表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/2171

第138掘:変態に明日は無し

変態に明日は無し




side:リーア



今日はついに魔王城へ乗り込みます。

私にとっては初めての、命がけの戦場です。

レベルだけは153と高いですが、それはユキさんのダンジョンを使い安全に、大事にされて上げて来ただけで、経験が全く足りていません。村にいた時、ゴブリン退治を手伝っておくべきでした。

それが、どんな些細なことでも、経験になっていたのですから。ううー、こんなことではユキさんにご迷惑をおかけしてしまいます。


「おはよ。ん、リーア、眠れなかったか?」


私が考え事をしていると、ユキさんが心配そうにのぞき込んでいます。

今日は魔王城攻略ですので、皆仕事はお休みです。

なので、全員旅館で思い思いに体調や心を整えています。

私も、まあユキさんの言う通り眠れなかったのは少しありますが、ちょっと違う気がします。


「いえ、眠れなかったのも少しはありますけど、ナールジアさんに強力な武具をいただいて、ユキさんにも結婚指輪をもらって、ステータスは5倍になったんですが……それでも、怖いんです。足を引っ張らないかって」


私は素直に今の気持ちを伝えます。


「ん、それはダメだな」

「ご、ごめんなさい」


あ、ユキさんの期待に応えられなかった。

失望される。私勇者なのに、情けないこと言ったから当然ですね……。

しのう……。


「そう、ダメだぞ。足を引っ張るのは当たり前だ。怖がるべきは死に別れないかって所だ」

「え?」

「足を引っ張るのは新人なんだから当然だ。今リーアが怖がるべきは、自分が死ぬことと、俺やほかの仲間が死ぬことだ。いいのか? リーアが死んだら俺泣くぞ? 後追いするかもしれないぞ?」

「そ、そんなことやめてくだい!!」

「嫌だろう? そして怖いだろう、もう二度と話しかけても答えてくれないんだ」

「……はい。経験があります」

「だから、ほれっ」

「きゃっ!?」


ユキさんがいきなり抱き付いて、そのまま私を抱えて膝の上に載せてくれます。


「これで、足を引っ張る心配も、死に別れも怖くない。大丈夫、皆いるから。皆と一緒に帰れるから」

「はい、そうですね」


この温もりと声が、私の心配を消していきます。


「ああ、そうだ腹部の攻撃は絶対防げよ」

「なんでですか?」

「子供ができてるかもしれないからな」

「っつ!? 絶対防ぎます!!」


ユキさんとの子供。

それを害する者がいるなら、全て消し飛ばします!!

魔王、あなたが世の人々に害をなすのなら、容赦はしません。



そしてついに作戦が開始されようとしています。

出発場所はウィードの軍事施設から。万が一私たちが倒れて敵がなだれ込んできても、ここで食い止めるのが目的です。

その間に、ラビリスたちが転移ゲートを解除するという手筈になっています。


「さて、現在時刻は22時33分。23時に作戦を開始する。皆準備はいいか?」


全員が頷きます。


「前も説明したと思うが、この時間が一番敵が寝静まっている頃だ」

「当然ね、ウィードみたいに電気が通っていないのだから。蝋燭や魔法の明かりでこんな時間まで起きてる意味がないわ。余程の事が無い限りね」


セラリアがそう言います。

その通りだと思います。だって、ウィードがおかしいんですよ?

夜でも爛々と光が簡単に灯っていて、蝋燭や魔力の明かりなどとは比べものにならない明るさです。

外では日が落ちれば仕事にならないので、そのまま晩御飯を食べて寝てしまうのが普通です。

用事があれば、蝋燭などを使って明かりを確保して起きていますが、蝋燭代だってただではないのです。

魔力についても、今の私レベルの魔力量なら何も問題になりませんが、村人のレベル7前後では1時間も魔力が持たず消えます。

だから、普通の人たちなら、いえ、国であっても、必要最低限で過ごすのです。

なので、ユキさんが今から奇襲をするには打ってつけだと思います。


「じゃ、現在の状況を説明する。ルーメルへ攻勢中の魔王軍は未だ、勇者たちに足止めを喰らっている。損害は13万と言ったところだが、殆どが魔物なせいか、全く引く気配はない。まあ、最初に10万の損失を出してから、無理な進軍はしていないが」


