落とし穴37掘:そこに女湯があるから 集まる人たち
そこに女湯があるから 集まる人たち
side:ユキ
「やあ、ユキさん」
「おや、これはティークさん」
なんとまあ、こんな女湯覗き大会にガルツの跡継ぎ王子が来るとは思わなかった。
「ふふっ、ティークさんはやめてくれ。シェーラの夫なんだ。私は君の義理の兄でもあるんだ。気軽に話してくれ」
「それなら、そっちもユキって呼び捨ててくれよ。兄さん」
「そうだな。ユキ」
うん。
にこやかに笑うイケメン。絵になるわ。
でも、目にクマがある。色々忙しんだろうな。
「で、兄さんは何でまたこんな馬鹿な大会に?」
「馬鹿な大会ではないだろう。やり方は少々あれだが、これでは各国が手を出さないわけにはいかなくなった。無論私も、参加者だ」
「は? 見学じゃなくて参加?」
そりゃ、別方向でおかしくないか?
「一応私も、全軍の指揮を預かるものだ。危険がないと保障されているこの場は、またとない場所と言う事なんだよ」
あー、なるほど。
危険がないから、ここで普段は動かせない大人物を表に出して、結果をつくるつもりか。
「理解はした。でも、なにごとも完璧じゃない。そこら辺はどう考えているんだ?」
「それは自分が転ぶか大会のトラップに引っかかるぐらいだと思っているよ。このウィードで暗殺なんてのは、ウィードの上層部、ユキたちぐらいしかできないんじゃないかな?」
「あー、そりゃ誰が一番可能性があるかって言われると俺たちだな。でも、一応注意はしとけよ」
「分かっている。これでも剣の腕はそこそこあるんだよ。運動できない、戦えない指揮官とか悲しいからね」
「言わんとすることはわかるが、指揮官が剣持って戦っている時点で戦況は最悪だろうに」
「ま、そうだろうな。私が、総大将が剣を持って最前線に赴くことはない。ユキが言ったとおり、その時は軍が壊走している状態だろう。だからこそ、こんな時に見せておくんだよ」
「戦場よりは安全ってことか」
「そういうことだ。ここでは武器の携帯は愚か、薬物すら持ち込めないからね」
そりゃ、ダンジョンの機能を駆使して、武器は勿論、劇薬や毒物のスキャンは徹底している。
俺が殺されるとしたら、現状、毒殺ぐらいしかありえないからな。
無論、嫁さんたちも守るためである。今、嫁さんのほとんどがウィードの重役だし。
ティークの護衛も剣にはパラライズシールを貼っているので、抜けばその場で動けなくなる。
ある意味、どこかの馬鹿王女が帯剣を許可してあげたのに、抜剣して、俺たちに斬りかかったおかげである。
あの事件以降、どこの国のお偉いさんであろうが、帯剣には普通の冒険者たちと同じようにパラライズシールを貼り、武器を抜くことができなくなったわけだ。
他国が問題を起こしたという前例を盾に、私たちの部下はそんなことはしない、という決まり文句を無効化できたというわけだ。
更に、このティークのガルツ、ロシュール、リテアが帯剣を率先してやめてしまったため、文句をいう事すらできなくなってしまったわけだ。
こっそり、武装している他国の兵士とかはウィードの交易ゲートであっさり取り上げられる。
無論、隠し持ってる薬物もだ。
と言うことでウィードの安全性は前から信頼されているのだ。
「実を言えば、父が、王が出場すると言っていてね。それを阻止する為でもあるんだ」
「あー、元気なんだな」
「元気がよすぎるのも困りものだがな」
そっちもそっちで苦労してるんだな。
「で、クラック殿も参加されるのか?」
「はぁ……と、失礼いたしました!! ティーク王子の仰る通り、私もリテア代表と言うことで参加することになりました。正直、なんでこんな事に、と思っているのですが……」
クラックはそう言って、ため息をついて肩を落としている。
未だに、リテアで近衛隊の隊長をしていて、ウィードに来ると言う話は延び延びになっている。
それだけ、大事な人員が減ったのと、クラック自身がそれだけ優秀だったというわけだ。
相方のデストも日々書類整理に追われて、ウィードに来るときは、学校に移動した孤児たちと遊んで癒しを得ている。
「ユキ殿、なんとか言ってくれませんか? あと、私をこちらに移動させることを許可しろと……」
「覗き大会に関しては、俺やティークも参加してるからな。1人で逃げるなんてさせねーよ」
「だな」
「あと、リテアの人事に関しては、お前がやっちまった後始末もあるんだ。それぐらいきっちりこなしてこい。別に国の約定が無くても、クラックは俺の仲間だ。そっちにいるのも無意味じゃない」
「……それは分かりますが」
クラックは現在、名目上リテアの高官だが、中身は完全にウィード派である。
リテアのトップ、アルシュテールには迷惑をかけた分、しっかり働いてるところだ。
「クラック殿、その思いは理解できる。が、これも国のためだ。それならば、女湯など覗かずに、たどり着けることを目指してはどうか?」
「アレス殿。そんな話をすると言う事は……」
「うむ。私がロシュール代表だ。こちらもティーク王子が言ったのと全く同じ頭の痛いことを言ってな……」
「そちらもですか。お互い元気なのは良い事ですが、自重してほしいものですね」
「まったくだ」
横から、ロシュール代表、レベル100越えのアレス・レスターが出てきて雑談に加わる。
こちらも、暇があってはウィードに足を延ばすロシュール王に護衛として右に左と忙しい。
セラリアの姉、アーリアはおかげで執務室から出られないらしい。
「問題は、我々が各国の女性のトラップを抜けられぬと言う事があってはならんと言う事だ」
「確かに、いくらウィードの技術が優れていようと、今回の企画は、絶対に抜けないわけではないのでしょう?」
アレスがそう言って、ティークが今回の企画の問題点を言っている。
そう、こんな企画をしたからには、どうにか抜けるルートがあるようにしなければ意味がない。
最初から通さないこと前提にトラップを作ったのならば、男どもは激怒するだろう。
各国代表も面目丸つぶれ、でウィードへ抗議してくるだろうから、流石にそんなことはない。
「後で、参加者全員に説明があるが、勿論、突破できるようにトラップの使用制限がある。転移系をズラッと女湯の前に並べれば、徒歩で行うっていうルール上、それで鉄壁だからな。そういう攻略不可能なトラップはない」
「「「……」」」
3人が固まる。
あれ、なにか変なこと言ったか?
