第155掘:おや、魔物の様子が?
おや、魔物の様子が?
side:ユキ
「おい、頑張れ!! やればできる子だろう!!」
「……いや、無理だからな。魔力の流失が早すぎる」
俺は、ウィード魔物軍の中で、トップクラスのスラきちさんの弱音なんて聞きたくなかった。
「いや、普通に現実を認めてください。恐らく、魔法生物とされる分類の生き物か、魔物かはわかりませんが、魔力をごっそり吸収され続けるので、体が維持できないのでしょう」
「お兄ちゃん、スラきちをウィードに戻してあげて。なにか苦しそうだよ?」
くそっ、アスリンにそう言われたら仕方ないか……。
「じゃ、ウィードの方頼むぞ」
「おう、向こうならどうにでもなるからな」
そりゃ、魔王ですら、文字通り手も足も出なかったからな。
そうやって、スラきちさんが遺跡に消えていくのを見送る。
とりあえず、あの会議のあと、セラリアたちとコールが繋がる確認をしつつ、魔物をこちらに送ってもらったのだが……。
なんと、レベル50以下の魔法生命体と言われる、魔力で体を維持している、スライムやゴースト、まあ実態を持っていないやつとか、無形生物なんかは、魔力が急速に無くなって消滅してしまった。
とりあえず、生き残っている魔法生命体は即座に帰して、そのトップクラスのスラきちさんで実験をしてもらったが、スラきちさんですら、この新大陸では活動は3時間ぐらいが限界だ。
「こりゃ、妖精族は危ないか?」
「でしょうね。妖精族は魔力が主体ですから」
ナールジアさんや、コヴィルを連れて来なくてよかったわ。
「と言うことだ……」
俺はそっと、魔物の肩に手を置く。
「なにが、と言うことっすか!!」
「いや、スラきちさんは見ての通りでな。現場で指揮取れそうなのはお前だけなんだよ」
「他は沢山いるでしょうに!! なんで俺っすか!!」
「いや、他は恐怖の対象になりそうでな」
この新大陸、魔力枯渇問題で、魔物が極端に少ない。
ゴブリンなら、まだ森に入れば見ることはあるが、オークすら殆ど存在しない状態らしい。
寧ろ、オークなんかは捕獲対象で見世物にされることもあるみたいだ。
だから、オーク部隊は働けるが、いろいろ面倒になりそうなので呼んでいない。
無論、魔法生命体のデュラハンとかも無理。
ブラッドミノタウロスのミノちゃんなんて、こっちに呼んだら討伐軍が組まれかねない伝説級の魔物らしい。
「まあ、頑張れ。1週間ぐらいで、防衛網整えろよ。案は任せる」
「ひっど!! 時間すくな!! 防衛の案、丸投げ!?」
「できないわけじゃないだろうに。今までいろいろ教えてきたんだから。ああ、目的はこの村を守れるようにな」
「いや、確かにできるっすけど、なんか間違ってね!?」
「言いたいことはわかるが、俺も色々理不尽に遭ってるんだよ。あきらめろ。上司命令だ、恨む相手がいる分ましだろう?」
「……なんか、すみません」
「給料はちゃんと、遠征特別給与を上乗せするから」
「頑張ります。……あの、大将も頑張ってくださいっす」
「同情するなら代わってくれ」
「お断りします。じゃ、仕事があるんで、行ってきますっす!!」
っち、逃げやがった。
ま、これで防衛はどうにかなるか。
「どう思う?」
「そうですね。今回送られてきた魔物は、スティーブ将軍が率いるゴブリンですが、数は今のところ村人を刺激しないために50人とちょっとですからね、敵が本格的に攻めてくれば、きついでしょう」
「そこら辺は、長老が話を纏めたら、さっさと増援を呼ぶさ。まあ、村人を守らなくていいのなら、ダンジョン防衛するだけだし、さっききたジルバ帝国の兵士ぐらいなら、一万人いようが相手にならん」
「普通なら、数に押しつぶされるのでしょうが……。ウィードの兵に常識は通じませんからね。未だ、新大陸の情報はそろってないですが、どうにでもなるでしょうし。なにか問題が起これば、逃げるぐらいは出来るでしょう」
それぐらいできないなら、俺はさっさと新大陸から引き上げるな。
死にたくないし、嫁さんを心配させたくないし。
「まったく、ダンジョンの機能を使えないのが厄介だな」
「いえ、今までが楽をしすぎたんですよ」
ザーギスの言う通りだが、たった50人で防衛網の構築はキツイだろうな。
「明日にはスティーブが防衛の資料を提出するだろうし、最悪は銃器を使ってここは守るか」
「あの、異世界のけた違い兵器群ですか……。あれを防衛に使うなら、余程じゃない限り落ちることはないでしょうね」
