第162掘:交渉……の前にひと騒動。
交渉……の前にひと騒動。
side:ユキ
とりあえず、風の姫さんは呆然自失しているので、交渉以前の問題。
一旦、落ち着くのをまって話すことになったので、まずは日和見してた長老たちへ行ったのだが……。
「よくやってくれた!! 信じていたぞ!!」
「援軍も出さなかった奴がよく言うよ」
長老の横で、いつもこちらを非難してた男が調子のいいことを言ったので嫌味を言って黙らせる。
「すまぬな。村としては安全策を取らせてもらった」
長老が深々と頭を下げる。
「いや、そっちの選択は間違ってないと思うぞ。ただ、さっきみたいに手のひら返しされると、あれだろう?」
「だろうな」
「とりあえず。俺らの実力は分かって貰えただろう? とりあえず、今回の件で俺たちが手に入れた捕虜は俺たちで自由に扱う。そっちの意見は取り入れないからそのつもりで」
「なんだと!?」
「はぁー、敵対したいなら好きにしろ。そっちがこっちの邪魔をしようと言うなら容赦はしない。共同作戦での戦果ならともかく、今回は俺たちが単独で得た戦果だ。捕虜も物資も俺たちが自由に使えるのが当然だろう?」
「道理じゃな。こちらは様子見で全く支援をしていない。それで、お主らから戦利品を横取りするようなことはあってはならん。この者の横暴は許しておくれ」
「別に実害が無いならいいさ。まあ、変に手を出してくるならこっちで対応させてもらうがいいか?」
「なるべく、なにかあった場合はわしを通してくれると嬉しい。村の反感は買いたくなかろう?」
「度が過ぎれば別だな。俺たちがこの村を殲滅したほうが楽と思わないようにがんばれ」
別に、こっちが命をかけてまで村を守りたいかと言われればノーである。
だって、こっちの防衛目的はあくまでも遺跡、ダンジョンの死守だからだ。
それの害にしかならないなら、敵と違いはない。
「……お主らにとってはわしらはオマケのようじゃな」
「なんだ、今気が付いたのか? そっちだって、こっちを都合のいい傭兵団だと思っただろう? さっきの戦闘も援軍すらなく日和見で逃げる準備もしてたんだから」
「そう言われるとなにも言えんな」
「長老!! なにを好き勝手に言わせているのですか!!」
1人の若者が吠える。
いや、好き勝手って、そっちが好き勝手したのが先だろうに。
「落ち着けい。先にわしらから傭兵たちを縛り付ける様なことをしたのじゃ。好き勝手やったのはどう考えてもわしらのほうじゃ」
「しかしっ!!」
「しかし、どうする? この傭兵団相手に一戦でもするのか?それも2500もの軍を150で退けた相手に?」
「それはそこにいる我らと同族がいたからできたことです!! 人族の戦果ではありません!!」
「はぁ、たった3人の獣人族が2500を殲滅したなどと報告は受けていないがな。ゴブリンの100が突撃してきた騎馬隊を粉砕。そして側面にいた奇襲部隊50程が本隊を殲滅したと」
「それは誇張に決まっています!! きっと、彼女たちのおかげですから、この人族たちは関係ありません」
「誇張か、わざわざ監視にやっていた村の仲間がそんな報告をするかのう」
あーあ、なるべくこういうのが無いように、調整したつもりだったのに、やっぱりこういう問題はでてくるのね。
「で、誇張だったとしても、この獣人族の3人娘がそれを成し遂げたとしても、傭兵団の戦果には変わりない。それを奪うのか?」
「違います。そもそも、その娘たちは無理やりその人族の男につかわれ……」
ドーン!!
