第5話 日本を守るため
横須賀近海
~戦艦瑞樹CIC ~
「長官、後、2時間ほどで横須賀に入港となります」
琴音から報告を受けて、
「分かりました。横須賀の地上司令部はまだ応答しませんか?」
刹那が尋ねると、
「はい。まるで、司令部が無くなったかのように沈黙したままです」
琴音がそう答えると、刹那は少し考え、
「引き続き呼び続けて下さい。このまま、横須賀軍港に入港します」
刹那がそう言い、順調に横須賀に向かって航行していると、
『此方艦橋、前方に大型艦が接近中!』
スピーカから流れて来た艦橋からの報告に、
「アメリカ海軍ですかね・・・電測員、レーダーに反応は?」
「はい。しっかりと捉えています。大きさは200m程度と言った位でしょうか・・・」
電測員の言葉に、
「200m・・・アメリカ海軍にそのクラスの艦艇ってあったかしら?通信士、無線に応答は?」
小夜が電測員の報告を不思議に思い、通信士に尋ねると、
「いえ、無線に応答はありません」
「前方を進んでいる夜露に映像を取らせて映像を送らせて下さい」
「了解しました。夜露に連絡します」
通信士が夜露に連絡を入れ、それから数分後、夜露が撮影した映像が送られてきた。
「夜露から映像来ました」
電測員からの報告を受け、
「映像をモニターに出して下さい」
刹那の言葉に従い、電測員が送られてきた映像を正面のモニターに映した。
「これが、正体不明の大型艦ですか・・・少し遠いですね・・・映像から艦解析出来ますか?」
「出来ます。少々お待ち下さい」
電測員はそう言うと、送られてきた映像の解析を始めた。
「しかし、何なんだろうな、あの艦は・・・」
一真が琴音にそう尋ねると、
「分からないわ・・・今の国に私達のこの艦みたいに大型艦はアメリカ海軍の空母しかいない筈なのに・・・」
2人がそのように話していると、
「ちょ、長官、艦解析が終了しましたが・・・」
電測員が青ざめた顔で刹那に話しかけて来た。
「如何したんですか?」
刹那が不思議そうに尋ねると、
「そ、それが、解析した結果・・・あの艦は、な、長門型戦艦1番艦戦艦長門と判明しました」
「「「「えっ!?」」」」
「そ、それは、本当に間違いないんですか?」
さすがに、刹那も動揺を隠せず、もう一度電測員に尋ねた。
「は、はい。間違いありません。確かに戦艦長門だと・・・」
その様に話していると、
「長官!夜露より入電。{ワレ、不明艦ニ停船命令ヲ受ケタ}です!」
通信士からの報告にCICは騒然となったが、
「分かりました。本艦以外は機関停止。本艦は不明艦に接近します」
刹那が命令を下し、瑞樹を除く全艦は停止し、瑞樹は不明艦に近づいて行った。
『長官、不明艦より発光信号!{貴艦ノ所属ヲ述ベタ上デ停船セヨ。確認後、臨検隊ヲ派遣スル}です!』
艦橋で見張っている兵士から報告が入った。
「そうですか・・・」
刹那は少し考えると、
「あちらに,素直に従った方が良さそうですね」
刹那はそう言うと、艦内電話を手に取り、
「艦橋、発光信号で、此方の所属と停船することを伝えて下さい」
『了解しました』
「いいの?本当に私達のことを言っても」
小夜が不安そうに刹那に尋ねると、
「構いません。それに、早めに言っていた方がいいでしょう」
刹那はそう言い、モニターに映る不明艦を見つめていた。
~戦艦長門艦橋~
「何なんだあの艦隊は?」
艦橋でそのように呟いたのは、戦艦長門10代目艦長である園田実大佐である。
「艦長、不明艦より発光信号を受けました!」
水兵の言葉に、
「それで何と言ってきた?」
「はっ、{此方ハ、日本国海軍太平洋艦隊旗艦瑞樹ナリ。貴艦ノ指示ニ従イ停船スル}であります!」
