第201掘:動き出す敵と今日の御飯
第201掘:動き出す敵と今日の御飯
side:??? エナーリア王都
「……!! ……!?」
なにやら外が騒がしい。
こっちは漸く3徹の後でぐっすり寝ていたのに……。
「まったく、一言文句でも言ってやろう。僕の睡眠を邪魔するとはいい度胸だ」
僕はまだ寝ぼけ半分で、転げ落ちるように、ベッドから抜け出し、騒がしい廊下への扉に向かう。
ドサドサ……、ガチャゴチャ、ガシャーン。
「あー、もう。本が、資料が、資材が……」
いや、足元に適当に放ってる僕が悪いんだけどさ。
でも、睡眠を邪魔しなければこんな事にはならなかった。
「うん、僕は悪くない。とりあえず外に出よう」
部屋のことは……プリズムが帰ってきてるから手伝ってもらおう。
流石に研究所兼僕の部屋も兼ねてるから、他人を入れるわけにもいかないし、下手な人じゃ危ない物を触ってどうにかなりそうだし。
とりあえず、廊下への扉に何とかたどり着く。
自室から出るのにこれってなんかおかしいよね。
でも、外の騒がしさは一向に収まらない。
「まったく、騒がしいよ!! 僕が寝られないじゃないか!!」
扉を思いっきり開いて、大声で叫ぶ。
当然、近場で騒いでいる連中はこちらに注目し、騒音が止まる。
「で、原因は何だい? ここら一帯は僕の研究室と私室を兼ねているのは知っているよね? そして、その研究がどれだけ大事なのかも」
そう、僕はこのエナーリア聖国でもそれなりの地位を持つ人間なんだ。
この研究室だって、エナーリア王都の王城の中にある。
この事実だけで、僕がどれだけ重要な人物かわかるだろう。
「あ、あの、その……」
僕が見つめていた兵士がしどろもどろに口を開く。
ちょっと脅かしすぎちゃったかな?
これじゃ逆に話を聞くのに時間がかかりそうだ。
「そこの痴女。さっさと胸を隠しなさい。無くても一応女性なんだから、そこら辺のつつしみは持つべきよ」
「え?」
その言葉で、視線を兵士から自分の体へと向ける。
そこには、シャツが乱れて、ボタンがとれ、胸が可愛らしく片方だけではなく、全開で見えていた。
ついでに、下もズボンやスカートはつけていないので、シャツが無ければ全裸だ。
「おおっ、これは失礼。君も言ってくれればいいのに」
「も、申し訳ありません」
「なに無茶言ってるのよ。貴女の立場を考えれば迂闊な発言を出来るわけないでしょう?」
「僕はそう言った関連で、権力を振りかざすつもりはないんだけどな」
「睡眠を邪魔された事では権力を振りかざしていたようにみえたけどね」
「それはしかたないだろう? 僕はたった今、漸く寝そうだったのに」
そうそう、いかな理由があっても人の睡眠を邪魔することは許されない。
だって寝ないと死んじゃうもんね。
守られるべき生存権の主張ってやつさ。
「ようやくって、この前寝たのいつよ?」
「えーと、3日前?」
「私と会ったあの日から寝てないわけ!? いくらなんでも体に悪いわよ!!」
「あー、大きな声は勘弁してくれよ。これでも寝起きなんだ。で、とりえあず君がここにいるなら兵士たちが何が原因で騒いでいるのか知ってるかな。二刀流の魔剣使い、プリズム将軍?」
さてさて、いい加減原因でも聞いてさっさと寝ますか。
丁度いいことに、部屋のかたづけをしてくれる友人も来てくれたことだしね。
「私もそのことで話があったのよ。というか陛下がお呼びよ。とりあえず服を着替えてきなさい。謁見という形になるから。着替えている間に状況も説明するわ。聖剣の発見者、そして雷の魔剣使いでもあるエージル・トムソン様」
「はぁ? この騒ぎはそこまでの問題なのかい?」
「いいから、部屋に戻って謁見用の服を着るわよ!!」
僕はそう言われて、散らかった部屋に連れ戻される。
あー、謁見用の服とか……どこだっけ?
side:ユキ
とりあえず、当日は晩飯を食べて、軽く話をしただけで解散となった。
ま、当日に話を詰めても仕方のないことだし、のんびりやるしかない。
というか、当日で謀反とか、敵軍が近くにいて攻めてくるようなら、最初から防衛など無理なのだから。
なにごとも諦めが肝心ってやつだ。
あ、なにか違うか。引き際を見極めろってやつかな?
