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第9話 元勇者よ、踏み出せ

次の日の早朝。


何故か屋敷の前にはヴァーデン王国の王族の紋章が刻まれた馬車が止まっていた。


側には執事を纏った老執事を立っていて、一目で執事としての技術や礼儀を極めた人物だと分かった。


「おはようございます。王宮より公爵閣下をお迎えに参りました」


見惚れてしまう程の洗練された一礼。


「えっと、今呼んで参りますので少々お待ち下さい」


その後、先生は馬車に乗り王宮へと向かった。


どうやら、昨日の内に王宮に使者を送っていたようだ。



先生が王宮から戻って来る間、俺は書斎に籠り読書に励み、メデルは掃除、ヴィルヘルムは庭で魔装の練習をして時間を潰した。




先生が帰って来たのは日が高く昇った正午頃だった。


しかし、何やら考え事をしている様で夕食中も何だか難しい顔をしている。


ここは勇気を出して声をかけるべきだよな。


2人に視線を向けると、「お前が聞け」と言う視線で返された。


「あ、あの先生、何かありましたか?」


「……ふむ、ちと厄介な事になっていた」


「厄介な事ですか?」


「トウヤが心配する事ではない。それより、一応4人分の滞在許可は得て置いた」


4人分、俺はその部分が気になった。きっと、ヴィルヘルムとメデルも同じだろう。


それが、何を意味しているのか俺には分からない。


「不法入国者が出れば儂が疑われるからな」


俺の疑問に先生は質問する前に応えてくれた。


時々思うが、先生は人の心を読めるんじゃないか?


「読める訳ではない。人間を良く観察していれば分かる」


「……流石ですね」


確かに先生はこの国の公爵になって80年だ。


貴族だの王族だの息をする様に感情を隠して相手と接する連中の世界、言い換えれば言葉の戦場で生き抜いて来たんだ。そう言うスキルも自然と身につくのかもしれないな。



俺がそう納得した時、食堂の陰から黒いローブを纏ったアンデッド、リッチが現れた。


メデルが咄嗟に俺にしがみつく。


リッチは一礼し、嗄れた声で話し出した。


「現在、王国内に侵入者が3名。リツェア殿と戦闘に入りました」


その言葉にその場の全員が驚く。


「こんなに早く追い付くとはな。何者だ?」


「分かりません。しかし、並の使い手ではありません。ゴーストライダー6体では、足止めにもなりませんでした」


「ゴーストライダー、確かランクCの魔物だが普通の武器ではダメージを与え難い厄介な魔物だな」


それを聞きメデルの表情が悪くなる。


聖王国から追ってだとすれば、相手はおそらく〝執行者〟の連中だ。


しかし、どうやってこの場所が分かった?それに、こんなに早く追い付くと言う事は、相手には転移系スキルを持つ奴があるのか。


だが、敵が〝執行者〟だとしても全員が来ている訳ではない。奴等が纏って行動する事なんて滅多にない。


敵は3人だ。一体何人来ていて、何席の奴だ。


そして、100年前と同じ強さなのか?


五席までなら互角に戦えるかもしれないが、それ以上か複数だった場合ーー


「は、早く!リツェアさんを助けないと」


ーーまずいな。


「待て、おそらく敵は〝執行者〟だ。人間最強クラスの連中に挑むには準備が足りない」


「それじゃ、リツェアさんを見捨てるんですか!きっと殺されちゃいますよ!」


メデルの必死の訴えを見て、彼女の姿をまた思い出した。


『……私の、妹だけは……護って、下さい』


血塗れで、今にも自分が死にそうなのに妹の事ばかり心配する優しい少女。


俺が殺した嫉妬の魔王。ヴィレア・ツェレス・クイーテル、リツェアの姉の姿。


俺の中で勇者の遺物が叫ぶ。


『お前は勇者おれを否定するのか』


と。


「ローエングリフ様!どうかお力をお貸しください下さい」


椅子に座り成り行きを見守っていた先生にメデルが懇願する。


しかし、先生は冷たい視線をメデルに送る。


「それに何の得がある?」


「そ、それは……」


「勘違いするなよ。儂は龍、人が何人死のうが知った事ではない」


龍とは天候の様なものだ。

時に荒れ多くの命を奪う時もあれば、人々を飢えから救う時だってある。

誰の指図も受けない孤高の存在だ。


「だ、だったら、私が行きます!」


「クックック、面白い冗談だ。お前程度の力で何が出来る?」


「私だって少しくらいは戦えます!」


「そうか?儂ならお前に触れる事なく殺せるがな」


先生の目が細まる。

それと同時に殺気が放たれる。

それだけでメデルは腰を抜かしガタガタと震えている。


それでも目には強い光を宿したままだ。


その時、ヴィルヘルムが立ち上がった。


「俺達が行く」


……俺、達?


ヴィルヘルムが俺に視線を向ける。


「お前も来い」


俺はヴィルヘルムの目を見る。


相変わらず憎しみに染まった濁った目をしているが、その奥には確かな光がある。


かつて、俺が出会って来た誇りを秘めた戦士達と同じ光だ。


……今の俺には、ない。


「俺は……」


決断出来ない俺の襟を掴み上げる。


「今のお前に、誇りはあるのか?」

「!」


初めてヴィルヘルム出会った時に俺が言った言葉。


まさか、逆に俺が言われるなんてな……。


「……」


先生が俺を見ている。


俺の答えが出るのを待っている。


でも、俺は答えが出せない。


「……分かりました。俺も行きます」


だったら、遺物の声に従う事にした。


「主、どうかリツェアさんの事よろしくお願いします!」


「近くまでは儂が送る。リッチ、案内は任せた」


「畏まりました」


リッチが一礼し、俺たちの元に近寄ってくる。


そして、足下に闇が広がり転移おちた。

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