第187掘:ジルバ帝国の落日 終章
ジルバ帝国の落日 終章
side:ユキ
「ふいー、これでやれることはやったな。ま、細かい問題はあるけど、これでジルバ帝国領内は自由に調べられるようになったわけだ」
俺は玉座の間で襲撃犯を責任者、王様に渡してきた。
つか、なんで帝国なのに王様なんだろうな? 帝王とかじゃね?
ま、そんなことを聞けば、長いジルバ帝国の歴史も一緒に聞くはめになるだろうから時間がある時にしよう。
とりあえずは、さっさと食堂にいって朝飯を食おう。
「えと、そう言えばジルバ帝国相手の交渉はユキさんに任せたけど、結局これで終わり?」
リエルは後ろをついてきながら聞いてくる。
「大体な」
足を止めることなく答える。
ついでカヤが不満げな声を上げる。
「私たちがあられもない姿を見られて終わり? ……不満」
「あー、寝てたんだっけ? そりゃすまん」
予想ではラビリスたち>俺>トーリたちって感じだったんだが、大穴で来るとは思わなかった。
まあ、発想から考えると、あの玉座の間で一番暴れたのはスティーブを除けばトーリたちが一番だ。
だから、現状一番脅威と言える彼女たちを排除してしまおうという考えはわかる。
が、あんな目に遭って、噂も聞いて、手を出してくるとは思わなかったがな。
俺と言う未知数の指揮官か、連れてきたお子様を狙うと思ったんだがな。
「……私が着替え中でした」
トーリが一番トーンの低い声で言ってきた。
「……」
「……」
なにを言えば正解だ?
取って返して侵入してきた奴殴っとくか?
でも、即座に行動できなかったからダメだよな……。
いや、嫁さんの着換え中に覗かれたんだから、腹立つ気持ちもあるんだが交渉の関連で下手に手を出すわけにはいかないし、でもこういう時ってどんなことすれば正解なんだ?
「はぁ。トーリ、心配無用よ。沈黙してるけど、必死にトーリが笑ってくれることをしようと考えているわ」
「本当ですか?」
「ああ。ラビリス、ありがとうな」
ラビリスがいつの間にか手を握って心を読んで伝えてくれたみたいだ。
「すまん。色々考えたがどう反応すればトーリが喜ぶかわからん」
正直に言ってしまうことにする。
「いえ、少しわがままを言ってしまいました。でも、よければ今日の晩御飯はステーキがいいです」
「わかった。そうしよう」
「あー、ずるいずるいよー!! 僕だって可愛い寝顔を見られたんだから!! ぶり!! ぶりの照り焼き!!」
「……私もお稲荷さんを要求する」
「おう、任せとけ」
勿論、一緒の部屋にいた2人も同じようにする。
正直、女性の寝顔なんて、さらに年頃の子なら訴えられるレベルだよな。
不法侵入も加わるからお縄だしな。
いや、実際捕まってるし。
夫である俺がフォローしないといけないのは当然か。
「ま、晩飯はそれでいいとして、まずは朝飯だ」
「「「はーい」」」
そうやって、食堂に入っていくのだが、ある事実を思い出した。
「スティーブまて」
「なんすか?」
ぼろ布をまとったスティーブだ。
「いや、なんでそんな布まとってやってきた? 下の鎧とかパクられたか?」
「んなわけないっすよ。普通に上から羽織ってるだけっす。こうすれば少しはおいらが馬小屋で悲しい夜を過ごしたと認識されると思って」
「そういうことか、でもやめとけ。ほれ、何も知らない城内のメイドとか、凄く嫌そうな目で見てるだろ? その下、全裸だと思われているぞ?」
「えっ!?」
スティーブが辺りにいるメイドたちに視線を向けると、すぐに視線を外して仕事中と言わんばかりにせわしなく動き始める。
「俺たちには普通に伝わっているが、ここの人たちには只のゴブリンだしな。まあ、評価が下がらないだけましか?」
「いやっすよ!? おいらあんな裸族じゃないっす!!」
すぐにぼろ布を外して、下の立派な鎧を見せつける。
その立派な鎧にすぐメイドさんたちの視線があつまる。
鋭い方向性で。
「今度は狙われてる感じだな」
「……そうっすね」
スティーブはがっかりしているが現実は変わらない。
「ま、お前の実力なら無理矢理はぎとられたりはしないが、見せてくれとか言われて盗まれるなよ」
「……わかってるっすよ」
わかってなかっただろ。
前から言ってるだろ、ハニートラップはマジで気をつけとけって。
