第143掘:魔王城攻略 中編
魔王城攻略 中編
side:セラリア
流石に魔王城攻略戦の時に、のんびり自宅でお茶を飲んでるわけにはいかないわ。
ということで、今回は前夜から本陣に加わり、今は敵城下の門の目の前にいる。
さてと、エリスや夫たちからの報告からすると、第1門にいるのは和平派らしいから、リリアーナの内応関連であっさり開いてくれると楽なんだけど。
どうなるのかしら、確か一応裏切りがないように見張っているらしいし、こっちが第1門を攻略すれば火計を使って一緒に焼くなんて小細工もしているみたいだし、どう動くべきかしら。
一応事前に皆で策は色々考えたけれど、エルジュがこの連合軍じゃ大将だから、私の意見を押し通すのは越権であり姉という立場を使った威圧行為よね。
「さて、どうしたのものか」
「そうですな……」
「とりあえず、リリアーナ殿の内応があるから待ってはどうだろう?」
「無理に攻めて被害を出すのも今後を考えると抑えないといけない」
他の連合軍首脳陣も色々意見を言い合っているようだが、積極的に攻めようという意見は無いようだ。
ま、城下門突破で兵力を損耗しても、次に本命の魔王城があるから温存したいわよね。
「ま、私たちで話し合っても意味がない。エルジュに意見を聞いてみよう、連合軍の大将なのだから」
ローエルがそう言うと、視線がエルジュに集まる。
「エルジュ様、皆が意見を求めております」
「え? ああ、オリエルありがとう」
あら、なにかしてたのかしら?
視線が集まっていたことに気が付いてなかったわね。
オリエルに声をかけられるまで、何に集中していたのかしら?
「そうですね。皆さんの言う通り、この先魔王城を攻略するためにも、ここで無駄な犠牲は出来る限り抑えなければいけません」
そのエルジュの言葉に皆頷く。
「と、言いましても、ここで棒立ちしていても敵は出てきませんし、私たちが攻めない限り状況は動かないでしょう。それで、先ほどリリアーナさんが内応に送った人から連絡がありました」
「ほう、それはなんと?」
「現在の城下門防衛の内容です。知っての通り城下門は城壁を2重、扉を2重にして厳重な守りを固めてあります。これはここが強力な魔物の住処である地域で、魔族の方々もしっかり防衛ができるためにしたものと思います。で、ここを攻める際は門を破るのが一番の最短攻略という見解は会議で出た回答です。その城下門の第1門、つまり、外側、私たちが今攻め込もうとしている場所ですが、その場所を魔王に家族を人質に取られた人たちが守っているようです」
「なんだと……卑怯な」
「はい、ですが更に悪い内容が続きます。その第1門を第2門から魔王の直属が弓を番えて監視、そして、万が一の時、裏切り、又は敗れた時は門に仕掛けた火計を発動して私たちごと焼却するつもりだそうです」
「流石魔王といったところか……クズめ」
「だが、相手はそこまで追い詰められていると考えてもいいだろう」
ふむふむ、仕入れた情報を開示する方を選んだか、まあ罠の関連もあるし意識しないと巻き込まれる可能性もあるから、そこら辺は人それぞれよね。
もう私なんか、1門はほっといて、2門に突撃せよって思うんだけど。
「これが今の第1門の防衛状態です。そして、内応の方から私たちにしてほしい行動が届けられました」
「どのような内容ですか?」
「はい、私たちに果敢に攻め込む演技をしてほしいそうです。監視の目は猛攻が始まれば緩くなり、その間に、此方に開門、及び火計の阻止をするそうです」
「ふむー、なるほど。それが成功すればいいですが、開門されて中で待ち伏せされ火計と弓の雨では無駄死にですぞ?」
「リリアーナ殿のご友人を信じられないというのか、クラック殿は?」
「いや、そうではない。魔族を盾にするような奴らだ、策を見破って……あるいは変な行動をすれば一緒に殲滅する腹かもしれんと言ったのだ」
「そういう可能性も確かにあるな」
そうね。そればかりは絶対成功するとは限らないし、警戒をしておく必要はあるわね。
火計なんて準備さえできてれば、誰かが火をつければいいだけだし。
そうやって一同が悩んでいると、夫が一歩前に出て来た。
参謀ですから、余程進行や軍に被害が無い限り、首脳陣の会議には口を出さないのよね。
ローエルの参謀のヒギルも同じように、夫の横に立っている。
あら、この様子コソコソやってたみたいね?
「提案をしてよろしいでしょうか?」
「お義兄様……構いません。何か妙案でも?」
ぶっ!?
