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Silvia 〜冒険者たち〜
作:イオン



【#4 任務】


「随分と揺れるのだな」

 乗り込んだ馬車が大街道を外れてから数分経った頃、シルヴィアがポツリと漏らした。
 相当道が悪いのだろう、ジルと共に乗り込んだ馬車はガタガタと小刻みに揺れていた。その度に馬車はキシキシと軋みをあげて、今にも分解するのではないかとひやひやさせられる。

「わっ、ぷ!」

 突然襲い掛かってきた一際大きな揺れで尻が座席から浮き上がり、シルヴィアは危うく転びかけた。

「しっかりと掴まってた方がいいぞ」
「そ、そのようだ」

 注意したジルは涼しい顔で手すりに掴まっていた。失態を演じた恥ずかしさに頭が熱くなるのを感じながら、シルヴィアもそれに倣う。

「一体この道は何なのだ? 街道とは違うようだが……」
「裏街道だ」

 思わず口をついて出た悪態混じりの疑問に、ジルが短く答えた。シルヴィアの頭の上に疑問符が浮かぶ。

「裏、街道?」
「ああ。行商人や冒険者の近道だ。国が整備した大街道とは違って、人が行き来するうちに出来た道なんだ」
「なるほど。馬車が揺れるのはそのせいか」

 国が管理している正式な街道は埋まっている小石などが取り除かれているほか、場合によっては舗装までされている。だから尻が浮くほど馬車が激しく揺れることはまず無い。
 しかし今進んでいる裏街道がジルの言った通りのものだとすれば、十分に整備されておらず道が悪いのも納得できた。馬車がまた大きく揺れる。

「国が管理していない裏街道か。道理で魔物が出ても騎士団が動かないわけだ」

 裏街道の話を聞いて、先程受けた任務の全貌も掴めて来る。
 シルヴィアとジルのペアが初めて受けた任務は、「橋の上に居座った魔物を退治してほしい」というものだった。王都から馬車で二時間ほどの所にある橋に大型の魔物が居座り、旅人や近隣の住民が通れなくなっているのだそうだ。
 最初この任務の話を聞いた時、シルヴィアは不思議に思った。
 人の通る道の近くに魔物が出たなら、騎士団がそれを即座に退治に出るのがこの国の常識である。だからこの依頼がなぜギルドに回ってきたのかが、シルヴィアにはわからなかった。
 その答えが裏街道だ。これから向かう橋が正規の街道ではない裏街道上にあるというのなら、騎士団の目が届かないのも無理はない。

「……依頼者は近隣の住民だったか。ということはこの先に村かなにかあるのだな?」
「そういうことだ。そもそも道があったらその先には人里があるものだろ」
「あ、うむ。それもそうか」

 シルヴィアは納得したように頷きながら、自分の中の常識が貴族の中でしか通じないものだということを思い知っていた。
 思えば、幼い頃より教養と礼儀作法を教わってきても裏街道のことも含めて平民の生活の事なんてちっとも教わっていない。男に負けない剣術の実力があっても、やはり自分は何も知らないお嬢様に過ぎないのだということを痛感させられる。
 しかしその一方でジルが聞かせてくれる説明は新鮮で面白く、もっと聞いていたいと思った。
 その思いを汲んでくれたのか、それとも彼の親切か。ジルはシルヴィアが訊いていない事も丁寧に教えてくれた。





 王都を出て二時間後。馬車は橋の近くの村に到着した。
 ジルが軽やかな足取りで馬車を降り、その後に続いて腰の辺りを押さえたシルヴィアが這い出てきた。彼女は慣れない揺れで尻を痛めていた。
 到着した村は民家が十軒ほどしかない農村だった。みんなの他には畑と水車小屋と小さな教会があるくらいで、シルヴィアの前には長閑な田園風景が広がっていた。
 やがて馬車の到着に気づいた村人達が集まってきた。

