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Silvia 〜冒険者たち〜
作:イオン



【#11 対決】


 ラチルより借り受けた幌馬車に乗ったシルヴィア達は、依頼主のラチルの希望に沿って東へ向かう大街道に入った。
 この大街道は“トゥオ街道”と呼ばれ、東の国境の町・ラクシャスに繋がっている。
 その先の国境を越えるとアラク自治州と呼ばれる大陸最大の砂漠地帯に入る。その砂漠は、いくつかのオアシスを中心に発展した、都市国家がひしめき合う無法の地だった。それぞれの都市国家同士の争いが絶えず、オアシス間の砂漠に自治が行き届かないため、砂漠の治安は最悪に悪い。
 アラク自治州の治安の悪さは、国境を越えてレンスター王国にも影響を及ぼしている。そのため東に向かうトゥオ街道は、野盗や魔物が頻繁に出没するレンスター四大街道でもっとも危険な道として知られていた。
 だから東に向かう商人は、腕に覚えのある冒険者や傭兵を雇う事が多い。また荷物の運搬をギルドなどに依頼することも多い。ラチルが荷物の運搬をシルヴィア達のような傭兵に依頼したのも、そういった背景があるためだろう。
 シルヴィア達の目的地は、馬車で数日ほどの距離にある小さな町だった。そこで待っている引継ぎの者に荷物を渡すまでがラチルから引き受けた仕事だった。
 幌に収められている荷物は、大きな木箱が四つ。箱の大きさは一辺が大体一メートル半となかなか大きく、馬車の中にはほとんどスペースが残っていなかった。
 御者台にはニコとジルが並んで座り、ニコが手綱を握っていた。シルヴィアとプリシッラは、木箱に占領されて狭くなった幌の片隅に座っていた。
 シルヴィアの正面に座るプリシッラは、イクルスを出てからずっと興味深そうに木箱を眺めていた。中身が気になって仕方が無い様子は、まるで誕生日プレゼントを渡された子供のようだった。
 プリシッラほどではないが、シルヴィアだって中身が気になっている。妙に大きな木箱が四つ、それも中身を覗いてはいけないと言われれば、誰だって覗いてみたい誘惑に駆られるだろう。
 それに特にプリシッラの場合、見てはいけないと言われた物ほど見たくなるような性格だ。興味を持つなというほうが、無理な話と言うものだ。

「まだ開けちゃだめだよ」
「ぶぅ……わかってるってば」

 そのプリシッラの性格をもっともよく知っているニコが、幌の中を振り向かないまま御者台から注意した。
 図星を突かれたのだろう、プリシッラは頬を膨らませてニコを睨む。
 文句をたれようとした彼女を手で制して、シルヴィアが代わりに問うた。

「“まだ”と言ったな。ということは最終的には開けるつもりなのだな?」

 ニコは頷いた。

「当り前さ。こんなあからさまに怪しい物運んでなんかいられないよ。ただの荷物運搬の依頼にしては、報酬が破格過ぎるしね」

 それはシルヴィアも気になっていた。
 依頼主のラチルが支払う事になっている成功報酬はレンス銀貨二十枚。レンスターの平民の平均月収が銀貨五枚から七枚であることを考えると、これは三ヶ月から四か月分の収入と言うことになる。往復で一週間の道のりであることを差し引いても、これは破格だ。

「それに結局、屋敷では成果をあげられなかったんだ。ここは荷物を覗くしかないよ」
「確かにそうだが。一体なにが入っているというのだ?」
「さあね。それは見てみないことにはわからないよ」
「うっし! そうと決まれば、早速開けようよ!」
「ちょっと待った!」

 誕生日のプレゼントを前にした子供のように目をキラキラさせるプリシッラを、ニコは慌てて止めた。
 そして彼は手綱を引いて馬首を横に向けた。幌馬車は道を逸れて脇の森に入っていく。木々の間の通れそうな場所を選びながら進み、三十分ほど走って馬車を停めた。

