第208掘:おまけたちの決断
活動報告にて、キャラデザ公開してます。
よければ見てどのキャラか当ててみてくださいな。
おまけたちの決断
side:プリズム エナーリア将軍 双剣の魔剣使い
もう少し、もう少しでベータンの街を攻撃するところまで来ていたの。
でも、駐屯した場所が悪かったのか、12万もの兵士の重みで地盤が抜けてしまった。
「ぐぅっ……。誰か現状報告を!!」
流石に私も、あまりの高さから落ちて地面に激突してしまえば死んでしまう。
魔剣を使う暇があればいいが、今回はいきなり足元が抜け落ちたのだ。
必至に魔剣の力を開放して落下速度を落としたが、結局地面とぶつかって息がとてもしにくい。
「エージルは? エージル、無事なの!!」
ふらつく体を無理に起こして辺りを見回す。
残念ながら、私が乗っていた馬は落下して息を引き取っている。
くっ、私は風の魔剣でなんとか勢いを殺せたが、エージルの魔剣は雷だ。
まさか……、嫌な想像が頭の中をよぎる。
「僕は、無事だよ。べとべとだけどね」
土煙の中から確かにエージルの声が聞こえた。
「よかった。怪我は無いのね」
「ああ、見ての通り、水? みたいなのが下にあって他の兵士たちも軒並み無事みたいだ。プリズムの所には水が無かったみたいだね。その馬は運が悪かったんだろう」
「……そうね」
えーと、もしかして私が風の魔剣で落下地点を吹き飛ばしたから、クッション代わりの水が無くなった?
……馬が死んだのは私が余計なことをしたせい?
よし、気にしないでおこう。
いまするべきは、軍の状況把握!!
「エージルはなにが起きたのか理解している?」
「うん。上を見ての通り、でっかい穴に落ちたというより、地面が陥没したみたいだね。流石にこんな12万の兵士が乗って陥没するような落とし穴を作るのは無理だろうし、自然災害だね。いやー、まいったまいった」
エージルはそう言って笑っているが、笑いごとではない。
「エージル笑い話ではないわよ。早く態勢を立て直さないと、攻撃目標にいるジルバ軍が私たちに攻撃してくわよ」
「わかってるって。でも、このあとすぐってわけじゃない。素早い行動は必要だけど、焦りは禁物だよ、プリズム」
「……そうね。……とりあえず、味方が全員陥没に巻き込まれるわけないんだから、上に残っている部隊と協力するべきね」
エージルの言葉で、少し頭が冷えた。
確かに今の現状は大失態だ。
しかし、怒鳴っても意味がない。
今私に出来るのは、速やかに状況を把握して態勢を立て直すこと。
「そうそう。僕はあくまでもプリズムの副将だからね。君がどっしり構えてないと。ほら、待ちに待った報告がきたみたいだよ」
エージルの視線の先には、伝令兵がこちらに向かって走ってきていた。
「し、失礼します!! 現状報告をしてもよろしいでしょうか」
「こちらから頼んだこと。問題ないわ」
「では、まず私たち本隊の全部がこの自然災害に巻き込まれた模様です」
「なんだと!?」
「おや、思った以上だね」
「私たちが落ちた高さは大体20メートルほど、こちらからもみえますが、あの壁の上が本来の地面です」
土埃が晴れてきて、兵士のいう壁が見える。
そして、その高さに驚く。
よく、無事だったものだ。
「怪我人などの数は? 物資などはどうなっている?」
「怪我人の数は現在把握中ですが、死亡者は奇跡的に未だ報告されていません。怪我人は多数いますが、その怪我人も百人前後とごく少数です。足元に変な生き物がいたおかげでしょう」
「変な生き物?」
「なんだい、その変な生き物って!!」
私よりも、エージルが食いついた。
まあ、研究者だからしかたない。
でも、いまするべきは変な生き物の詳細報告ではなく、事態の把握だ。
「エージル、その生き物の話は一旦置いておきましょう。まずは状況の把握。人死にがいないのは幸いだけど、本隊全員が落ちるとはね。……物資の方は落下したのだから、散乱状態ね。仕方ないわ、物資の中から攻城用の橋とロープを。それで、後方にいる補給部隊と連絡を取りましょう。向こうも私たちの状況に気が付くはずだからこっちに向かってくる。だから補給部隊と速やかに連絡を取って、脱出しましょう」
「申し訳ありません。物資はプリズム将軍の仰る通り落下の衝撃で散乱していたのですが、その変な生き物が、梯子やロープを食べて? しまいまして。あの壁を昇る手段が殆どありません」
「は?」
「へー!! へー!! その生き物ってなに!! すっごいね。新発見だ!!」
「……黙ってなさいエージル」
「はーい」
「登る手段がない、か。残ってる梯子やロープは無いのかしら? まさか全部やられるなんてことは……」
