落とし穴17掘:おすすめの店
おすすめの店
side:ラビリス
お祭りの二日目。
皆で合流してご飯を食べに行った時のお話。
「のう、何処に行くのじゃ?」
デリーユはお腹が空いているようで、言葉に焦りがみえる。
というか、何かユキに飛びついてたけど何かあったのかしら?
弟さんのライエさんやアンナさん、リーリも苦笑いしてデリーユを見ている。
これはきっと面白い事があったのね。
あとで聞かなくちゃ、この前の復讐をしてあげる。
「もうすぐよ」
結局、いつものメンバーの半数が偶然揃ってしまったので、他のメンバーが仲間はずれなのはどうかという意見で、皆が集まっている。
「ミリーはお仕事ではなかったのですか?」
「エリス聞いてよ、皆が優しいんだよ。実は……」
「それはそれは、うらやましい限りで、私なんか部下に仕事押し付けて来たのに」
「あれ? なにか機嫌悪くない?」
「いいえ、少しムカついただけですよ。そんなにユキさんと朝からべったりでうらやましいとかなんとか」
「それ、機嫌悪いっていうわよね!?」
ミリーについてはエリスと同様少しムカつくわね。
でも私達もユキと朝から一緒だから何とも言えないわ。
「あれ、ここら辺って商業区の端だよ? ここってなにかあったっけトーリ?」
「うーん、地図では普通に商業区で商売している人の借り住宅があるぐらいだけど。普通は住民区の家に帰るけど、時間が遅いと転移ワープは使えないからね」
「だよね。ここって借り住宅で、お店の申請ってあったっけ?」
そうやって、警備で地理に詳しい二人が首を傾げている。
あらあら、トーリやリエルは知らなかったのね。
ふふふ、これは楽しみだわ。
「しかし、今思ったのですが、階層移動転移は時間制限を付けていますが、万が一怪我人など出た時はどうするんですか?」
ルルアがそう言って、トーリとリエルに質問を言う。
うん、聖女として、病院を運営する者として気になるところよね。
「それは大丈夫だよ。転移ワープには警備魔物兵がいるから、直ぐに病院に転移か、その場の回復魔術兵で対応するから」
「緊急用の転移はまだ使われた事ありませんからね。ルルアは忘れてるんじゃないですか?」
「ああ、そういえばそう言うのありましたね。使ってないんで忘れてました。怪我人がいないのは幸いですが」
そういえば、ユキは緊急用とか言って、病院に直接転移できるワープを作っていたわね。
でも、ここ半年は大けがはなく、落ち着いた状態だ。
鍛冶で怪我人はでるが、鍛冶場には専属の治療員がいるから出番はほとんどない。
「ふむふむ、ラビリスはここを知ってるんですね」
「ラッツも知ってたのね」
「それは商業区は私の庭ですから。どこに何があるかなんて把握しきってますよ」
「私はユキからね」
「なるほど、それは知ってて当然ですね」
ユキも当然行先は分かっている。
だって、そのお店の大将はユキなんだから。
お祭りで出て回っている、たこ焼き、たい焼き、焼きそば、綿あめ、ラーメン……などなどの数多の食道楽の発信場所。
知る人ぞ知る名店。
「ここよ」
私がユキの頭をクィっとやって後ろを向く。
ユキの操作は御手のものよ。
「ここですか?」
「えーと、少し大きい一軒家ですよね?」
そう、見た目は少し大きい一軒家。
知らない人が見れば通り過ぎる只の家。
「お、ユキの大将。ラッツ代表にラビリス様じゃねーか」
不意に玄関が開いて、暖簾を持ったオジサンが出てくる。
「よう、今日は祭りなんでここで飯を食いに来たぜ」
「へぇ、ってよく見ればほとんど代表ばかりじゃねーですか!?」
「心配するな。知っての通り一般の出がほとんどだ。嫁さんの数人がお姫様なだけでな」
「いや、嫁さんが複数いるだけでもあれですが、その中の数人がお姫様とかね大将ぐらいしかいないですよ」
うん、それは同意だわ。
ユキ以外にそうそういるとは思えない。
「セラリア、ルルア、シェーラは問題ないか?」
「全然」
「私も構いませんよ」
「ユキさんのおすすめですから、楽しみです」
「だとよ」
「まあ、大将がそう言うなら。ようこそ、実験堂へ」
そう言って、暖簾をかける。
「実験堂?」
セラリアが不思議そうに首を傾げている。
「まあ、入ればわかるから」
そう言ってユキはセラリアの手を引いて中に入っていく。
それで周りの皆も入っていく。
「へい、いらっしゃい。奥の部屋があいてますぜ」
「おう、借りるぜ」
旅館と同じような宴会場に私達は入っていく。
「メニュー置いときますぜ」
「おう、ありがとうな」
ユキはそれを皆に配る。
皆もメニューを開いてよんでいく。
「えっと、豚骨ラーメン?」
「……稲荷寿司スペシャル?」
「焼きそば?」
「たこ焼き?」
