第197掘:砦攻略後の話
砦攻略後の話
side:ユキ
砦の一室を貰い受け、俺はそこでのんびり書類処理をしている。
横では勿論リーアがサポートで書類を優先度で分けたり、自分で出来る処理はしてくれている。
新大陸に来たとはいえ、俺がこの傭兵部隊のリーダーなので、実質的な管理は俺がしないといけないし、一応ウィードの軍部関連の処理もしないといけない。
現在散らばっているウィードメンバーの報告書などもある。
「しかし、砦攻略したこっちは進展があったが、他所はパッとしないな」
「仕方ないですよ。ジルバ帝国での調べものはしっかりやって、こうしてデータが送られてきていますし、ダンジョン、いえ亜人の村の方でも実験の成果が出ています。徐々にですが、成果は出ています」
「そうなんだが、今までがイベントありすぎたせいか、なにかこう一気に物事が進んでくれないかなーってさ」
希望的な意見を言う。
ウィードがようやく建国宣言から一年近くといったところ、嫁さんたちも出産予定にあと一か月といわれ、俺にとっては怒涛の一年である。
この世界に来て一周年無事でよかったね記念をやる暇もなかった。
「そうですね。皆の出産も近いですし、こっちが一息つければ落ち着いて皆の出産に付き合えますから」
リーアも皆のことは心配しているようで、家族でのんびりしたいと思っているようだ。
お茶を手にして飲む。
「ふぅ、ま、イベントは現在進行中でもあるんだけどな」
「砦を落として、3日後にはライトさんや捕虜にした砦の将の言った通り、包囲するための軍がきましたからね」
そうリーアが言って、こちらに一枚の書類を回してくる。
「周辺の街の取り込みについて……ねぇ。これなんで俺たちに回してくるんだろうな」
「さあ? ユキさんの手腕に期待してのことでは?」
「恭順はしてるんだろ? 一々外部の俺に話を伺うのは不味いだろうに」
書類の内容から分かるように、二つの街からでた包囲軍は、砦と聖剣使いの陥落と敗北にあっさり恭順を示した。
実の所、砦で戦闘が起こっていないので、不思議に思った軍の代表が砦に近づいたのを逆に包囲してそのまま敗走に追い込んだのだ。
戦闘らしき戦闘あとも一切なかったからな。
門が吹き飛んで、少し城壁が崩れているぐらい。
しかもそれが四方からじゃなくて一か所だけだから、包囲軍は困惑したのだろう。
普通、砦攻めとかは全体でボロボロになるから地面とかも城壁とかも、でも今回は戦車砲と迫撃砲の一次砲撃で全て終わってしまったのだ。
と、こんな感じで包囲軍もあっさり四散し、軍を率いてたお偉いさんはこちらが捕虜としたことにより、砦を攻めた戦力がとんでもないと相手に認識させたわけだ。
その結果、次の攻略目標であった街の二つはこちらの希望通り、恭順してくれた。
もっとも、砦が一日で落ちて聖剣使いも負けた相手に、砦以下の防衛機能しかない街が耐えられるわけもない。
だから、領主たちはお互いに、領民への非道を行わないのであればこちらにつくと言ってきた。
こちらとしても、兵力と時間を割かなくてよくなったので万々歳である。
「人手が足りないみたいですよ。一応、二つの街は恭順を示したみたいですけど、更にエナーリア聖国の奥には城や砦も存在します。そこからの軍が来た時、防衛が厳しいですからね」
リーアの言う通り、俺の持っている書類にはその関連のことが書いてある。
僅か1週間で砦1つ、街を2つ攻略したのは大戦果だが、これを維持できなければ意味がない。
そこで、魔剣使いの3姫、もう1人1人名前呼ぶのがめんどいのでそう呼ぶ。
と、3姫の考案は、砦以外の2つの街にこちらの領土になったという証で制圧軍を送り込みたいらしい。
当然だよな。制圧軍のいない敵地恭順なんて誰も信じないし。
で、問題は砦を攻めたこちらの兵数は2万5千程度。
数を聞いてもらえればわかると思うが、砦から兵を割くわけにはいかない。
一応、早馬をやって駐留する軍の要請をしているが、それがくるのも早くて2か月。
