第88掘:ダンジョン評定結果
ダンジョン評定結果
side:ユキ
今日はいよいよダンジョンの評定結果発表ということだ。
これで、ひと段落して、ガルツとの交渉へ持っていける。
「さて、代表の皆さま方、集まってもらってすまない。昨日ようやくダンジョンの評定がすんだんじゃよ」
俺の目の前には冒険者ギルドの大ボスグランドマスターの爺さんが立っていた。
「予定を大幅に超え3週間近くも時間を取ってしまった事、まことに申し訳ない」
深々と頭を下げるグランドマスター。
「いえ、それは構いませんが、問題でもあったのですか?」
エリスはどうやら、ダンジョンの不備を気にしているようだ。
まあ、2週間も予定をオーバーすれば気にするよな。
「いや、問題は特になかった。それより、提示された情報に狂いが無いかの確認に時間がかかったんじゃ。本来、ダンジョンは探り探りでの。ダンジョンの情報はある意味資産なのじゃよ。それがちゃんとある。そしてそれが正しいかを確認したというわけじゃ」
「なるほど。私達の情報通りかということと、想定外の事態が起きないかということですか?」
「そうじゃ、ダンジョンの情報は間違い無しとは思っていたが、下層の強力な魔物が上層に来たりしていないかとかのう」
確かに必要な作業だな。
「まあ、最初の一週間での冒険者チームを選別して、確認をさせたので数が少なくなってる分時間がかかったんじゃがの」
ちなみに、コボルトに返り討ちにあったチームは一週間でお帰りコースだったようだ。
トーリとリエルの知り合いのオーヴィク達は問題なく突破したらしい。
「とりあえず、細かい評定結果はこの…紙に纏めておる。わしからは簡単に答えだけをとな…」
そうやってグランドマスターは一旦言葉を切る。
皆も多少緊張した感じになる。
「問題なしじゃ。前代未聞じゃが、最奥のダンジョンコアをギルド職員及び、調査冒険者達は、ダンジョン管理者の元確認もできた。そして、情報通りの地図に魔物の生息、まったくありがたい限りじゃ。どうか代表の方々、これからも良きお付き合いを」
グランドマスターがそう言ってほほ笑む。
ワッ、とみんなから歓声があがる。
「ほっほっほ。喜んでくれて何よりじゃ。して、一般への公開はいつとする予定なのかの?」
「ああ、それはですね。こちらの彼女の事はご存じで?」
そう言って、シェーラを俺の横へと招き寄せる。
「うむ、顔を合わせるのは初めてじゃが、ユキ殿の妻になったと話は伺っておるよ。ガルツの姫じゃとか?」
「ええ、そう言うわけです」
俺がそう言うと、目を細めて頷く。
「なるほどのう。まあ、流石にロシュールとリテアだけで、事を進めると色々話がこじれそうじゃのう。ガルツもここに招くというわけかな?」
「はい、その為にガルツへ交渉に向かわなくてはいけません。二月はかかる話になりそうです」
「ふむ…それまでお預けかの?」
「いえ、大々的に行うのが問題なだけでありまして、国とはまた別の括りである冒険者ギルドなら問題はないでしょう。しかし、問題は困りますよ? 荒くれ者が問題を起こしに来るのであれば、こちらの法に則って処罰させていただきますし、それを迎え入れた其方への……」
「あいわかった。無論そこら辺はこちらで何とかするわい。ここの環境が荒れるのはこちらとしても困る。そこら辺は厳命した上で選別するとしようかの。普通の冒険者に対しては、ガルツとの交渉が終わってからにするわい」
「そうしていただけると、こちらもやりやすいです」
そう言って俺はミリーに目をやる。
「詳しい話は冒険者区代表のミリーと詰めてください。私達の方はガルツとの交渉を話し合わないといけませんので」
「そちらも色々大変じゃのう」
「まあ、これでも街を守らなくてはいけないので。あと、ミリーと詰めると言いましたが、最終的に全員で判断してOKとなるわけですから、手を抜かないでくださいよ?」
「ほっほっほ。任せておきなさい」
「ユキさんこちらは任せてください。そちらもぬかりなく」
最近ミリーには冒険者関連を押し付けっぱなしで申し訳ない。
