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落とし穴23掘:メイドさん

メイドさん




side:ユキ



連合軍進軍から3日目。

ラッツたち先回り班が魔王城につくまであと1日。

連合軍は問題なく進軍中。そろそろ、ロシュールから魔王城へ行ける隠しルートに差し掛かる所だ。

これからは魔物の生息区域のため進軍速度が多少落ちるだろうが、スラきちさんがすでに露払いをしているので、余程のことが無い限り問題ない。

リリアーナとエルジュの2人は律儀に進軍に行っている。

まあ、毎日隠しゲートでこっちに戻って寝ているが。暗殺されないとも限らないしな。

あ、因みに俺は進軍はドッペルに任せてる。ただ歩くだけってつまらんし。


「はあ、今日暇だわ」


そう、軍部での仕事はスティーブに押し付けた。

セラリアたちは普通に仕事で忙しい。

リーアも明後日が魔王城殴り込みなので、デリーユと最後の訓練をしている。

明日は、魔王城殴り込みメンバーは全員休みを取って休憩となっている。

だから、今日は皆詰め込んで仕事をしているわけだ。

いや、俺が一緒に遊ぼう。って言えば即座について来てくれるだろうが、邪魔する気はない。


「完全にフリーってのは珍しいよな」


朝食が終わり、皿を洗って、皆を送り出して、現在お茶をのんびりしばいている。

縁側に座って朝日が入り込み、少し暖かくて心地がいい。

学校に行こうにも、一応俺は従軍してることになってる身だからな。下手に外に出られない。

人混みに紛れてのんびりするならともかく、仕事として学校に行くのは不味い。

軍部は基本魔物と知ってる人間だけなので問題ない。

が、軍部はスティーブの成長を促す為、行くわけにはいかない。


「10時過ぎたぐらいか……」


洗濯もやろうと思うのだが、キルエが旦那様は休みの日ぐらいゆっくりしてくださいと言われて干すことすらかなわなかった。

まあ、皆好き好きの下着があるから、俺に触られるのはアレだろうしな。

キルエでも誘ってどこか行こうかね?

いつも旅館の維持をしてくれてるし、今や、掃除や洗濯、料理までキルエが主体でやっている。

忙しいだろうな、と思ったが、本人曰く、台所、洗濯機、など優れた道具があるので全然平気です。とのこと。

この大陸の文明を考えればそうだよなー。

洗濯は手洗い。台所は薪を使って火を熾すと、まあめんどくさいこと。

掃除に至っては、この旅館は自動清浄で細かい塵は自動で片付け、ゴミ関連は大型ゴミ箱に入れておけば勝手に消える。

子供たちとか、生き物が誤って入ったら恐ろしいので、生物は消えないようになっている。

それが、あだになって、Gが開けた時出てきて、ゴミを捨てに行ったトーリが半壊事故を起こしたりしたっけ?


「よし、キルエでも誘うか」


そうやって、お茶を台所へ持っていって、キルエを探す。

あれ、部屋にいないし、宴会場にもいないな。

洗濯物はすでに終わってる……っていた。


「ふっ、はっ!!」


キルエは洗濯が終わってナイフを振り、訓練をしている。

シェーラのメイドという立場上、クアルみたいに長物を常に持ち歩くわけにはいかないので、ナイフという、隠し武器にできる物を主要武器としている。

他の妻たちと同様レベリングで高レベルの200台のはずだ。それでも彼女が訓練する表情は真剣だ。


「キルエ」

「あっ、ユキ様」


俺が声をかけると即座に訓練をやめてこちらに向き直る。


「もしかして、いつも仕事が終わると訓練してる?」

「はい、シェーラ様のお手伝いは御昼過ぎですし、いつも洗濯が終わり次第、ここで訓練をさせていただいております」

「趣味とかはちゃんとやってる?」

「趣味? 道楽や遊びは割く時間がありませんし、そんな時間があれば己を鍛えることに使いたいです。でも、あえて言うのであれば読書です。寝る前や空いた時間で学びたいことを学習します」