「太平洋艦隊?戦艦瑞樹?何だそれは?聞いた事が無いな・・・」
園田が信号の内容に首を傾げていると、
「艦長、臨検隊の準備が完了しました」
艦橋に、臨時で編成した臨検隊の隊長が報告に来た。
「そうか。臨検隊には、俺も同行するとしよう」
園田はそう言うと、隊長と共に艦橋を出て内火艇に乗り込んで、不明艦へと向かった。
~戦艦瑞樹CIC~
『長官、不明艦から、小型艇が2隻向ってきます!』
艦橋からの報告に、
「多分、戦艦長門の臨検隊でしょう。ラッタルを下してください。それと、保安部も召集して下さい」
「「「了解しました」」」
刹那が冷静に命令を下し、その指示に従い水兵達が行動していく。
『保安部第1、第2小隊は甲板に集合。第1狙撃班は艦橋に狙撃ポイントを設置して下さい』
保安部を招集する放送を聴きながら、刹那は、モニターを見つめていた。
「長官、保安部の召集完了しました。既に、配置も完了しています」
艦長である琴音の報告に、
「ご苦労様です。では、行くとしましょうか」
刹那はそう言うと、小夜を連れてCICを後にした。
~内火艇~
「でかいな・・・ビック7に数えられる長門よりもでかいかもしれん・・・」
内火艇が近づいて行くうちに不明艦の巨大さが分かり、その姿を観て園田は呟いた。
「艦長、あれは、アメリカ艦でしょうか?」
近くにいた38式小銃を持つ兵士が尋ねてきた。
「いや、あの艦の艦尾に旭日旗が上がっている。間違いなく日本艦だろう・・・しかし、あんな艦を建造していたなんて聞いていないな」
そう言い、改めて不明艦を見ると、
「艦長!不明艦からラッタルが降ろされています!」
一人の兵員の言葉に、
「よし、ラッタルから不明艦に上がるぞ!」
園田がそう言い、2隻の内火艇はラッタルへと艇を寄せた。
~戦艦瑞樹甲板~
「しかし、間近で見ると本当に大きいな・・・」
園田は14年式拳銃を抜いてラッタルを上がりながらそう呟き甲板上に上がると、
「なっ!?」
園田達が完全にラッタルを上がりきると、其処には、黒色の軍服を纏っている兵士達が自分達の見たことが無い銃の銃口を自分達に囲んで向けていた。
園田達は知らないが、この臨検隊を囲んでいるのは、戦艦瑞樹保安部の第1、第2小隊60名(海上自衛隊特別警備隊の姿を想像して下さい)で、向けている小銃は89式小銃である。
「か、艦長下がって下さい!」
一瞬怯んだ兵士たちだったが、直ぐに、園田を後ろに下がらせ、自分達も38式小銃を向ける。
「自分は、大日本帝国海軍戦艦長門艦長園田実大佐である!貴艦の代表者と話がしたい!」
園田が兵士達に守られながらそう叫ぶと、取り囲んでいた人垣の中から2人の女性が前に出て来た。
「園田大佐、私は、この艦隊を預かっている日本海軍太平洋艦隊司令長官如月刹那大将です」
「同じく、参謀長の更級小夜です」
2人の女性の自己紹介に、
「お、女?ほ、本当に貴方達が司令長官と参謀長か?」
女がそのような重要な役職に本当に就いているのかと疑うようにもう一度尋ねると、
「はい。そうです。立ち話も何なので、艦内にどうぞ」
刹那はそう言うと、保安部の隊員に銃を下すように合図を送り、園田を艦内に案内した。
~戦艦瑞樹 会議室~
「単刀直入に尋ねます。如月長官、貴方達は何者ですか?」
園田のもっともな問い掛けに、
「お答えしますが、一つだけ教えて下さい。今日は、何月何日ですか?」
刹那の言葉に少し訝しんだ園田だったが、
「今日は、1932年11月24日だが?」
「そうですか・・・」
園田の言葉に刹那は少し考えると、
「大佐、私達は93年後から来ました」
刹那が園田にそのように言うと、
「はっはっは、長官、私をからかっているのですか?未来から過去へ来るなどあり得ないではないですか」