いつか、しっかり労ってやらないとな。
そうやって庁舎の会議室に戻ってきたわけだが……
「ふふん、まあ妥当ね」
「そうじゃのう」
「むむむ、この評価ですか……」
「あら、何か不満?」
「なるほど、この結果ですか」
「僕的には少し不満だなー」
「ねえねえ、ラビリスちゃん、これっていいの?」
「私もよくわからないです」
「…そうねえ、なんといえばいいのか」
まあ、頑張って作ったダンジョンの結果発表だからな、こうなるか。
「あの、皆さん、何か楽しそうなのですが……。いったい何を?」
「ああ、そういえばシェーラには詳しく冒険者区の事はおしえてなかったな」
「いえ、このダンジョンに人々を誘致するための策として、一番足が軽い冒険者を集める目的とした区画ですよね?」
「…そうだけど、よく知ってるな」
「ここに来てもう3週間近くです。学校にも行ってアスリンや、フィーリアに話を聞いています。なにより妻として当然です」
「無理はするなよ? とまあ、シェーラの言った通り一番手っ取り早く人を集めるのには簡単だと思って作ったんだが、リテアからの難民受け入れで、もう住人がしっかり集まったんだよな。でも冒険者ギルドとのつながりは惜しいし、小ダンジョン…つまり本物というとあれだけど、本来に近いダンジョンを作って、それで冒険者ギルドと人を集めたってわけだ」
「なるほど、私達は自由にダンジョンを作れる。そこを有効活用したわけですね」
「で、今日がその作ったダンジョンの結果発表ってわけだ」
「ああ、なるほど、道理でグランドマスターが来ているわけですね。こちらで完全に管理されたダンジョンが複数あることだけでも驚きなのに、それの評定ですから、グランドマスターが出向いたわけですか。そして皆さんはその結果で一喜一憂しているわけと」
「そういう事」
「あの、ユキ様はダンジョンを御作りには?」
「ああ作ったよ」
「その、ユキ様が作ったダンジョンの評価を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ええっと、待ってくれ…この紙だな」
ユキ侯爵のダンジョン
評価 10
詳細 トラップ、魔物分布、共に凶悪。
現存するダンジョンで最高難易度と認定。
今後このダンジョンは基本的に出入りを禁止とする。
なお、宝物やドロップアイテムに関してはそれに見合ったすさまじいものである。
現状このダンジョンを攻略することは不可能と判断。
幸いな事にダンジョン区での位置は最奥に成る為、
発見は遅れ、入口も洞窟と判断のつかない物になっている。
万が一冒険者から発見報告があっても絶対手出ししないようにと厳命する。
「「……」」
2人で紙を見て沈黙する。
「えっと、ユキ様は何を目的にこのダンジョンを? これでは、人が寄り付かないというより、よりつけませんが……」
「いや、俺としてはまあ問題ない評価だとは思う。目的にも合致してるがな。ちょいと評価の内容が過激すぎるとは思うが」
「その目的をお聞きしても?」
「簡単だよ。このダンジョンもダンジョンコアで動いてるだろう?」
「はい、それは御見せいただきました」
「さて、万が一このダンジョンを機能停止させたい場合はどうする?」
「それはダンジョンコアを奪うしかありません……。そういうことですか、このダンジョンならここを動かしているダンジョンコアがあると思いますね」
「そういう事、本当はこの旅館からさらに地下にあるんだけどな。こっちが本物なんておもわないだろ?」
「ですね。立ち入り禁止のこのダンジョンにあると思いますね。まったく、悪戯好きですね」
シェーラがほほ笑む。
「のうユキ、そっちはどうじゃった?」
「ねえ、見てくださいよお兄さん私達のダンジョンですが…」
「僕不満!! 不満だよ!!」
「お兄ちゃんみてください!!」
わらわらと皆が集まってくる。
こりゃガルツの話は随分後になりそうだな。
うーん、ちょいと急ぎすぎな気がする。
王様との話ももっと掘り下げるべきだったか?