【#1 出会い】
レンスター王国の王都“マグメルド”は今日も多くの人で賑わっていた。
メインストリートは冒険者や行商人、貴族や近所の主婦など様々な人が行き交っている。立ち並ぶ商店の前では商人達が精一杯に声を張り上げて客を呼び込み、道の端のスペースには行商人らしき者たちが露店を広げて地方や他国の珍しい物品をずらりと並べていた。
顔を上げて見れば道の先には巨大な白い建造物。レンスター王国の中心であり、王権の象徴でもある“マクリール城”が威風堂々と建っていた。
東西南北それぞれの通用門から城に向かって伸びる四本の大通り。その内の一本、西側の大通りを一際目立つ女剣士が歩いていた。
道行く人々が彼女とすれ違っては足を止めて振り返る。その反応は様々だ。
腰まで届く美しい黒髪が揺れる度に男たちはどぎまぎし、女性にしてはやや高い身長と目鼻立ちのスッキリした中性的な容姿に少女達が色めく。美しい容姿に嫉妬する者がいれば、醸し出される高貴な雰囲気によからぬ事を考える連中もいる。
自分の容姿が注目を集めていることにも気付かず、その女剣士、“シルヴィア”は無自覚のまま繁華街を横切って行った。
やがて彼女は商店の外装がやや豪華な区域に差し掛かった。
その周辺に建ち並ぶ店のほとんどが金持ちや貴族を対象としている区画だった。一般の平民には近寄りがたい雰囲気があるためか、人通りがぐっと少なくなる。
(あった)
お目当ての建物はすぐに見つかった。
宿泊費がべらぼうに高いと誰でも一目でわかるような瀟洒な外見の宿屋だ。看板の端っこには平民お断りとまで書いてある。
シルヴィアは宿屋を眺めて、これから始まる新たな生活に思いを馳せる。
今日からここを拠点にして修業を積み、半年後に行われるセレクション、つまり“帝威騎士団”の入団試験に備えるのだと思うと、心が躍った。
(よし!)
拳を握って、落ち着かない気持ちを抑えつけると、シルヴィアは豪華な彫刻の施された扉を押し開けた。
取り付けられたドアベルが澄んだ音を立て、それを聴きつけた支配人がすぐにやって来る。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」
支配人はシルヴィアの姿を見て一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに営業スマイルに戻って慇懃な態度で応対した。
「いや、予約は取っていない。部屋は空いているか? 半年ほど滞在したいのだが……」
「大変失礼ですが、お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
丁寧に言いながらも支配人はシルヴィアを胡散臭そうに眺めた。
彼がそんな態度を取ったのも無理も無いかもしれない。シルヴィアはすれ違う人の八割以上が振り返るほどの美女だが、服装は白いチュニックに茶色のズボン、ベージュのベストという男装で、腰の剣帯には無骨な長剣を吊っている。よくよく見ればどれも上質な高級品なのだが、一見したところでは典型的な旅の剣士の格好だった。少なくとも貴族の令嬢のそれではない。
しかし当の本人は疑われている事に気付きもせず、堂々と名乗った。
「“シルヴィア・エルデ・シュトラウス”だ」
シルヴィアはフルネームを名乗り、身分を示す金のペンダントを首元から取り出して見せた。
ここレンスター王国では姓と名の間に入るミドルネームは、貴族だけが名乗ることを許される。また金のペンダントは貴族の中でも特に身分の高い者だけが身につけることを許される特別な装飾品であった。
支配人はしげしげとペンダントを眺めて微かに唸った。ペンダントのプレートにはアルバトロスの紋章が象られている。
伯爵以上の地位を示す金のペンダントにアルバトロスの紋章。それは西方の大貴族、シュトラウス家のものだ。ペンダントが持ち主以外に所持できない魔法が掛かっている品である以上、目の前の女剣士が貴族の令嬢であることは間違い無かった。
久しぶりの上客の気配に、支配人は精一杯の営業スマイルを浮かべた。
「半年間の滞在でございますね? 当店では長期のご滞在となる場合、宿泊費の半分を前金で頂く決まりとなっております」
「承知した」
シルヴィアは頷いて、腰の後ろを探った。しかしその手は空を掴んだ。
「ん……?」
不審に思ったシルヴィアは、腰の剣帯に目を落とした。するとそこに括り付けてあった筈の財布が影も形も無かった。
嫌な予感がした。脇の下を冷たいものが流れる。
慌てて荷物袋の中を探るが見つからない。焦って荷物をひっくり返したがどこにも無い。視界の端で支配人が笑顔を強張らせるのが見えた。
焦りと不安が極地に達し、シルヴィアの頭からダラダラと汗が噴き出た。
(落とした? いや、落としたなら気付くはず……まさか!)