「ジル」

 馬車を止めたニコは、隣で眠っていたジルの肩を揺すった。
 ジルはすぐに目を覚ましたが、開いた目はやや虚ろで疲労の色が濃かった。怪我をした身体で無理に動いているため、疲れやすくなってしまっているようだ。
 やや青褪めたジルの顔を、シルヴィアは心配そうな顔で馬車の中から見ていた。

「それじゃあ開けるよ」

 幌の中に入ってきたニコは腰の剣を抜き、蓋の角っこの隙間に刃をねじ込んだ。刀身が半ばまで埋まったところで上から体重を掛けて、てこの原理で無理矢理蓋を引き剥がす。蓋はメキメキと音を立て、真っ二つに割れて外れた。
 四人は開かれた箱を覗き込む。そして驚きに目を見開いた。

『男の子?!』
『シドニーッ!!』

 ニコとプリシッラが、シルヴィアとジルが、それぞれ同時に叫んだ。
 箱の中に入っていたのは十歳前後のボサボサの黒髪の少年。ここ数日シルヴィア達が探していたシドニー本人だった。

「そうか。そういうことだったんだ?」

 ニコが唇を戦慄かせながら呟いた。
 その時、プリシッラが急に馬車の後方を振り返った。

「蹄の音……近づいて来てる!」
「なに?」

 シルヴィアは耳をそばだてたが、微かな風に吹かれて擦れ合う葉の音しか聞こえてこない。

「何も聞こえないが……」
「いいや、多分プリシッラの言うことは本当だよ。プリシッラの感覚の鋭さは信用できる」

 怪訝な顔のシルヴィアに、ニコが説明した。
 だとしたら問題は蹄の音の主が誰かと言うことになる。

「轍の跡を辿られたな」

 馬車から降りたジルが忌々しそうに呟きながら、背中の大剣を引き抜いた。他の三人も各々の得物を持って馬車を離れた。
 やがて木立の向こうから追跡者が姿を現した。大きな馬車が一台と馬に乗った男が数人。全員何かしらの武装をしていて明らかに堅気の人間ではない。しかも彼らの武具には例外なくラチル商会のエンブレムが付いていた。

「なるほどやはり箱の中身を見たんだな?」

 一同のリーダーらしき背中に双剣を背負った男が言った。

「明らかに契約違反だ。依頼主にどう言い訳する気だ?」

 彼の隣にはフルアーマーの背の高い剣士が無言で佇んでいた。他にも弓を背負った弓兵の姿が見える。
 見たところ弓兵は大した実力ではない。しかし双剣の男とフルアーマーの剣士は間違いなく強敵だ。腕には自信のあるシルヴィアだったが、どちらとも一対一で戦って勝てるかどうかわからなかった。
 シルヴィアは最大限の警戒を払いながら、双剣の男の問いかけに答えた。

「言い訳など必要無い。むしろそれが必要なのは貴様らの方だ」
「これで君たちラチル商会がスラムの子供達を攫っていたということがハッキリしたよ。東に運ぼうとしていたってことは、アラク自治州の奴隷市場に売り飛ばすつもりだね?」

 ニコがシルヴィアの後を引き継いだ。それは質問ではなく確認だった。
 彼の確認は更に続く。

「東のアラク自治州は都市ごとに政治体制も法律も違うからね。このレンスター王国や北のフィンコリー帝国、南のシリル共和国では禁止されている奴隷制度が、まだ生きている都市も存在する。ラチルは攫った子供たちを奴隷市場に売り飛ばす事で利益を得ていたんじゃない?」

 周辺各国で奴隷制度が廃止されて久しいために、密輸したレンスター人奴隷の価格はおそらく上がっている。だから奴隷密輸の利益は必要経費を差し引いても莫大なものとなる。黒い噂の絶えないラチル商会が、そこに目をつけないはずが無い。
 またおそらくその必要経費の中には、役人や警吏への口止め料や賄賂も含まれている。金で彼らの協力を得れば、騎士団が動けない程度に情報を規制することは可能だ。
 これが今回の事件の真相だった。

