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第121掘:壊れた少女

壊れた少女





side:リーア 未覚醒の愛の勇者



「はぁはぁ。いいかお前たち、今から君達の主になる人の所へ連れて行く。くれぐれも失礼の無いようにな」

「はい。ってアスさん「君達」って呼んじゃってますよ」

「おっと、すまん。しかし、安心してくれ、彼ならばお前たちを粗雑には決して扱わない」


今私の前には、私を助けてくれた奴隷商人のアスさんが、他の3人と一緒に私達のご主人様の所へと案内する為にいた。

多分、私は幸運なんだろう。

奴隷に落ちたとは言え、ちゃんと食べ物や着る物も与えらて、世間一般で言う酷い扱いは受けていない。

アスさんから、性奴隷の調教もなかった。

女はすべからく、奴隷に落ちたら、只の性欲のはけ口と扱われると村に住んでいた私ですら知っていたのだ。

だから、売る相手をしっかり選ぶアスさんに引き取られたのは幸運なんだろう。


「アスさん。今までありがとうございます。このご恩忘れません」


一人が代表してそう言うと、他の皆も頭を下げる。

私も、遅れて頭を下げる。

すると、私を見ていたのかアスさんが、こちらに近寄ってきて話をかけてくる。


「……リーアちゃん。君はまだここに来てから日が浅いかもしれないが、これ以上ないぐらいのお相手だ。だから、頑張るんだよ。村があんな風になっても君は生きていた。きっと、村の皆も君が幸せになってくれることを望んでいるはずだ。今すぐでなくてもいい。いつか、笑えるようになってくれ」

「……はい」

「どうなるか、分からないが、きっとこの3人と離れ離れ、会えないような状況にするような人じゃない。だから、先輩達を頼りなさい。お前達も頼むぞ」

「ええ、大丈夫です。リーアの事は任せてください」


この人達もみんないい人だ。

こんなただ受け答えしかできない私に、ちゃんと声をかけて気遣ってくれる。

でも、心が、体が反応しない。



私の村はロシュールとガルツの境にひっそりとある村だった。

裕福でもなかったが、食べるにもそこまで困らない。

村人全員が助け合って生きていた。

アスさんも行商で来てくれていたし、服や珍しい他国の物を触れる機会もあった。

私はこんな暮らしがきっと自分の命が尽きるその時まで続くと思っていた。


でも、それはあっさりと終わった。


ロシュールとガルツの戦争勃発。

魔王の策謀。

それが、この争いの原因。

でも、私には関係のないことだ。

結果だけが残った。

村が無くなった。


それが私に残された真実だ。


どちらの兵士だったか分からない。

ただ、私達の村は略奪された。

必死に抵抗したけどダメだった。

どんどん村の皆は捕らえられ、遊びの様に殺されていく。

女性も若い子は組み敷かれ慰み者になって殺された。

私もその一人になるはずだった。

目の前で父に母、妹を殺され、茫然自失になり、男に服を破られても反応できなかった。


しかし、気が付けば、部屋はなにかが暴れまわったように散乱し、父や母、妹の遺体も変な形で壁や窓にあった。

無論、兵士達も全員死んでいた。


そのあと、アスさんが行商に訪れ、村の状態に驚き生存者を探していて、唯一残っていたのが私だったのだという。




「ごめん、なさい」


皆の優しさに反応できない。

皆だって、同じようにつらいはずなのに。


「大丈夫。わかってるから」

「ああ、あんなことがあったんだ。何も気にしなくていい。さあ、いくぞ」


奴隷にされた事を恨んではいない。

だって、これは奴隷というより、ちゃんとした引き取り相手を探しているようなもの。

私一人を養うだけではないし、売られる理由も分かってる。

アスさんには感謝の言葉しかない。

でも、反応できない。


私は何も返事を返せないまま、不思議なダンジョンの中にある街の変な建物に入っていく。

ここはとても不思議な場所、奴隷の私達に向けられる視線は、憐れみでも、物を見る視線でも無かった。

同じ人と扱ってくれる。


それだけでも、凄い事なのに、ここではトイレなど、聞いたことも見たこともない事が沢山ある。

そんな街の代表に私達を引き渡すそうだ。

私は反応ができないせいで、伝わっていないが、皆の足を引っ張らないかとても心配だった。




「今回のお礼でもあります。遠慮せず、使ってやってください」


そう言って、私達を一人の男性へ見せる。


「はぁ、どうもありがとうございます」


そこには、黒髪の平凡な男の人が立っていた。

いえ、むしろ体の線は細い。

見た目で判断するのはよくないけど、必然的にレベルが上がる人は魔物と必死に戦いを繰り広げた人物と決まっている。

なので、体はがっしりするのですが、この人は全くそんな感じがない。

そして、先ほどの受け答え。

何か困った様子だった。

なんというか、こんな凄い街を作った代表には見えない。


と、私がそう思っていた時、目があった。

真剣に私を見つめる姿は、今までの姿は仮の姿と言わんばかりに鋭いモノだった。


「ごほっ、げほっ、気管に茶が入った」


いや、気のせいかも。

飲んでるお茶で一人でむせてる。


が、結構大事だったみたいで、いきなり扉から3人の綺麗な女性の人が男の人を守る様に囲んで、アスさんを睨み付けていました。

いえ、一人でむせただけですよ。


「誤解だ。お茶を飲み損ねただけだ。すいません。妻達がお騒がせしました」


と、その女の人達に言い聞かせます。

え、妻達!?