シルヴィアは何者かに掏られたのでは、という考えに至った。
ここマグメルドは王都、レンスター王国で一番人が多い街だ。転じれば掏りなどをやらかす不埒者も一番多いということになる。メインストリートを歩いている時に掏られた可能性は十分にあった。通りを歩いてここに来る時、人込みの中で何度も人にぶつかった気もする。
「如何なさいましたか、シュトラウス様?」
支配人が慇懃な態度で訊いてくる。しかしその笑顔は明らかに引き攣っていた。シルヴィアの置かれた状況がわかり始めているようだ。
「まさか、払えないと申されるわけではありませんよね?」
「は、はははは……」
パニックに陥ったシルヴィアは乾いた笑いを漏らす事しか出来ない。
そして彼女のそんな反応は支配人の予感を確信に変えた。顔から営業スマイルがすーっと消えていき、怖いくらいの無表情になる。
シルヴィアが宿屋を追い出されたのはそれから数秒後のことだった。
夜。メインストリートは相変わらず人通りが多い。
しかし昼間とは違って子供や主婦の姿は少なく、代わりに夕方から飲んでいたのであろう酔客が千鳥足で歩いている姿がそこらに見られた。
当ても無く王都中を彷徨って疲れ果てたシルヴィアは道路の隅にしゃがみ込んだ。溜め息が漏れ出る。
季節は春の初め。昼間は暖かくても夜になればまだ冷え込む時期だった。
寒さで手が悴んで吐き出す息も微かに白い。シルヴィアは今すぐにでも屋内に入って暖まりたかったが、今や文無しとなった彼女には無理な話だった。
旅荷物のほとんどを王都に来るまでに使い切ってしまっているので野営も出来ない。このままでは今夜を越す事すらままならないかもしれなかった。
冷たくなった手に息を吐きかけながら「これからどうすればいいのだろう」と考える。
(上屋敷に行けば爺やがいるから、いざとなればなんとかならないでもない。けれどそうすると……)
シルヴィアは貴族である、それもシュトラウス家といえばレンスター西端のアヌウン地方の領主をしている伯爵家。レンスター王国でも指折りの大貴族だった。だから王都にもいくつか別邸があり、頼れる人がいないことも無い。
しかしシルヴィアは実家の関係する場所に頼るわけにはいかなかった。なぜなら彼女は両親と家出をして王都にやって来たからだ。
切っ掛けは先日の十八歳の誕生パーティで両親が勝手に宣言した許婚との婚約。そしてその後ある嫌な出来事を経験したことで、シルヴィアは生まれ持ってしまった柵を疎ましく思い、単身故郷を飛び出したのだった。
だから実家の関係者に頼ったりすれば直ちに連れ戻されてしまう。戻った先に待っているものは許婚との望まない結婚と、それ以後の生涯においてずっと家に縛られる運命。
そんなのは嫌だった。
子供のころから密かに胸に抱いていた、帝威騎士団に入団するという夢。それを果たせもせず、挙句の果てに望まない結婚をさせられるなど死んでも御免だった。
(けれど本当にどうしよう……)
一先ず実家に頼る事を抜きにして考えてみたがいい案は浮かばない。
故郷を飛び出してはるばる王都までやって来たというのに、新しい自分になろうとした矢先に思わぬ形で出鼻を挫かれてしまった。どんなに高い教養を身につけ、どんなに剣術の腕が立っても、所詮自分は世情に疎いお嬢様に過ぎないということをシルヴィアは思い知らされた。そんな自分が情けなくて悔しくて、目が潤んでくる。
声を掛けられたのは、そんな時だった。
「どうかしたのか?」
顔を上げると、無愛想な顔で自分を見下ろす背の高い青年と目が合った。そしてその瞬間、シルヴィアは己の奥底で何かが打ち震えるのを感じた。
なぜかそのまま身動きが取れなくなって、青年の顔をまじまじと観察してしまう。
歳の頃はシルヴィアと同じか、少し上ぐらいだろうか。髪は金髪交じりの夕日のような赤毛。足首まである黒いマントに身を包み、右肩の後ろには大剣の柄が見えた。
