第220掘:各報告
更新遅くなって申し訳ない。
スティーブ回よりも、他の嫁さんの話になりました。
各報告
side:リーア 砦方面牽制軍処理
「リーア、流石俺の勇者だ!!」
「そんな、私はただ妻としての務めを果たしただけです」
「そうだ、リーアは勇者の前に俺の奥さんだ。うん、だからこそ、妻と勇者を頑張ってくれるリーアには、ちゃんと報いるのは夫の勤めだと思うんだ。何か俺にできることはないかい?」
「あ、な、なら、こ、子供が欲しいなー……」
「そんなことか、なら今から頑張ろう!!」
「え、え、いいんですか!?」
「俺たちは夫婦なんだ、子供ができるのはあたりまえだよ。そして、今までずっと頑張ってくれてたんだから、皆もわかってくれる」
「はい」
そして、私とユキさんは、旅館に戻って、子供を作る愛の作業を朝までするのであった。
「ふへへへ……」
「ないですね。そんなこと考えてないで仕事をしましょう」
私の夢を、ジェシカがバッサリ切り捨てる。
「もう、ジェシカってば夢がないですよ。ユキさんなら、この仕事を片付けてくれば、ちゃんとご褒美をくれますよ」
「確かに、ユキならちゃんと私たちを労ってくれます。ですが、艶ごとを頼めば、全員妊娠しないといけません。リーアだけが身籠るなんてありえません。私も身籠ります。不公平です」
「ユキさんならそうするよね。やっぱり大丈夫です」
「だから、あり得ないのです。わざわざ妊娠する時期をずらして、動ける人を確保したのに、それを無意味にするような願い聞き届けるわけにはいきません。というか、私たちが願ってはいけません。ユキ1人に新大陸の調査を任せるつもりですか?」
「絶対、そんなことさせない。ユキさんいっつも無茶するんですから」
「はい、私もそう思います。ですから、気持ちは分かりますが、ユキには子供が欲しいとは、今はいわないでください」
「……ううっ、わかった我慢します」
「はい、流石、勇者様です。ですから、ご褒美は代わりに、夜、激しくしてもらえばいいのです」
「そっか。うん、それでもやる気はでました!!」
「では、リーア。私たちがわざわざ、ユキの警護を離れてきたのです。手ぶらで帰るわけにはいきません。敵は見ての通り、目の前に迫っています。方針はどうしますか?」
そんなことを言いつつも、顔を隠すためのフルフェイス兜をつけ、砦牽制のためのエナーリア軍に向き直るジェシカ。
私も、ユキさんとナールジアさんたちのお手製の勇者装備を展開して、敵に向き直る。
「無論、私たちは小細工なし、予定通り相手を正面から叩きのめします。いいですか、ジェシカの実戦訓練でもありますから、ちゃんと自分の状態に気を配ってくださいね」
「……私よりも戦闘経験がすくないリーアに言われるのは不思議ですが、私の実力がいきなり上がりすぎたという理由がありますから、まずそうでしたら止めてください」
「はい、任せてください。ちゃんと私が一撃で止めて見せますから、安心してくださいね」
「……死なないですよね?」
ジェシカが不安そうにこちらに振り返ったので、思わず私の剣を見る。
えーと、ガンソードは不味いから、剣で殴るで大丈夫だよね?
うん、大丈夫。
「任せて!!」
「一番の敵は、背中の味方ですね……」
白銀の鎧を着込んだジェシカと、黒いドレスアーマーを着こんだ私が同時に敵へと駆け出す。
私のドレスアーマーが翻り、敵の視線を集める。
……うぇ、敵のそんな視線集めても嬉しくないなー。
「やっぱり、私もドレスアーマーがよかったです!! これじゃ、無粋でユキに見せられた姿じゃありません!!」
「でも、ジェシカはこっちでは、顔が売れてますし、その為に男か女かわからない鎧にしたんですよ?」
「分かっていますが、鎧を付けてから、差が……、出会う斥候どもは、リーアばっかりに目を向けて……、ユキにもそんな態度を取られれば、死にたくなります」
「いや、それはないと思いますよ? だって、その鎧の考案ユキさんですから」
そう、この無骨な鎧はユキさんが考えたものだ。
ジェシカは訓練をしてきたものの、ドッペルを介してや、能力の制限がかかった状態で戦いはしたことが無い。
だから、ジェシカが例えドッペルであろうと、傷つくことが無いように、全身を覆ったフルアーマーになったのだ。
「というか、私も逆に変な視線向けられて、非常に気持ち悪いんですよね」
「……それは嫌ですね。この鎧はこの鎧で良かったかもしれません」
そう言って、私とジェシカは立ち止まる。
「どうですか? 敵は片付けましたけど」
「そうですね、やはり、ドッペルと本来の体では能力差があるのがよくわかります。でも……」
「でも? なにかありましたか?」
「いえ、剣を全力で試す機会がなかったなーと」
「それはそうですよ。その剣とか私の剣を全力で使う場面は、ユキさんとの訓練の時ぐらいですよ」
「……ユキが訓練に?」
「あれ? 今までユキさんと訓練したことありませんでしたか?」
「いえ、私が訓練をしているとき、ユキはベータンの手入れで忙しかったので……」
「なるほど、じゃ今度、一緒にユキさんと訓練しましょう。剣の全力を知らないのはだめですし」
「そうですね、ユキが戦うというのは私としてはイメージが湧かないのですが……。と、それはそうとさっさと物資を回収してしまいましょう」
「はい、物資を回収して、ユキさんに褒めてもらいましょう」
私たちは、そう言って物資を回収しようとしたのですが……。