なるほど、いまだ魔王軍の主力は動いていないと。

これなら、急ぐ必要もないわけですね。


「次に、連合の進軍状況だが、現在思いのほか、隠ぺいした魔王城へのルートに足を取られている。関につく予定が2・3日遅れそうだ」


ふむふむ、あの精密な地図でもどれだけ道が荒れているかまでは分かりませんでしたからね。


「これに合わせて今日の作戦を遅らせることはない。予定通り、今日魔王城攻略をする。関の工作準備期間が長ければ長いほどやりやすいからな」


そうですね。リリアーナさんがじっくり内応にかける時間ができるのですから。


「あと、別件だけど。ランクス王家はタイキ君率いる、解放軍とガルツの連合軍により、王都をすでに追われていて、今現在は残党に追撃をかけている。タイキ君支援部隊のキユからの報告だと、勝って凱旋してきたと頭お花畑で迎え入れたらしい。その後、晩餐会にて謀反を宣言、強襲で王都を占拠。国王、王妃は捕縛。あの馬鹿姫は逃亡したそうだ。残党数は500ほど、殆ど抵抗は出来ないだろう」

「……馬鹿ですか?」

「勇者様の名前を欲望のままに使ってたんだ。こんなもんだろう。ガルツのティークも自分たちに頭を下げに来たと思っていたらしいぞ」

「「「うわぁ」」」


駄目な国ここに極まれりですね。


「といっても、これもタイキ君が今まで根回しをがんばった結果だ。いきなりの謀反じゃどうにもならんからな。タイキ君が一番心配していた世話になった人たちは、晩餐会の前に事前に逃がして、王都の人にも迷惑が掛からないようにあっさり占領したようだよ」


凄いです。

流石、ユキさんと同じ異世界の出身というべきでしょう。


「最後に、ウィードのことは残ってくれる皆がやってくれる。万全とは言いがたいが、今できうる限り力を尽くしている。結果として、状況は俺たちへ傾いている。皆の頑張りを無駄にしないように今日魔王城を落とす」

「「「はい」」」


その話が終わると同時に、全員のコールからアラームが鳴り響く。

22時45分、行動開始。


「よし、じゃ行ってくるよ。ラビリス、アスリン、フィーリア、シェーラ、エリス、ラッツ、リエル、ナールジアさん頼んだ」

「「「がんばってー!!」」」


その声援を受けて、私たちは転移ゲートへ足を踏み入れ、移動する。



「予定通りに動く、現在の場所は魔王城の真下に作ったダンジョン通路だ。コールでMAPを確認してくれ」


ユキさんに言われた通り、全員がMAPを開く。


「何度も言ったが赤い点が敵の位置だ。しかし、これは城内すべての生命体をマーキングしているだけだから、侍女なども含まれている。逃げるならともかく、立ち止まったり、こっちに向かってくるなら斬り捨てろ。そうしないと危ない。腰が抜けているなら、渡したスタンガンで気絶させろ。ザーギス、レーイアも気絶したから大丈夫だろう」


確認作業なので皆即座に頷いて次を促します。


「魔物で大方大勢を決めるが、魔王の位置はここだ。俺たちは、宝物庫に転移陣を敷いて一気に飛ぶ。まさか宝物庫が俺たちの出入り口になっているとは思わないだろうしな。魔物騒ぎで、宝物庫の門番は手薄になる。そこを制圧して、俺たちは魔王の首を取りに行く。そして、セラリア、デリーユ、カヤは宝物庫の防衛を頼む。内側から開かないようにすることも忘れるなよ」