危ない。吹き出しかけた。
そうか、エルジュにとっては夫は義理の兄になるんだった。
今までユキさんとしか言ってなかったから、違和感がトンデモなかったわ。
ウィードの中でならともかく、ここは連合軍の只中、下手に私の夫を呼び捨てにはできないわよね。
「はい。ヒギル殿と協議したのですが、今回はリリアーナ様のご友人の提案に乗りつつこちらも別口で仕掛けます」
「どういうことでしょうか?」
「詳しくは私が説明いたします。発言よろしいでしょうか?」
「どうぞヒギル殿」
「では失礼をいたします。今回注目すべき点は、魔王城の魔王を倒すことが目的なことです。つまり、この西門を必ずしも突破する必要はないと言うことです」
「なら、南門にでも移動するのか? それはなんというか無駄な気がするがヒギル?」
「いえ、ローエル将軍違います。今回、何のために門を防衛しているのかが大事なのです」
「なるほど、門は魔王城へ進軍させないための場所、防衛の要ですな」
「はい。クラック殿の言う通りです。つまり、私たちがいる西門は勿論、他の北、南、東の門が落ちても、防衛の意味がなくなるのです」
「つまりだ。他の門にも攻勢を仕掛けるということだな?」
「はい。そうすれば敵は嫌でも分散しなくてはいけませんし、此方が動く素振りを見せただけでも兵を割かなくてはいけません。あと、敵が別門から別働隊を作り我が軍の後方を襲われるのを防ぐためでもあります」
「確かに、西門だけにかかりきりでは、他から別働隊が来てもおかしくはない。奇襲するにはもってこいだ」
「ですので、監視を兼ねて北、南、東門へ500名ずつ派遣し、無理でなければ門の攻略にかかってゆさぶりをかけてください。西門と同じように火計が備えられている可能性は低いですからね。そんな事をすれば最悪、出られなくなりますから」
「だな。更にこの大きさの門を構える場所を火の海に沈めようとすれば、油がいくらあっても足らんな。一か所だけならともかく、他の門まで火計を備えているとは考えにくい」
「この西門攻略を開始するタイミングは、他の門へ行く別働隊が出発してからがいいかと。そうすれば内応もできますし、火計が来るなら門から普通に逃げればよいのです。無論門の場所へ変な小細工をされてはたまりませんから、門防衛の部隊を作り、守りと細工の解除をさせておくのがよいかと。私からの提案は以上です」
そう言って、ヒギルと夫は下がっていった。
なるほどね。本来同時に多方向から攻撃を仕掛けるのは、相手より兵士が上回っていて、余力がある場合にするのが一般的だ。だって戦力を減らせばその分負ける可能性が高くなるから。
でも今回に限っては、西門の敵は和平派を前に押し出して監視している状態。
下手に監視を減らせないし、他の門に軍が移動したら、大慌てで対応しないといけないし、和平派の監視も緩くなる。
相手は大人数を集めて裏切りの監視をしたつもりが自分たちの首を絞めるわけになったってことね。
「私はヒギル殿の作戦を支持します。陽動が成功すれば内応もしやすくなるでしょうし、被害も少なくなります」
エルジュと同様に他の皆も異存はなく、即座に陽動と他の門の突破を兼ねた部隊が組まれ進軍を開始した。
そして、時を合わせて本体も西第1門へと攻撃を開始。
門や関への攻撃は夫の常識外の兵器を使わない限りは、弓で城壁上の敵を牽制しつつ、門に取り付いて、こじ開けるといった方法しかない。
一応、城壁へ梯子もかけてはいるが、どっちもどっちだろう。
演技なのだから、下手に中に押し入るわけにもいかない。
「あなた、内応はどうなるかしら?」
「そうだなぁ。成功はしてほしいが少し周りの警戒が強すぎるな」
「まあ、関で裏切りを出してしまったんですもの。それは当然よね」
「ああ、でも他の門に別働隊をこちらも向けたから、敵さんの数はバラけてるぞ。ほら」
そう言って夫はダンジョンのモニターを見せてくる。
もうここはダンジョンの支配下なので、ウィードと同じくリアルタイムで監視が可能になっている。
まったく、ここまで情報が手に入ると負ける方が難しいわね。
「お、門に人が集まってるな。第2門の方はかなり分散しているな。こりゃそろそろ開くか?」
「陽動が上手くいったみたいね。あとは火計をどう躱すかね」
そうやって、門を見ていると門が内側から開いていく。
城壁上にはこちらを歓迎する白旗を振っている兵士がいる。
「よし、全部隊に通達!! 門の細工、火計への対応を忘れず侵入するぞ!!」
「「「おおーーー!!」」」
守りの堅いローエル率いるガルツ部隊が予定通りに真っ先に侵入して道を切り開く、万が一罠でもガルツなら後退できるだろうという判断でだ。
そして、門内の敵対勢力の排除にロシュール、支援にリテア、ウィード部隊はそのまま第2門攻略へ。
さてさて、第2門はいつまで持つのやら。
エリスもそろそろ動き出す頃だし、どんな風になるのか楽しみね。
そして、門はあっさり解放。
第2門の部隊はいつまでもつのやら。
魔王城はいったいどうなているのか!!