第148掘:ダンジョンにとっての勇者とは?
ダンジョンにとっての勇者とは?
side:ユキ
「でも、旦那様。まだ、ランクスや魔族の事も済んでいませんよ? 更に、今回の騒動で流通の停止を解除。そして、他国へのゲート設置仕事があるのですが、それはどうしましょう?」
ルルアに言われて再度認識する。
あの駄女神もうちょっと時を選べ。やることが多すぎる。
でも、まあ区切りとしてはここなんだよな。流通の停止を解除して、他国のゲート設置などの仕事を始めたら逆に新大陸の問題は後回しになってしまう。
だから、魔王を倒して一息ついているこのタイミングはある意味丁度いい。
ほかの事はだいたい片が付いているし、俺たちが直接やる理由はあまりない。
ルーメルの動向を監視する為にも、俺たちも大人しくして外目に触れることは避けたほうがいい。
ゲート設置もウィードで育てた部下や、3国を介して行えばいいだけだしな。
「そうだな……、俺がどうこう言って決まることじゃないけど、いい加減、外交関連は部下任せでいけるところまで行ってると思う」
「なるほど。確かにゲート設置も部下にやらせればいいだけですし、流通の解除なんて、こっちから一報だしてゲートを再起動するぐらいですからね。いい加減部下に仕事を任せてみるのも成長を促す手段だと?」
「だな。エリスの言う通りだ。皆も仕事をしつつも部下に仕事のやり方は教えているだろう? 丁度いいから長期休暇ということで、次の代表選考の為にやらせてみればどうだ? 1週間とか期限決めてさ」
「いいかもしれませんね。代表職を投票後初めて勤めてもらっても、教えるのに面倒な事が多いですし、立候補者にはあらかじめ代表役を僅かな期間勤めてもらって、それを評価というか投票する際の判断にしてもらうってことですね?」
「ああ」
代表をやってる嫁さんたちは名案とばかりに、各部下へ連絡を取っている。
ルルアのウィード関連の説明をして、次にシェーラが口を開く。
「今後のウィード運営はいいとして、ランクスと魔王残党軍はどうするのでしょうか?」
「ランクスはもうどうでもいい」
「え?」
「報告は受けただろう? タイキ君がランクスの王都を落としたって」
「はい」
「これ以上はタイキ君の問題だ。俺たちが下手に干渉していい話じゃない。ガルツや俺たちへのお礼で色々あるけど、それは受け取る俺たちがいればいいだけの話だしな。いつでも動けるし、戦争関連の心配は殆どない。逃げたっていう馬鹿姫が気になるが、それも俺たちが勝手にやるわけにもいかない」
「確かに……」
「キユとコヴィルも既にウィードへ向けて出発しているし、ウィード自体の守りは更に固くなるだろう」
というわけで、ランクス問題は迎撃と王都をタイキ君と一緒に落とした時点でもうほぼ終わっている。
勇者としての名前をもつタイキ君の要請があれば、外面上手助けしないといけないが、あの内政チートも自力でこなす奴が、この程度の事で手助けをしてくれというわけない。
今まで味方無しのランクスを1人で必死に切り盛りして、俺たちの協力を取り付け、確実にランクスから馬鹿王族を閉め出したのだ。
横やりを入れるのはタイキ君本人からの要請があってからでいいだろう。
というか、面倒事は他所に任せるのがスタンスですし!!
「ということで残るは魔王残党軍だ」
「そうですね。現状は一体どうなっているのでしょうか?」
「実は、まだルーメル侵攻軍に伝令がたどり着いていない」
「それは……まだ魔王城落ちて数日ですし、事前に出ていたとしてもあと一週間前後はかかりますからね」
「だよな、軍でも一か月早馬を使って4分の1にまで縮められるんだからまだマシだよな」
「そこは失敗しましたね。お兄さんが魔王城殴り込みした時、空中伝令に使えそうなワイバーンとかは全て潰したんでしょう?」
「おう、連合軍到着前に間違っても援軍呼ばれると作戦が危なくなるからな。でもさ、連合軍に魔王城攻められる前に、伝令は出したんだよな?」
「はい、デキラのドッペルで直接援軍に戻るようにと確かに」
「エリスがそう言ってるし、まだ時間がかかるって事だろうな。しかし、ルーメルの勇者たちを相手に20万近く蹴散らされて、侵攻軍の殆どは士気が低下しているし、残り10万の軍勢が全員敵対しても、魔王城にいる連合軍約1万と、リリアーナについた魔族約3万と魔物が1万前後。更に魔王城攻めた時の隠密魔物部隊も1200に増強。疲労もピークだろうし、俺たちが手を出すのは最後の手段だろうな」
「と言いますか、普通それなら投降すると思いますけどね」
「だよな。万が一攻めてきても、危ないなら俺たちが出張って1日で鎮圧できるだろうよ」
現状、俺たちが主導でやれば手早く済む問題はあるが、なるべく手を出さない方針なので、傍から見れば、暇が無いわけではない。
「なんだ、色々大変だなーと思っていたけどそうでもないんだね」
「リエル、それは、ちゃんと後任を育てているからです。私やラッツ、ミリーは後任やギルドマスターといった代わりを勤められる人がちゃんといます。リエルはいるんですか?」
「え!? そ、それは……僕副署長だし?」
「はぁ、大丈夫です。リエルは単独でぶらぶらするから、私が部下の育成はやってあります」
「流石トーリ!!」
きゃっきゃっとトーリに飛びつくリエル。
新大陸に行くのは問題なさそうだな。
「しかし、結局勇者様に振り回されたとみるべきですかね?」
「どうでしょう? 問題を持ち込んだのはランクスであり、勇者様が原因というわけではないと思いますが?」
「うーん、僕はよくわからないや」
皆は今回の騒動のまとめ、考察に入っているな。
こういうことは大事だ。
なにが原因で、なぜこのようになったのか?