と、一人だけ変なの読んだけど、ここはお祭りででている料理の元なの。
「ここは俺の料理を実験的に販売しているんだ。今回はお祭りがあったからな、それに合わせて一気に料理を試してもらったわけだ。一定の使用料を払えば使える様にしている。ま、そこまで高くないから、お祭りで十分黒字になるはずだ」
「へー、そんな事してたんだ。知らなかったわ」
「なるほどね。なんでユキさんのラーメンが屋台でできてたのか不思議だったけど、ここが元だったんだ」
「俺もそれなりに忙しいからな。大好評だった寿司とかはともかく、細々した料理を伝えるには時間が足りない。だから、ここに店を構えて、店員に料理を覚えてもらってるんだ。レシピだけ渡して、試食ってかんじだ。上手くいけば実験堂のメニューに並んで、新商品の販売になるわけ。勿論ここでも食えるけどな」
そういう事。
ユキはここで料理を教えて、広めるってわけ。
この土地に合うかどうかの問題もあるから、ここで実験も兼ねてるの。
そういう意味でも実験堂ということ。
「流石ユキさんです。でも私こんなに色々あると何を選んでいいかわかりません」
「そうですね。申し訳ないのですが、このキルエ、学が少ないため名前を見てもどんな料理がわかりません」
「そうだな。じゃ酒飲む人手を上げて」
「「「はーい」」」
過半数以上がそれで手を上げる。
まあ、子供は少ないからね。
「じゃ、アルコール系と焼き鳥が定番だよな。すみませーん、注文頼みます」
ユキがそう言って、焼き鳥を色々頼んで、アルコールも頼んだ。
「それと、そうだな。おやっさんアレどう? 丁度子供もいるし」
「アレですかい? できてますが、なるほど。お子さんもいるのなら丁度いいかもしれませんね」
そうやって、こそこそ注文を終えます。
「あの、私達はお酒はまだ早いのですが?」
「シェーラちゃん、私達はお子様じゃないです!!」
「兄様のお嫁さんなのです!!」
「アスリン様、フィーリア様落ち着いてください。お二人が淑女なのは存じています。ですからこそ、お酒を飲むと淑女らしからぬ行動をとることが多いのです。ですから……」
キルエがアスリン達を説得している間にシェーラにユキが説明をする。
「だよな。だから丁度いい試作料理があるからそっちを頼んでみた。まあ、口に合わなかったら遠慮なくいってくれ。なにせ試作だからな」
「はい、でもユキさんの提案の料理なら不味いわけないと思います」
「無理はするなよ」
そんな風に雑談をしていると、料理ができていい匂いが漂ってきた。
「大将お待たせしました。焼き鳥にビール。そしてオムライスです。ソースは色々かけてあるので感想を聞かせて貰えればうれしいです」
そういってオジサンは何か、卵で包んだモノを出してきた。
それぞれに色々なソースがかかっているみたい。
「お兄ちゃん、コレなんです?」
「兄様どうやって食べるんですか?」
「あの、ユキさんオムライスというのですか?」
不思議そうに首を傾げている3人に適当にそのオムライスを見繕って前に置く。
ユキも同じように一皿とって、スプーンをオムライスに入れる。
「これはな、ご飯に味をつけて、こんな風に卵焼きで包んで、上からソースをかけて色々な味を楽しむものなんだ。俺は好きでな。アスリンのは定番のケチャップオムライス。フィーリアのはクリームソースオムライス。シェーラのはレタスオムライス。俺のはビーフシチューオムライスって奴だ。他にそっちのはカレーオムライスとかな」
「本当だご飯が入ってます!!」
「おいひれす!! 兄様!!」
「本当ですね。美味しい」
皆喜んでオムライスをぱくついている。
さて、私も食べましょうか。
どれがいいかしら?
そうね、あの赤いソースがかかったのが美味しそうね。
「美味しいか。それはよかった。俺の食べてみるか? ほれ」
「あむっ。 おいしいれすお兄ちゃん!!」
「兄様、兄様!! 私も私も!!」
「あのユキさん私も!!」
あらあら、ひな鳥みたいになっちゃって。
私もあとでしてもらおう。
そして私は迷いもなくスプーンでオムライスをすくって食べて……
「あ、ちょっとまてラビリスそれは!!」
その制止は遅く、すでにオムライスは口の中にいて……
「っつ~~~!! 辛い!! 辛いわ!?」
そのオムライスは辛いモノが好きな人用の為に試作したらしく、私の口には合わなかった。
私はユキに介抱されつつ他のオムライスをひな鳥の様に食べさせてもらって幸せだったが。ちなみに、あの辛いオムライスはミリーやナールジアには好評で、酒場で出されるようになる。
「辛いモノは嫌いよ」
初めて自分の好き嫌いを自覚したのであった。
オムライスは定番ケチャップから、ソースはビーフシチュー押し、クリームシチューもいいよね。
デミグラスソースもあり。