天国への階段
深夜、男は自分の病室で目が覚めると、さっきまで寝ていた場所には血の気が無い自分がいた。
「俺は死んだのか……」
男は重い病気を患っており、この晩が峠と言われたのだが、どうやら越えることが敵わなかった様だ。
男は自分の命が尽きたことに悲観していると、空から光が降ってきて男の前に階段が現れた。
『私は神様です。この階段は天国へと続く道です。最後まで登りきれば、あなたは晴れて天国行きです』
階段の先はいつもの病室の天井ではなく、金の光あふれる空へと延びていました。
男は頂上を目指して階段を上り始めた。
天国への道は遠く、階段は何千何万段もありました。
男は気の遠くなるような思いで階段を一段また一段と登って行きました。
そしてようやく……。
「やった! これで最後だ」
男は階段をすべて登り切って天国につくことが出来ました。
一方、男が天国についた同時刻。
ここはとある病院の集中治療室。手術台の上には男が乗っている。
「先生! 患者の心配が停止してから五分、脳波が今停止しました」
「くそっ、我々の力が及ばずここまでか……。深夜二時四八分、患者の――の死亡を確認」
医療機器の電源を落とし、男を治療していた医師は力なく項垂れた。
この様子を男は空の彼方から眺めていた。
実は天国への階段を上っている最中、男はまだ死んではいなかったのだ。
「まだ死んでいなかったんじゃないか!」
男は天国で未だ姿の見えない神様に向かって吠えた。
すると短い返事が返ってきた。
『だから言ったでしょう? 最後まで登りきれば、あなたは晴れて天国行きだと』