これをちゃんと調べることで、後々に繋げ防ぐことができる。
「でも、結果としては彼がついてきた事によって魔王、いえ、リリアーナさんを助けることができましたし……。それを考えるとランクスが馬鹿をやってくれたおかげでこの結果を作れたことになりませんか?」
シェーラが鋭い所を突いてくる。
その通り、馬鹿姫がタイキ君を連れて来なければ、リリアーナにウィードのことが伝わることはなかった。
まあ、そんなことを言えば、ガルツが支援を切ったことや、俺たちが交易を持ち出したことも原因と捉えるべきなんだが。
だが、誰が一番の要因かと言うなら勇者タイキ君だろう。
受け身な俺に比べて、自分から行動して道を切り開く。
ランクスを貧困から救い、馬鹿な王族をいさめる為に奔走し、現在の結果をつかみ取った。
勇者と呼ぶにふさわしいと思う。
見習いたくはないけどな。
「ま、この流れを作ったのは間違いなくタイキ君だ。結果多くの人が救われた。十分に勇者という呼び名に相応しいと思うけどな。そして、連合軍は偽物とはいえ、魔王役を演じたあの化け物を倒した。アレス、ローエル、ヒエラ、クラック、その魔王城攻略に参加した兵士たちだって十分に勇者だよ。あの茶番劇がなければ、いまだ魔族とは険悪な関係だったろう」
俺がとりあえず、皆頑張ったからと結論をつけると、皆が突然俺に視線を向け、睨んだり、呆れた顔をしたり、微笑んだりしている。
「……どうした? なにか変なこと言ったか?」
俺がそう言って皆を見てると、リーアが飛び切りの笑顔で言葉を紡ぐ。
「ほら、やっぱりユキさんは勇者様なんですよ」
「納得しました。リーアの言う通り、勇者に誰が一番相応しいと言われるなら……」
「お兄さんしかいませんねぇ。どこからどう見ても」
「そうね。ユキさん以上の勇者様は存在しないと思うわ」
「だよねー。ユキさんがいなければこの状況はなかったんだから」
「……殆どの人は知らない。だけど私たちは知ってる」
「ユキさんは勇者だと思います。だって、これまで沢山の人を助けてきたじゃないですか」
「お兄ちゃんは勇者様なんですか!!」
「兄様は勇者様です!!」
「……あら、私にとっては出会ったその時から勇者様だったわ」
と、元一般人の嫁さん組はそうはしゃぐ。
「ふふふ……。確かに、権力者は勇者にはなれません。ですが、旦那様はその称号を持っていても不思議じゃないと思いますよ?」
「じゃな。妾から見てもユキの手腕は勇者、いやそれを越える結果だと思うぞ? 魔王が太鼓判をおしてやるわ。ユキは勇者で間違いない!!」
「そうです。なにより神の使いで、大陸を救うという大業を担い、この状況ですら途中。勇者という称号はあって当然です!!」
「私もメイドの身からの発言ではありますが、旦那様は勇者という称号を持つに相応しいお方だと思っております」
元権力者組も後押しする。
だが、俺はその言葉を否定する。
「勇者なんて称号はいらん。見ろ、タイキ君や連合軍の代表たちを。どっからどう見ても只の便利屋だろう? 俺は勘弁願うね」
俺がそう言うと、皆がその通りだと言って笑い出した。
勇者ってそんなもんだよな?
さてさて、勇者が巻き起こした一連の騒動は多少事後処理が面倒ですが、これにて終了。
次から新章「新大陸編」が始まります。
そして、ついに嫁さんメンバーから離脱者がでます。
こうご期待!!