「そういう事になるな。つまりお前たちは見ちゃならんものを見たわけだ」

 ニコの推理を肯定し、双剣の男の声が微かに殺気を孕む。

「やれドミンゴ。ただし、馬車は傷つけるなよ」

 戦いの気配に四人が身構えたその時だった。後方の馬車の中からフルアーマーの厳つい巨漢が現れ、直径一メートルはありそうな巨大な棘付き鉄球を投げつけてきた。
 咄嗟にその場を跳び退き、四人は難を逃れた。目標を失った鉄球は地面にぶち当たって深くめり込んだ。
 なんとか鉄球を避けたシルヴィアは、視線を巡らせて仲間の無事を確認しようとした。しかし続けざまに弓兵たちの放った矢が、そんな余裕を剥ぎ取っていく。
 シルヴィアは矢の雨に追い立てられるように森を走った。どんどん馬車から離れていく。
 走りながらできる限り仲間の姿を探すが、誰の姿も確認できない。

(しまった。分断されたか!)

 まんまと嵌められた事に気づき、シルヴィアは唇を噛んだ。
 そうしている間にも矢は次々と飛んでくる。その内幾つかが掠めて赤いスカートの裾に穴を空けた。
 容赦の無い射撃。このままではいずれ矢に射抜かれてしまう。

(あそこだ!)

 前方に周囲が十メートル以上ありそうな、太い木を見つけた。矢から身を守るにはうってつけだ。
 急いでその後ろに駆け込む。
 だが予想外な事に、丁度反対側から何者かが木の後ろに駆け込んできていて鉢合わせしてしまった。
 シルヴィアは反射的に剣を振り上げ、相手の首筋に切っ先を突きつける。
 しかし相手も同じように動き、シルヴィアの首にも相手の剣が突きつけられた。
 絶体絶命かつ一触即発。かと思われたが――――――、

「ってなんだ、シルヴィアか」
「ニコ」

 シルヴィアに剣を突きつけていた相手はニコだった。

「はぁ、驚いたぁ〜」
「それはお互い様だ」

 剣を下ろしてため息を吐く。とにかく、相手が敵でなくて良かった。

「シルヴィアも弓兵に?」
「うむ、追い掛け回されてここまで逃げてきた」

 二人は木の幹の後ろに身を隠して、話し出す。幸い身を隠した木は太く、二人で隠れても余裕があった。

「何人くらい?」
「二、三人といったところだ」

 答えながら、シルヴィアはジルみたいに眉間に皺を寄せた。

「そうか。僕の方にも同じくらいの人数がいたから、弓兵のほぼ全員が僕等に張り付いている事になるかな」
「ああ。しかしあとの二人が心配だ」

 ジルとプリシッラの姿がまったく見えない。自分たちは合流できたが、あとの二人が一緒とは限らない。もしかしたら一人だけで敵と戦う羽目になっているかもしれなかった。

「一刻も早く合流しなければ……!」
「それにはまず弓兵を何とかしなくちゃね」

 ニコは腰のベルトから財布を外し、身を隠している木の後ろから出るように真横に放り投げる。
 すると何本もの矢がすぐに飛んできて、空中の財布を撃ち抜いた。穴が開いた財布から銅貨が何枚か零れ落ちる。

「プリシッラには負けるけど、いい腕してるね。のこのこ出て行ったらいい的にされるよ」

 木の後ろに隠れられたのはいいが、今度はここに釘付けにされてしまったというわけだ。

「隠れたままでは敵の姿が確認できんな。しかし下手に顔を出してはやられてしまう」

 木の後ろから出て、目標を視認してから攻撃するのでは隙が大きい。その上おそらく相手はかなり間合いを取っているだろうから、剣が届く間合いに詰めるまでに射抜かれる可能性が高い。ニコはもちろんシルヴィアの足でも、状況を打開するのは厳しい。

