第89掘:いざ交渉へ
いざ交渉へ
side:ユキ
「さて、これからガルツに行ってくるけど留守を頼むよ」
振り返り、ダンジョンを任せる皆に言う。
「はい、任せてください」
エリスがしっかり頷いてくれる。
今回、俺達…俺、セラリア、ルルア、シェーラ、キルエ、ラッツ、カヤ、ナールジアが出かける。
その穴をエリスを筆頭に埋めてもらうことになった。
まあ、最近は部下の成長もあって仕事も減っているから大丈夫だと判断してだ。
いざとなれば、ドッペルゲンガーだし、叩き起こしてくれればいいんだけどな。
「デリーユ。何か問題がおこればお前が一番の戦力だ。皆を守ってやってくれ」
「うむ、妾に任せて安心していってくるがいいぞ」
デリーユもすっかりなじんだようで、仕事も頑張っている。
俺の仕事を手伝うのは苦手なようだが。
「ロックさん、間違ってもユキさんに迷惑をかけないでくださいよ?」
「わかってるって、向こうで姫様達の旦那様にいつもの通りで接したら俺の首が飛ぶからな」
ギルドの関係でロックさんもついてくる。
仕事終わりに酒場で一緒に食事したり、なにか問題がないかお互い聞いたりして仲はいいけど、まあ外でそれしたら言っての通り首が飛ぶだろうな。
流石にグランドマスターを旅につきあわせるわけにもいかないので、ロックギルドマスターが来ることになった。
ダンジョンが開通しだい、グランドマスターもくる予定にはなっているが。
ちなみに、グランドマスターは先日の冒険者選別でリテアに戻ってはいるが、基本生活はこっちになっている。
本人曰く「便利じゃから」それで、いままで住み慣れた所をあっさりってのはスゲー爺さんだ。
「カヤ、皆をお願いね」
「僕の分まで守ってあげて!!」
「…正直いらないと思うけどね」
トーリとリエルはカヤに激励の言葉を送っている。
カヤは一応、護衛という形でついてくる。
こういう重要人物なら、普通こんな人数じゃすまないだろうけど、まあ偽物だし? レベル高いし?
「シェーラちゃん、気を付けてね」
「キルエ姉様もお気をつけて」
「……二人とも無事に戻ってきてね」
「大丈夫。ちゃんと戻ってきます」
「フィーリア様、お気遣いありがとうございます。ラビリス様もどうか、私がいない間にこの二人が泣くことのないよう…おねがい…します」
「……そんなに気になるなら残っても問題ないって…」
「…いえ、シェーラ様の傍から離れるわけには…」
キルエもアスリンとフィーリアに当てられて、もう二人を溺愛している。
しかし、言葉を詰まらせるほどとは……あの二人のちびっこ侮れないな。
「では、私もいってきますが…コヴィル、私がいない間のこと頼みましたよ」
「えー、最近私ばっかりじゃないですか。ぶーぶー」
「その分、お給与もいいでしょうに。なんです? 減らされたいのですか?」
「いえ、真面目に仕事に取り組みます!!」
こっちはいつもの通りだな。
ナールジアさんは妖精族代表でダンジョンに問題がないと言ってもらう。
説得力はこの人が一番だからな、種族的にも完全に独立しているような所だし。
「ラッツも無理はしないでね?」
「いや、それはこっちのセリフですよ。エリス。一応会計関連は部下、もとい庁舎の一員なので問題ないですが、商業組合はいろいろ面倒ですからね。真面目に問題があれば私をすぐ呼んでください」
「わかってるわよ」
ラッツは今回、ダンジョンの品物、物流に関しての代表ということでついてくる。
ここまで人材を揃えたのは一気に畳み込むつもりだ。
なんども行き来するのは面倒だからな、この一回の交渉である程度…最低ゲートをつないだダンジョンを作りたい、公に許可をもらって。
無理ならこっそり作るだけだが。
「ちぃ姉さま、ルルア様、どうかご無事に目的を達成できる事を…」
「任せなさい。エルジュもしっかり努めなさい」
「エルジュ様、私がいない間、病院をよろしくお願いします」
セラリアにルルアは、エルジュと言葉を交わしてる。
二人はロシュール、リテアがこのダンジョンに関わっていると証言するためについてくる。
どっちも元国の重鎮、ガルツの重鎮とも顔を合わせているから色々ありがたい。
「……暇ねえ」
「後ろに混ざってくるか?」
俺は運転をしつつセラリアのコメントに返す。
現在移動中。
今回は人数が多いのと、ラッツとカヤが運転してみたいと前から言っていたので、練習をちゃんとして、マローダー2つで移動している。
因みに、俺の方にはセラリア、ルルア、シェーラ、キルエ。
ラッツとカヤの方はナールジア、ロック、クアルになっている。
あ、クアルはセラリアが偽物とはいえ他国に赴くのでついてきた。
親衛隊みたいなもんだから、ある意味ありがたい。
けどさ、セラリアと別の車って意味なくね?