「本ね。なるほど、アスリンやフィーリアにたまにお話をしているのは本から?」

「はい、流石に創作で物語が作れるほど学がありませんので」

「ふむふむ、それなら……っと、キルエ、今日は俺と一緒にいてくれないか?」


いけない、いけない。

キルエを誘ってからでも話は出来る。ここで時間を使うのは得策じゃないだろう。


「え、あ、でもシェーラ様が……」

「シェーラ、キルエを今日1日借りていいかな?」

『もちろんです。キルエもユキさんの妻なのですから。存分に可愛がってあげてください』

「よし、と言うことだ。行こう、キルエ」


そう言って、キルエの手を取ってまずは昼ご飯には早いから、少し散歩するか。

目指すは、作った住民区の公園。

今日は平日なだけあってか、人が少ない。

建国してからまだ半月と言ったところ、住人も難民からではあるが、働ける者が中心だし、今この公園にいるのは少しの老人と、今日が休みでのんびりしている人たちだ。


「でだ。家を出る前の話の続きだけど、日本語覚えたらもっと本読めるぞ?」

「にほんご? ユキ様の国の言葉ですか?」

「ああ、軽く見たことがあると思うが、俺の国には書物、本が出回っていてね。こっちと比べて色々な本が沢山ある」

「なるほど、でもその日本語の習得に時間がかかりそうですが……」

「普通に教えるならね、でも俺はDPでズルができるんだよ。他の嫁さんたちもDPでスキルを取って日本語を習得していて、もうそれは色々な本を読み漁っているよ」

「いいのでしょうか? 私がユキ様の母国語を覚えてしまっても?」

「構わないよ。俺の国を知ってほしいって気持ちもあるし、シェーラももう覚えている。キルエだけタイミングが無くて、遅れてごめんな」

「いえ、感謝こそすれ、怒る理由などございません」


承諾されたので、ベンチに座ってDPを使ってキルエに日本語スキルを取得させる。


「っつ!? な、なんという、複雑な言語なのですね。ひらがな、カタカナ、漢字、和製英語」

「あー、キルエも痛かったか、ごめん。やっぱり情報量の多さで脳に負荷がかかるみたいだな」

「いえ、しかしこの程度で日本語を習得できるとは、ダンジョンマスターの力は素晴らしいのですね」

「とりあえず、これ読めるか試してみてくれ」


そう言って、家から持ち出してきたライトノベルを渡す。


「これは?」

「日本の本で、俺の様に異世界に行った人の話かな?」

「まあ、戻ってこられた方もいたのですね」

「……たぶんね」

「?」


空想の物語っていっても、ここが俺たちにとっての空想の世界だしな。

……なんと説明すればいいのやら。


「その人の冒険記みたいなものかな? 俺が見本にしてる話の1つだ」

「はぁ、素晴らしいことですね。記録を残し、今後に備える」


キルエが感心して受け取った本を輝かんばかりに見ている。

うん、どうしたもんか。


「まあ、とにかく目を通してみてくれ、まずは読めるか確認したいから」

「あ、はい」


キルエは緊張したように本をめくる。

そして、文字を目で追う。


「読める。読めます!!」

「そうか、それならその本を読んでみてくれ。続刊があるから気に入ったなら続きを読むといい。気に入らなければ読む必要はない。他にも色々あるしね」

「なんというか、贅沢な話ですね。でも、ありがとうございます」

「と、そろそろお腹が空いてきた。外で食べよう」


キルエを連れて、顔を出しても問題のない実験堂へと足を運ぶ。



「えーと、私だけよろしいのでしょうか?」

「いいんだよ。基本皆お昼はバラバラだろう?」

「いえ、あの、ユキ様をこう独り占めにしてよいものかと」

「大丈夫大丈夫。だから楽しもう」

「はい!! では、注文は何にするのですか?」

「そうだなー。メニューの内容は俺が殆ど考案して食べてるしな。キルエはどれが食べてみたい?」


そうやって、横のキルエに見えるようにメニューを差しだす。

すると、肩をよせて2人でメニューをのぞき込むような形になる。


「そうですねー。ん? これってパスタ系ですね、教えたんですか?」

「ああ、家で好評だったし、実験堂にレシピ渡して、上手くいけばパスタ専門店もいけるかなって」

「専門店ですか。確かに、この多さは専門店で問題ないですね。っと、ではこの和風ソースキノコ和えパスタを、この前食べられませんでしたので」

「ふむふむ、じゃシーザーサラダと俺もサーモンとイクラ和えパスタかな。すいませーん、注文頼みます」

「へい、大将」

「これと、これと、あとサラダと、これ食後にな」

「分かりやした、しばらくお待ちください」


そうやって、店員が引っ込む。


「食後ですか?」