残念なことに、敵の城や砦の方が増援がくるより圧倒的に近いので、運悪く、早期奪還に乗り出せば2つの街はなんとかしてこちらの少ない手勢で守るしかないという状況だ。
一応、2500ずつ2つの街に配置する予定ではあるが、その数では厳しいのは明らかだ。
砦を2万、街を2500、今できる配置としてはこれが精一杯だろう。
傭兵を雇うのもありだが、前回敵であったものが主流だ。
なんとも組み込みにくい。いよいよまずいとなれば組み込む予定ではあるらしいが。
「とりあえず、この書類を作ったのはミストだな」
「ですね。マーリィさんにオリーヴさんはこういうタイプではないですから」
「ミストがジェシカとかヒヴィーアみたいな副官を欲しがった理由が如実に現れてるな。可哀想に」
「大事ですよね人材」
「そう言った意味ではマーリィは確かに人を見る目はあるみたいだな」
「ジェシカさん、ヒヴィーアさん、そしてユキさんに私と、まあ確かに見る目はありますね」
俺とリーアについては制御できるとかそんな枠じゃなかったけどな。
そんな雑談をしながら、恭順を示した街への対応策の書類に目を通していく。
実に、ミストらしい堅実なやり方だと思う。
俺たちみたいな連絡手段もない、隊伍を組んでえいえいおー、みたいな時代遅れが主流の中で必死に最善ともとれる方法を取っている。
魔剣云々がなくても、ミストはこの大陸では一角の将軍になりえたのではないのかと思うぐらいだ。
マーリィ、オリーヴは戦闘特化すぎて精々今回の様な侵攻軍のリーダーがいい所だろう。
「あー、なるほど。ここで俺たちを使おうってことか」
俺は最後の一文をみて、この書類をミストが俺に渡してきた意味を悟った。
「流石ミストさんと言うべきですね。私たちに連絡兵として動いてほしいみたいですよ」
俺たちが遠距離から即座に情報をうけとる技術を持っているのは、一緒にある程度行動しているので察しているのだろうが、それをすぐ自分たちのために使ってくれと言うのはなかなか豪胆だな。
「これは、俺たちへの信頼とみていいのかな?」
「そうじゃないでしょうか」
コンコン
ドアをノックする音が、俺たちの会話を遮る。
「ジェシカです」
「ん? 気にしないで入ってくりゃいいのに」
俺がそう言うと、ジェシカがミストを引き連れて入ってくる。
「お邪魔します」
「ああ、ミスト、丁度書類読ませてもらったよ。俺たちに連絡兵、伝令兵として動いてほしいって?」
「読んでいただけたのでしたら話が早いです。私の護衛と連絡兵として、2つの街に訪問の手伝いと、一方の街に駐留してほしいのです」
「片方の街はいいのか?」
「できればそうしてほしいのですが、できますか?」
「いや、無理だ。お断りする」
「ですよね。せめて人族の方がもう一人いれば、受け入れて貰えてたと思うのですが……」
俺たち侵攻軍について来ているリーダー格は、俺、リーア、リエル、トーリ、カヤ、シェーラ、アスリン、ラビリス、フィーリアである。
内、トーリ、リエル、カヤは亜人と言われて対等な交渉に出られるとは思えない。
そして、シェーラ、ラビリス、フィーリアも亜人であり、アスリンは人族だが見た目は子供だ。
俺とリーアの分断は嫁さん全員が反対するので無し。
ジェシカをともあるが、ジェシカはこの新大陸において、俺たちにとっての一番の理解者であり文化に対しての仲介者でもある。
だからジェシカも派遣するのは無し。
つか、ジェシカは名目上ジルバ帝国にとって、俺との交渉役なのでそばを離れるわけにはいかない。
よって手駒なし。
「ですから、一方の街を私が、もう一方をユキさんたちにお願いしたいのです」
「……それしかないよな」
「ええ、マーリィ様、オリーヴ姉様は戦はめっぽう強いのですが、こういうことはさっぱりで、ヒヴィーアを派遣することも考えましたが、戦力、知名度、地位と私が行ったほうが都合がよいので」
「それなら、俺たちに一方の街を任せるのはどうかと思うが」
「ユキさんたちが全滅することの方があり得ないと思いますが。それと、ジェシカから聞いた情報を集めるのに都合がよいのでは?」