だが他のなによりもシルヴィアの心を惹きつけたのは彼の瞳だ。その色は世にも珍しい、奇怪とも言える金色。それが、物憂げだがどこか優しい輝きを秘めていた。
「大丈夫か?」
もう一度声を掛けられ、シルヴィアはハッと我に返った。
同時に青年への疑念が心中に芽生えた。
「き、貴様には関係無い」
シルヴィアはわざと険悪に答え、目つきを鋭くして青年を睨み上げる。
なにしろ掏りに全財産盗られた直後だ。また悪い目に遭うのではないかという不安がどうしても拭えない。
しかしどんなに怖い顔して睨んでいても、目じりに涙を溜めていては迫力に欠けた。
赤毛の青年は険悪な対応に気を悪くした様子もなく、どこか呆れたように溜息を吐いて淡々と言った。
「確かに関係無いないけどな。メインストリートとは言え女が一人歩きしていい時間じゃないんだ。早く宿に引き上げた方がいいぞ」
口調は乱暴だったが、一応シルヴィアを案じているらしい。無愛想な顔に似合わず親切なのかもしれない。
だが今のシルヴィアに宿云々は余計なお節介。その上不幸な目に遭って腹を立てていたので、ついに我慢の限界が来た。
「うるさい余計なお世話だっ!! 宿に戻れればとっくにそうしている!!」
勢いよく立ちあがりながら、往来中に轟く大声で怒鳴る。
すると次の瞬間、シルヴィアの腹がグ〜と鳴った。
「……」
「……」
二人は顔を見合せて絶句した。
シルヴィアの腹の虫の声はメインストリートの喧騒の中にあってもハッキリと聞こえるほどに大きな音だった。
色々あったせいで忘れていたがシルヴィアは昼から何も食べていない。金が無いから夕食にもありつけていなかった。
空腹に羞恥が伴って、へなへなとその場に腰をおろしてしまう。
「あんた文無しか?」
「う……」
青年にズバリと言い当てられ、シルヴィアは顔を赤くして逆ギレした。
「ああ、そうだ。文無しだ! 悪いかっ!!」
「いや……別に悪くない。文無しなら困っているんじゃないのか?」
「ああ、困っている。困っているが、それが貴様と何の関係がある?」
「儲け話がある」
青年の物言いにシルヴィアは怪訝な表情をした。
「……何を企んでいる?」
シルヴィアは青年を怪しんで警戒した。
どうも話の都合が良すぎる。こちらが文無しだからといって、こうもタイミングよく儲け話が転がってくるものではない。どうしても裏があるのではないかと勘繰ってしまう。
王都には詐欺の類いも多いと聞くし、うっかりこの男に付いて行ったがために人買いに売られるという事もありうる。実際掏りに遭ったばかりだ。
ましてやシルヴィアは女性である。要求されるものが身体でないとは言いきれない。
考えても疑いが膨らむばかりで信じることが出来ず、シルヴィアは胡散臭そうな目で青年を睨んだ。
「仮に儲け話が本当だとしても、どうやって貴様を信用しろと言うのだ?」
そう言うと、青年は眉間に皺を寄せて黙ってしまった。
睨み合ったまま、時間が流れる。
「あ、いたいた。お〜い、ジル〜〜ッ!!」
場が重苦しい雰囲気になりかけた時、少女の大声が通りに響いた。
シルヴィアと青年が声のした方を見ると、一組の少年少女が駆け寄って来た。
歳は二人とも歳は十五、六あたりだろう。その風体から判断するに、二人とも冒険者か傭兵のようだった。
少女は空色のチュニックとデニムのホットパンツという動きやすそうな格好の上に、胸部を保護するレザーガードを付けていた。栗色の豊かな髪は後頭部で括ってポニーテールにしており、丸みのある輪郭とアーモンド色の大きな目が愛らしい。よく見ると大きな弓と矢筒を背負っているのが左肩越しに見えた。
少年は白の上下の上に翡翠色のコートを纏い、腰には長剣を差していた。背は低いがその顔立ちは驚くほど端正で、肌も透き通るように白い。金髪碧眼の、絵に描いたような美少年だった。
シルヴィアと青年のもとまでやって来ると、ポニーテールの少女が口をアヒルのように出っ張らせて不機嫌そうに言った。
「ごめんジル、こっちはさっぱりだった。そっちはどう?」
「俺も似たようなもんだ。だが……」