「皆も席についてる。とりあえず食うぞ」
「了解っす」
うだうだ話してても、スティーブの評価が上がるわけでもない。
言葉が喋れて、高そうな鎧を着込んでいるぐらいの認識だ。
一応、ゴブリンにやられたという話は出回っているだろうが、こっちはこちらの常識からぶっ飛びすぎているから与太話程度だろう。
スティーブが馬小屋に放り込まれたんだからな。
王の様子だと、なんか裏でこそこそやってる奴もいるみたいだが、この命令をすんなり聞く辺り、ゴブリンの認識はこんなもんなんだろうよ。
さて、スティーブのアホな話も聞き終わって、朝食を食べているのだが……。
「はぁー、なんか味気ないよね……」
「ですね。だからステーキ頼んだんですけど」
「……味気ないというか、レベルが違いすぎる」
「うにゅー、パンが固いですぅぅう」
「ちぎって食べるといいのですアスリン」
「ま、ここでは十分贅沢なんでしょうね。普通に肉入りスープがあるんだから」
「そうですね。十分贅沢だとおもいますよ。私の城でも肉入りスープが兵や城の下働きに振る舞われるのは週に一度ぐらいでしたから」
「でも、そんな豪華料理に文句が出るんですからユキさんには感謝しないといけませんね」
そんな風に多少不満はありつつも、こんなもんだろうと食べている女性陣がいるのに対して……。
「ねぇ大将。味気ないんで、ボックスからカレー出して食っていいっすか?」
「お前は少しは周りに配慮しろ」
「あでっ」
このゴブリンは我慢のがの字もないらしい。
「でさ、ユキさん大体って言ったけど、これからどうなるの? どうするの?」
リエルが固いパンを噛み千切りながら聞いてくる。
「今日のリエルたちを襲ってさらに返り討ちされたから、こっちに手を出すのは非常に不味いと全体的に認識したはずだ。まあ、ジルバ帝国をよく思わないやつは俺たちを使ってジルバ帝国をなんとかしようとちょっかいを出してくるだろうけど。下手な手はうたなくなるな。一つ間違うと俺たちを敵に回すことになるから」
「ふむふむ。言われてみればそっか。じゃあ僕たちはこのまま待機?」
「だなジルバ側の結論が出るまで、二週間はここでのんびりだ。ま、調べ物の手伝いはしてもらうけどな」
「うわー、そっち系は苦手なんだよな……」
「ま、二週すぎる前に、色々動くと思うからそこら辺はリエルに任せるよ。魔剣使いの……オリ○ーとピクミ○? にも連絡取らないといけないしな」
「いや、オリーヴとミストだからね」
すまん、正直こっちのイメージが固まって真っ先に口に出てしまう。
「だいたいわかったよ。これからようやく本番ってわけだ」
リエルがそう言うと、周りの皆も神妙な顔つきになる。
「リエルの言う通り、これでジルバ帝国、及び、ジルバ帝国の友好国への行き来が自由になると思う。範囲が非常に大きくなるから、下手をしなくても実力があるメンバーは単独行動かタッグで各地に探索してもらうことになる」
そう、これからが大変なのだ。
ジルバ帝国のこの場所を仮本拠として、魔剣の歴史を調べ、この大陸にいたと思われるダンジョンマスターの痕跡を探し、魔力枯渇の原因を突き止め、対策を立て、ウィードがある国の王たちにこの大陸を見てもらい、助力を願う。
ようやくこの大陸でまともに動きだせる。
ま、下調べがまだまだ必要だけどな。
一番は地図かな、土地の買い上げでの地図が作れないからな。
ジルバ帝国から提供される地図が少しでもまともであることを願おう。
最悪、皆でデジカメで撮影しながら行くしかないよな。
「色々大変だけど。まずはここまでの達成を祝って、トーリたちのご飯もあるし、今日は家で豪華にいこうか」
「「「やったー!!」」」
嫁さんたちは嬉しそうだ。
「やったー!!」
だが、一匹空気をよんでいない奴がいる。
「お前は、居酒屋にでも行ってろ」
「ひどいっす!?」
そんなやり取りと笑いをとって味気のない朝御飯が過ぎていくのであった。
これにて、ジルバ帝国の大きな動きは全て終わります。
いや、実際にはジルバ帝国正統派とジルバ帝国革新派でいざこざがあるのですが、ユキたちには互いに不干渉を決め込むことになりますw
あと、昨日40度の熱を久々にだして寝込みました。
みんなも気をつけようね風邪。
スティーブは良くも悪くもあんなもんです。