「任せなさい」

「うむ」

「……大丈夫」


ユキさんの作戦は素晴らしいです。

宝物庫が私たちの出入り口になるとは敵は露とも思っていないでしょう。


「最後に、一番懸念される魔王の動向を見てみるか。ダンジョン内、城の寝室にいるので見れるのがありがたいな」


ユキさんがそう言って魔王の部屋を映す。

そこには……。


『すーはー、すーはー。うむ、もうすぐリリアーナの奴は私の元に跪き、股を開き、女の喜びを知るのだろうな。うはははは!! っと、すーはー、すーはー』



変態がいました。



アレは魔王ではありません。

いえ女性にとって魔王よりも忌むべき存在。台所のGと同等かそれ以下。


「あー、その、魔王デキラは起きているみたいだ。作戦は槍でいく。いいな?」

「「「……了解」」」


ユキさん以外は女性なので、画面に映る変態が汚物に思えるほど気持ち悪くてたまりません。

と、集中しないと。

今回大まかに魔王城攻略には3種類の案があります。


第1案:魔王が寝ているなら、魔物に一旦全部任せる。その後魔王が不意討ちで倒せないなら、私たちがでる作戦。通称剣作戦。

第2案:魔王が起きている場合、魔物が城内を闊歩すれば即座に気が付かれる可能性があるので、私たちは同時に魔王の首を取る作戦。通称槍作戦。

第3案:魔王が此方に気が付いていて、迎え討つ準備をしている場合は、魔物を一気にけしかけて魔物に意識が向いている間に、魔王を討ちとる作戦。通称弓作戦。


あ、作戦内容と呼称に違いがありすぎると思うのですが、これはわざとだそうです。

剣と言われれば真正面、槍と言えば距離を生かした戦い、弓と言えば遠距離からの不意討ち。

と思いがちですが、私たちにとってはこの呼称は番号なだけですので、敵に聞かれても、どんな作戦かばれないようになっているのです。


「2300。時間だ作戦を開始する」

「「「はい」」」


そして、私たちは宝物庫に転移します。



宝物庫についた私たちはすぐにその場で散開して、辺りを警戒します。

事前情報通り、宝物庫内部には変な仕掛けは無いようです。

鍵が強力なので宝物が傷つくような仕掛けをしていないのではとユキさんは言っていました。

入口は1つですし、警報がなる魔術の仕掛けも扉にあるだけで中にはありません。

ユキさんは、監視カメラって大事だよなーっていってました。

何でしょうね、監視カメラって?


私たちが監視している間に、ユキさんは魔物の配置、宝物庫の開錠……というかダンジョンマスターの権限で無効化。

更に内側から鍵をかけられるようかんぬきを設置。


そして、予定通り2305に扉の前からドサッと人が倒れる音がする。

ユキさんが先頭で扉を開くと、そこには今回魔王城攻略の要のシャドウスネークが此方を見てコクッと頷いて、そのまま闇が続く廊下へ消えていきました。


シャドウスネークは闇での活動を好む蛇モンスターらしいです。

私自身はそんな魔物は聞いたことがありません。

冒険者のモーブさんたちも知らないといいます。

それもそのはず、このシャドウスネークはレベルが130という伝説級の魔物なのです。

このシャドウスネークは闘技場で行われている魔物の観察実験で発見された魔物で、行動時ほぼ音がしない、魔力も抑える事が出来、闇目が効く、といった完全に暗殺者の様な魔物です。

全長はそこまで大きいものではなく、4mほどですが、レベル130に見合った敏捷性、攻撃力、蛇特有の毒といった、嫌らしいものになっています。

体自体も【擬態】とユキさんが言った、風景に合わせて体の色を変えられるという能力を持つ、本当に怖い魔物です。

本来の色は意外な事に白だったりします。


私たちもシャドウスネークたちに任せてばかりにはいきません。

リリアーナさんの先導の元、魔王の部屋に走ります。

道すがら、殺害、及び捕縛役の、アンデットのデュラハン・アサシンとヒーラーのワイト・ノワールが此方へ敬礼しています。

足元には血だまりか、ヒモでグルグル巻きにされた兵士が転がっていました。


デュラハン・アサシン

デュラハンの上位種らしく、私はよくわかりませんが、デュラハン自体が高位の魔物で、このデュラハン・アサシンは名のごとく暗殺を得意としたデュラハンみたいです。

レベルは120とシャドウスネークよりは低く、防御力はデュラハンより劣りますが、素早さが高く、なぜか鉄鎧を着込んでいるのに、動いても音が殆どしません。


ワイト・ノワール

こっちもアンデットですが、高位の魔術師の骸が、魔物化した物と言われています。

モーブさんたちは一度討伐したことがあるようですが、街が落ちかけたそうです。

ワイトは魔術も勿論使えますが、魔物も使役することができ、魔物の大氾濫の際指揮をとっているのがワイト系だといわれ、モーブさんたちが戦ったのは一番ランクの低いワイトだったそうです。

