第205掘:迫る時
はいはい、前書きは珍しいですが、全体報告がございます。
活動報告にも上げる予定ですが、まずはこの場で。
「必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない」
が5月末に出版されることが決定されました。
現在情報封鎖の為、どこの出版か、絵師は誰なのかは秘密でございます。
OKがでれば発表したく思います。
尚、なろうのダイジェスト化はありません。
つかやれと言われても面倒なので無理です。時間が無い。
普通に仕事してるからね!!
迫る時
side:ユキ
防衛戦の準備を整えつつ、ベータンの街で色々な情報を集め精査、検討を繰り返していると来るべき日は来てしまう。
「報告します!! エナーリア聖国の軍勢が凡そ1日、2日の場所まで迫っております!!」
偵察に出していた兵士が慌てて室内に入ってきて報告する。
「落ち着け。軍が迫っているのは最初からわかっておる。毎日敵の進軍報告は受けておる。これは当然のことだ」
ホーストは落ち着いた様子で、兵士に諭す。
「し、しかし、敵の数は12万にも届く軍勢です。こ、この街に勝目はあるのでしょうか……」
だが、兵士はすごく心配そうに、か細く声をだす。
「ホースト、そう言うな。実際軍勢を見たんだ。それに飲まれることはままある」
「ですがな。これでも鍛えているのですが」
「鍛えるとかいう問題じゃないけどな。味方は少なく、敵は大群。ここまで逃げずに報告しただけでも立派だ。報告感謝、ゆっくり休んでくれ。何なら他に逃げても、撤退してもいいぞ?」
俺がそう兵士に言うが、兵士は否定するようにゆっくりと首を横にふる。
「……それはできません。情けないことは言いましたが、皆が戦うと言うのに、自分だけ逃げることはできません。……ユキさまは勝てると思っているのですよね?」
「勝てない戦いはしない主義でな。逃げないのなら、君の力も貸してほしい。人手は多いにこしたことはないからな」
「はい。私も微力ならがこの街を守るために戦わせてもらいます」
「よし。ならなおのこと休憩してくれ。明日明後日には防衛戦が始まるからな」
「わかりました。失礼します!!」
兵士は覚悟を決めたのか、凛々しい顔をし、綺麗な敬礼をして部屋を出て行った。
ホーストはそれを見届けたあと、窓際に立ち、街を眺める。
「外の様子はどうだ?」
俺は鋭い目つきで街を眺めるホーストに声をかける。
「今のところは表だった騒動はありませんが、住人への避難勧告はこの後出されます。準備と事前通告はしているとはいえ、多少の騒動は覚悟しなければいけませんな。……平穏なこの街がぶつかり合いの場所になってしまうとは、少し残念です」
「俺を非難したりはしないのか?」
「どうでしょうな。実際しても意味がありませんし、ユキ殿以上にこの街を守れる御仁はおらぬとも思います。この戦乱の時代、遅かれ早かれこうなったでしょう。ならば、現実を受け止め、この領民と領民の財産を守り抜くだけです」
そして、ホーストはこちらに振り返る。
「ユキ殿、このベータンを、人々を頼みます」
「おう、任せとけ。と、かっこいいことを言ってはいるが、早速準備に取り掛かるか」
「ふっ、そうですな。何事も動かなければはじまりませぬ」
2人で少し笑い合い、即座に行動を起こす。
「では、私は領民の避難を開始します」
「頼む。俺たちは軍への通達と戦闘配置を開始させる」
ホーストは執事と共に部屋をでて行く。
それを見届けたあと、傍に控えているリーアとジェシカに振り向く。
「さて、ようやく本番だ。予定通りに戦闘配置を始めてくれ」
「「はい」」
「その後、全員で集まって、戦闘前の最後の会議をはじめる」
そして、戦闘前の最後の準備が始まる。
「おーい、これを第3防衛ラインに運んでくれー!!」
「どこか土嚢余ってないか!!」
「急げ、急げ!!」
鉄条網の防衛ラインでは、兵士たちがごった返して動いている。
既に準備は整えてあるが、細かい調整は実際スタンバイしてみてからわかるものだ。
その最終準備で騒がしい。
「間に合いそうか?」
「恐らくは」
俺の問いかけにジェシカが答える。
「鉄条網に防衛ラインは5段階で作っていますし、戦闘配置のための物資は各ラインに既にあります。敵が来てもすぐに対処は可能です」
「そうか、で、トーリ、リエル、カヤ、そっちはどうだ?」
「はい、ばっちりです」
「こっちもOKだよ」
「問題なし」
3人とも、しっかり返事をしてくれる。
彼女たちが、ゴブリン部隊の指揮官だ。
このゴブリン部隊がいかに上手く、効率的に動くかで、全体の被害が変わる。
「シェーラ、アスリン、フィーリア、ラビリス」
「「「大丈夫です」」」
「問題ないわ」
ちびっこたちの方も問題はないようだ。
