第183掘:ジルバ帝国の落日 餌を撒く章
ジルバ帝国の落日 餌を撒く章
side:アスリン
お兄ちゃんは凄いのです。
もう何が凄いって、全部凄いのです!!
今日は新しい大陸のジルバ帝国という所の王様へ会いにいったんです。
普通なら会えるはずがないんですけど、お兄ちゃんはすばーっとそのままお城へ向かって入っていきました。
そしたら、普通に王様が来たんです。ちゃんと、お話もしました。
お兄ちゃんが迷惑だから、ちゃんと部下の面倒を見るようにっていうと王様は頷くんです。
ちゃんと、お話を聞く王様でした。でも、すこし怖い王様です。セラリアお姉ちゃんのお父さんとは感じが違いました。
ということで、お兄ちゃんのお話を聞いて、部下の偉い人たちを集めて会議をするそうです。
1人で勝手に決めると色々問題があるらしく、ちょっと時間がかかるので、私たちはお話が終わる予定の3日間お城にお泊りすることになりました。
「退屈だねー」
「だねー」
「……まあ、お城で待つにしても、下手に動くと迷惑がかかるから。ユキを困らせたくないでしょう、2人とも?」
「「うん」」
今日は1日目の夜。
と言っても、出されたご飯を食べて、あんまり美味しくなかったけど、その後はお部屋でのんびりしているだけ。
お城は初めてだから色々見て回りたいけど、お兄ちゃんに迷惑がかかるからそんな事はしないのです。
「そうですね。明日はユキさんに許可をもらってお城を見て回りましょうか?」
「いいの、シェーラちゃん?」
「ええ、2人とも初めてのお城なんですもの。私は余り代わり映えしなくて残念ですが、2人にとってはいい経験でしょう」
「……そうね。ユキも言えばちゃんと許可してくれるわ」
「「やったー」」
やったのです。
シェーラちゃんとラビリスちゃんが言ってくれるなら見学できます。
「ま、正直がっくりすると思いますけどね。普通ならウィードの発展ぶりの方に驚愕するのですが……」
「いいんじゃないかしら。シェーラが言っての通り、アスリンとフィーリアは初めてだし、楽しいものよ。まあ、ウィードとの違いがありすぎるから、長続きはしないでしょうね。トイレもお風呂もないし」
「ああ、そう言えば今日はお風呂なしですね。いくらドッペルとはいえ身綺麗にしたいのですが……」
「ドッペルから抜け出して、家で存分に露天風呂に入りなさいな」
「それしかないですよね……」
なにか2人は少し残念そうだ。なんでだろう?
「じゃあ、アスリンはなにが見にいきたいですか?」
「うーん、うーん、そうだねー。お庭がみたいな。きっと綺麗だと思うんだ」
「おー、確かにそうだと思います。私はお城にある武具を見たいです」
「フィーリアちゃんは鍛冶に熱心だねー」
「はい、アスリンとは違って料理はそこまで上手くないですから、鍛冶で兄様を助けるんです!!」
「フィーリアちゃんならきっと凄い鍛冶屋さんになれるよ」
だって、いつも鍛冶のお手伝いをして、私たちの武具を作ってくれるから、将来はナールジアさんぐらいになるんじゃないかーって思う。
「ふぁぁ……」
「ふにゅ……、流石に眠いです」
「ふふ、はしゃぎすぎたわね」
ラビリスちゃんの言う通り、今日は初めてのお城で少しはしゃぎすぎたみたい。
眠い……。
「ユキもゆっくりしろって言ったし、もう寝なさい。明日沢山お城を探検しましょう」
「「はーい」」
私たちはそう言って、初めてベッドにもぐりこみました。
今までお布団だったし、奴隷の時は床で寝てたから。
「お布団みたいにフカフカで柔らかくない……」
「うー、掛布団が重いです……」
「そこは我慢しなさい」
「そうですね。ウィード以外は大抵こんなものです。これでも高級品ですけど、比べるのが可哀想ですね」
「「うー」」
2人で不満の声を上げますが、本気で言っているわけじゃないです。
お兄ちゃんを困らせるようなことはしません。
ラビリスちゃんと、シェーラちゃんだから出来るコミュニケーションというやつです。
「さあ、寝るわよ」
「はい、私たちも一緒に寝ますから我慢しましょう」
「「うん」」
そうやって大きなベッドに4人一緒に寝ます。
「いつもと一緒だね……」
「ですぅ……」
あ、なんかとても眠く……。
side:ラビリス
「眠ったみたいですね」
シェーラの声が聞こえてくる。
私とシェーラはアスリンとフィーリアを挟んで両端で寝ているのだ。
「そうね。慣れない場所だから疲れたんでしょう」
ドッペルがぐっすり寝てるってことは、本体も既に爆睡してるわね。
あっちの方はご飯食べてないんだから、明日しっかり食べないといけないわね。
「はい、2人は慣れていないようですから。しかし、ラビリスはこういう経験が?」
「さあ、どうだったかしら」
「わかりました。ラビリスがそう言うならそれでいいです。しかし、どう思いますか?」
「何が?」
「今日のユキさんが言った3日間です」
「ああ、あれね」
ユキはジルバ帝国の連中に3日という時間制限を設けた。
その理由はまだ聞いていないが……。
「流石に3日は短すぎます。ウィードみたいに各国がゲートでつながっているならともかく、この大陸は基本馬です。遠征しているという軍団の方々もジルバ帝国の重要な役職につかれているはず、それを呼び戻す暇もないまま結論をだせというのは問題の原因になりえます。ユキさんがそのことをわかっていないはずがないのですが……」
「そうね。たしかに、3日だけじゃ全てに手を回すのは無理よね。この3日はいいとして、後でまたこの王城に来たら私たちは邪魔者扱いどころか、剣を向けられるかもね」
「はい、絶対と言っていいほど、反対して独断で動くものが出ます」
「シェーラの言うとおりね。でも、それって1週間、いえたとえ1か月、1年あったら反対は無くなるのかしら?」
「それは……無理ですね。今回はユキさんらしくない、真っ向からの殴り込みです。普通なら、気が付いたら全て終わったあとなのです。私たちの時もそう、魔王征伐も、ほかも……」
「……多分、これも布石なのよ。ユキにとっては国を背負うのは重荷でしかないのは知っているわよね?」
「はい、ユキさんの立場上、国は駒であり、運営を自らするのは愚かでしかありません。ユキさんの本拠ともいえるウィードでさえ、DPを集める場所であり、運営自体は私たちや住人の皆さんにほぼ委ねています」
「そうよね。私も薄っすらとしかユキの心を覗いてないけど、多分この状態はわざとよ。3日の期限も含めてね」
「わざと?」
「私たちをつれてきたのが不思議だったのよ。実力を示して、相手を屈服、あるいは対等に交渉をするなら相手から良い感情を持たれないとだめでしょ?」
「それは当然です」
「でも、その場に私たちみたいな子や、亜人って嫌われているトーリたちを同伴でここに来た」
「つまり、最初から実力行使が目的だったと?」
「いえ、多分私たちを出汁にして、相手の弱みを完全に握るつもりね」
「弱みを握る……ですか」
「ええ、それもぐうの音も出ないほどにね。って、長々話してないで寝ましょう」
「あ、そうですね。ラビリスの話が本当なら、明日はひと騒動あるはずです」
そうやって、私たちも目を閉じる。
薄れゆく意識の中でユキは一体なにをするつもりなのか楽しみな私だった。
餌はすでに撒かれていますw
次は漁業w
いいかげん更新が遅くてすいません。
仕事がいそがしんや。