第108掘:事情説明と夫の故郷
事情説明と夫の故郷
side:セラリア
「……というわけで何とかご協力いただけないかと思いまして」
「俺からもお願いする」
そう言って、勇者タイキと夫が土下座だっけ?
その体勢で頭を下げる。
「セラリア。ユキさんも反省しているようだし……」
「そ、そうじゃ。若い内はこれぐらい勢いがあっても仕方がない」
アーリア姉さまとクソ親父がこれで怒るのをやめろと言ってくる。
「そ、そうです。勇者様の事情も聴けばどう考えても仕方の無い事。多くの人が助けられるのです。戦争を減らすという目的がある私達にとっては願ってないこと」
リテア代表のアルシュテールも同じように言ってくる。
「ふぅ。シェーラ、勇者様はともかくここに厄介事を持ち込んだお姫様はどうするべきかしら?」
「首を刎ねて国に送り付ければよろしいかと」
シェーラはニコニコ顔ですぐに返答する。
「こ、こらっ、滅多なことを言うでない。そうなればランクスが挙兵してここに押し寄せるぞ」
「そうだぞ、シェーラ少し冷静になるんだ」
「そうですわ。ユキさんやアスリン達が襲われたとはいえ、それはやりすぎ……」
シェーラの身内ガルツ王族もシェーラを説得しようとするが……。
「あら、冷静ですよ? 首を送り付ければ否でも挙兵せざるを得ません。それを完全に粉砕し、勇者様の伝手で属国3国に謀反をおこさせ、孤立させ、一気に王城を落とします。建前も問題ありません。我が夫に無礼を働いたから首を刎ねた。十分です。周りが騒ぎ立てても、ここの支援を…と言えばなにも言えないでしょう。そもそも、他国の式典とも言うべき場で、武器の携帯をわざわざ認めた上で、街中での犯行。救いようが元からありません」
一気に身内を黙らせる。末女。
うん、我が夫の妻に相応しい才覚だわ。
シェーラの様子を見ればわかるけど、ユキの妻達。
つまり、ダンジョン、ウィードの最高権限者組は完全に戦争推しである。
こっちが甘くしてりゃつけあがりやがって。
一度力を示す必要がありそうだ。
丁度いいからランクスには生贄……いえいえ戦争でウィードの力を見せてあげましょう。
「や、やめてくれ!! あのクソ姫の首を刎ねれば強制徴兵で戦力を水増しするに決まってる!! それじゃ、俺が世話になった人達に被害がいく、それだけはやめてくれ!!」
勇者様はそうやって頭を下げる。
彼の境遇は聞いたので、彼自身に怒りはない。
多分他の皆もそうだ。
しかし、それで矛を収めるわけにも。
「勇者様のお気持ちは分かりますが、これからどうなさるおつもりですが? こっちで身柄を拘束したあの馬鹿姫は貴方が暴れて、自分を助けに来ると、勇者がいる国にこんな事をしてタダですむと思うのかと吠えていますが?」
ルルアが勇者様に対して受け答えをする。
正直さっきルルアがあんなに怒って吠えるとは思わなかった。
夫を思う妻が多くて嬉しい限りだわ。
しかし、ルルアの言う通り、もうあの馬鹿姫はこっちに戦闘を仕掛けてくるに決まってる。
間違いなく、強制徴兵でもなんでもして。
こっちに報復しようとするだろう。
ま、負けないけど。
だって、最高戦力の勇者様は私達で何とかなるし。
他は有象無象。
「えっと、それが狙いだったんです。よければ聞いてもらえますか?」
勇者様はなんかユキみたいに変に腰が低いわね。
ん……そう言えば髪も同じ色、瞳も。
ユキの故郷は……私達が知らない…大陸だったはず。
私がそんな事を考えている内にルルア達の許可を得て、勇者様はこれからの行動を話し始めている。
「今回は俺はクソびっち姫を返してもらう交換条件として、ここを襲わず帰る事にします。そうして、俺は怒りに燃えたことにして、戦力を厳選。下手に国民に被害が及ばないように、俺が選別してこちらへ攻め寄せます」
「なるほど、戦力を集めずとも勝てると説得するわけですね。今回の撤退は仕方がないということで。そして、戦力を厳選……つまり、国王および王女支持派の戦力をこちらに固めるわけですね?」
「はい、それで少数戦力で王城を制圧し、こちらに来た戦力は俺が全て潰します」
「……ふむ。なかなかいい作戦だとは思いますが、それでは勇者様が汚名を被ることになりますが? 謀反人ということで」
「別にそんな事はどうでもいいです。俺一人ならどうとでも生きていけますからね。なんとか世話になった人達にはいい暮らしとまではいきませんが、安全に健やかに過ごしてほしいだけですよ」
……なんだこのお人よしは。
ああ、なんだが夫と似てないのに、なぜか顔を見比べてしまう。
「其方の事情も、今後の予定も分かりました。しかし、それはあくまでも其方の事情。その軍事行動で、ガルツは警備を集めないといけませんし、私達のウィードもその期間だけ、交易を停止せざるを得ません。無論、旅の受け入れも停止ですね。そこら辺の補てんはどうなさるおつもりですか?」
流石はラッツね。
しっかり、こういうところを考えている。
「そ、それは……」
「まってくれ。タイキ君をこちらに引き入れればそれ以上の価値がある」
なぜか勇者様をフォローしてユキが出て来た。
どういう事かしら?