「全部やられたと思われます。なぜかその生き物は物資に取り付き、梯子やロープを好んで捕食している様なのです」
な、なんてこと。
「無論、その生き物を止めようとしたのですが、その、あのような水みたいな生き物でして……」
兵士が指をさす方向に、うっすら黄色い透明な水の塊がうごめいている。
「うっはー!! 本当に変な生き物だ!!」
エージルはすかさず、その生き物に近づこうとするので慌てて止める。
「やめなさい!! どんな危険があるかわからないのよ。もしかしたら魔物かもしれないわ」
羽交い絞めにして、そう告げると、エージルがピタッととまる。
分かってくれたのね。
「ああ、なるほど。これがスライムか!! 大昔にいた魔法魔物か!! 本に書いてあった通りの水でできた体を持ってる!! 凄い本物だ!! でも、スライムは生き物を捕食するって書いてあったんだけどな。……そうか、永い間地面の下にいたんだから、生き物より土や石を食べたんだ!! 僕たちを襲わないのは食べ物とみていないからか!! ん、でも変だな。スライムは遺跡、ダンジョンにしか存在しないって言われているはずなんだけどな。あ、もしかしてここら辺りにダンジョンがあるのかな?」
……この研究馬鹿は。
でも、エージルの話は現在ではとても重要だ。
詳しく聞きださなくては、ここを登る方法があるかもしれない。
「あ、そうだプリズム。とりあえず、ロープや梯子が溶かされたなら食料品も危ないし、さっさと集めて防衛しないとまずいよ」
「それを先にいいなさい!! 残った物資を大至急かき集めて、スライムから遠ざけなさい!!」
「はっ!!」
慌てて私は指示を出す。
これ以上事態を悪化させるわけにはいかない。
「エージル。とにかくこの状況を脱するための情報を頂戴。ダンジョンって遺跡のことよね?」
「ああ。あのスライムが証拠だね。大昔の文献だけど、現在遺跡って言われている地下構造物はダンジョンって言うのが正式名称だよ」
「そのダンジョンっていうのは?」
「うーん。なんていうか、中に凄いお宝が有ったりする。冒険心をくすぐるものなんだ。そして、無限に魔物が湧いて出てくるって書いてあるから、正直、いまこの場のスライムを倒すのは無駄だろうね。ダンジョンって言うのはなぜか冒険者を引き込ませるために作られていて、さっき言ったようにお宝が有ったり、ダンジョンに安全地帯っていう不思議な魔物が近寄らない場所もあるんだ」
「……待ちなさい。今、あのスライムを倒してこの場の安全を確保すると言うのは……」
「体力を消費するだけで無駄だと思うよ。無限に湧くといっても、すぐに補給されるわけじゃないだろうけど、僕達は敵地に取り残されてると言っても間違いじゃないからね。こんな所で体力を消費するより、ダンジョン内の安全地帯を見つけるとか、通路とか一度に相手にする数を制限できる場所に逃げ込むことをお勧めするよ」
「……そうね。敵が私たちを見つけて上から矢でも射掛けられたら一方的にやられることになる……か」
「そうだね。ダンジョンの中に入るのも心配ではあるけど、敵に一方的にやられる方が問題だ。油でも落とされて、火でも使われれば最悪だよ」
……確かに、今の状況はエージルの言った通り、最悪に近い。
敵が来るかも知れないのに、今この場で安全を確保するためにスライムと戦闘をしているわけにはいかない。
情報は少ないが、戦略的にはダンジョンを利用すればなんとかなるかもしれない。
いや、ダンジョンに逃げ込まない限り全滅する可能性がある。
「わかったわ。全軍に通達!! 半数は今からダンジョンの入口を捜しなさい!! 見つけ次第、探索をして入れるようであれば軍はダンジョンへ移動する!! 他の部隊は物資を集めて、スライムと戦うのはやめて体力を温存しなさい!!」
「「「はっ!!」」」
結果、そんなに時間をおかずにダンジョンの入口が発見され、都合よく、奥に12万の兵が駐留できるような広々とした、魔物がいない場所が発見される。
私は迷わず、全軍のダンジョンへの進軍を指示して、場所を確保した。
「不幸中の幸いだね。スライムもダンジョンまでは入ってこなかったし」
「そうね。でもいつまでこうしているわけにもいかないわ。後続の補給部隊は敵の奇襲で突き落とされたみたいだし、半数は逃げ帰れたみたいだけど、王都から援軍が来るのは……」
「第二陣の10万が半月後だからね。その予定を早めても1週間、2週間はかかるだろうね」
「確保できた物資はそこまで多くないわ。12万もの兵士を養えるのは精々……」