ジルと呼ばれた青年はそこで言葉を切って、シルヴィアを見た。少年と少女もそれに倣う。三人もの人間に見下ろされてシルヴィアはややたじろいだ。
「もしかして勧誘中だった?」
背の低い少年が訊くと、背の高い青年は眉間に皺を寄せて言った。
「正確にはその直前だ。なにか酷い目に遭ったらしくてな、警戒されてる」
「もしかしてどう説明したものか困ってた? 君って本当に口下手というか、不器用だよね」
少年は呆れたようにため息を吐くと、シルヴィアの前にしゃがんで目線を合わせてきた。
近くでよく見ると、本当に物凄い美少年だった。神を象った彫像のように顔形の造形には一部の隙もない。
芸術的とすら言える微笑みに思わず見惚れてしまいそうになりながらも、シルヴィアは警戒感を露わにして少年を睨んだ。しかし丁度良いタイミングでお腹がまた鳴ってしまう。
『あ』
少年と少女の声が重なった。
不覚を取ってしまったシルヴィアは、顔を真っ赤に染めて俯いた。
「文無しらしいぞ」
青年が冷静に、それでいて簡潔に説明する。
それでシルヴィアの状況を把握したのか、少年と少女は顔を見合わせて同時にニヤリと笑った。
「ねぇねぇ、おねぇさん。もし良ければアタシ達とゴハンどう?」
「え、いや、しかし……」
いきなり言われて戸惑うシルヴィアに、少年が追い討ちをかける。
「もちろんご馳走するよ。見たところ結構深刻じゃない?」
「う……」
見事に図星を突かれてシルヴィアは反論できなくなった。
怪しさは拭えないが空腹は事実だ。奢りの誘いはとても魅力的に聞こえる。
迷いに迷って何も言えないでいると、少女が腕を掴んできた。
「決定でいいよね?」
もはや誘いではなく強制である。
しかし邪険に振り払うこともできず、シルヴィアはそのまま少女に引き摺られていった。
妙な三人組に連れられ、シルヴィアは一軒の酒場に入った。“獅子の団欒”という宿屋も兼ねた店だ。
平民を客層とする店であるため料理や酒の質はイマイチで、店内の雰囲気も酔っ払いどもの歌声や怒号で実に騒々しい。本来ならば貴族の娘であるシルヴィアが入るには相応しくないような店だが、好奇心の強い彼女にはむしろこの雰囲気が好ましく思えた。
粗末な料理を口に運びつつ、シルヴィアは文無しになるにいたった経緯を説明した。というよりも気が付けば背の低い美少年、“ニコ”によって言葉巧みに喋らされていた。
「なるほど、それであんなところに居たんだね?」
「かわいそぅ」
ポニーテールの少女、“プリシッラ”はそう言ったが、声は全然可哀想に思っていなさそうに聞こえた。
「まあ、田舎貴族なんていいカモだからね」
「私が貴族だとわかるのか?」
「うんうん。っていうかバレバレ?」
「髪がよく手入れされてる。歯が白い。服もよく見れば上質。それに首元の金の鎖、魔法のペンダントだろ? ここまで揃っていると貴族にしか見えないぞ」
金の瞳の青年、“ジル”の推理をプリシッラとニコは同時に頷いて肯定した。
シルヴィアはずらずらと証拠を並びたてられて絶句した。
「身分の事は置いておいてだ。そろそろ本題に入らないか?」
「そうだそうだ、忘れてた」
話を先に促すジルにプリシッラは思い出したように手を打った。
「忘れるなよ」
「だってさ、このお姉さん反応が可愛くてからかいがいがありそうなんだもん♪」
プリシッラが可愛く笑って黒い事を言うと、ジルは眉間に皺を寄せた。
「シルヴィアだっけ? 君はジルからどこまで聞いた?」
ニコはニコでプリシッラの言動を軽く流して、話を進める。
三人の―――特にプリシッラとニコの―――独特なペースに、軽い頭痛を覚えながらシルヴィアは答えた。
「儲け話がある、という所までは聞いた。一体どのような事情なのだ?」
「あれ? 最初と違って聞く気満々だね」
「文無しを解消するには稼ぐしか無いではないか」
意外そうな顔をするニコに、シルヴィアは冷静に言った。
