が悪い。これから話もあるし、大人しくしてろ」
「流石、お兄ちゃんです」
「うう……、わかりました」
アスリンはご満悦で霧華の首を抱えている。
霧華はアスリンの後ろに胴体をおいて、首はアスリンの腕の中で、微妙に嬉しそうな困ったような顔をしている。
「さて、話がずれたが、みんな知っていると思うが、このピースが新大陸における前任者、ダンジョンマスターの側近だったことがわかった。その情報は詳しくは知らないと思うので、ここでピースに話してもらおうと思う」
俺はそう言ってピースをホワイトボードの前へ連れてくる。
いまでは大人しくついて来ているが、最初のころとか斬りかかってきたから、昏倒させたり、嫁さんの出産の邪魔したから気絶させたりして、結構暴れていた。
理由を聞けば、身内から裏切られて主を失ったのだから、あの取り乱しようも分からないでもない。
「では改めまして、あの大陸でダンジョンマスターの側近を勤めていましたピースです」
このピースは人を傍に置くべきではないと、俺にずっと進言していた。
トラウマだよな、俺と同じように、人を入れて、魔力枯渇の原因を調べようとして、バッサリやられたんだから。
とりあえず、その件は俺がこの世界に来るときに、指定保護をしているから大丈夫だと伝えて、多少はマシになっている。
今は嫁さんを中心に話して、ウィードのあり方を見せたりして、ピースが言ったようなことにはならないと言っている。
あとは、時間をかけてピースの心を解していくしかない。
そんなことを考えつつピースを見ていると、ピースは集まっている全員を見回して口を開く。
「まずは、最初に肝心なことからお伝えします。今は亡き主は、魔力枯渇の原因については解明できておりません。主もユキ殿と同じように、神に見いだされ、魔力が無くなり世界のバランスが崩れることを阻止するためにあの大陸で活動しておりました。しかし、志半ばで自陣に引き入れた人に裏切られこの世をさりました。その後、残された私たちはダンジョンから外へ出て、現在、聖剣と呼ばれている主の形見をもって逃げた女どもを追いかけたのですが、敗れて、今ようやく目覚めたところです」
そう、聖剣はダンジョンマスターが魔力枯渇の原因を探る過程で作り上げたモノらしい。
「暫く混乱していましたが、ユキ殿やスティーブ殿と話したり、地図を見せてもらう限り、私の知る国はありませんでした。そこで、そこのザーギス殿がいるジルバ帝国の資料に私が知っている国がないか調べてもらった結果、恐らくは400年は前の話になっています」
ピースにとっては浦島太郎な感じだよな。
いや、浦島太郎って誰だよって言われそうだが。
「私としては、ユキ殿、新しいダンジョンマスターに従うのに否はありません。傍に人を置いているのも、多少心配ではありましたが、奥様たちはとても信頼のできる方だと思いますし、ウィードのあり方を見る限り、人を組み込んだ組織として見ておりますので納得しています。……といっても、心の底からとはいきませんが……、できうる限り協力したいと思っております」
嫁さんたちだって、俺が殺されたら世界滅ぼすとか怖いこといってるし、この程度はしかたない。
というか、我慢してるだけかなりマシだろう。
「で、具体的にどう協力するか、と言う話になりますが、私の記憶をたどって、遺跡となっているダンジョンへ赴いてもらい。研究成果の回収をしてもらうのが、一番だと思います。情けない話ですが、私自身は、戦力という形で仕えていたため、殆どの研究内容をしりません。ですので、まずは近くにあるエナーリア聖国王都の真下。主の初期の頃の拠点がありますので、そちらを調べることを進言します」
「エナーリア聖国にダンジョンがあったの? というか、エナーリア聖国はそんな昔からあったのかしら?」
セラリアが不思議そうに質問をしている。
昔であれば、遺跡はダンジョンとして活動していたので、王都がそんな所に建設されるのは変な話だ。
しかし、これが結構因縁があったりする。
「私の主を殺めた人の1人が、ダンジョンを落として、そこに建国したのがエナーリア聖国なのです。初期の頃の拠点を奪って、強力な武具、物資などを回収したかったのでしょう。当時私たちは主を殺されて統制は乱れていまして、初期に構えていた拠点は完全に忘れていました」
「なるほど、その人たちがどうして裏切ったかは、今は置いておくとして、ダンジョンの機能を知っているのなら、放置なんてできない。自ら管理したほうが、財も稼げるし、戦力も整え放題よね」
「はい、セラリア殿の仰る通りだと思います。そして、今までのユキ殿たちの話を聞く限り、聖剣をエナーリアが管理していると聞きます。ならば……」
「二重の意味で、エナーリアを調べることが得策ってことね?」
「その通りです。他にも旧拠点の目星はついているのですが、周りが戦争状態ですし、今回の停戦で各国がどう動くか不明です。ですので、まずは手の届く範囲がいいかと思います」
全員は特に意見はなく、反対ではないようだ。
「よし、じゃ、当面の目標はエナーリアでの調査だ。エナーリア内部のコネはどうにかして作っておくから、ザーギスはジルバの調査が終わり次第、エナーリアで調べものな」
「ちょっ!? 人使い荒いですよ!!」
「心配するな。ダンジョンが今も使われているか、不明だが、それを奪取する形になるだろうし、ジルバの時よりも楽になると思うぞ?」
「……それならいいのですが」
「あと、ピースはエナーリアの探索についてこい」
「え、しかし、私はダンジョンの範囲をでると、魔力が無くなり消滅してしまいますが……」
「そこら辺はザーギスが色々やってくれている。な?」
「本当に人使いが荒いですよ。ピースさんや私の体はどちらかと言うと魔力で構成されている部分が多いらしく、あの大陸は息苦しいのです。そこで、このペンダントにナールジアさんのエンチャントをつけてもらって、魔力の膜を張るようにしてもらったのです」
「膜、ですか?」
「はい、防御用ではなく、魔力が拡散しにくくするためのフィルターと言いましょうか。これで、魔力減衰を抑えられるはずです。足りない分は周りの人に補給してもらえばよいでしょう」
「……なるほど、それなら問題はないですね」
「過信は禁物です。それはあくまでも制限時間が延びるだけです。無理をすればすぐに魔力枯渇状態になるでしょう。そうですね……ピースさんの魔力量から考えて、3日です」
「3日もあれば十分ですね」
「戦闘で魔力を使わなければです。戦闘で魔力を消費すれば半日も持ちません。それを忘れないでください」
「……わかりました。感謝しますザーギス殿」
すぐにピースはペンダントを身に着ける。
これで、随伴の問題は無くなったな。
「さて、最後の問題はエナーリアへの停戦と、今回の探索へ行くメンバーだが……」
「「「はいはいはい!!」」」
嫁さんたちが一斉に手を上げる。
無論、復帰したセラリアとルルアもその中に含まれる。
……これが一番時間かかりそうだな。
さあ、この新大陸での本番が動き出しますよ。
過去の因縁と、現代のエナーリアの関係。
そして、嫁さんのだれが、一緒にエナーリアに向かうのか!!
エリス、ラッツ、デリーユ、キルエは妊娠中なので、外してね。
ま、すぐに出産なんで、フラグとか言うなよ?