「ま、まて、相手が、魔剣使いとはいえ……、ここで引くわけにはいかんのだ」
1人の男性が剣を杖のようにして、必死に立ち上がっている。
「まさか、魔剣使いを単独で投入してくるとは……、しかし、エナーリアは負けは、しない!!」
どう見ても、剣を振るえる力が残っているとは思えないけど、その人は剣を振りかぶり、こちらに向かって走って来た。
私はどうしようか悩んでいると、ジェシカが前にでます。
「エナーリアの騎士、確かに胸に刻み込みました」
そう、ジェシカが言うと、その男性は首から血を吹き出し、倒れました。
……この傷は、今の私たちじゃ治せない。
「……同じ騎士として、対処しました」
「……はい。ジェシカの気持ちはわかります。そして、何も問題はないと思います」
「ですが、リーアは納得していないように見えますが?」
ジェシカも私の顔が微妙なことに気が付いているんだろう。
だから、隠さず言おう。
「ユキさんに救われた身としては、この名誉の死というのは、理解できそうにありません。私は、這いつくばってでも、ユキさんの元へ生きて帰りたいと思っています」
「リーアは、私たちはそれでいいと思います」
私たちは、最後まで剣を向けて来た男性の遺体を丁寧に扱い、いずれ目覚めるこの人の仲間の傍に置き、物資を回収してその場をさりました。
戦争なんて、無くなればいいのに。
side:カヤ スエイート方面牽制軍処理
私と、シェーラは、今、敵軍が迫っているであろう森に向けて、ある魔術を行使しようとしてる。
「じゃ、いくよ」
「はい、任せてくださいカヤさん」
今回の敵の多方面同時侵攻作戦で、一番厄介な地域を私とシェーラが任された。
なにが厄介かといば、スエイートは森に囲まれている所。
大軍の戦闘というのは、それが活かせる場所を選ぶのだが、このスエイートではそれが活かしにくい。
狭い通路で迎撃をすれば、大軍の長所をつぶして有利に戦える。
こういう理由もあって、開けているベータン攻めを考えたエナーリア軍は馬鹿ではないと思う。
で、スエイート方面に来たエナーリア軍は厄介な行動をとって来た。
分散したのだ。
ある意味、大軍の長所を活かして、一網打尽を避ける為に本隊を半分に分けて、半数を斥候に使うという方法をとってきた。
お蔭で、2500しかいないスエイートのミストは動くに動けなくなった。
完全に自分たちの土地なら、斥候をだして、罠にはめるのもできたが、ここに来てまだ一年も経っていない。
下手に土地に慣れていない斥候をだせば無駄にやられるだけなのだ。
実際、スエイートの守りはゴブリンのブリットが率いてるから、被害はでても負けることはないと思うけど、私たちが来たから、とりあえず話を通して混乱するのを防ぐことにして、今私たちがその分散した半数と、本隊をどうにかするためにいるのだ。
「では、いきます」
シェーラがそう言うと、魔術で作った大きな穴に、水がなみなみと注がれる。
この穴は森のいたるところにあり、同時に水で満たされている。
「じゃ、私もいく」
私は得意な炎魔術をその水の上に出して……。
じゅわー……。
水蒸気が辺りに広がる。
そう、人工の霧を発生させたのだ。
ちなみに、熱したばかりで、熱さもそれなりにある。
風の魔術を上手く使って、森だけにこの霧が充満するようにして、敵の視界を奪って、私たち獣人の特化した感覚で敵を倒して、物資を奪う。
スエイートはダンジョン化していないので、こういう手段になった。
「……どうかよろしくお願いします」
「うん、任せて」
「守りは任せました」
私たちは霧のかかった森に入っていくが、勿論私たちでは森に散らばった沢山の敵を、ダンジョンマップ無しで排除するのは難しい。
だから、いつぞやの魔王城攻略の時にいた、隠密特化で、この魔力枯渇した大陸でも動けるシャドウスネークを50匹ほど連れてきたのだ。
私たちは霧をかける前から、シャドウスネークを森に散開させているから、霧もでて相手は大混乱だろう。
私たちは本隊を襲って物資を奪うのがお仕事。
霧の中を突き進む。
普通の人は視界が無い状態だから、動きにくいのだろうが、私たち獣人は聴覚や嗅覚の感覚が人より鋭く、こういう特化した能力があるので、辺鄙な所に村を構えていられるのだ。
1人2人が息を潜めていると、ここまで広い森の中ならわからないが、本隊の人数は2千以上。
分散しているのはシャドウスネークが適当にしているだろうし、こっちはとても分かりやすい。
「カヤさん、声が聞こえます」
「ん、一度様子を見よう」
私たちは敵本隊と思しき場所から、結構な声が響いてくるので、身を隠してその声に耳を澄ませる。
「いったいなにが起きている!! ヘビの魔物に、今度は霧か!! いつからベータン地方はこんなに変わった!?」
「報告します!! 展開していた半数が例のヘビの魔物にやられました!!」
「なっ、前回の報告を聞いてから2時間も経ってないぞ!! いったい何匹潜んでいるんだ」
「この速度から考えて300匹はくだらないかと……」
「くそ、遺跡から魔物が湧いてきたという話は本当だったか、これではスエイートも既に滅んでいるのではないか。……どのみちこれでは敵も思うように動けまい、これ以上被害が出る前に、この地域から撤退し、本隊に合流する!! 斥候の生き残りも呼び戻せ!!」
「「「はっ!!」」」
そう言って、一層騒がしくなる。
そんな事すれば、シャドウスネークの索敵に引っかかるのに。
ああ、私たちが本隊には手出ししないでって言ってるから、ある意味妙手かな?