このノワールは支援魔法に特化しており、アンデットには回復魔法が効きませんが、回復魔法も使う事ができ、指揮に回られると非常に厄介だそうです。

冒険者ギルドのロックさんが言うには、110年ほど前にワイト・ノワールの出現が確認され、小国が2国落ちて、連合軍でようやくこれを撃破したそうです。

因みにレベルは一番低い90。

あとユキさんは何でフランス語やねんって言ってました、何でしょうねフランス語って?



このシャドウスネーク、デュラハン・アサシン、ワイト・ノワールの3匹? 3人? を1チームとして、城内の敵の無力化を試みています。

その数、300。つまり100チームがこの城で敵対勢力の無力化及び殺害をしています。



そして、数度角を曲がり、リリアーナさんがある扉の前で止まります。

皆も動きを止め、リリアーナさんが頷くのを確認して、ここが魔王の部屋だと言うことがわかりました。

一瞬ユキさんを皆が見ます、そしてユキさんが頷いた瞬間、豪華な扉を蹴破り、魔王をさが……し……。


「はっはー!! 被ってやったぞ!! リリアーナの下着を!! 残りはこうだ!!」


そう言って、変態はリリアーナさんの物と思われる下着を口に入れてしまいました。


「死ね!!」


リリアーナさんが飛び出して、顔面を殴りつけ、ベッドに沈めます。


「ぐはっ!? なっ、リリアーナか!! くくく、どうやったか知らないが、さっきのでとどめを刺せなかったのはお前のミスだな」


そう言って、下着を被った変態がベットの上で立ち上がり、こういいました。


「ほう、後ろの者が協力者か、男は殺すとして、女どもは一度味わってやろ……」


変態の言葉は最後まで続きませんでした。

理由は簡単です。


ベチャ


魔王の室内に肉片が飛び散ります。


「変態は片付きました。リリアーナさんこの部屋どうします?」

「燃やしましょう。デキラ、いえ変態に触れられた服など要りません」


私は剣の砲身を解除しつつ、リリアーナさんにこの部屋をどうするべきが聞きました。

魔王? いえ、変態はもう肉片になりましたよ。


「あ、えーと」

「どうかしましたかユキさん?」


ユキさんが作戦行動中なのに珍しく動揺しています。


「いや、魔王の話は聞かないのね?」

「え、変態しかいませんでしたよ?」

「はい、変態しかいませんでした。聖女だった私が保証します。リーアの行動はなにも間違ってはおりません」

「刀が汚れなくてよかったです」

「さ、ユキさん炎の魔術できれいさっぱり焼いてください。リリアーナさんのためにも」

「あ、はい。わかりました」


ミリーさんの一声で我に返ったのか、部屋の焼却処分を始めます。



さて、あとは地下に捕まっている和平派を救いだして、茶番劇の準備をしないといけませんね。



でも、私は殆ど手伝えないですし、剣を井戸で洗いたいと思いました。

だって、変態の息の根を止めたのはこの剣ですから、ちゃんと綺麗にしてやらないと可哀相でしょう?

魔王が死んだなぜだ!!


死因:変態 直接的には下着を食べたこと。間接的にはリーアのガンソードが原因。


上記の報告書は異論は認められず、今回の作戦内容の一環として保管されることになる。



あと、大氾濫の事をちらっと話しました。

モーブたちも知恵のあるワイトが率いた大氾濫だったわけです。

こうやって、色々と伏線を作っていくぜいw

魔王はどうでもいいや、変態だし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔王が肉片になってる点が疑問ですね、まだ生きてる? 魔族は死んだら死体も残らず魔石になるはずでは? [一言] 楽しく読ませてもらってます
[一言] juっ塾で読んでるから笑いこらえるのがキツすぎるwwwwwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