第196掘:伝説は始まらずに終わる
伝説は始まらずに終わる
side:光の聖剣の担い手 ライト・リヴァイヴ エナーリア聖国所属
「ライト・リヴァイヴ。光の聖剣の担い手よ」
「はっ」
私はエナーリア聖国、聖王の前で膝をつき言葉を待つ。
「今まで聖剣の担い手である、お主を隠してきたが、そうもいかない状況になった」
「存じております。ジルバ帝国が侵略してきていると」
「うむ。その通りだ。本来であれば、いや、これが聖剣の担い手の伝説の再現の始まりなのだろう」
「再現とは?」
「お主はこれから歴史の表舞台の立つ。それはすなわち、歴史の再現だ」
「と言う事は、我が祖国こそが……」
「そうだ。我がエナーリア聖国こそが世界を1つとする盟主、あるいは光となるのだ。さあ、今一度、聖剣を抜き、掲げよ。そして、ジルバ帝国の魔剣使いを追い散らしてみよ!!」
「必ずや、この聖剣に誓って!!」
剣を鞘から抜き放ち、謁見の間は光で溢れる。
「おお、伝説の再現であり、エナーリア聖国の真の歴史がこれより始まるのだ」
そして私は、攻められてる砦へと救援に入った。
しかし、その時にはなぜかジルバ帝国は引いていて、嫌らしい位置に陣を立てていた。
「聖剣使いよ、よく来てくれた!!」
「いえ、間に合ってよかったと言うべきなのでしょうか?」
「恐らくそうでしょう。なぜ後退したかは分かりませんでしたが、これも聖剣のお力と思いましょう」
「わかりました。では、砦や周りの街はこれからどうジルバ帝国と相対するおつもりでしょうか?」
「即座に、陣を立てているジルバへお返しをしたいところですが、現在の戦力では厳しいでしょう。もしや、聖剣には数を覆す力がお有りで?」
「はい。と言いたいですが、相手方に魔剣使いがいる以上、下手に動けばこちらが相手を崩す前に砦が落ちたりすれば本末転倒。本国からの増援もこれからどんどん到着する予定です。それらを待ってもらった方がよいかと。真っ向勝負をすれば負けるつもりは無論ありませんが」
「ほう、そのような自信があっても突撃しないとは慎重ですな」
「私は13本の内の1本を持っているにすぎません。力はあれど過信していいことにはなりません。かつての聖剣使いたちは力で世界をまとめたのではありません。その力を使って世界の人々の思いをまとめたのです」
「思い……ですか」
「はい、思いです。未来を、争いの無い世界を望む思いを、ですから、私に力を貸してください」
「はっはっは!! 聖剣使いはどれだけ偉い人かと思いきや、いや、失礼。侮辱するつもりは一切ないのですぞ。そのお言葉に深く感銘を受けましたぞ!! 確かに、大事なのは思いですな。喜んで協力いたしましょう。お言葉通り、援軍の到着を待って攻勢にでるとしましょう」
「ありがとうございます。それまでは、砦の防備を整え、近場の街の連絡を密にして、万が一敵が動けばすぐに対応できるようにお願いします」
「お任せください」
それから数か月、ジルバ帝国の陣は動きを見せず、こちらは防衛を整え、援軍が到着し始める。
しかし、なぜ引いた?
なにか問題が起きたのか?
なら、一気に攻めかかるべきか?
そろそろ、防衛の体制も整い、攻撃に出せる兵も集まってきた。
奪われてしまったフェイルの街を再奪還するほどの兵力があるとはいいがたいが、陣を張っているジルバを追い散らしすことは出来るのではなないだろうか?
「ライト様、ジルバ帝国の陣が動き始めました!!」
「ようやく動いたか。しかし、動くのが遅かったな。こちらの防衛体制は万全だ。で、ジルバ帝国の目標は?」
「はっ、進路から察するに、この砦と思われます!!」
この砦に再び攻勢を仕掛けるのか?