こんな美人さんが達が?

この中の二人が妻なんて、この人はどういう人なんでしょうか?


そのあと簡単にアスさんとの交渉を終え、アスさんが帰ってしまいました。

私達はその場に残されてしまいます。


「とりあえず。そこのソファーに皆座ろう」

「い、いえっ!? そんな恐れ多い事を!?」


簡単にそんな事を言われても困ります。

先ほど代表の貴方と、アスさんが交渉の話をしていた席に奴隷が座るわけにはいけません。

流石に私も他の3人と一緒にとんでもないと首を横に振りました。

そんな私達を見て苦笑いをしていると後ろにいた3人が前に出てきて安心するように言ってくれます。


「いいんですよ。ここは奴隷だからと言って、虐げることはしません。一人の人として扱うんです」

「……だから、心配しなくていい」

「ここには奴隷に振るう為の鞭なんぞありはせん。叱ることはあるがのう」


多分、護衛も兼ねている人達が言うなら大丈夫なんでしょう。

その言葉で私達はソファーに恐る恐る腰かけます。

凄いソファーです。

今まで座ったことのない柔らかさと座り心地です。


「さて、人数も増えたことだしお茶準備するわ。でだ、■■■。その子達、話によれば算術とかのスキル持ってるらしい。訓練所に回すより、直接指導したほうが即戦力になると思うんだ。話をとりあえず聞いてくれ」

「なるほど。すでに算術を取得しているのなら、訓練所は飛ばしてもいいかもしれませんね」


代表がわざわざお茶を入れてくれるみたいですが、私はそんな事より、一つ事で頭が一杯でした。


まだ、名前が聞こえない。


そう、私はあの日以来、人の名前が聞き取れなくなった。

一体私の中の何が壊れたんだろう。


「さてと、ようこそウィードへ。私はこのウィードで娯楽区代表を務めています■■■といいます。少し皆のお話を聞かせてもらっていいでしょうか?」


聞こえない。

そう、だから私は下手に受け答えすることができない。

心も体も壊れて、耳も聞こえない。


もう一人の代表の質問を前に、なんとか受け答えをしつつ。



私は生きていていいのだろうか。



もう、何度もした問いを再び自分にしていた。


目の前で、気を使ったのか男の代表がお茶を配って、優しく説明をしてくれました。

そして、雰囲気を紛らわせようとしたのだろうか、お茶を飲んで3人の女性は男の代表と同じように噴き出していてました。


そしてその日は、軽く雑談をした後、旅館に案内されて明日また来るという事になりました。



「あの、■■■代表。少しお聞きしたい事があるのですが」

「はい、何でしょうか?」


旅館という所に向かう時に一人が女性の代表に質問をしていました。


「えーと、私達のご主人様ですが、先ほど妻達とおっしゃていましたが、■■■代表以外がそうなのですか?」

「あら?」


質問に驚いたみたいなのか、女性の代表は目を丸くしていました。


「す、すいません!? 不躾な事を聞いてしまいましたでしょうか!?」

「いえいえ、そうですよね。妻達と言っても二人ぐらいと思いますよね」

「え? と言う事は……」

「ええ、あの場にいた私を含めた3人ですが、全員■■さんの妻ですよ」

「ええっーー!? あ、すいません。決して悪い意味ではなく……」

「大丈夫ですよ。で貴方達からは■■さんはどう見えました?」

「えーと……」

「気にしないで、率直な感想を言ってください。罰したりはしませんよ」


そう言われて私達は思った事をいう。

普通の人にしか見えない。

気が少し弱くないか。

お茶を自ら入れる統治者がいるのか。

変な人だと。


そんな自分の夫を酷評する感想を聞いても女性の代表は笑顔でこう答えました。


「いい男でしょう。こんな争いの絶えない日々であんな風に人に優しくできるんだから」


そう言われて納得してしまった。

そして、この人がどれだけの愛情をもって、あの人を見ているのかも。



きっと勇者と呼ばれる人がいればあんな人なんだろうと。



周りを失くして、それでも助けてもらって、まともに返事もできないような私とは違う。

だからこそ、思ってしまう。

こんなお荷物の私が生きていていいのかと。



「なんて言うんだろう。二文字かな? 三文字かな? もしかして一文字かも」



その日の夜、私は月を見ながら、彼に勝手に勇者を重ね。

彼の名前を考えていた。

今までの中で精神的に一番危ない子です。

ミリーみたいに怒ることも泣くこともできなくなっています。


アスについては、村が無くなる前から面識があったので、聞き取れるようになっています。

つまり、助けられてからの名前の情報が入らないようになっています。


あと、更新はノリですから。

心配しないでね。

23日はやりすぎた。

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