落とし穴24掘:少しの隙間とゲームという暇つぶし
少しの隙間とゲームという暇つぶし
side:ユキ
うん、のんびりや。
今までかつてないぐらいのんびりしてるわ。
ずずっ
お茶を啜って一息つく。
外は青天。いや、ダンジョン内だけど。
「本当にね。本来私たちは従軍中だから、下手に人前に出るわけにはいかないものね」
「ああ、そうなんだよな」
今日は平日。他の皆は仕事に行っている。
前に言っての通りのアリバイ作りのためだ。
従軍している俺たちはここにいないことになっているので、人前に出るわけにはいかない。
「でも、あと9日もこの調子だと暇すぎるわ。もう布団で寝てましょうよ?」
「そんな肉欲に爛れた日々を送るつもりはない」
「あら、理性なんていらないと思うわよ? あなたの妻ですし、夫の欲望は受け止めるわ」
「まあ嫌ではないが、そんなことすれば、他の皆も相手しないといけなくなるだろう」
「相手すればいいじゃない。朝から昼は私。夜は他で夜通し」
「俺の休む暇ないよな、それ?」
どこまで本気か悩むんだよなセラリアの場合。色々と本気で言ってる節もあるだろうし。
セラリアは笑っている。美人だとは思う、俺にはもったいないぐらいにな。
そういう風に考えていると、セラリアは顔を庭に向けて、お茶を啜る。
「……ごめんね」
流れるように、呟くように、そんな言葉がセラリアから出て消えていく。
「どうした、いきなり?」
セラリアは、少し真剣になっていた。
「……異世界のユキ、いえ。トリノカズヤがこの大陸を救うために連れて来られたことよ」
「……それは、セラリアが謝ることじゃねえよ」
俺もセラリアの顔を見るのをやめて、日本の旅館に似せている風景を眺める。
そう、いくら似せていてもここは日本ではない。だから、どこまでやっても本物ではない。
まあ、偽物と言っても本物に劣るかはまた別の話だが、俺にとってはこの風景は似せた物だ。
これは少しでも、俺が日本を忘れないために作った。
いつかアロウリトという世界の文化に、俺の日本の心が消えないために。
俺の心が日本を完全に表しているわけではないけど、俺にとっての日本という形をとどめておきたかったのが、このウィードだ。
もう、戻れないと言われて連れて来られて、はや9か月ちょっと。
王国は救うし、他所の国にもちょっかい出したし、いまや魔王をどうにかしようとしている。
その心はこの大陸を救うこととセラリアたちには話している。
だが、真実はこの世界を救うことだ。
悲しいことに、いや、この世界の知識では、セラリアたちにとって大陸が唯一の世界であり、海の向こうに更なる大地があることも知らない。
「いえ、カズヤがこの大陸を救う羽目になったのは、この大地に生きる人々が不甲斐ないからでしょう?」
いや、魔力云々だから、調整を間違えたルナか他の神様の責任だろう。
ああ、違うか、適当に覗いてたら好ましい世界があったから維持したくなったと。
ただの趣味みたいなもの、義務もない。
神という生き物にとっては人や世界などそう言うものだ。
俺たちにとっての、周りの風景と一緒だ。
その風景を保持したいと、維持したいと頑張る人は世界中の人からすれば極僅か。
どれだけ、叫んでも、頑張っても、結局残されることは少ない。
俺だって地元であった、風景維持、環境維持のための運動に参加したことはなかった。
だから、この俺を送り込んだ方法は、まだマシなんだろう。
「だから、私はこの大地に生きる生きとし生ける者として、カズヤにいうわ。不甲斐なくてごめんなさい。そして、私の手を取ってくれてありがとう」
「……嫁さんだから気にするなよ」
「カズヤは寂しくない? 家族と会えない、家族はきっと心配してると思うわ」
「……だと、いいな」
俺のことに関する記憶は全て改ざんされて、いなかったことにされているからな。
残酷というか、一種の介錯というか、情けというか。
俺はおかげで戻っても意味が無くなった。
向こうの戸籍も貯金も、家族の記憶からも、消えてしまった。
今更、戻っても俺にとって日本は地獄だろう。
そして、このことをセラリアに言うのはまだ先だ。
きっとセラリアのことだ、大激怒してルナに攻撃を仕掛けるだろう。
良くも悪くも真っ直ぐな嫁さんだしな。
「まあ、俺にはセラリアや他の嫁さんたちがいるからな。寂しくない」
「……ユキが、あなたがそう言うなら……わかったわ」
うーん、少し話題を変えるか。
俺としては、もう気持ちの整理はついてるんだし、セラリアが変に気にすることはない。
「しかし、俺たちはかれこれ10日ぐらい休んでるよな」
「それはね。進軍している連合軍の先回りで4日後に魔王城は陥落。説得と掌握で3日。その後関の説得に3日だから、あとさらに9日もあるわよ。というか、これから残り9日どう過ごすか話しをしてたんじゃないかしら?」
「そりゃ、セラリアがいきなり謝ってきたから。それはもう終わったし、なにするか考えよう」
「んー、そうね。やっぱり家でできることよね?」