そんなに親しくもないのに、というか会って間もないのに何が分かるのかしら?
「タイキ君はこっちの世界に来てから、ほぼ個人で動いていたんだ。その行動力だけでも賞賛ものだし、他にも自分で商会を作ってお金を作っているって言ったよな?」
「ええ、石鹸とか。まあ俺の世界の物ですが。紙とかも作ってますよ。パルプが一番めんどくさかったですけど」
「そこだ、俺は色々と急ぎ足で、DPで生産してたから、こっちで生産するって事が後手なんだ。魔道具関連ではザーギス……四天王の一人をこき使って作ってるがそれだけ。だから、そのノウハウを教えて欲しい。いいか?」
「ええ、それぐらいで許可をもらえるなら」
夫はそう言って、石鹸や紙の生産方法を教えろと言っている。
ふむ、それなら今後を考えると悪くないかな。
「どうだろうラッツ、エリス?」
「うーん、確かにあの紙の生産は資料しかありませんから手探りの状態ですし……」
「石鹸やシャンプーもいまだに生産は出来てませんから、その作成方法が分かればさらに雇用ができますし、交易も幅が広がると思います」
「そして、タイキ君がこちらに協力してくれるなら、共同で色々開発もはかどると思うんだよ」
「ああ、それは是非お願いしたいですね。色々再現したいものもありますし」
「だろ。俺も色々やってはいるが、元の知識のあるやつがいなくて色々困ってたんだよ」
「ああ、わかります。言っても伝わらないって悲しいですよね。やっぱり鳥野さんも色々あったんですね」
「そうなんだよ……」
私はそこで夫たちの会話を切った。
「ちょっと待ってくれる? いえ、もう勇者様の支援はOKでしょう。そんな事より「トリノ」ってなに? ユキの事をそう呼んでたわよね勇者様?」
「へ? いや、鳥野さんは日本人ですよね?」
「……ああ、ニホンジンデスヨ」
ほほう。
勇者様と同じ故郷ね。
「なるほど。貴方は偽名を使っていたのね? つまり、異世界人でいいのかしら?」
「色々訳があるんだ!!」
「ええ、分かってますとも。こんな事で貴方を嫌いになんてならないわ」
後ろで他の妻達もうなずいている。
「でもね。それでも、いや、だからこそ怒りたくなることってあるのよ」
「すまん」
「ええ、貴方はそうやって素直に反省してくれる。そしてそれが本当に反省していると分かるわ。でも、こればかりはしっかり説明を聞いたあとで……」
「あとで?」
他の妻達に目配せをすると全員が頷く。
「絞ってあげましょう。凝ってり一滴も残さず。それぐらいの我儘はいいわよね。嘘ついてたんだし、また2週間ばかり、お休みして、一日中ね」
「そうですねー。それぐらいしたら許せるかもしれませんね」
「僕もそれなら納得」
「わ、私もそれがいいです!!」
「当然かと」
「そろそろ真剣に首輪を考えるべきですか?」
「く、首輪!? ユキさんに!?」
そうやって妻達が今後の事で盛り上がってる。
色々忙しかったし、色事も必要よね。
夫も観念したのか頭をがっくり下げている。
うふふ、心配しなくても寝かせないから。
いや、寝ても絞るから。
便利よね、リリーシュ様の加護って後でお礼に行きましょう。
「えーと、鳥野さん? 一言いいですか」
状況を察したのか、勇者様がユキに声をかける。
「……なんだよ」
「爆発しろ。寧ろ爆発して四散してしまえ!! 俺がどれだけ苦労してると思ってるんだ!!」
そうやって勇者様が騒いでいると、今の話で喜んで飛び出した小さい影が夫に飛びつく。
「お兄ちゃん、大丈夫私達は優しくしてあげます!!」
「兄様は寝てて大丈夫なのです!!」
「ふふふ、夜が楽しみだわ」
よし、あの三人が乗り気なら夫も断れないでしょう。
そうやって微笑んでいると、またしても勇者様の顔が歪む。
「さ、最低だ!! お巡りさーん!! こっちです!! ロリコンがー!! ロリコンが、真正のロリコンがここに居まーす!!」
「それだけはやめてくれー!! 無実ですお巡りさん!! 仕方なかったんです!!」
なんだろう?
夫が必死に叫んで否定しようとしているけど、滅多に見られるものじゃないからしばらくほっときましょう。
さーて、今日はお風呂でかな?
御布団でかな?
皆の判決は?
有罪? 無罪?
答えなくていいんですよw
とそれより、かねてより、別のお話を書いていると言いましたが、実はもうすでに3万文字で3話分できてるといったらどうします?