「ああ、提案してた奴がメニューに載ってから頼んでみた。楽しみにしてくれ」

「はい」



頼んだパスタ料理を堪能し、ついに食後に頼んだものが届く。


「こ、これは!?」


キルエは目の前の物体に驚き、震えている。

まあ、女性ならしゃーないよな。


「パフェという」

「ぱふぇ!?」

「語源は完全なだっけ? つまり、お菓子の完成形? というより、いろんなお菓子を纏めてみたぜ!! ってデザートだ」

「も、もしや、この中央にある白い塊は……」

「ああ、キルエの好きなバニラアイスだ」

「!!」


驚愕に目が揺れている。


「これは通称イチゴパフェといって、これもキルエが好きなイチゴをメインにパフェを作っている」

「イチゴをメインに!? 何という贅沢な!!」

「見ての通り、バニラアイスの上にイチゴを二つに切って添えて、さらに周りを4等分したイチゴで囲んでいる。そして、ソースにこれまたイチゴを使い、バニラをベースにイチゴの感覚を味わえるようになっている」

「あ、あ、あ」

「まあ、それだけだと見栄えが今一つだから、長物の焼き菓子を突き刺して、それにアイスを乗せて食べるといった楽しみ方もできる」

「げ、芸術品です。これは何処からどう見ても食の芸術です!!」


あれー、嬉しくて食べると思ったけど、手を出さない。

それどころか、芸術っていって見惚れている。

不味い、このままじゃ溶けるし……。


「さて、そしてこのパフェ、更に楽しみ方がある」

「ええ!?」

「それは特定の条件がいる」

「条件?」


キルエが首を傾げている間に無造作にスプーンを掴んで、パフェをえぐる。

勿論、アイスとイチゴは同時に。


「ああっ、芸術が!!」

「それはな、大事な相手がいることだ。ほれ、あーんしてくれ」

「え、しかし、あのユキ様に……」

「グダグダいうなら、パフェを捨てるぞ、良いのか? 芸術品を無下にあつかって?」

「ううっ、あーん」


キルエが口を開けるので、スプーンを放り込む。

そしてキルエが口を閉じて、ゆっくり口を動かす。


「お、おいひいです。ぐすっ」

「へ? 泣いた!? ごめん、なにか痛かったか? 配慮が足らなかったか?」

「違います。嬉しいだけです。とても嬉しいんです」


キルエは涙を流しながら、嬉しそうに笑っている。


「そうか。なら残りもしっかり食べような」

「はい」


それから瞬く間に、パフェはキルエのお腹へ消えていった。

食後は実験堂でお茶を飲みながら、いろんな話に花を咲かせ、気が付けば、時間ももうすぐ皆が帰ってくる時間だ。


「さて、そろそろ皆が帰ってくるし、家に戻って晩御飯の準備でもしようか」

「はい。今日はありがとうごさいました」

「毎週はきついかもしれないけど、月に2・3回はこんなことしような。きっと楽しいから」


俺の言葉が意外だったのか、目を丸くしていたが、すぐにいい笑顔になって口を開いた。


「喜んで、お供いたします!!」


うん、この笑顔だけで、キルエと過ごした意味はあったな。

そう思って先に家へと歩き出し、キルエに背を向ける。


「…………す」


キルエが何かつぶやいた、意識を周りに向けていて聞き取れなかった。


「何か言ったか?」

「いえ、独り言ですよ」

「そうか」



side:キルエ



シェーラ様の旦那様。

そして、こんなメイドの私を奥様たちと同様に扱ってくれる心優しい人。

リーア様の言ったことが分かる気がします。

きっと、勇者とは力があることや、スキルや称号ではないのです。

目の前を歩く、あの人こそ、全ての人のために頑張れる人。

希望という勇者という光。

だから、きっとこの気持ちは主に対する義務などではない。

1人の女性の心からの気持ち。


「ユキ様、あなたを心より愛しております」


シェーラ様は良いと言ってくれるのですが、メイドの分には余る発言。

そして、そんなことユキ様に聞こえるように言ってしまえば、すぐに奥様入りしてしまうでしょう。

だから、こっそり言います。


愛しております。


さあ、けじめはつけないといけません。

これから旅館に戻ってメイドとして責務を果たしましょう!!



今日の夜は私ですから、うん、燃え上がってしまいそうです。

さて、パフェは何が好きでしょうか?

俺はチョコだよ!! だってさ、登山とかでも非常食として有効なんや!!

すぐエネルギーになるからな!!


あと、彼氏彼女とあーんしたことある奴、極刑。

理由? うらやましくなんて無いんだからね!!

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