食事を摂って落ち着いたお陰でシルヴィアは冷静な判断力を取り戻していた。そして金が無いなら稼げばいいということに気づいていた。
判断力を取り戻してすっかり警戒を解いた彼女の様子を見て、ジルは呆れとも安堵ともつかないため息を吐いた。シルヴィアが警戒していたのは、空腹のため気が立っていただけらしい事がわかって、あれこれ困っていた自分がほんの少しバカバカしいと思えたのだった。
「それで、私は何をすればいい?」
「うん。それがね、君には僕らと一緒に来て仕事の手伝いをして欲しいんだ」
「仕事の手伝い、とは?」
「実はちょっと前に王都の北の方に行った時、偶然未発見の遺跡を見つけてね。その調査のために助けが要るんだよ」
「遺跡、か……それは本当に本物で未発見のものなのだな?」
シルヴィアの不安をプリシッラが手を横に振って否定する。
「それは問題ナシナシ。ここ数日、図書館やら大学やら色々まわって何度も確認したもん。間違いなく未発見、もしかするとお金になりそうなものが残ってるかも!」
「なるほど……」
シルヴィアは顎に手を当てて考える。
王都、マグメルドの周辺といえば、古代から幾つもの文明や王朝が存在していた地域である。未発見の遺跡が偶然見つかるというのもありそうな話だ。内部を調査して価値のある物が見つかれば、一儲けできるだろう。だとすれば儲け話というのもあながち間違いではない。
だが一つだけ疑問が残る。
「しかし発見したのならばなぜその場で調査しなかったのだ? 私一人増やすよりも三人の方が一人分の儲けは多くなるはずだ」
シルヴィアは再び疑わしそうに三人を見た。
今度は冷静に理論立てて考えた上で疑っている。夕食一食のおごり程度では誤魔化されない。
しかしニコはシルヴィアの睨みを冷静に受け流し、困った顔で言った。
「それはその通りなんだけどね。困った事にその遺跡の仕掛けが四人以上のパーティじゃないと進めないようになっているんだ」
「仕掛けか、なるほど……」
ありそうな話だ、と思うシルヴィアにプリシッラが付け加える。
「その時はアタシとニコだけだったから諦めたの。んで、そっちのすかした顔のジルを誘ったけどあと一人足りないから勧誘してたってわけ」
「苦労しているんだ。みんな地方出身だから知り合いは少ないし、ジルは根暗で友達いないから」
プリシッラとニコの容赦無い評価に、ジルは眉間に皺を寄せてやや不機嫌な顔をしたが、否定はしなかった。気に入らないようだが自覚はしているらしい。
「というわけで、通りにいた君を誘ったというわけ。どうかな? この話に乗ってみない?」
ニコに問われ、シルヴィアは再び考え込む。
とはいえ、今の彼女の状況は単純。文無しで、それを解消しなければいずれ屋敷に連れ戻され、即結婚だろう。それは絶対に御免被りたい。
答えは簡単に、そして速やかに出た。
「わかった。協力しよう」
「いいの!?」
プリシッラが驚いたように大声を出しながら勢い良く立ち上がった。少女の甲高い声はオヤジどもの集まる酒場では際立って聞こえるため、やたら周囲の注目を集めた。
ひとまず彼女を座らせ、シルヴィアは続ける。
「文無しなのだからな。形振り構っている時ではない」
「へぇ、貴族とは思えない逞しさだね」
「似たような事をよく言われる」
ニコの感心しているのか侮辱しているのか微妙な物言いに、シルヴィアは苦笑した。
「それじゃあよろしく頼むよ。そういえば自己紹介がまだだった。僕は“ニコラス・ビアズリー”。まわりからは“ニコ”って呼ばれてる。よろしく」
「はいは〜い、次あたし〜! あたし“プリシッラ・ヴァレンタイン”。よろしくね♪」
「俺は“ジルベール・ハンネマン”。“ジル”でいい」
ニコが友好的に、プリシッラが明るく、ジルが無愛想に自己紹介した。
個性溢れる三人をちょっとだけ愉快に思いながら、シルヴィアも自己紹介する。
「私は“シルヴィア”。フルネームは“シルヴィア・エルデ・シュトラウス”。こちらこそ、よろしく頼む」
To be continued |