「なるべくはそれがいいよな。あまり街に出るのはおすすめしない。俺たちは従軍中ってことになってるしな」
「やっぱり、あなたと蜜月するのが一番だと思うのだけれど?」
「昨日もしただろうに」
「別に飽きないわよ私は」
「俺も飽きてはいないが、減るんだよ、物理的に」
出すからな、それはもう色々と。
あー、それならあれやらせてみるか。
「なあ、ゲームやってみるか?」
「げーむ?」
「ああ、ほれあのテレビを使った遊びだ」
「え? 映った映像でどうやって遊ぶのよ?」
おお、なんかすごいな。
ビデオゲームを考えた奴は天才かもな。
テレビという物しか知らない人は、セラリアみたいな思考になるよな。
それを遊びに使うってのはなかなかできることではないってことか。
「なにか、映画でも見るの?」
「いや、実際に体感? とは違うが実体験みたいな遊びができるんだよ」
「はあ?」
セラリアは首を傾げてる。
まあ想像の範囲外するぎるよな。
ゲームはこっちに来てから殆どやってないし、セラリアたちに見せても大混乱するだけだから、放っておいたのが正しいけど、テレビを知った今なら問題ないだろう。
日本語もスキルで理解できるし、いけるな。
「ちょっと待ってろ」
俺はそう言ってダンジョン最奥の俺の自室、最近使っていないが、そこに置いてある俺の相棒とも言うべき、ゲームを取り出してきた。
「なにそれ? DVD見る機械に似てるけど?」
「あーあながち間違いでもないが、ゲーム機の本体だこれが」
「ゲーム機? 本体?どういうこと?」
「接続するからちょっと待っててくれ」
えーと、ここがこうで、コンセントはっと。
そうやってソフトも入れておく。
流石に、現代戦争やそれを越えた文明系のゲームをさせる気はない。
映像だって、そういうのは避けている。
あの発想は今のセラリアたちには手に余る。
だから必然的に、前時代的なRPG系になる。
スイッチを入れて、画面を切り替えて、ゲームを起動する。
すると、画面にはルナに連れ去られる時にやっていた、あのダークファンタジーRPGのタイトルがでる。
これならば問題あるまい。操作が複雑だが、ファミコンをやらせるのもアレだしな。画像的に。
俺たちは嬉しいが、セラリアにとっは見辛いだけだろう。いや、楽しいけどね。
「なに……これ」
セラリアは目の前に広がるダークな世界の映像に魅入られている。
「ふっふっふ。これがセラリアが冒険する世界だ」
「え、この中に入るの!?」
「あ、いや。ほれ、このコントローラもって」
「コントローラ?」
そうやって首を傾げつつも俺が渡したコントローラを握る。
「こんな風にな」
そうやって見本を見せるとしっかりに握る。
ふむ、これは俺が見本でゲームやるより、操作方法を教えながらやるのがいいかな?
実感できるだろうし。
「よし、画面にスタートとかロードとかあるだろう?」
「ええ」
「それで、スタートを……」
正直に言おう。
やっちまった。
「このぉ!!」
現在16時30分。
そろそろ晩御飯の準備をしないといけないのだが、あのゲームを教えてから、実に8時間連続でプレイ中である。
最初は知らなかったのでおぼつかなかったが、今では普通に移動しながらアイテムを使って装備品まで変えられるような熟練者になっている。
このダークファンタジーはセラリアにはドツボだったのだろう。
操作方法を軽く覚えたあと、このゲームの目的をザックリと説明した。
王女様であったセラリアにはこのソロが基本で冒険ができるゲームは琴線に触れたらしく、キャラクターをなぜか男で作って、ガンガンMAPを攻略している。
「あー、囲まれた!? 状況把握が甘かった!?」
いくらセラリアが熟練者の様な操作ができても、このゲームは攻略できない。
死んで覚えるデストラップが売りのゲームなのだ。
ま、しっかり確認してやればそうそう死にもしないのだがな。ボス以外ね。
「今度こそは、突破するわ!!」
そうやってスタート地点に戻されたがめげずにまた進み始める。
「あの、セラリア?」
「なに? いま忙しいんだけど!!」
「そろそろ、晩御飯作りに行くけど、どうする?」
「あー、私はゲームしてるわ。ご飯できたら呼んで頂戴」
「おう」
そして、晩御飯にはセラリアは来た。
だが、全速力で飯を食って、そのまま部屋に戻っていった。
「……お兄さん。なにか進軍で問題でもおこりましたか? セラリアがああまでお兄さんのご飯を素早く食べて、御代わりなしとか……」
「……おかしい」
「さ、さあ、なんだろうな?」
言えるか。
ゲームにはまってるだけなんて!!
この後セラリアは3日徹夜のあと1日熟睡した。
ゲームの制限時間つけるべきやな。
って、俺は親か!!
……ゲーム恐ろしいな。
少しユキの気持ちと、神の視点と、セラリアの気持ちがでる回でした。
正直、本編にしようか悩みましたが、後半も合わせて、落とし穴、お遊び回にしました。
このゲームの結果、セラリアの戦闘技能や指揮技能が向上したとかなんとか。
明日は休むかもしれません。
その時はごめんなさい。