本人的にユキ様の奥様達の護衛も当然含まれるらしいので問題ないらしい。
「トランプねぇ…、今やってるのはなに?」
セラリアがそう言って後部座席の皆に声をかける。
「今は…はい9です。ダウトですね」
「……では10」
「ダウトです。シェーラ様」
「くっ!?」
会話から察するにシェーラがダウトされてものの見事に当たったらしい。
「なんでわかるんですか、キルエ?」
「シェーラ様は嘘をつくと妙に落ち着きます。冷静になるといいましょうか」
「ず、ずるい」
「まあ、私だからわかる…と言えばいいのでしょうが、これからガルツのご兄弟や父である王に交渉に向かうのです。丁度いい練習になるトランプ遊びがあるので頑張りましょう。相手の仕草や表情を読み、相手の手札を察する。シェーラ様に今必要な技能です」
「ま、まけませんからね!!」
「その意気です」
「ま、まあ、トランプですし」
ルルアが引き気味に言葉をいうが、なんか二人は燃え上ってるみたいらしく、真剣になっている。
「あれに混ざると色々息がつまりそうよ」
「だな」
「ラッツやカヤはついてきてるかしら?」
「んー、ほれ横のミラー…鏡見てみろ後ろにちゃんと車が付いてきてるから」
「ああ、これね。本当に便利な乗り物ね」
「それに…コールラッツ」
『はいはい、お兄さんなにかご用ですか?』
「いや、そっちは大丈夫かなってな」
『こっちはそろそろ退屈で死にそうですね。後ろの皆はトランプやってるみたいですが』
「そっちもか」
『おや、そっちもですか』
そうやって会話をして暇をつぶしていく。
「ねえラッツ、今運転してるのはカヤかしら?」
『…違う、今運転してるのはラッツ』
「あら、運転中なのにコール取るなんて器用ね」
『いや、別に通話をポチっと押すだけですからね』
「何か面白い事ないかしら、私も退屈なのよ」
『うーん、そうですね。いくらこの車が早いと言っても3日はかかるのでしょう?』
「まあ、流石に一日じゃむりだな」
『なにか継続的に暇をつぶせる方法を探さないと、もうドッペルにまかせてダンジョンでのんびりしたほうがいいですかね』
「それは、さけたいわね。せっかくの旅行なんだから」
『…だね。私もそう思う』
そうは言っても暇をつぶせるねー。
都合のいいモノあったっけ?
「ああ、何も思いつかんが、そういえばガルツってどんな感じの国なんだ?」
ガルツの特徴を覚えておくのは不利にならないだろうし、会話のネタには丁度いいだろう。
「ガルツねぇ…」
『あー、私はガルツの王都には行った事がないので何とも……』
『私は小麦が美味しいって聞いたことがある』
『ああ、それなら私も聞いたことがありますね。なにやら独自の栽培方法でガルツでしか育たないとか…』
「そう言えば、ガルツの交易品の項目に必ず小麦があったわね。味も良しのパンができるわよ…まあ…」
『ダンジョンのフワフワパンには及ばないですが』
「ふむ、なら小麦を買ってきてこっちでちゃんと精製すればいいんじゃないか?」
『ああ、それはいい手ですね。ただ単にあのフワフワは機械に入れて精製してるだけですから、その機械自体もナールジアがしらべて、私達で作れますからね。大量生産も可能でしょう』
「それでしっかり独自の味になるなら、交易品の筆頭項目でいいんじゃないか?」
『ですねー。休憩時にメモでもしておきますよ』
そんな話をしながら道中を、この時代では壊しようのない車が二台進んでいく。
これからガルツへと!!
ガルツで待ち受けるモノは!!
彼等は生き延びることができるのか!!
いや、偽物とかいうなよ。