守るだけなら、良いだろう。
現代兵器と言うチートはとても扱い辛い。
ルーメルで使われた戦車群もそうだが、使った本人は全く身動きが取れなくなってしまった。
誰でも使えるというのは、更に争いを広げる可能性があるのだ。
だから、管理は厳重に行わないといけない。
ま、ルーメルに至っては生産する力はなさそうなので、タナカと言う能力者をひたすら表に出さず、奥の手にすることを選んだようだがな。
俺も、そんなことにならないように、現代兵器を扱っていかなくてはいけない。
俺の場合はDPで取り寄せられるからな。
あ、魔力実験でわかったことだが、DPで取り寄せた物は魔力で構成されているわけではないらしい。
ルナが、自身の力で作った本物なので、魔力枯渇にも影響されない。
この新大陸においては、無類の強さを誇る武器となるだろう。
間違っても盗まれたりしたら、大きな被害だけで済めばいい方で、その兵器が生産され始めたら、新大陸は地球のプチ世界大戦になるだろう。
「しかし、管理をどうするかね……」
「ダンジョンの機能での検索や監視ができませんからね。ひたすら書類提出での使用許可と、対面での受け渡し、保管庫の厳重管理ですかね?」
「それぐらいだよな……」
やっぱり、ダンジョンというチートが無いと危険が増すな……。
現代の世界はこれをよくやってたよな、セキュリティとかトンデモないものばかりだな。
流石に俺に、その手の知識は無いから、こっちで建設のしようがない。
いや、将来的には出来るだろうが、今はどう考えても無理だ。
科学研究班にウィードのセキュリティ部門でも作るか? いや、無理だな。未だザーギスが、電気で電球つけるぐらいしかやってねーし。
俺だって、ラジオを分解して、構造をなんとなくしか理解していない。
現代技術の結晶である電子部品を、この世界の技術で今から作るのは土台無理な話だ。
「出来ることはこのぐらいか……、そう言えば他の皆はどうした?」
「普通に休んでますよ、ほら」
横で、俺たちの会話を聞いてたリーアは、指をさす。
その方向では……。
「肉焼け、肉!!」
「そうだそうだ!! もっともっとだよトーリ!! 僕がお腹減ってるんだから!!」
「野菜も食べろモーブ」
「ライヤさんの言う通りだと思うよ? バランスよく食べないと」
何処から取り出したのか、バーベキューセットを取り出して、焼き肉を食ってやがる。
あー、アイテムボックスの代わりにアイテムバックを持ってきてたな。
そういえば、魔力枯渇の影響はないのか?
「不思議ですね。魔力を駆使して作ったアイテムは、そのまま利用できるみたいですね?」
ザーギスも同じ疑問にたどり着いたのか、首を傾げている。
「どうだろうな。まだ魔力が切れていないか、それとも、魔力は切れてても取り出すまでは使えるのか……」
「なるほど、そう言う考えもあるわけですか」
「と言うか、そもそも魔道具はどうやって動き続けてるんだ?」
「それは色々ですね。魔物からでる魔石を電池みたいに使ったりとか、空気中の魔力を勝手に吸収して永続的に使える様にしているとか……」
「そこも色々あるんだったな」
うーん、やっぱりこの魔力が枯渇している新大陸は、いろいろ発見があって面白い。
これも十分な資料になるだろう。この世界に魔力枯渇問題を認識させるための……。
「あー、気が遠くなる……。放り出してぇ……」
「やめてください。魔力で大半を構成されている生物が死ぬ危険性が、現実味を帯びてきました。魔力量で変化した私、魔族も他人事ではないのですから」
「ああ、そう言えばそんな話だったよな。で、そっちの体調とかは?」
「少し息苦しいという感じでしょうか?」
「ふむ……。ステータス変化は?」
「今のところありませんね」
「気のせいって思いたいな……」
「ですね。明日、起きられなかったりとかは勘弁願います」
「永眠ね。ある意味、安楽死じゃね?」
「死にたくないですからね」
「わかってるって。とりあえず、今は飯を食って明日に備えよう」
俺はそう言って、目の前で焼肉を食っている皆に混ざって楽しんだ。
ああ、色々考えることが多そうだ……。
新大陸編は今回の通り、魔力とはなにか?
という、事を話の軸に置きつつ、ユキの意には反して、戦乱の渦中に身を置くことになります!!
頑張れスティーブ!! お前はこれからどんどんこき使われるからな!!