「おお! おめえさん達がギルドの隊員だか?」
「そ、そうだが」

 話しかけてきた村の代表らしき男の訛りの凄さにシルヴィアは少し驚いた。

「いやぁ、こんなに早く来てくれて助かっただぁ。橋が使えねぐってあっちの行商が来られんようなって困ってただよ!」
「橋はどこだ?」
「おうさ。んだら、こっちゃ来い」

 ジルに促され、男は手招きしながら歩き出した。
 二人はその後に続いて村を突っ切っていく。その途中、シルヴィアが小声でジルに尋ねた。

「ジル、この地方はこんなに訛りがあるのか。まだ王都からさほど離れていないのだぞ?」
「裏街道の農村なんてこんなもんだ。むしろどんなに距離が遠くても表街道沿いの方が訛りは少ないぞ。シルヴィアやプリシッラだって訛りはほとんど無いだろ?」
「そういえばそうだ」

 シルヴィアとプリシッラの出身地は王都から遠く離れたアヌウン地方だが、彼女たちにも訛りは無かった。シルヴィアはレンスターでも指折りの大都市“エレスサル”の生まれ。プリシッラは街道沿いの小さな町の生まれだと言っていた。

「ジルも訛りが無いが、お前も街道沿い生まれなのか?」
「いや、違う……俺は親が行商をしていたから自然に共通語を覚えただけだ。俺には故郷なんて無い」

 そう言ったきり、ジルは押し黙った。
 故郷が無い、と言った彼の声に拒絶が含まれているのを感じて、シルヴィアも口を閉ざす。気まずくて掛ける言葉が見つからなくなってしまった。

「ほれ、あすこだべ」

 黙って歩くうちに橋に着いていた。
 男が道の先を指差す先に石橋が架かっていた。幅が四十メートルを越える河にある、かなり大きなものだ。そしてその真ん中に、これまた大きな魔物がどっかりと居座っていた。
 カマキリ虫型の魔物“ギガントマンティス”。
 両腕は切れ味の良い鎌になっており、性格は獰猛。そして人食いをすることで恐れられている魔物。体長は二メートル前後。しかしこの橋にいる個体は――――――

「やけに大きくないか?」
「ああ。でかいな」

 橋の上にいる魔物の体長はおよそ四メートル強。通常の倍くらいのサイズがあった。

「“変異体”だろうな。こいつは」
「変異……これが?」

 魔物は時になんらかの異変で変異を起こし、通常ではありえないサイズや能力を持つことがある。そういう個体を“変異体”と呼ぶのだと、シルヴィアは家庭教師から習ったことがあった。

「だから人里に?」
「そんなところだろ」

 “変異体”は魔物たちの中でもとびきりの異物だ。そのため生態系の中から弾かれやすい。住処を失った彼らが餌を求めて流れ着くのは人里だ。
 通常個体なんかより恐ろしく強い上に、発生すれば高確率で人里に現れる。それが変異体が恐れられる最大の理由だった。

「なんて事だ。一体どうすれば……?」

 シルヴィアは変異種の魔物の出現により混乱し、恐怖した。
 通常の魔物ならともかく、こんな奴どう対処していいかわからない。本と授業でしか知らない知識ほどこういう不測の事態が起こったときに頼り無いということを、シルヴィアは思い知らされた。
 一方、ジルはシルヴィアよりも冷静だった。

「どうするもなにも、初めから闘うしか選択肢は無いぞ」

 大人しく退くかそれとも闘うか、二つの選択肢の内ジルは闘う方を選んだ。
 確かに相手の能力がわからないのなら一旦退くというのも一つの手だ。しかし目の前の魔物がいつ橋を越えて村を襲うかわからない。何日も後かもしれないし、もしかしたら数秒後かもしれない。
 故に、ここでこの魔物を放置する事は百害あって一利無しだとジルは考えた。

「んだら、まがせただよ。信じでるかんな!」

 言うや否や、村人は巻き添えにならないよう橋から離れて村に駆け戻っていった。少し薄情な気もするが、ここに居られても邪魔だったので結果的に追い返す手間が省けた。
 ジルは大剣を右手に下げて、悠然と橋を渡っていく。シルヴィアも腰の剣を抜いて、半ば慌て気味に付いて行った。
 殺気に反応してか、今まで沈黙していたギガントマンティスの目に光が宿り、目を覚ました。

