アルテイル、気付く
王都の冒険者学校に転入してから早一ヶ月。アルテイル達はシェスカの助けもあって冒険者学校の空気に馴染んでいた。
とは言えそこは転入生。回りとは若干の距離を置かれつつ、マイペースに講義を受ける日々に、周囲が慣れたという事もある。
シェスカ以外に親しいと呼べる人物は居ないが、別段それで何かが困っている訳でも無い。
アルテイル達は自然とシェスカと過ごす時間が長くなった。
そうして付き合っていく内に、アルテイルの中で疑問に思う。シェスカは何故冒険者学校に居るのだろうか、と。
シェスカの立ち居振る舞いは流麗であり、若いながらも洗練されている。きっと小さな頃より仕込まれたものなのだろう。
それだけに、そんな教育を受けたシェスカが冒険者を目指している事が不思議でしょうが無かった。
「ねぇ、シェスカ。シェスカは何故冒険者学校に通っているの?」
だからそんな疑問が不意にアルテイルの口から零れ出る。
そんな不躾なアルテイルの疑問に、シェスカは困ったような笑顔を浮かべながら、口を開いた。
「そうですわね……。私の家は、王都で小さいながら商売をさせて頂いておりますわ。ノブラント商会という小さな卸売業者です」
「へぇ、卸売業者か。それで?」
「商売は祖父の代からでして、祖父が冒険者としてあちこちを旅して伝手を作り、その伝手を使って商売を行ったのが始まりなのです。だから元は冒険者」
なるほど、元は冒険者だからシェスカも冒険者に。と単純に考えようとしたがそれにしてはおかしい。
別に今商売人なんだから冒険者になる理由が全く無い。
「話は変わりますが私、二年ほど前に婚約をさせられそうだったんです」
「へ? ホントに急に話が変わったね」
シェスカの突然の切り替えに一緒に話を聞いていたミカが驚く。側にいるノエルも少なくない驚きの表情でシェスカを見ていた。
「えぇ。私には兄が一人と姉が一人居りまして、私は次女です。兄は既に商会の跡取りとして結婚し、家を継いでおります。姉は取引先の貴族様のご子息に見初められ、姉もそれを受け入れ幸せそうに嫁いでいきましたわ」
「へぇ、お姉さんは貴族の家で嫁いだんだ」
「その際に、私の方も何か商会に対して益のある家柄の所へ嫁がせようという事があったんですの。所謂政略結婚ですわね」
いきなり政略結婚というきな臭い単語が出てきて一同口を閉ざす。
だがそんな一同を前にしても、シェスカは普段通り笑みを浮かべながら話を続けた。
「その際にお祖父様に言われたんです。家の道具として嫁ぐか、冒険者として身を立てるか、と。私は後者を選び、今こうして冒険者を目指しているのですわ」
「随分極端な選択肢だな。別に商会を立ち上げるとかでも良かったんじゃないの?」
「競争相手を身内から無用に作る必要はありませんわ。なので嫁ぐか身を立てるか、なのです。幸い私の身は人と獣人の混血。身体能力であれば普通の人より優れておりますわ」
なるほど、本当に自身の力で身を立てる為に冒険者を目指しているのか。
シェスカの言う根拠にも納得し、アルテイルは頷いた。
「なるほどなるほど。ちなみにシェスカは戦う時何を使うの?」
「剣と盾を少々。剣術道場に通っておりますので、それなりであると自負しておりますわ」
少々、という割には自信有りげな言葉にアルテイルは苦笑いを浮かべる。
謙虚なのか自信家なのか、シェスカの人となりは未だまだ分からないな、と思った。
「そう言えば、アルテイルさんは魔法で戦うのでしょうが、他のお二人は何をお使いで?」
「私は槍。実家が槍術道場やっていたから」
「私は弓だよ。実家が弓術道場だし、私も森の民と人の混血だから、弓が得意なんだ」
「えっ」
ミカの告白に思わずアルテイルが驚く。
一見人と全く変わらないミカなのだが、森の民、エルフとの混血だったのか。
そんなアルテイルの驚きにミカが平然とした顔で言う。
「あれ、言ってなかったっけ? ウチの祖母が森の民で、私の父が二分の一、私は四分の一って感じだよ」
「えっと、森の民、エルフって耳長いとか、そういうのないの?」
「耳? えっとね、耳は成人に近づくと急に伸びるんだって。父さんが言うには、前日まで普通だったのに朝起きると長くなってた、とか言ってた」
「一体何が起こってそんな一晩で耳が伸びるんだよ……」
「でも耳が伸びると風を巧く捉えられるようになって、弓術の腕が伸びるんだって。私も早く耳伸びないかなぁ」
どんな神秘の産物なのか、エルフという生物が分からなくなってくる。
そしてエルフの耳にそんな理由があるとは思わなかった。無駄に長い訳では無いとは思っていたが、まさかそんな実用本位な理由で耳が長いとは。もう少しファンタジーな理由でも良いのではないか、と思ったりもする。
「って、じゃあミカのお祖母さんはエルフなんだよね。聖地から出てきたの? まだご存命?」
「えっと、もう亡くなっちゃったけど。お祖母ちゃんが言うには自分から聖地を飛び出したとか言ってたよ。あそこに居ると堕落するとか何とか言ってた」
「どんな場所なんだよ、エルフの聖地……」
次から次に出てくる情報にアルテイルの頭が混乱してくる。堕落してしまうエルフの聖地とは一体なんなのか、どうなっているのか。
それより何よりミカがエルフとの混血という新事実に戸惑いまくりである。
「それでは丁度良いので、本日学校が終わった後、狩りにでも行きませんか。私、王都の近くで良い狩場を知ってますの」
「いいねぇ、最近狩りとかしてなかったし、行こう行こう!」
「家で槍を振るうだけの鍛錬には飽きた。狩りに賛成」
「はぁ……。まぁ僕も特に用事もありませんし、皆が良いって言うなら行きましょうか」
こうして状況に流されつつ、本日の午後は狩りをして過ごすことになるのだった。
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