「魔法もここから出て相手を目視しなくちゃ詠唱すらままならないしね」

 ニコの得意とする攻撃魔法というものは、術者が視認している範囲にしか攻撃できないという癖がある。木の幹の後ろに隠れたままの状態では目標を視認できず、相手を視認しに出て行っても詠唱している間にいい的にされる。シルヴィアが飛び出すこと以上に望みが無い。

「魔法剣は?」

 ニコは本来魔法使いではない、そして剣士でもない。魔法剣と呼ばれる非常に珍しい剣技を使う魔法剣士である。
 その未知の剣技ならばこの状況を打破できるのではないかという期待がシルヴィアにはあった。
 だがニコは渋い顔をして言った。

「魔法剣でもダメだろうね。あれは普通の魔法以上に時間が掛かるし、多数を相手するには向いてないんだ」
「手詰まりか……」
「そうでもないよ」

 シルヴィアの呟きを、ニコは平静な声で否定した。

「シルヴィアと一緒なら大丈夫」

 やや意味深な言葉にシルヴィアは驚き、思わずニコを見た。
 穏やかな表情の彼と目が合う。深みのある碧眼に見つめられ、ドキリとした。

「いい事を思いついたよ。シルヴィア、君は補助魔法が使えたよね? 属性はなに?」
「一応、風ということになっているが……」
「オーケー、思ったとおりだ」

 いま一つ要領が得られずに、きょとんとするシルヴィアに、ニコはどこか悪戯っぽい笑みを浮かべて、右手の人差し指を立てて見せた。

「一手、シルヴィアに授けるよ。それから反撃開始だ」





 その頃、プリシッラはただ独りで森を移動していた。
 放たれた矢から逃げて馬車から離れたまでは良かったが、シルヴィア達とは完全にはぐれてしまっていた。

(何とか戻らないと……!)

 残してきた馬車の事が気になる。幌に乗った木箱の中には、まだ子供たちが捕らえられているのだ。
 幸い森育ちのプリシッラは、無茶苦茶に逃げていても道を覚えている。敵に見つからないようにこっそりと戻るだけだ。
 足音を殺し、木々に紛れながら来た道を戻る。

(人……!)

 前方に人の気配。やや間を置いて人間の足音が聞こえてくる。
 プリシッラはそばの木に登り、野生の猿のように息を潜めた。
 仲間なら問題無い。だが敵なら少々厄介な事になる。心のうちで祈りながら、前方から歩いてくる人物を待つ。
 やってきたのは双剣の男の隣にいた、フルアーマーの長身の剣士だった。何かを探すように首を巡らしながら、鎧を鳴らして歩いている。

(この気配……やばい!)

 木の上から見下ろすプリシッラは、剣士から発せられる殺気のあまりの鋭さに戦いた。
 間違い無く、見つかったら拙い。必死に息を潜めて立ち去るのを待つ。
 やがて剣士はプリシッラの真下に来た。相変わらず何かを探すようにあたりを見渡している。
 しばらく探して何も無いと判断したのか、剣士は背を向けてその場を立ち去ろうとした。
 緊張の解けたプリシッラは安心感からため息を吐く。
 だがその時、剣士が急に反転しプリシッラのいる木の方に駆けて来た。
 素早い動作で腰の剣を抜き、真横に薙ぐ。

「あ……」

 逃げる暇など無かった。
 木は真っ二つに斬られ、大きな音を立てながら倒れた。
 枝に乗っていたプリシッラは地面に投げ出されて転がった。
 仰向けに倒れた彼女の上に影が覆いかぶさる。見れば、先程の剣士が剣を振りかぶっていた。
 プリシッラは咄嗟に腰の後ろからナイフを抜き、振り下ろされた剣を受け止める。刃と刃がぶつかり合い、火花を散らす。
 受け止めはしたものの、もともとパワー差がある上に地面に転がった体勢なのでナイフが押し込まれそうだ。

「この!」

 プリシッラは地面を転がって切っ先をやり過ごし、立ち上がって体勢を立て直す。 しかし立ち上がった途端、次の攻撃が来た。
 左脇腹の辺りを狙った斬り上げ。
 なんとかナイフで捌くことができたが、ピッタリと張り付かれて間合いを取る事ができない。