「キシュアアァァァァ!!」

 奇声をあげる魔物。二人はそれぞれ得物を手に身構えた。
 ギガントマンティス変異体は目覚めてもすぐには襲ってこなかった。代わりにその陰から変異体の半分の大きさの個体が二体現れた。
 二体の魔物は二手に別れ、左右から襲い掛かってくる。シルヴィアとジルはそれぞれ左右に展開してそれに対応した。
 振り下ろされる腕の鎌。
 シルヴィアはそれを軽やかな動きで躱し、直後の隙を突いて胸部に剣を突き入れた。虫型の魔物特有のバリッとした手応えに、思わず顔を顰める。

「ギ……」

 動きが鈍った隙にシルヴィアは剣を大きく振り被った。
 斜め上からの打ち下ろし。魔物の身体を袈裟懸けに斬り裂く。
 真っ二つになった魔物は地面に倒れ、そのまま絶命した。

「ジル!」
「ああ」

 シルヴィアが呼びかけた頃にはジルも既に相手を斬り倒していた。
 手下を倒され、ギガンマンティス変異体が本格的に動き出す。二人は剣を構え直した。
 先に動いたのはシルヴィアだった。気合の雄たけびを上げながら、ギガントマンティスにむかって突進して行く。
 そんな彼女を切り捨てんと、変異体の大きな鎌が迫る。
 シルヴィアは駆ける速さを緩めないまま、地面スレスレまで身体を沈ませてそれを潜り抜けた。鎌を振ってできた隙を突いて、変異体の懐に飛び込む。

「はっ!」

 斜め下から斬り上げる。
 しかしシルヴィアの剣は硬い音と共に跳ね返された。硬い感触と強い振動が刃を通して伝わってきて、腕が痺れた。
 刃を受けた魔物の身体には傷一つ付いていない。
 シルヴィアは地面を蹴って後ろに飛び、一旦間合いを外した。

「硬い……。これが変異体というものなのか!?」

 通常個体をアッサリと切り裂いた剣が変異体には全く刃が立たない。その事実にシルヴィアは少なからずショックを受けた。

「俺が行く。援護を頼むぞ」
「ジル!」

 シルヴィアが何か言う暇も無く、ジルが魔物に駆けていく。
 大剣を大きく振り被り、渾身の力を込めて横薙ぎに振りぬく。
 その一撃を受け止めようとした鎌は、ジルの激烈なパワーに押されて跳ね上がった。次の一撃を受け止める事が出来ず、大剣は節くれ立った足を一本斬り飛ばす。

「ギャアァァァ!」

 魔物が不快な悲鳴を上げた。
 ジルは攻撃を続けようとするが、苦し紛れに滅茶苦茶に振り回された鎌に邪魔されて下がらざるを得なくなる。

「鎌は斬れないな」
「ならばこれではどうだ」

 シルヴィアの声が朗々と響き渡る。

「イス、アンスール、ウル、ケン。
 其はより強く。其はより鋭く。
 気高く美しき、軍神の剣と為さん。
 勇壮たる光を此処に――――――ストロンガ!」

 ジルの呟きに応えるように絶妙なタイミングで、シルヴィアの魔法が発動した。
 白い燐光を帯びる大剣を手に、ジルは口の端を吊り上げて笑った。

「助かる」

 ジルは再びギガンマンティス変異体に向かって行く。
 自分の剣にも魔法を掛けたシルヴィアが少し遅れて続いた。

「ふんっ!」

 ジルは強く踏み込み、斜め下から大剣を振り抜いた。
 左の鎌が中程から斬り飛ばされ、下の河に落ちる。返す刀で脚を三本切り落とし、鎌の無くなった左側へと回り込む。

「でやぁぁっ!!」

 魔物の目がジルに向いた一瞬の隙を突き、シルヴィアが向かっていった。
 慌てたように振り回される右の鎌。その攻撃はあまりにも拙い。
 シルヴィアは鎌の軌道をやすやすと見極めると、ギリギリまで引き付けて躱した。
 攻撃後の隙を衝いて剣を振る。
 シルヴィアの剣は迅いが軽い、同じことをやってはジルのようなダメージは望めない。だから狙うのは、甲殻の薄い間接の狭間。