「ユキの方はどうなのかしら?」
ラビリスが皆を代表するように聞いてくる。
無論、俺も色々準備があったが終わっている。
皆が大忙しで準備している間、俺だけがのんびりしているわけにもいかないからな。
いや、実際、最高指揮官は報告を聞いて、指示をだすのが当たり前なのだが、この戦いにおいて、俺が一番の戦力に見られているので、皆を、ベータンとジルバの兵士たちを安心させるためにも、見た目だけ準備をする必要があった。
「そりゃ、見れば分かるだろう?」
そう、俺の準備は傭兵らしい恰好をすることだ。
魔剣使いを下した、最強の傭兵団を率いるリーダーとして、それらしい恰好をしなければいけなかった。
「ふふっ、ユキの鎧姿を見られるなんて嬉しいわ」
「うん、ユキさん似合ってるよ。僕惚れ直しちゃうね!!」
「ん、写真とる」
「あ、カヤ名案です。私も撮ります!!」
嫁全員がその場で、カメラかコールの機能を使って撮影を始める。
「どこか、見所があるとは思えないんだがな」
俺のそれらしい装備品は特にこれと言った珍しい物ではない。
胸を覆ったハーフプレートアーマーに、手足の関節、甲と脛当てがあるだけだ。
多少装飾を施してはいるが、姫さんズとは比べ物にならないほど貧相だし、歴戦と言う雰囲気を出すために薄汚れ、傷がついている。
武器は片手剣が腰に粗末な鞘に収まっているだけだ。
「ユキがそんなガチガチな装備するのがとても私たちにとってはめずらしいのよ」
「普段は、パーカーとか、Yシャツだからね」
「……この大陸と全然雰囲気が合っていない」
そりゃ、動きにくい服をわざわざ着る理由はないからな。
防御面とか、護衛と俺のレベルで十分だし、もともとドッペルだし。
「しかし、その装備で私たちも安心できます」
ジェシカがそう言うと、リーアも頷き、他の皆も頷く。
「なにせ、今回はユキが先陣を切って戦う予定だしね」
「はい。ドッペルとはいえ、鎧も着ないで、普段着で最前線に出られては心臓によろしくないです」
そう、このベータン防衛戦の見せ場は俺が一度最前線で戦うことにある。
というか、そうしないと12万の敵を前にした味方の心が折れかねない。
俺と言う魔剣使いを倒した男の実力を見せねば、12万もの敵を前に逃げずに戦う事はできない。
ま、俺がやらなくても嫁さんの誰かがやってもいいのだが、それでは俺がリーダーだということに疑問をもつ人も出てくる。
一番の理由は、敵の魔剣使いを確認する為である。
12万もの敵の大将である魔剣使いがおいそれと最前線に出るわけがないし、敗走が濃厚になればそのまま撤退されかねない。
俺たちの実力をもってすれば追えないこともないが、俺たちの実力が少しでも相手に知られるのはあまりよくない。
俺が最前線に立つのだって、少しだけ実力を示して、相手を釣るだけである。
あとは防衛ライン任せだ。
俺は必死に魔剣使いと戦うふりをする。
他は必死に防衛ラインで攻防をする。
そして、俺が魔剣使いを倒して味方の士気は高揚、相手は士気がダダ下がり、撤退、勝利の予定である。
「今の所は、この作戦に変更はなさそうですね」
「相手さんが変更なくこっちに来てくれればな。もうすぐ次の偵察の報告がくるし、それを聞いてホーストたちを集めた戦前の最後の会議だな」
戦闘中は言った通り、俺が最前線なのでそこまで余裕がない……かもしれない。
いや、きっと魔剣使いが強いからそんな余裕はないはずだ!!
……が、そんな作戦は緊急連絡によって瓦解した。
『聞こえますか!! ミリーです!!』
「聞こえてるぞ。何かあったか?」
緊急コールがウィードで待機しているミリーから届く。
ミリーの声も何かしら焦っているような感じだ。
『セラリアが産気づきました!! 今は少し落ち着いたので病院に搬送中です!! ですが、産婆が言うには今日、明日に生まれる可能性が高いと言っています!! 忙しいのは分かりますが、なんとかこっちに皆戻れませんか!!』
「「「!?」」」
その場の全員が固まる。
え、ちょい待て。
セラリアの出産予定日はあと3週は……って誤差の範囲か!!
不味い、不味い、このまま敵さんと遊んでいてはセラリアの傍にいられない!!
「予定変更!! こっちから行って叩き潰す!!」
「「「はい!!」」」
嫁さんたちに否定はなかった。
ホーストへは事後報告でいいだろう。
「こうなったら、人が起こしたものとは思えないほど派手にやってやるわ!!」
「「「おーー!!」」」
敵さん、魔剣使いの2人、すまんが調整をしている余裕がなくなった。
と言う事で「迫る時」は戦いの時ではなく、出産の時でした。
さて、敵はほっといて、セラリアの子供は男の子なのか女の子なのか!!
ユキは廊下前でウロウロすることなく落ち着いて待つことができるのか!!