第141掘:魔王城攻略 前夜
魔王城攻略 前夜
side:リリアーナ
漸く、これで魔族が他の種族から隔絶された歴史が終わる。
いや、この目の前にある魔王城を攻略さえできれば。
私は目の前に大きな月を背にそびえる魔王城を暫く見つめて、本陣へと戻る。
「リリアーナさんお帰りなさい。……どうでしたか、久々のお城は?」
「なんとも言い難いですね。嬉しいのやら、逃げてきたのが悲しいのやら」
「……そうでしょうな。魔族という仲間が救われるのは嬉しいですが、リリアーナ殿が逃げるのに、散った命も確かにありましょう」
アレス殿の言う通りです。
私は逃げる時に私の腹心とも言える兵士のほとんどがデキラたちによって倒されていきました。
変態ではありましたが、プライベート以外はそれなりに優秀で根回しも十分な変態でした。
ええ、変態です。
「だが、夜が明けてから一戦でこの戦いにけりがつく。私がリリアーナ殿を守るから気にせず最前線で呼びかけてくれ。エルジュという妹を助けてくれたのだ。それぐらいはさせてもらう」
「ローエルお姉様、ありがとうございます」
「気にするな、エルジュ。それだけでもない。リリアーナを筆頭に今まで魔族が必死に耐えてきたのだ。それを助ける最大のチャンスだ、それを見逃しはしない。我らガルツは勇敢に戦う友を決して見捨てはしない」
そう言って、ローエル殿は家宝の盾を構えます。
彼女は防御というのであれば、かなりのものです。
「しかし、今回は内応という策は効かないでしょう。いや、できたとしても既に手は打ってあるでしょう。そして、この本陣は既に敵にバレています。どうやって攻めるかが問題かと」
クラック殿はこの戦いは厳しくなると言っています。
当然ですね。関から逃げて報告したのもいるでしょうし、本来の戦いならば、苦戦は必至でしょうね。
まあ、クラックさんは分かってて言ってるのでしょうが。
「なるべく住人には手を出したくない。リリアーナ殿今一度確認しますが、住人の殆どは魔族や魔族にならなかったご家族の方たちなのですな?」
「はい、へん…魔王に強制的に従わされてるだけです。ですが、奴隷の首輪みたいに命令を強制させるわけではありませんでしたので、住人が敵になるようなことはないと思います。こちらが、危害を加えなければ諸手を上げて歓迎してくれるでしょう。彼等にとっても解放は望むべきことなのです」
「なるほど。しかし、それでは住人から義勇兵が出た場合混乱しますな。そこら辺の対応を考えなくては……」
「確かに、義勇軍はその気持ちは嬉しいが連携できなければ足を引っ張られてしまうな。無理に最前線に出てしまえば、私たちではカバーしきれないかもしれない」
確かに、住人たちが一斉に蜂起して義勇軍が起これば、連合軍は連携が取れなくて大混乱になるだろう。
が、こちらも実は、義勇軍の蜂起を意図的に起こす手はずになっている。
これも、抑えるより、あえて蜂起を私たちの主導で起こすことにより、義勇軍の動きを操作して、連合軍への連携をしやすくして、足を引っ張らせないためだ。
まったく、不確定な要素があるのであれば、その不確定要素を操作してしまおうとする発想はとんでもないです。
あの人の頭の中はどうなっているのでしょうか?
この連合軍のトップが頭を突き合せて出してくる懸念を言い当て、的確な対策を取っている。
確かに考えれば分かること、言われれば当然。
しかし、誰しもその思考にたどり着くわけではない。
あの人の知識はなんというか、この連合軍よりも長い間歴史を積み重ねてきた、数多の賢人たちが出した答えの様です。
確か、ランクスにいるという異世界勇者と同じ出身だとか。
異世界、勇者ではなく只の人であるはずのあの人であの発想、一体異世界とはどのような所なのでしょう。
と、こんなことを考える前に、連合軍の懸念を払拭しなければ。
「多分ですが、義勇軍のことは大丈夫です」
「なぜだ?」
「関攻略の時に仲間の1人を撤退に紛れ込ませました。だから、一緒に帰還して義勇軍へ説明しているはずです。下手に手を出せば迷惑になると言って動きを調整するはずです。その人は私の友人です。人を指揮する才能はありますので……」
「なるほど、リリアーナ殿のいうことだ。関攻略の時の友人たちの奮戦もある。そのご友人を我らは信じる。いいかな皆々様方?」
「問題ありません」
「私も問題ないな」
連合軍首脳陣は私の話を信じてくれ、義勇軍の動きは少数での対応で、殆どは攻略に参加することになりました。
あとは夜明けを待つばかりですか。
私は、作戦準備をすることはないので、他の首脳陣とは違って、のんびりとテントを出て月を眺めていました。
「あら、リリアーナどうしたのかしら?」
そうやって、私の後を追ってきたのか、先ほどから全然口を出さなかったセラリア様がここで初めて口を開きました。