「カヤさん、物資を奪わないまま撤退されては意味がありません」
「うん、シャドウスネークと霧が上手く行き過ぎた。さっさと物資を奪取しよう」
50匹しかいないのに、300匹とか、なんであんなに過剰に報告されているのかな?
……あ、レベルが低かったんだっけ?
レベル130のシャドウスネーク相手は厳しかったか。
「では、予定通りに?」
「だね。混乱している方がやりやすいし……」
私たちはエナーリア軍が崩落時に残していった鎧を着込んで敵の中に紛れた。
シェーラは少し身長が低いけど、まあ、少年兵もいないことはないから目が留まるって程でもない。
敵は混乱しているので、私たちが紛れ込んだことに気が付かない。
「おい、おまえら、物資の運搬準備に取り掛かれ!!」
「はい」
「わかりました」
なんとういうか、ザルな警備だ。
まあ、それだけ忙しいってことなのだろうが。
「しかし、これだけ人が多いと物資を奪取するのは強行になりますよ?」
「うーん、シャドウスネークに陽動してもらう」
「はい、そうですね。みんな頼みます」
シェーラの一言で、周りに待機していたシャドウスネークが一気に襲い掛かる。
それでも7、8匹だけど。
「「「うわぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!」」」
効果は十分のようだ。
「じゃ、物資を奪取してさっさと帰ろう」
「はい、アスリンたちも待ってますし」
私たちはどさくさに紛れて物資を奪取して無事に帰った。
あとで追いついてきたシャドウスネークからの報告だと、物資はシャドウスネークに喰われたことになったらしい。
これで私たちが撃退したってのは隠されただろう。
他の皆は暴れてそうだけどね。
side:ユキ
「とまあ、こんな感じで敵の処理は順調みたいだな」
相変わらず、肩車の状態で俺が持つ報告書をのぞき込んでくるラビリス。
「流石、みんなね。でも、魔物部隊はどうなってるの? あっちが一番激戦区でしょう?」
そう、嫁さんたちは安全な場所で仕事をしているが、一番激戦区は崩落場所なんだ。
なんと、わざわざ1万も動員して崩落現場を確保しようとしている。
それで仕方なく、ミノちゃんを大将、ジョンを副将として、指揮を任せたのだ。
ダンジョンの中はスラきちさんに任せてある。
「無事に監視部隊は帰還させてるし、撤退させても問題はないんだが、あそこの軍の物資もなんとかしたいしな。相手からみると伝説のミノタウロスの対応をどうするのか見てみたいって気もするんだよな」
「あら、可哀想。ミノちゃんは基本戦闘が好きじゃないでしょうに」
「だから指揮官に、大将に据えたんだよ。あいつは無茶なことはしないってな。ジョンの奴は野菜関連の悪口でキレそうだからな」
「……確か、エナーリア軍のいるダンジョンにもきゅうり畑作ってるんだっけ?」
「ああ、育ててないと気が済まならいらしい」
「スティーブの方は……」
「心配するだけ無駄だろう。あいつはなんだかんだいって、指揮能力や判断能力はずば抜けてるからな、マジで使いやすい。ゴブリンってやっぱり育てば強いんだよ」
「そうねー。まさか、あそこまで強くなるとは思わなかったわ」
さて、嫁さんたちより付き合いの長い、スティーブやミノちゃんはどうやるのか楽しみだ。
無論、敵が強ければ撤退も良しと言ってあるけどな。
ということで、次回がモンスターズの大激戦となります。
しかも、魔物オンリーの戦いです。
ミノちゃんはみんな覚えているかな?
落とし穴で処理をしていたあのブラッドミノタウロスですよ。
今ではすっかりのんびりな性格になっていますが。