「そこら辺も考えていると。ま、合格点だな。よし、合格点とったついでだ、ゴブリン部隊を50程つれていけ、ブリットが指揮をとるからこっちとも連絡を取るのは容易だ」
「ほ、本当ですか!! それはとても心強いです!!」
ゴブリンだけじゃこっちも情報とりづらいからな。
ミストの側近としていれば、色々ミストがいる街も情報が集められるだろう。
そして、戦力としても弩級のメンバーだ、ブリットの部下のゴブリン1人でも魔剣使いとは一対一で負けはない。
魔術と銃器を使っていいなら3対1でも負けない。
というか近づけないだろうしな。
暗殺とかその類は心配しないといけないが、わざわざゴブリンを暗殺しなきゃいけない時点で終わってるし、そうそう不意をつかれたりはしない。
無論護衛としても問題ないだろう。
「でも、向こうの領主や貴族たちが俺たち傭兵を受け入れるか?」
「こちらもその旨は先に連絡をしておきますし、ユキさんたちは現在、ジルバ王直属の雇用傭兵ということになっています。正直、預けられている権限は私たちよりも上です。なにか問題があればユキさんたちの裁量で何をしても構わないと言われております」
「何をしてもね……」
あの王様、ちゃっかりしてるな。
こういった方面での能力も把握しようとしているな。
今回の街を任される案、ミストがここまで内容をもってきたが、最初から王様からこの方針でいけって方向性を決めていたな。
「わかったよ。こっちも準備を進める。いつ出発なんだ?」
「できれば2日後には出発したいのですが」
「それで構わない。物資が必要な分は書きだしておいてくれ、俺たちがいなくなるんだからな、この砦」
「あ、はい!! 早速!!」
ミストは早速、無くなると暴動ものになる物資の書き出しへと走って行った。
「で、何時でも簡単に運搬できる補給物資を出汁にしてミスト様を追い出したようですが?」
ジェシカは意図的にミストを部屋から追い出したことに気が付いたようだ。
ジェシカの言う通り、マローダーという馬を越える速度で動ける道具があり、アイテムボックスでの大量運搬も可能な俺たちにとっては、砦への物資補給ぐらいいつでも簡単に出来る。
正直、マローダーがあれば1日でジルバ帝国王都、俺たちの拠点の亜人の村、そしてこの砦を2往復できる。
物資をおろしたり、話をしたりで実質1往復だろうが。
「さっきの話は聞いただろう。街1つを俺たちに預けるっていってるんだ」
「はい、破格の待遇だと思いますが」
「流石ユキさんです」
ジェシカ、リーア共に当然と言わんばかりだ。
「そこの調整を話さないといけない。預けられた街をウィード並にするつもりか?」
「「あ」」
そんなことをすれば、その街はジルバ、エナーリア、それ以外の国からも確実に目をつけられる。
そして、それを治める俺たちも必然的に目が集まる。
さらに……。
「そんなめんどくさい事に時間を割きたくはない!!」
もうすぐ、嫁さんたちの出産予定だし、ウィードの1周年もあるんだよ!!
そっちの方が俺にとっては大事なんだ!!
「あー、もうすぐ皆の出産予定もありますし、ウィードも1周年ですもんね」
リーアも同じ考えなようで同意してくれる。
「……お2人とも、エナーリア聖国からの攻勢を心配しないのですか?」
「「え、そんなの何も問題じゃないよ」」
聖剣使いであの程度だし、搦め手で暗殺もあるだろうけど、そんな事してもドッペルだしな。
そもそも、基礎が違いすぎるし、考慮に入らん。
軍が来ても遠距離から容赦なく殲滅するだけ。
手加減なんてしないから。
「はぁ、私は本当に姫様の横から埒外の場所へときてしまったようです」
さて、他国の街に堂々と入っていくことになります。
さてさて、ユキたちにはどんな困難が待ち受けているのか!!
エナーリア聖国はこの砦の陥落に軍を動かすのか!!
ユキたちは無事にウィードへと戻れるのか!!
大半の読者はそこが問題じゃねえ、と思っているでしょう!!
俺も同意です。
ウィード建国、1周年祭に嫁さんの出産のが大事ですわ。