文句を言ってた猫耳獣人族の若者が壁を突き破って、外へ飛びだした。
いや、リエルにふっ飛ばされたのが、村の人たちはいきなり若者が吹っ飛んだようにしか見えないだろうな。
「そろそろ黙ろうか? 僕、ちょーっと助けたの後悔し始めたかも」
リエルが拳を降ろすのを見て、村の人たちはリエルがなにかをして、若者が飛んでいったと把握したようだ。
「私もです。同族のよしみで指示を無視して助けましたが、その結果がこれとは……」
「……ユキ、交渉など必要ない。最初から、私たちに従うか、従わないなら出て行けって方針にするべきだった。こいつら完全に舐めてる」
トーリもいつになく厳しい意見を言って村人をゴミのように見ている。
カヤに至っては恐怖政治を推し進めるべしと、村の対応に大層腹を立てている。
つまり。ひぃぃぃいぃぃいい、この3人娘キレてるよ。
「というか、ユキさんを馬鹿にするとか論外すぎるんだけど。人の旦那を馬鹿にして、さらに人の戦果寄越せって? ばっかじゃないの!!」
「リエルの言う通りですね。ユキさんがまだ笑っていますから、なにもしませんが、万が一、ユキさんの顔に影でも入ろうなら、覚悟してもらいます」
「トーリも甘い。私はその場合、お前らを殺す。というか、私たちを倒すよりもユキを倒すことの方が困難」
あ、戦果云々よりも俺がぞんざいに扱われたことが問題なのね。
ここに、アスリンたちがいなくてよかった。
俺が馬鹿にされただけで、リテア戦では暴走しちゃったからな。今頃血の海になってそうだよ。
「リーアは大丈夫そうだな」
「え、殺していいんですか?」
「ダメだからな!!」
あ、だめだ。リーアも頭に血が上っているみたいだ。
このことは妊娠組に言うべきじゃないな。この村がなくなる。
「まあ、このようにそちらの言動でこっちは少し冷静を欠いているようです。一旦ここは引きましょう。わざわざ助けた命を、自分たちで摘み取るはめになるのは嫌ですからね。そちらでじっくり話し合ってください」
俺たちはそう言って会議場所から離れた。
まあ、選択肢としてはもう逃げるか、従うかしかないんだけどな。
リエルとかトーリとかカヤが抹殺宣言しちゃったし。
これで、また平等な関係を、なんて言ったら大爆発するよ。うちの嫁さんたちが。
だけど、血の気の多い、人族に恨みの多い亜人としてはあの反応が普通だろうな。
気持ちはわかるが、その選択をとると死ぬはめになるぞ?
説得をしないといけない長老は大変だね~。やっぱりなにごとも、のんびりやれる役職がいいよね。
「あ、ユキさんお帰りなさい。マーリィさんがようやく冷静になってくれましたよ」
帰るとシェーラがすぐに報告をくれる。
シェーラはこの中で、俺以上に王族として色々やって来たから、現場指揮という面ではカリスマを合わせて遠征メンバーの中では一番である。
俺もできなくはないが、この新大陸ではなるべく便利道具は使わない方針だから、それに精通しているシェーラのほうが俺よりも上手いのだ。
「そうか。じゃ行ってみるか」
「ええ、お願いします。私たちでは怯えられてしまって。お知り合いであるユキさんやリーアさんなら、会話になるかと」
「怯えてる?」
「はい。だって、10分の1以下の敵に逆に殲滅させられたんですから、そして、マーリィさんは直接スティーブさんと戦ったようですし、自分の力の差を実感してるんです」
「わからなくはないが、将がそんなんでいいのかね?」
「よくはありませんが、仕方のないことかと。今まで治療した兵士や、ユキさんの情報収集から考えるにマーリィさんは今まで負けなしらしいです。築き上げたものがあっという間に崩れさったのだと思います」
魔剣頼りでレベルを上げていた弊害かね。
自分と拮抗、少し強いぐらいの相手とは今までやり合っただろうが、俺たちは文字通り規格外だしな。
「とりあえず会うだけ会ってみるか。リーア、俺は姫さんと会ったドッペルと入れ替わるけど、先に行ってるか?」
「そうですね。女性同士ですし、先に行って話でもしてみます。代わりにシェーラさん、ユキさんの護衛頼みます」
「任せてください」
「えー、護衛ははずさないの?」
「「ダメです」」
俺はどこまで大事にされてるんだろうな。
たまに1人になりたい時はあるんだが、自宅でのんびり1人の時はあるんだよな。
外に一歩でもでるとリーアが引っ付いてくる、なんとか撒けるとはおもうが、実際そのあと大目玉だしな。
さっさとドッペルと入れ替わって、いや、ドッペルからドッペルに入れ替わりなんだが……。
ややこしいな。新大陸では俺のそっくりさんドッペルと、変装用ドッペルがいるってことだな。
と、アホなことを考えていないでリーアの所にさっさといくか。
シェーラに俺の護衛をやらせていると、他の部署が止まってしまう。
「うーっす。リーア、どうだ?」
「あ、ユキさん」
「ああっ!! お前がこの傭兵団の指揮官だったのか!! というか、どうやって私たちを追い抜いた!!」
飛びかかろうとしてくる姫さんをリーアがあっさり捕まえる。
「ぐえっ」
「マーリィさん、一応あなたは捕虜なんです。私たちのリーダーに対してその振る舞いはやめてください。今度こそ首と胴が離れますよ?」
「ぬぐぐぐ……」
ふむ、見た感じは元気そうだな。
村のほうもあれだし、ようやく交渉が進められるかな?
さてー、どんなことを交渉しようかなー。
と、やはり無茶苦茶を言う人はいました。
でも今までの恨みつらみで仕方なくはあるけどね。
まあ、容赦はないから気をつけろ!!
あと、明日は絶対休む。というか、休む代わりにすこし執筆途中でほったらかしになってるタイトルを発表しようと思う。
未発表作品やら、昔の話があったりするよ。時系列的にトンデモない話があったりするべw