第142掘:魔王城攻略 前編
魔王城攻略 前編
side:エリス 魔王役ドッペル指導員
「デキラ様!! 人間の混成部隊が城下街の門への進軍を開始しました!!」
「ふむ、夜明けを狙ってきたか。夜襲が来るかと思ったが、安全策を取ったな……。よし、予定通り、城門の部隊はそのまま抑えに回れ。その間に別働隊が後ろに回って奴らを叩く」
「はっ、了解しました!!」
そうやって、指揮官の1人が走って出ていきます。
セラリアは予定通りに進軍を開始したみたいですね。
「しかしデキラ様。先日の強力な魔物召喚での失敗は痛かったですな」
「今それを言っても仕方なかろう。召喚実験をしていたのは、デキラ様ではないし、あやつはすでに首を刎ねておる。強力な魔物も手に入っておるし、全体的にはプラスじゃろう」
「……そう、ですな。死人が出たとはいえ、そこまでの被害はないですし、親衛隊が苦戦を強いられるほどの魔物が300体。城の兵士は臨時招集もまとめて3万もいますしな」
「そうじゃろう。 相手は1万程と報告があるし、安泰じゃて、心配することはない」
ふむふむ、私は魔王の振る舞いを考えていて、情報しか聞いていませんでしたが、幹部たちもしっかりこの前の私たちが行った魔王城攻略作戦はちゃんと予定通りに伝わっているようです。
1人の魔族の魔術師が召喚という古代の魔法陣を見つけ、それを使って魔物を召喚させ城内で騒ぎを起こしたことになっています。
古代の召喚陣=DPを使った魔物召喚場所で、それをMPを使って使う=DPを消費するといった具合を曲解させて伝えたそうです。
あ、勿論今回の戦いに参加させる魔物300体は全員弱体化させてますよ。
まあ、そういう工作をして、死んだ変態に成り代わったドッペルのデキラ君は強硬派の魔術師を今回の騒動の原因として処刑して、召喚陣とその研究成果を没収したことになってます。
「しかし、最前線に和平派を固めて前衛に置いて大丈夫だったのだろうか? 関では内乱が起きて開門されたと聞いたが」
「そこも心配はあるまい。だから前衛に纏めておるのよ。裏切りや邪魔になれば後ろから撃てばよい。城下町の門、防壁は二重になっておるのは知っておろう。あれの第1門を和平派に抑えさせて、我ら強硬派は第2門で弓を番えて見張っておればいい。裏切ってもすぐ矢を射かけられるし、門の中には落ちたときに火計ができるように油をまいておる。門や防壁内の和平派が裏切ったり突破されたならまとめて燃やせばいい」
そして、こっちはどう和平派を扱うかで取るべき行動が変わります。
変態を倒した後、牢屋へリリアーナさんが行って、今回の事を説明しました。
1つ、和平派が最前線に立たされるのであれば、利用して寝返ること。
勿論、罠などがあればさっさと無視して連合軍に降ればいいと。
無論後ろから監視されているでしょうが、相手を追い返して追撃すると言って追いかければいいだけですし。
家族が人質にというのもありますが、デキラがこっち側ですから、人質の安全はダンジョンの機能をつかって厳重に守っています。
2つ、和平派を今のうちに処刑してしまえ。
これは、採用されませんでしたが、この場合デキラドッペルが直接処断して、魔物の召喚陣のMPにするという演技をして逃がす予定でした。
「まあ、この王都襲撃をルーメル侵攻軍へ伝令をやっている。向こうから30万もの援軍じゃて、和平派の連中は寝返っても勝ち目はないとみるじゃろう」
「だな、万が一王都を落とされても30万の軍勢で取り返せばいいだけか」
「そうじゃ。デキラ様と我らが無事であるなら、ルーメル侵攻軍と協力すれば造作もないて」
いえ、ここの全員死亡しますけどね。
寧ろやっちゃいますけどね。
「そうだな、心配など要らぬ。私が下等な人間どもなぞ、薙ぎ払ってくれる。私はリリアーナのように甘い思想に浸ってはいない。より確実な力により、全てを支配する」
「流石、デキラ魔王さま!!」
「うむ、強力な魔王がいる我らに敗北はない」
魔王が立ってそう宣言すると、続くように幹部が立ちあがり賞賛の声を上げる。
さて、セラリアの方はどうなっていますかね。
まだ城下の門について布陣している頃でしょうか。
ユキさんの行動の速さからすると、欠伸がでますよね。
「万が一、この城に攻め込まれても、城下の民を盾に逃げればどうにでもなるだろう。奴らは魔族を仲間や友と言って、抵抗しない相手には危害を加えないらしいからな」
「まったく、リリアーナと同じように甘い連中ですな」
「勝てる戦いも勝てませんな。いっそ、わざと部下を投降させ、連合軍の大将や将軍でも討たせますか?」
「もう、戦端は開かれているし、向こうにはリリアーナがいる。下手に戦力を無駄にする必要はないだろう。流石に我らに王座を追われたのだ。簡単に信ずるまい」
「それもそうですな。わざわざ小細工を弄することもないでしょうな。すでに戦局は我らに傾いている」
いえ、もう敗北必至ですよ?
