■chapter 0 愚者
―― 工藤新一に関する調書 ――
工藤新一。
帝丹高校2年B組。
身長174cm、体重58kg。
父親は世界的に有名な推理小説家、工藤優作。
母親は元女優、藤峰有希子。
現在は米花市米花町の豪邸で一人暮らし。
幼なじみで恋人と噂される、毛利蘭が家事の面倒をみている模様。
推理オタクであり、中でもシャーロック・ホームズの大ファン。
通称、「東の名探偵」「平成のシャーロックホームズ」
――白馬とは違うタイプの探偵……そして、初めて怪盗キッドを追い詰めた男。
「げっ。すっげーおぼっちゃんじゃねーか。白馬といい、工藤といい、探偵は金持ってねーと出来ねぇのか?」
黒羽快斗はひとりぐちると、受け取った資料に目を通しながら、ロッキングチェアから両脚を放り出した。
亡き父の付き人であり、怪盗キッドの良き協力者である寺井黄之助から、工藤新一に関する調書が揃ったと連絡を受けたのが今朝のこと。快斗は授業が終わると早々に寺井の家に足を運んでいた。
それにしても。と、寺井はすっかり寂しくなった頭をかいてつぶやいた。
「快斗ぼっちゃまにそっくりですな。顔かたちだけでなく、背格好や声まで」
メガネの奥の、目尻にシワを刻んだ優しげな瞳は、ディスプレイに映し出された高校生探偵のインタビュー動画を追っている。
「いやぁ、ラッキーだったぜ」
快斗はイタズラを思いついた子供のようにニヤリと笑った。
「鈴木財閥関係者を洗っていたら、工藤新一が出てきたんだからな」
快斗がパチンと指を鳴らすと、三枚の写真が指の間から現れた。
「ブラック・スターに近づくには……三女の鈴木園子か、彼女の親友でもある毛利蘭か、工藤新一か……だな」
寺井は、机の上に置かれた毛利蘭の写真を手に取ると、感慨深げに口を開いた。
「"工藤新一"が"黒羽快斗"にそっくりなだけでなく、幼なじみである"毛利蘭"と"中森青子"もそっくりだとは……なにやら、因縁めいたものを感じますな」
「そっかぁ?」
快斗は資料から別の写真を取り出し、ニヤリとすると、だらしなく顔を崩して眺めはじめた。
「青子よりずっとスタイルいいぜ」
その台詞で寺井は、快斗の手にある写真がどのようなものか、想像がついた。手に入れるのにとても苦労した……毛利蘭の水着姿の写真であろうことが。
「工藤新一は、最近は事件にかかりきりで学校に来ていないようですな」
「そうみたいだな。一度間近で拝んでみたかったけど……まぁ、とりあえず今回は工藤に変装して敵状視察といきますか」
快斗は蘭の写真を胸ポケットにしまいこむと、ゆるんでいた顔を引き締める。そして、工藤新一のデータを頭に叩き込むべく、口調・癖・嗜好・思考手順などをトレースし始めた。
「声は……ほぼ同じだから問題ないな」
目を閉じて工藤新一の声を何度も聞きなおすが、自分が話しているのかと勘違いしそうになるほど、快斗の声と似ている。
「資料から察するに、目立ちたがり屋で自信家。それに……キザだな。……って、人のこと言えねー……」
快斗は半笑いになって、目を通していた工藤新一の言語録から顔を上げる。
「高校生探偵なんて言われてるし、かなり切れるヤツだな。白馬と同等か……それ以上か……」
初めて工藤新一と対峙したあの時計台事件の夜。町のシンボルであり、思い出の場所を守ろうとした怪盗キッドを、かつてない窮地に追い込んだ高校生探偵。
あのスリルに満ちた夜を思い出すと、快斗はゾクゾクするような感覚に知らず口端を持ち上げていた。
「さぁて……鈴木家の面々は調査済み。鍵になる鈴木園子と毛利蘭を観察させて頂きますか。それに、毛利蘭から工藤の情報を仕入れられるかもしれねーしな」
これからも怪盗キッドの前に立ちはだかるであろう、工藤新一の弱みを握れたら面白いと、ほくそ笑む快斗であった。
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