園田はそう言って信じようとしなかったが、
「普通はそうですよね・・・大佐、一寸付いて来て下さい」
刹那はそう言い、会議室を出てCICへ向かった。
~瑞樹CIC~
「こ、これは・・・」
園田の目の前に絶句していた。それもその筈、園田の目の前には、巨大なモニターがあり如何にも未来的な光景が広がっていたからである。
「長官、此処は何をするのですか?」
園田がそう尋ねると、
「一言で言ってしまえば、戦闘指揮所です」
「戦闘指揮所?」
聞き慣れない単語に、園田はもう一度尋ね直した。
「はい。我々の時代では、此処で、主砲から対空火器の操作をしています」
「主砲には、人は居ないのですか?」
「はい。というか、この艦の兵器の全ては自動化されています」
刹那の言葉に、再び驚き、言葉が出なかった。
~瑞樹会議室~
CICを出て、再び会議室に戻って来た刹那は、
「如何ですか大佐、これで、我々が未来から来たという事は信じてもらえましたか?」
と、尋ねると、
「あぁ、あれは、確かに未来の光景だ。信じよう」
園田が頷き、
「有難うございます。それでは、これから日本が進む未来について話しましょう」
刹那はそう言うと、これからの日本の歴史を話し始めた。
「日本が・・・帝国が、米国に無条件降伏するのか・・・」
刹那からの話を聞いた時、信じられないという表情だったが、小夜が図書室から持って来た、空襲を受けた写真や沖縄戦の写真を見せて、園田は目に涙を浮かべていた。
「長官たちの艦隊は、これから如何するのですか?」
園田がそう尋ねると、
「全員には話していませんが、日本を守る為に戦いたいと思っています」
「守る為?」
刹那の言葉に、園田は首を傾げた。
「そうです。我々は、日本を私達の時代の日本にしない為に戦います」
「そうですか。では、艦隊の行動が決定したら長門に発光信号を送って下さい。我々は、待っているので」
園田はそう言うと、臨検隊を連れて、長門へと戻って行った。
~瑞樹CIC~
「通信士、艦隊放送と艦内放送に繋いで下さい」
「了解しました」
通信士に通信を繋がせると、全員にこれからの行動を伝え、暫く考えるように告げた。
「長官、全艦から返答が来ました。全艦、旗艦と行動をとると言う事です」
通信士の報告に、
「そうですか。この艦は、良いのですか?」
刹那が尋ねると、
「当り前でしょう。参謀長は、長官の女房役。何処までも付いて行くわよ」
「俺もだ、刹那に何処までも付いて行くぜ」
「私も、この艦と共に刹那に付いて行くわ」
「艦長が付いて行くなら、副官の私も長官に付いて行きます」
小夜、一真、琴音、詩織がそう言うと、他の兵員達も参加する旨を伝えた。
「皆、有難うございます。長門に信号、{ワレ、貴艦ノ指示ニ従ウ}」
刹那が言った通りに艦橋から信号が送られると、
『長門より返信、{我ニ続ケ}です』
と、艦橋より報告があった。
「そうですか。全艦、機関始動。長門に続き、横須賀港に向かいます」
刹那がそう告げ、太平洋艦隊は、横須賀港へと入港した。
横須賀港に入港し、翌日、海軍や陸軍に自分達の事を説明し、臨時で開かれた御前会議で、日本の未来を告げた。会議の結果、太平洋艦隊は、命令系統が独立している独立連合艦隊として海軍に籍を置く事が決定した。また、海軍の艦艇の改造や、陸軍兵器の設計や製造、太平洋艦隊の使用兵器の製造を行う為に、技術者を技研や三菱などから招集して貰い、小百合達が現代兵器の構造の解説を行い、それらを生産する工廠の増設を行っていた。
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