逃げられることもありませんから。そもそも、させませんし。
しかし、面倒ですね。
予定ではここで魔王が乱心したと伝える強硬派の生き残りが必要なのですが、どいつもこいつも私の目に止まらない。
無理やり強硬派に取り込まれている人もいるのだろうに、国民を盾にして逃げるという発言に誰も言い返すことがない。
気概が無さすぎる。
これじゃ、ドッペルで適当に影武者作らせて、デキラみたいに扇動させるべきかしら?
でもドッペルは完全な模倣はできないから、バレる心配もありますしもう少し待つべきでしょうか?
ま、この会議が終わるまでを制限時間としましょう。
ここの幹部がバラけると、目撃者として使えないので、ここでやっちゃうことになっています。
さあさあ、頑張らないと生存者無しの報告をすることになりますよ?
「しかし、親衛隊長殿はなにか意見はないのですかな? いままで一言も喋ってはおりませんが?」
「……民を盾にするなと言っても無駄なのだろう」
「それはその通りです。デキラ様や私たちの生存こそが国が生き残る方法なのです。……ああ、リリアーナから取り立てられたのでしたな、あなたは」
「……今でも私はリリアーナ様が四天王の2人を切り捨ててロシュール、ガルツ、リテアの三つ巴を起こしたとは思えない」
「今は只の犯罪者であるリリアーナですよ? 結果は知っているでしょう? あの女は自分がやった事を否定できなかった。あの女も結局甘いことを言いつつ、自分だけいい所をせしめようとしていただけです」
「……だから、お前たちの言うことを聞いている。が、これだけは言わせてもらう。万が一連合軍が魔王城に迫った場合、私と親衛隊だけは、民の誘導に行かせてもらう。これは約束しましたな?」
「ええ、あなたたち親衛隊が城下に出ればそれだけで引き付け役になるでしょう。寧ろ、何か隠しているのではと思うのでは? その時は無事に民を逃がせるといいですな。私たちはその間に、悠々と逃げさせてもらいましょう。ま、そんな事は万が一にもありえないでしょうが」
そう言って会議が笑いに包まれる。
ふむふむ、最後の最後で見どころがありそうな人が出てきたみたいですね。
では、あの人以外は生贄によろしくお願いします。
「……時に皆。私が処刑して騒動を治めた召喚騒ぎだが、それについて興味深い内容が分かった」
「ほう、それは何ですかな?」
「今の300体よりも、強力な魔物を呼び出し、その魔物の力を我が物と出来る方法があるらしい」
「それは素晴らしいですな!!」
「実は既に呼び出している。この場でお披露目をしたいのだが……」
「構いませんとも!!」
1人がそう言うと、全員とまではいかないものの、殆どが賛成した。
そして、会議場にその魔物が姿を現す。
「「「おおっ……」」」
その姿を見て会議場の全員が息をのみ、驚きの声を上げる。
私がその魔物を見ても正直気持ち悪かった。
魔物と分類していいいのか……アンデット系になるのではとユキさんはいっていました。
それは人をベースとして、改造を施した人造人型兵器というべきでしょうか?
姿は2m後半で、大きい剣と盾を軽々と構えていて、何時でも魔術が撃てるように矢の魔術が展開されている。
しかし、見える部分の素肌は皮が無く、中の筋肉などが丸見えになっている。グロテスクだ。
私がそう思っていると、その魔物が幹部の1人に食いついて、鮮血が広がる。
「こいつは人を喰って強くなるそうだ。ここにいる幹部全員を喰えばどれほどになるだろうな」
デキラドッペルがそう言って、その魔物をけしかけます。
会議場が瞬く間に血に染まる。
その喰いあさる魔物を闘技場の実験で見たユキさんはこう言いました。
『バイ○ハザードか、ラヴォ○かよ』
その言葉の意味は異世界の固有の単語なのでわかりませんでしたが、共通する意味は聞きました。
『進化し続ける化け物』
これ以上に魔王に相応しい魔物はいないでしょう。
さあ、セラリア魔王城内に人がいなくなる前に来てくださいよ。
流石に、これを1人で押しとどめるのは嫌です、グロテスクなので。
さあ、魔王城は阿鼻叫喚の絵図へ!!
Tウィルスしかり、Gウィルスしかり、ラヴォスしかり、怖いよねあの類。
ラヴォスに至っては左ビットが本体とかひどすぎたよな。