「やっば……!」

 これでは得意の弓を構える暇も無い。
 プリシッラは弓使いにとっての鬼門である接近戦を余儀なくされた。





 木々が開けて広場になっている場所で、ジルも敵と対峙していた。
 相手は巨大な棘付き鉄球を投げつけてきた巨漢、ドミンゴと言う名前の男だ。
 装備がフルアーマーであるせいで顔が見えず年齢も性別もはっきりとしない。全身鎧に身を包んだ巨体はまるでアイアンゴーレムのようだ。
 棘付き鉄球には太い頑丈そうな鎖が付いている。おそらくモーニングスターに分類される武器なのだろうが、鉄球の大きさが尋常ではなかった。超重武器の類であることは間違いない。
 その大きさと重さゆえに扱うのは非常に難しいだろうが、ドミンゴは大きさを感じさせないほどの巨漢。やはり見かけどおりのパワーがあるのか、重そうな鉄球を軽々と担ぎ上げていた。
 ジルは抜き放った大剣を正面に構え、じっとドミンゴの様子を窺う。
 相手は間違い無く強敵、不用意に斬りかかれる相手ではない。攻撃するならば相手に隙ができるのを慎重に見極めなくてはならない。
 相手の得物は超重武器。直撃を喰らえば、大きな痛手となる。だが重さゆえに隙も大きいはずだ。その隙を突くのが勝利への道となる。

「フンッ!」

 ドミンゴは鎖を持ち、ロープを投げるときのように鉄球を頭上で回転させ始めた。
 加速していく鉄球の回転が、空気を攪拌する。

「喰らえ!!」

 回転が最高速に達し、ドミンゴは鉄球を投げつけてきた。
 ジルはその軌道を見切り、左に身体をずらして危なげ無く躱す。すかさず地面を蹴って駆け出し、鎖のすぐ横を走って間合いを詰めた。

「甘い!!」
「な……」

 ドミンゴが鎖を掴む左手首を素早く動かす。するとジルのすぐ横でピンと張っていた鎖が大きく波打ち、脇腹に襲いかかってきた。
 ジルは剣を立てて鎖を防御する。強烈な衝撃が大剣から手に伝わってきた。
 防御の体勢をとっている間に、ドミンゴは鎖を引いて鉄球を引き戻していた。

「どらァァッ!!」

 再び鉄球が飛んできた。
 予想外の鎖攻撃に動揺していたジルは反応が遅れ、正面から鉄球を受けた。咄嗟に鉄球と身体の間に剣を差し込んで直撃は避けたが、あまりの勢いに大きく吹っ飛ばされる。

「ぐはっ……!」

 吹っ飛ばされたジルは、背中を強か木に打ちつけた。肺の中から空気が押し出されて息が詰まり、無様に蹲って激しく噎せる。
 刺された左肩が痛んだ。今の衝撃で傷口が開いてしまったらしい。

「立て」

 ドミンゴが冷たく言い放った。
 ジルは顔を上げ、金の瞳でドミンゴを睨みつける。

「良い目だ。決して引かぬという意思が感じられるな」

 ドミンゴの声は鎧の面頬のせいでおかしな響きを持っている。だがその言葉の端々からは抑え切れない気迫が感じ取れた。

「しかし不思議だ。我が鉄球を受けて生きていられるほどの腕前を持ちながら、貴様にはその強さへの誇りがまったく感じられん」

 一流の戦士ならば戦いになれば血が滾り、どうしようもないくらい闘志が燃えてくる筈だ。その闘志の源こそが“誇り”であるとドミンゴは考えている。
 だがジルの金色の瞳には冷徹な光が宿るばかりだ。彼の胸の内には闘志も誇りも感じられなかった。彼にあるものはただ目の前の敵を退けるというだけの意思だけだ。

「誇りでは戦えぬ者か。それも面白い。誇りも無しにどこまで戦えるのか、見せてもらおう」

 ドミンゴは再び鉄球を構えた。


To be continued








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