恐らく街のどちらかに仕掛けると思っていたが、予想が外れた。
が、これも予想済みだ。
「よし、予定通り街に連絡を取ってくれ。敵の目標は砦。こちらが耐えている間に、退路の封鎖と敵後方の襲撃を行い、砦はその時に討って出るから、手筈通りに出陣してくれと」
「了解しました!!」
ジルバがどの様な理由で侵攻を再開したかは知らぬが、これぞ必勝の策。
敵を一方に引き付け、その間に退路封鎖と後方襲撃を行い、それで敵が乱れたら、攻めれられている所がいっきに討って出る。
これは、それぞれの箇所に相応の人数がいてこそ取れる手法だ。
私の聖剣の力はあれど、数多の敵を全て討ち果たすことはできない。
そう、人々の結束こそ、思いこそ、勝利に一番大事なのだ。
「来たな」
「来ましたな。数は3万に届くかどうかと言ったところですな」
私たちは砦から、外に布陣するジルバ帝国の軍を見つめる。
「私たちの方が人数は多いが、予定通りに行きます。既に連絡は行っています。3日あれば完全な包囲網が完成します。その時まで耐えてください」
「そうですな。焦って敵を逃がしては意味がない。完全に叩きつぶし、二度とエナーリアへと手出しできぬようにせねば」
「そのためにも、3日、頑張りましょう」
「なに、聖剣の持ち主がいるのです。士気も高い。防衛準備も万端。問題ありますまい」
私たちが話していると伝令が飛び込んできた。
「伝令!! 魔剣使いと思しき女性が3名、この砦に接近!!」
「魔剣使いが3人!? まさか……」
「それは無いだろう。ジルバ帝国の魔剣使いは4名。そのうちの3人が一か所に集まるなど……」
「いえ、間違いないそうです。ジルバ帝国を偵察していた間諜の部下がいまして、マーリィ、オリーヴ、ミスト、3名の魔剣使いで間違いないそうです」
「……これは厳しい戦いになりそうですね」
「ライト様の言う通り、急いて攻めていれば砦の軍は全滅していたかもしれません。しかし、どうされるおつもりか?」
「防衛の方針に変更はありません。が、なるべく敵の攻撃を遅らせるべきでしょう。恐らく敵は何か口上を告げるつもりです。それを聞いて、こちらも返答をして出来る限り時間をかせぐべきです」
「わかりました。ですが、誰が魔剣使いと対応をするのですか?」
「私がいきます」
そして、私が砦の門の上に立つ前に、魔剣使いたちからの口上が述べられます。
それは降伏勧告。
魔剣使いからの、しかも3人がそろい踏みの降伏勧告、これでは兵が動揺してしまう。
私が聖剣使いであることを、この場で宣言して士気を回復しないとまずい。
声を張り上げ、門の上から魔剣使いを見下ろす。
「侵略を行う愚かなジルバ帝国へ告げる!!」
そして、聖剣を引き抜き、兵を鼓舞しようと……。
「エナーリアの全将兵は決してお前たちには屈しない!! 我々はお前たちに降伏などしない!! この聖剣があるかぎり、我々に負け……」
ドンッ!!
そんな音が響き……。
ドーーーン!!
真っ白に視界が染まった。
なに、が、おこったの?
これから、私は、伝説を……。
僅かに開いた目は空を向いて、空からは何かが降って……。
ドドドドドド……
side:ラビリス
私は彼女から手を放して、ユキに向き直る。
「こんな感じね」
「いや、なんで心がよめるんだよ。仲のいい人限定じゃなかったのかよ?」
「無意識ってことと、すごく弱ってることが条件だけどね。普通、無意識状態を相手に許すってのは仲がいい家族ぐらいでしょう? 普通寝てても警戒が強くて簡単じゃないわ。というか、触るんだから普通は起きるでしょ」
「……ああ、なるほどな。で、なんで心がよめるにしても、なんで考えてることが今までの回想なんだよ」
「多分、巡ってるんでしょう。走馬灯だっけ? 死ぬ瞬間に今までのがってやつよ」
「あー、そういうことか」
「実際死にかけたんだし、当然だと思うわ。酷かったでしょう? 見つけた時は」
「そりゃな。奇跡的だったよ。体半分になってたけど、倒壊したものが逆に止血の役割果たしてたからな」
相変わらず、謙遜ばかり。
その半分になった上半身と下半身、千切れた腕と脚を回復魔術であっさりつないだくせに。
「しかし、ラビリスが心を読めたのは嬉しい誤算だな。この聖剣は真贋はともかく、魔剣とは別物という認識らしい」