「いえ、もう私のできることがないので、月を眺めていました。そちらの手筈はどうなっているのですか?」
「ん? あの作戦ならもう準備OKよ。誰が魔王役やるか揉めたぐらいだから」
「そ、そうですか……」
なんでこんな軽いのでしょうか。
この一大事の大作戦前に、なぜこのようにいられるのでしょうか。
「私たちが軽すぎて変かしら? でもね、私たちにとってはこの程度で止まってはいられないのよ」
「え?」
「これが終わりじゃないわ。この戦争が終われば、何とかして、他の国と争いなく、和平を結んで、安全な世界を作っていかなくてはいけない」
セラリア様はそう言うと、私を通り過ぎて、同じように月を見上げます。
「その道のりは、こんな簡単に終わるような内容ではないわ。リリアーナも王を勤めていたならわかるでしょう? 平和という均衡がいかに脆く、維持しにくいかを」
「……はい」
私は、平和を強く望み、血の流れない方法を模索して、結局強硬派の台頭を許してしまいました。
ある意味。私が今まで保っていた均衡という平和を崩して、多くの人に流血を強制してしまったのです。
「この争いは私たちにとっては、只の一歩。この程度軽くこなせなくては意味がないわ。そして、リリアーナわかってるのかしら? これから魔族は多くの種族や国とかかわってくる。その時起こりうる問題に対処していくのは、これから魔族を率いるリリアーナよ」
「はい、そうでした」
そう、この戦いが終われば私は連合軍へ助けを求め、関の内応を促し、魔王を討ち倒した流れを作った魔族ということで、魔族を治める王になる予定です。
結局魔王に戻るわけですが、他国と繋がると言うことは今までにないこと、そして予想もつかない問題に対処していくことになる。
確かに、ただ勝てばよいだけの戦争よりも遥かに難しい話です。
「セラリア様にとって只の一歩ですが、それは私にとっても同じだったようですね。この一歩は私の夢のまだ途中」
「そうよ。だから、こんなことで躓くわけにもいかないし、慌てる理由もないわ」
「そうですね。その通りです」
セラリア様の顔を見て、昔なぜ他の種族と和平を結びたかったのかを思い出しました。
ただ、こうやって笑い合えたら、きっと楽しいだろうと、思ったのです。
そうすれば、争いも無くなると思うという子供染みた発想、でも間違っていないかもしれません。
だって、目の前で笑い合っている他の種族と魔族は争っていません。
そして、これを願わくば……いえ、私たちの手で永久に続いていくようにしていかなくてはいけません。
だからこそ、これから起こる茶番は絶対必要。
変態……いや、魔王の偽物がより魔王らしく振舞い。
手あたり次第、主に強硬派を生贄として強力な魔物を呼び、デキラは魔族の一種族での統治など望んでいなかったと。
自分一人が、唯一の強者でありたかったとして、強硬派もデキラから離反させるための最大の工作。
どこで思いついたのか、あの人はお約束と言っていましたが、異世界ではそんな恐ろしい手段を平然とやるのが普通なのでしょうか?
とにかく、その偽物魔王の極悪非道の行動により強硬派は半数近くが生贄になり、半分は戦意を確実に失うでしょう。
そして、それを知ったルーメル侵攻軍も引き返すしかなくなり、魔王城が落ちていると認識すれば、無理やり従軍させられてる和平派はこちらに寝返るだろうし、強硬派の軍は補給もできない。
完璧に詰みです。
「さあ、そろそろ進軍を開始するわよ。夜が明けて来たわ」
セラリア様がみる先には、空が青く染まり、光が漏れてきていました。
気が付けば、セラリア様の周りには連合軍首脳陣が集まっています。
「準備はどうかしら?」
「ウィード部隊問題ありません」
「ロシュール部隊いつでも動けます」
「リテア部隊問題はない」
「ガルツ部隊は私を含めてすでに臨戦態勢だ」
「だそうよ、エルジュ」
そして、本陣からエルジュ様が歩いてきます。
「皆さん、力を貸してください。この一戦は魔王を討つこともありますが、友を救うことも大事なのです。そして、願わくば一人でも多くの人々が生きて帰れますよう。生きて笑いあってください……」
エルジュ様がそこで言葉を切ります。
「これより、魔王城攻略を開始する!! 全軍奮励努力せよ!!」
「「「了解!!」」」
今ここに、魔王城攻略が始まった。
そして明かされる、強硬派戦意喪失と邪魔な奴殺害作戦!!
生贄を使って、まあDPなるから間違いではない。
DPで強力で強面な魔物呼んで魔王に仕立て上げよう大作戦!!
あと、昨日はwinを8.1にアプデしたんだが間違いだったよ。
日本語打てなくなるわ、音でないわ、タブレットのドライバ消えるわ、ファンが異常回転するわ。
なあ、随分アップデート重ねたよな?
腹立つわ。