「聞いた感じ、精々1週間だろうね。味方が1週間で来てくれるって望みをかけるのは無謀だね」
そう、そんな希望的観測を待つわけにはいかない。
ならば、ここでじっと待つのではなく……。
「今から、ダンジョンの攻略を開始しようと思うの。この場所を維持する部隊と探索部隊で分けて行こうと思うのだけれど、どうかしら?」
「それしかないね。探索部隊は食料や飲み水を確保するっていう最優先の命令をしておくといいよ」
「ええ。上手くいけば外への出口が見つかるかもしれないし」
「上手くいくといいね。で、僕たちはどうする?」
「しばらくは様子見ね。兵たちで厳しいところがあれば私たちで行くべきでしょう」
「はぁー、やっぱりそうなるよね。僕は1人でのんびりダンジョン研究したかったんだけどな」
「それは無事に生きて帰ってからにして頂戴。今はエージルの知識が頼りなんだから」
私がそう言うと、エージルはとても嬉しそうに笑い、魔剣の柄を握り込む。
「分かってるって。さあ、ダンジョン攻略を始めようか」
「だから、私たちはしばらく様子見だって言ったでしょう」
「えー、だめ?」
「だめ!!」
……無事に外に出られるかしら。
side:スティーブ
「敵さん動き始めましたよ隊長」
「……あー、話はきいてるっすよ。でも当分おいらたちの出番はないっす。ブリットも仮眠しておくといいっすよ。そっちも緊急の呼び出しだったんすよね?」
おいらがそう聞くと、ブリットは頷く。
「そうですよ。しかし、わざわざ魔物部隊の幹部を集めるってなにごとかと思いましたよ」
「いやー、大将にとっては大事っすからね」
「ま、そうですね。大事ってのは間違いないのですが、もっとこう……」
「言いたいことはわかるっすけど、大将に理想を求めるのはむりっすよ。ブリットも付き合いの長さはおいらと同じでしょうに」
「分かってはいますけどね。こうも敵さんを見てると不憫で」
ブリットは画面に映る魔剣使いたちの必死の考えと行動を見て微妙な顔をしている。
「……全部、大将の予想通りに動いてる。物資をわざと喰わせて、ダンジョンを探索せざる得ないようにする。でも、自分の子供が生まれる時ぐらい手抜いてもいいと思いません? つか、俺たちに任されると管理する俺たちが忙しい」
「本音はそっちっすね。でも、大将も今回ばかりは余裕がないっすから。ほら」
俺はそう言って、ウィードの方の監視画面を見せる。
『セラリアーーー!! 今行くからな!!』
『あー、ユキさん!! 指輪の効果で病院に直接飛べる……って』
『もう聞こえていない。……というかユキがここまであわてるなんて不思議』
『私たちを大事に思ってる証拠ね。でも、私たちは指輪で行くわよ』
『『はーい』』
後を必死で追っているリーア姐さんとジェシカ姐さんが哀れだ。
「ま、大将も一番大事な時期だ。どうせ人数はいるんだから、のんびりきゅうりでも食ってこの仕事頑張ろうぜ」
「そうなんだな。大将はもっと楽してもいいだべ」
そういってオークのジョンとブラッドミノタウロスのミノちゃんがきゅうりをぼりぼり齧り始める。
「いや、大将に楽させるって意見は賛成っすけどね。きゅうりはやめれ。肉が食いたいっすよ、おいらは」
「馬鹿スティーブ。そんな肉ばかりだと病気になる。きゅうりを食え、きゅうりを。健康になるぞ」
「だから、きゅうりオンリーの方が体に悪いっすよ!! いい加減、ジョンの種族河童になってるっすよね!! 頭に皿とかできてるっすよね!!」
「ん? 残念ながら河童にはなっていないが、ベジタリアンオークって種族になってるぞ」
「ひいぃぃぃぃ!! 食生活で変わってしまう、おいらたち魔物の種族、ミラクルすぎるっすよ!!」
おいらがそうやって叫んでいる隣では普通にブリットとミノちゃんがきゅうりを食べている。
なんでそんなに落ち着いて食べれるっすか!!
「そっちはどう? 亜人の村のお守りなんだよな?」
「こっちは、とくにかわりはないだべ。モーブさんたちもいるし。そっちは例の魔剣使いの護衛とか……」
「あー、でもその人はそれなりに有能でね。こっちもそこまで問題はない」
あー、もう。
なんで緊急事態のはずなのにのんびり空間なんすか!?
魔剣使い達はダンジョンへ足を進める。
そこで待ち受けるのは、ユキが初期のダンジョンから共にしてきた魔物たち。
きゅうりを食べながら観戦してるぞ!!
でも、最後に出てくるけどね!!
報告、オークのジョンは種族はオークからベジタリアンオークへ。
野菜を食べるとステータス全部UP。
チートはありません。
全てはきゅうりへの愛。
そしてユキは突っ走る。
大事な嫁さんのために。