ユキはそう言って、聖剣を鞘に入ったままベルトでジワリと持ち上げる。
魔力云々の真意がわからない以上、私たちのような高レベルで莫大な魔力を持つ人が、魔剣、聖剣を持つことは禁じられている。
当然、魔力量がウィードトップのユキならなおさらだ。
「「「オオッーーー!!!」」」
そんなことを話していると、砦内から歓声が上がる。
「どうやら、砦の制圧は成功したみたいだな」
「みたいですね。しかし、ラビリスのお蔭で3日後には包囲のために敵が来るのがわかりましたが、それはどうするのですか?」
「そういえばジェシカの言うとおりね。これからどうするのかしら?」
ジェシカが言った通り3日後には敵がこの砦にたどり着き、落ちていることに気が付く。
「んー、それは姫さんたちの方針次第だが、砦が落ちてるのなら、すぐに引き返すと思うぞ。砦を攻めるのは戦力がたらんし、その聖剣使いが負けたってことだしな。普通の判断ができるなら、聖剣使いが負けるような相手と何も作戦無く砦に攻勢をかけるとは思わん」
「確かに……」
ジェシカはそうやって頷く。
このライトの心を読んだ限りでは、ライトが指揮する砦が落ちたのだし、多分敵は攻撃に出ることなく撤退すると思うわ。
ユキの予想通り、この聖剣使いのライトがこの戦いの柱みたいだし。
とりあえず、ユキの体をよじ登って肩車状態に戻る。
「……ラビリス。一応戦場だからな」
「大丈夫よ。それを言うなら両手にぶら下げている2人にもいいなさい」
そう言うと、ぶら下がっているアスリンとフィーリアは涙目になる。
「お、お兄ちゃんが邪魔なら……」
「兄様が降りろって言うなら……」
しょんぼりした声で2人が俯く。
「別に邪魔とはいわないが、危なくなったらちゃんと離れろよ?」
「「はーい」」
うん。流石2人ね。
「はぁ、でもなんか微妙だよな」
「どういうことでしょうか? 作戦は大成功。聖剣使いは捕縛、聖剣も鹵獲できました。これ以上ないと言っても問題ないですが?」
呟いたユキにジェシカがそう返す。
でもユキの心情はそこを微妙と言っているのではない。
「ジェシカ違うのよ。ユキが言っているのは聖剣使いの回想のことよ」
「先ほどのですか? この聖剣使いはしっかりと考えて自分個人の力だけでなく、状況をよく理解し、周りを上手く使っていたので、別に微妙ではなく、同じ兵を率いる者として賞賛できますが? 今回は相手が悪かったとしか」
ジェシカはやっぱり頭が少し硬いわね。
私はくすっと笑いながら、ユキが微妙と思っている箇所を教えてあげることにする。
「微妙と思っているのはそこじゃないわ。彼女やエナーリアの王が言っていた伝説の再現、再来の話よ」
「え?」
「微妙でしょう。あれだけ盛大にやっておいて、結果が初っ端で敗北。どこかの物語よろしく、負けて逃げて強くなるなんて状態に見えるかしら?」
「……完全に物語は最初で終わっていますね」
「ね。微妙でしょう?」
「……微妙ですね。と言ってもこの彼女が我々に勝ってもらってもこまりますし、勝てる道理もそもそもない。微妙というか、可哀想になってきました」
「いや、いうなよ。だから微妙ですませてるんだよ」
「でも、これで聖剣使いとしての義務からは解放されるから、あとは彼女次第じゃないかしら?」
「だといいのですが。こういうタイプは使命を運命と捉えているタイプですから、面倒なことにならないといいですが」
「だから、微妙だって言ってるんだ。物語の主役を通行人Aにしたような感じだからな」
「私たちさえいなければ、彼女はきっと主役だったということですか」
そうやって、私たちは主役のはずだった聖剣使いに微妙な目を向ける。
そう、微妙。
私たちが負けるわけにもいかないし、彼女が役者不足だったかと言えば違う、彼女は持てる限りの力と知恵を絞った、ただ私たちがそれを遥かに超えていて、物語を紡ぐ役ではなかった。
「「「なんというか、ごめんなさい」」」
こういうしかなかったのよ。
分かるかしらこの気持ち?
ユキたちがいなければ、きっと物語の主役でした!!
彼女をヒロインに、異世界からやってきた主人公と旅をして聖剣を集め、数多の困難を乗り越え……
主人公は後半、元の世界に戻るか残るかの選択を迫られ……、なんてのがあったかもしれないんです!!
だが、伝説は始まらずに終わる!!