「ギシャアャアァァァ!!」

 シルヴィアの剣が右の鎌を切り落とした。
 それと同時に左に回っていたジルが胴体に斬りつける。続けてシルヴィアも右側面に回り、脚と胴体を斬った。
 悲鳴を上げながら激しく暴れる変異体。
 再び正面に回ったジルは懐に飛び込み、胸部を切り裂いた。深い傷を負い、魔物の身体が硬直する。

「とどめだ!」

 シルヴィアが魔物の背に跳び乗り、背中の上を駆けて頭部に迫る。
 裂帛の気合と共に振り抜いた剣。それは魔物の首の付け根を捉えた。
 魔物の正面にいたジルの上を跳び越え、シルヴィアは赤いスカートをなびかせながらふわりと舞い降りた。
 剣を振って体液を払い落とし、鞘に収める。
 高い鍔鳴り。それと同時に首を失った魔物の体がどうっと倒れた。
 魔物の絶命を確認したジルは、大剣を背中に納めながらシルヴィアの方に寄って来る。

「怪我は無いな?」
「え……あ、ああ」
「ならいい」

 シルヴィアに怪我が無いことがわかったからか、ジルは表情を弛緩させて深い安堵を露にした。
 その表情にシルヴィアの心は不思議と安らいだ。
 魔物との戦いでささくれ立った心が穏やかさを取り戻し、同時に“どうしてこんなにも安心できるのか”という戸惑いが生まれた。

「任務完了だ。帰ろう」
「あ、うむ。雨も降りそうなことだしな」

 ジルに促されたシルヴィアは空を見上げた。
 厚い雲が低く立ち込め、灰色に染めている。黒髪を撫でる風が湿っぽくなってきた。

「雨は、嫌いだ」

 帰り際、ジルが哀しそうにそう呟くのを確かに聞いた。





 雷を伴った、叩きつけるような夕立は二時間ほどで止んだ。
 薄くなった雲の間から淡い月が覗き、深々とした夜を演出している。
 本部屋上の訓練場。冷たく湿った夜の空気の中、稽古着姿のシルヴィアは剣を振っていた。

「はっ! やぁ! せいっ!!」

 裂帛の気合。強い踏み込み。心地良い風切り音。
 シルヴィアの引き締まった肉体が舞うように躍動する。セミロングの黒髪が動きに合わせて跳ねる。
 そんな彼女のまわりを、風が舞い踊っていた。
 愛でるように、悦ぶように、鼓舞するように。優しい風が彼女を祝福している。

(王都に着いてから、いろいろあったな……)

 剣を振りながら、シルヴィアはこの三日のことを考えていた。
 王都についた日。スリに遭って全財産を失って、彼らに出会った。
 次の日。北の遺跡に冒険に行った。そしてギルドに入ることになった。
 そして今日。新しい服を買って、髪を切って、≪ストライダー≫に入った。任務も一つこなした。
 この三日間のなんと濃密なことだろう。あまりにも刺激的過ぎて、それまでの人生が味気なくすら思える。

(いや……)

 実際に味気なかったのだと思う。
 王都に来るまでシルヴィアが過ごした時間は、あまりにも空虚だった。
 空虚。その言葉が昼間この場所での出来事を想起させる。

『“自分がなんのために剣を執っているのか”、本当にわかっているのか?』

 答えることが出来なかった。いや、シルヴィアは答えを持っていなかった。
 今思えば、クライドに語った騎士になりたい理由は欺瞞だらけだった。
 自由になりたいなんて実に馬鹿馬鹿しい。それを言うなら、家出してここにいる時点で自由ではないか。
 結局、逃げでしかなかったのだと思う。なにもない空虚な自分からの。今のシルヴィアは現実から逃避して剣を執り、ここに立っているのだ。