「お兄ちゃん、皮むき終わりました!!」
「お、ありがとう」
俺はアスリンにお礼を言って皮のむかれた食材を受け取る。
「兄様、使うお鍋はこれですか?」
「ああ、それであってる」
フィーリアからは料理に使う鍋を取ってきてもらう。
俺自身はコンロの準備を終えて、少し今日の献立、もとい色々考えている。
「ユキさん、しかしまたなぜお昼を自ら作るのですか? 一応私たちはホーストさん、領主より立場が上なのですから……、その使用人たちが恐縮しています」
シェーラが台所の出口にそっと目をやると、直立不動になった料理人や使用人が緊張した面持ちでいる。
「やっぱ、俺が料理するってのはそうなるか。でも、これもこれからのこの街に必要なことだしな」
「ユキさんの美味しいお料理がですか?」
「美味しいかは人それぞれだしな。ま、ホーストさんと今後の街の話をするのにも必要なんだよっと、さっさと炒めますか」
俺はフライパンを探そうと視線を動かすと……。
「はい、ユキ。フライパン」
「お、流石ラビリス」
「当然よ。じゃ上るわね」
俺の希望を叶えたちびっこ巨乳は、さも当たり前に俺によじ登る。
いつものことだしツッコムだけ時間の無駄か。
「いいのよ、一発付き合っても」
「そっちのツッコムじゃねえよ」
「残念」
「えーと、ユキさん今後の街の為といいますと?」
「ああ、ごめんごめん」
とりあえず、俺は料理をしながらシェーラに今後の予定を話すことにする。
「シェーラは昨日ホーストや街を見てどう思った?」
「そうですね。ウィードには及びませんが、統治は見事だと思います。領民の心もつかんでおられるようですし」
「だな、俺もそう思った。だから、俺たちはこの街を下手に好き勝手するわけにはいかないのはわかるよな?」
「はい。無理矢理な統治は反発を生みます」
「無理矢理でなくするためには?」
「そうですね。ホーストさんは領主としては全く問題が無いわけではないでしょうが、今の状況でその問題点をつついても、街の人たちの反感を買うだけですし、ホーストさんを主体に私たちの考えを街に浸透させていくぐらいだと思います」
「そうそう、その第一歩と言うわけだ。ウィードの体制は突拍子のない物が多いからな。まずは、万民共通の飯。お腹から掴もうと思ってな。防衛関連も改良の余地はあるが、それを今日いきなりパッとしても問題だろう?」
「確かに……」
防衛関連は特に街の人たちの協力が必要不可欠だ。
どんなに強固な城も、内側から崩れると脆いものだからな。
人気のあるホーストを蔑ろにして、そんな事態になれば目も当てられない。
亜人の村から、大規模な街を手に入れたようなもんだ。
ジルバ王都も悪くはないが、こっちの方が拠点としては最適だろう。
逃げることは問題ないが、ここを落とされるとこっちも面倒なのでしっかりやらせてもらう。
「今日明日、敵が来るわけでもないしな。まずはちゃんと足元を踏み固めていこう。さて、シェーラ、直立不動になっているあの人たちから安物のワインでいいから貰ってきてくれないか? 俺たちウィードの物だけで作ってもいいが、それじゃあんまりだしな」
「はい、わかりました!!」
シェーラがぱたぱたと可愛いウサミミを揺らして使用人の元へ走っていく。
「さて、気合入れて料理しますかね」
どんな時も飯は大事だ。
日常の一部であり、かけ離せないもの。
遥か異世界に来ても、俺にとっての故郷を思わせる大事なもの。
と言っても作るのはシチューだけどな。
流石に、刺身とか味噌汁は新大陸でいきなり試すのは度胸がいる。
無難に行かせてもらう。
side:エージル・トムソン エナーリア王都
ガラガラ、ガシャーン。
「なるほどね。そりゃ騒ぎになるね。ライトが、聖剣使いが負けたなんてね」
私は髪を梳かしつつ、プリズムが探し出してくれた謁見用の服を着込む。
その間に、プリズムが片付けながら事情を説明してくれた。
ジルバ帝国の侵攻対策に送った聖剣使いのライトが敗北したというらしい。
「まったく。埃が凄いわね……使ってる場所と使ってない場所差が激しすぎよ。と、聖剣使いが負けたってだけじゃないのよ。負けたのはつい一週間前。その意味がわかる?」
煙たいと言わんばかりに、顔の前で手を振るう。
乙女の部屋でなんて失礼な。
「んー、プリズムの乙女の部屋でする態度は、まあ目を瞑っておこう。で、一週間前に負けたってのはだいぶ前から砦って攻められてたっけ?」
「いえ、一度侵攻は止まって、6か月近く音沙汰がなかったのよ」
「だよね。理由はわからないけど、その間に防衛を固める為、兵の増員と切り札のライトを送ったんだよね?」
「ええ。その強固な防衛になったはずの砦が僅か半日で落ちたそうよ」
「……半日ね。向こうにも聖剣使いでも現れたかい?」
「いえ、戻ってきた兵士曰く、魔剣使い3人そろい踏みで一瞬で門を破壊され、砦の上に陣取った守備兵もあっという間に沈黙させられて、抵抗らしき抵抗もできないままやられたそうよ」
「……うーん、不思議だね。確かに僕たちが使うこの魔剣は強力だ。でも、門や城壁上の敵を一瞬で破るなんて……相当魔力を溜めて、強烈な魔術攻撃でも加えないとむりだよ」
僕の研究分野は何を隠そうこの魔剣に関することだ。
いや、魔力、魔術に関することかな?