「……うむ、流石私たちロシュール近衛軍1500を封殺しただけはある」
「……文字通り誰も抜けないですな」
「……改めて、シェーラの夫がトンデモないと理解したよ。突破不可能にしても、深い穴とか、攻略に時間がかかってタイムオーバーを狙うばかりかと思っていたよ」
3人はチラシに書いてある、ルールの中でまず最初に書かれている場所を指さす。
『制限時間30分以内にたどりつけ!! そこが桃源郷だ!!』
あー、制限時間ね。
そう、突破可能ということは、時間をかければ突破できるということだ。
だから制限時間を決めないと意味がないので設けたのだ。
突破不可能なら、このダンジョンみたいに常時開放してるわ。
「……話はかわるが、今回のトラップを設置する女性は誰が参加しているのだ? ロシュールはアーリア様を筆頭に近衛隊の女性が入っているが」
「こちらは、アルシュテール様とお墨付きの修道女と騎士団からですね」
「こちらはローエル、シャールと妹たちと、その近衛だな」
……うん、どこも国トップが参加してるな。
どこまでの事態になってるんだ。
「こっちは、嫁さんたちだな。残念ながら、そちらみたいに見栄えはしないけどな」
「何をいっている。妊娠しているセラリア様などは不参加だとしても、ユキ殿の妻たちは聡明で美女揃いと聞いているぞ?」
「ユキ殿、いまやあの娘たちは、各国から至宝の宝石と呼ばれておりますよ」
「クラック殿の言う通りだな。シェーラもその至宝の宝石と呼ばれていて身内として嬉しい。が、それほど、卓越しているという認識だ」
「どういうこと?」
まったく理解できん。
セラリア、ルルア、シェーラはともかく、他は元奴隷とか平民ですよ?
「元奴隷や平民が、この時代の最先端を行くウィードの重鎮として、飾りではなく、しっかり実績を残している。容姿も美しく、仕事もでき、腕も立つ。これを見て各国は至宝の宝玉と呼んでいる」
「で、そのことを説明してくれたティーク兄の意見は?」
「私としても文句無しだと思う。が、その代わり夫であるユキの評価が少し悪い」
「どういう感じに?」
「曰く、ユキは至宝の宝玉の台座だと。通常に聞けば侮蔑に当てはまらないが、この場合は、ユキは役立たずで飾りと言われてるわけだな。簡単に言えば、いくらなんでも表だって10人以上と挙式を上げるのは無い。だから、あれは夫との結婚式ではなく、セラリア女王が彼女たちを取り立てる為の儀式であると」
なるほど、俺は嫁さんを囲っているハーレム野郎ではなく、嫁さんたちが動き回れるための飾りってわけだ。
……なんだ、どっちの評価も嬉しくない。
「……ちなみに、小さい子たちはユキの趣味だと言われているな」
「なにその悪意のある噂!?」
各国でロリコンの汚名を着せられているのか!?
「別に悪意があるわけではないぞ? あの程度の婚約者は珍しくない」
「ですな。流石に私の年齢だとちょっと気が引けますが」
「いい目利きだといわれているぞ。あの3人も学があり聡明で、腕も立つ。そういう意味でユキがお飾りではないと言われてもいる。彼女たちを推挙したのはユキだと言う事で」
どっちでも俺にとってはよろしくねーよ!!
これでは後世では、ひも男か、ハーレム野郎か、ロリコン野郎で終わってしまう。
せめて、真面目な参謀として働いていたって歴史書にちまっと載るくらいでいいのに……。
神よ、俺はハーレム野郎ですか!?
『は? 今更? ハーレム野郎以外の何者でもないわよ』
そうだ、神様ってこいつだった。
世の中理不尽だ。
……俺の不名誉な呼び名は後日どうにかするとして、ますはこの女湯覗きを穏便に終わらせよう。
これが、俺の不名誉な呼び名を紳士へ改名する第一歩だ。
久々に男たち登場です。
そして、ユキは後の世でハーレム野郎と呼ばれるのか!! それともロリコンか!! ひも男か!!
それを改善するために女湯覗きをどうこなすのか!!
君ならどうする?
ハーレム、ロリコン万歳って開き直るのは無しなw