(卑怯だな、私は)

 剣を振る手が止まった。
 シルヴィアは剣を放り出して仰向けに寝転んだ。
 荒い息を吐きながら空を見上げると、雲はいつの間にか流れ去って星空と満月が見えた。
 噴き出た汗でじっとりと濡れたチュニックが、風に当たって冷えてくる。

(いつかわかる日が来るのだろうか?)

 濃密な日々は明日からも続く。その中で、果たして自分はここにいる理由を見出せるのだろうか。
 わからない。けれど――――――

「そんな格好で寝てると風邪引くぞ」
「な……!」

 不意に声を掛けられて、シルヴィアは慌てて身を起こした。
 いつの間にかジルが現れていた。その姿にシルヴィアは思わず見惚れた。
 マントを脱いで剣も担いでいない。軽装から伸びる腕は鍛え上げられて太く、胸板も厚かった。非常に男らしい体格だ。
 剣を学ぶにあたって自分が女であることを恨んだ経験のあるシルヴィアだけに、ジルの鍛え上げられた身体つきは余計に美しく見えた。

「これを着ておけ」

 呆けていたシルヴィアにジルが何かを投げて寄越した。
 受け取ってみるとそれは彼がいつも着ているマントだった。

「す、済まんな」
「気にするな。風邪を引かれたら俺が困る」

 シルヴィアは受け取ったマントを肩からかけた。
 長身のジルの持ち物だけあってマントは長く、足までかけてもなお余裕がある。身体をすっぽり覆ってしまえば雨に湿った空気の冷たさも感じない。
 マントを渡したジルはシルヴィアの隣に腰掛けた。

「なぜここに?」
「ちょっとした散歩だ。雨上がりはいつも気分が優れない」

 シルヴィアの問いにジルは哀しそうに言った。
 どうして雨が嫌いなのか少し気になったが、シルヴィアは彼の声に拒絶が含まれていることに気づいていたので言葉を飲み込んだ。
 会話が途切れる。冷たい風が二人の間を隔てるかのように吹き抜けた。

「シルヴィアは稽古か?」

 沈黙を破ったのは意外にもジルだった。シルヴィアは少し驚いた顔で頷いた。

「うむ。ガーゴイルのときと言い昼間と言い、ジルには助けられてばかりだからな。せめて足を引っ張らぬように強くならねば」
「真面目だな。だけど俺は足を引っ張られたなんて思っちゃいない。自信を持っていい、シルヴィアは強い」
「ほ、褒めてもなにも出んぞ!」

 不器用で嘘をつけないジルに真っ向から褒められ、頬が熱くなる。シルヴィアは照れ隠しにマントを頭からかぶって顔を隠した。

「別に何かを期待しているわけじゃない。ただ単に事実を言っただけだ」

 言いながらジルは立ち上がる。

「そろそろ帰るか。ほら……」
「なっ……!」

 シルヴィアは目を丸くした。立ち上がったジルが手を差し伸べているのだ。
 手を引いて立たせてくれようとしているのだろうが、ただでさえストレートに褒められて照れているというのに、その上さらに手を取るなんて恥ずかしすぎる。
 けれど、シルヴィアはやはり上流階級の貴族だった。女性としての作法を叩き込まれている彼女には、ジルの気遣いを無碍に断ることが出来なかった。
 気恥ずかしさと礼儀を天秤に掛けて、しばしの逡巡の後、シルヴィアは礼儀をとった。
 手を伸ばす。すると、大きく暖かい手がシルヴィアの手をとった。

「行こう」

 シルヴィアを引っ張って立たせると、ジルは手を離して踵を返した。

「あ……」

 暖かい感触が離れていく。
 シルヴィアは心の中に名残惜しく思った自分がいるのを感じた。


To be continued








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