長年……というには僕はそんな歳じゃないけど、研究結果で魔剣は魔力を蓄積する性質があることに気が付いた。
魔剣の魔術行使はその溜めた魔力を使って行われるもの。
だから、私やプリズムは魔力を意図的に魔剣に流して、日々魔力を蓄積させている。
一応、魔剣は敵を殺せば魔力を蓄積するようだけど、昨今の魔剣使いは切り札扱いが多いので、1人敵陣に斬り込んで暴れるなんて非効率な使い方は、ジルバ帝国の風姫騎士マーリィぐらいしか聞かないね。
でも、この結果は王とわずかな上層部の人間しか知らない。
目に見えるわけでもないし、私たち魔剣使いの感覚で魔力が溜まっていると言っているだけなのだ。
逆に目に見える形であってもそれはそれで問題なんだけどね。
最悪、魔力を溜める為に、私たちが国民を斬って捨てろと命令されかねない。
と、いうわけで、日々魔力は蓄積しているのだけど、それだけで門を一瞬で破壊するのは無理だと思う。
「……プリズム、君の二刀流で門を一瞬でぶっ壊す方法はあるかい?」
「……それは私も考えたわ。こっちの大地の魔剣なら、門の足もとを隆起させるか陥没させれば、倒壊させられるわね。もっとも、大地の魔剣の魔力が空になりかねないけどね」
「方法があるだけでも大したものだよ。僕の雷の魔剣じゃ精々城壁上の兵士を仕留めるぐらいじゃないかな?」
「エージルの魔剣も鎧による防御ができないから、兵士一掃には便利なんだけどね」
「ま、なにごとも使いようってわけだ。でも、プリズムとの話である程度、負けた理由が見えて来たよ」
「どんな理由かしら?」
「3つも魔剣使いが揃ったんだ。きっと分担したんじゃないかな。城壁は風姫騎士。門は炎姫騎士。一掃は水姫騎士。これでなんとかならないかい?」
「ふむ、兵士を風の魔剣で怯ませ、門は炎の魔剣で熱して近寄れないようにする。そして水の魔剣による水の津波で一気に?」
「そうそう」
そして僕は謁見の準備を終える。
「でも、その説明をすれば……」
「僕たちが出る羽目になりそうだね。ま、聖剣も回収したいし、プリズムがいるなら心強いよ」
「それは私もよ。エージル」
さて、僕が見つけた聖剣を上回る魔剣の使い手たちか……。
世界はやっぱり広い。
まだまだ学ぶべきことは多いようだ。
side:下っ端ゴブリンA ユキたちについてきた組
「おおっ、何という味だ!!」
「本当ですわ。とても美味しい!!」
目の前でホースト領主と奥さんがウィード……いや大将特製の料理を食べて喜んでいる。
そりゃ美味しいでしょうよ。
今は警備ということで食えないけど、後でおいらたちも食べる予定だ。
こういうところは大将は優しい。
訓練は地獄だけどな。
でも、恩ある大将でも憎い時がある。
「ユキさん、ほらあーんして」
リエル姉さんが大将にうらやましいことをしている。
「自分が作ったもんなんだけどな」
そう言いつつも大将はリエル姉さんからのあーんを素直に受ける。
「私もいいですか?」
「私も」
トーリにカヤ姉さんもそれに続く。
と、なると無論。
「ユキさんの側近として食べさせて上げないといけませんよね!!」
「お兄ちゃん私もー!!」
「兄様ーー!!」
「あ、あの私も!!」
リーア、アスリン、フィーリア、シェーラ……と美女と美幼女に囲まれる大将。
少し離れて……。
「私もするべきなのでしょうか?」
「それはジェシカが自分からしたいと思わないとだめよ。嫌々やってもらっても相手も申し訳なさでいっぱいになるから」
「そんなものですか。で、ラビリスはしないのですか?」
「無論するわよ。口移しでね」
ふふふ、今、この時だけはこう思います。
憎しみで人が殺せたら!!
あとでスティーブ隊長に知らせとこ。
デジカメ、デジカメっと。
さあさあ、動き出す大敵!!
でも今日のごはんです!!
憎しみで人は殺せないのよ?




