第8話 裁く者、動く
魔人につきましては、第1章6話で軽く触れる文章を追加しております。
聖王国のとある土地。
そこに建てられた神殿の中に大きめの円卓と囲む様に椅子10脚の椅子が置かれ8人が凝った装飾のされた椅子に腰を下ろしていた。
纏っている装備に統一感は殆どないが、唯一全員の装備に同じの聖王国の紋章が刻まれている。
彼等をある者は騎士団と呼び、またある者は殺し屋集団とも呼んでいる。
しかし、本人たちから言わせればどの呼び方も的を射ているとは言えない。
彼等は〝執行者〟。
神の名の下に剣を振るい、穢れた畜生に天罰を下す人間最強の戦闘部隊である。
静まり帰っていた一室に下品な嗤い声が響く。
「ぎゃははは!国の連中もだらしねぇな〜」
彼の名は、ハーディム・クラプトラ。手入れのされていない緑色の髪の奥の黒目が不気味な光を宿し、見る者を萎縮させる様な雰囲気を纏っている。
「元を辿ればお前の責任だ」
ハーディムに避難の目を向けるのは黒みがかった赤髪の男性。名は、エイギス・ギルバーン。
「はあ?何が??」
「お前があの2匹を殺しておかなかった所為だ」
「はぁー、直ぐに殺したらつまんねぇだろ?」
ハーディムは呆れた様な表情から、再度周りの人間に不快感を与える様な残虐な笑みを浮かべる。
「死ぬその瞬間まで人間を憎み、濁って行く瞳、そして死ぬ寸前に上げる憎しみに染まった叫び声!あの時の快感と言ったら、堪らない!!」
気持ち良く話していたハーディムは次の瞬間、怒りを露わにした。
「……あと少しだった、あと少しで聞けたのにあのグズ共がぁぁあ!本当に役立たずだな!」
そして、見た者が卒倒するような狂気の笑みを浮かべた。
「しかし、まぁ良い。また狩りが楽しめる!くくく‥‥ぎゃははは!!」
(相変わらず訳の分からない奴だ。しかし、こいつの強さは疑いようがない)
「‥‥貴方の意思なんてどうでも良い」
そう言ったのは、目に光を宿さないブロンド色の髪の少女だった。
嗤っていたハーディムも自分より上位者の言葉を受け嗤うのを止める。
〝執行者〟にはそれぞれに席位と称号が与えられる。
そして、少女こそこの場にいる〝執行者〟最高位に座する存在。
〝執行者〟第三席にして、《聖槍》の称号は を与えられし者、ジャンヌ・フィトロ・ダルクニス。
「必要なのは結果。死刑間近だった2人が脱走し、敵が増えた‥‥私の言いたい事、分かる?」
表情が一切浮かばない顔で見つめられたハーディムは相変わらずの笑みで返す。
「勿論だ。奴等は俺が狩る」
その言葉を聞いたジャンヌは、最早ハーディムから興味を失ったかの様に目を瞑った。
そして、この場が再び静寂に包まれる。
その時、一室の両扉が勢いよく開かれた。
全員の瞳が開かれた扉の奥に立っている2人の男女に向けられる。
常人なら戸惑ってしまう部屋の空気を気にする事もせず2人は悠然と歩みだし、空いていた席に座る。
肌がピリピリするような静寂をものともせず黒髪の少女が口を開く。
「それじゃ、会議を始めようか!ウィリアム、説明よろしく!」
「隊長、……威厳」
綺麗な金髪の美青年は隊長と呼んだ黒髪の少女にジト目を送る。
当の本人は「あはははは」と笑って誤魔化している。
「ほら、私の事より説明して!」
「……分かりました。
今回の僕達〝執行者〟に下された任務は、脱走した死刑囚と異世界人の少年の追跡、及び監視。可能であれば抹殺です」
青年が言葉を言い終わると途端に部屋の温度が数度下がった。
……いや、そう錯覚する程の殺気が部屋を満たしたのだ。
しかし、青年は顔色一つ変える事はない。
「可能であれば〜?あんな獣共に俺様が遅れを取るとでも思ってんのかぁ?」
「ハーディム、少し黙れ」
ハーディムとエイギスの2人の視線が交差する。
「話はまだ終わっていないだろ」
「チッ」
話が終わったのを確認してウィリアムが話を再開する。
「国から脱走した少年の名前はトウヤ・イチノセ。戦闘を行った他の異世界人達の証言から、100年前の魔人と同一人物の可能性があります」
それを聞いた〝執行者〟の数人が苦笑を浮かべた。
「それは神託ですか?」
「……いえ、隊長の勘です」
質問をしたエイギスも開いた口がふさがらない、と言った状態だ。
「隊長、魔人は送還魔法でこの世界から消えた。……この意味、分かりますよね?」
「忘れたー」
問われた黒髪の少女は即答し隣に立つウィリアムに視線を向けた。
「この世界には本来、送還魔法など存在しません。あれは世界から魔人を追放する為に我等の神が創られた魔法です。
対象となった者を莫大な量の魔力を糧に世界の狭間に転送し、スキル、称号、記憶、肉体、精神、自我の全てを消滅させ異世界に転生させる一種の消滅魔法だと記録されています」
「へー、そんな凄いんだ」
「つまり、どんなに名前や姿が似ていても全くの別人ですよ」
ウィリアムが黒髪の少女に断言する。
他の〝執行者〟も同じ考えのようだ。
「それはどうかな?凍夜は極限を持っていたから何とかしたかもしれないよ?」
「ぎゃははは!そのスキルの事は知ってるけど、どれだけ魔法を覚えても消えちまったらどうしようもないぜ?」
ハーディムの邪悪な笑みが深くなる。
「それとも、元仲間だから分かる勘って奴ですか?アスハ・アカツキ隊長」
目にかかっていた黒髪を搔き上げ、そこから現れた強い光を宿した黒目が真っ直ぐにハーディムを捉える。
「どちらにせよ、警戒して損はないでしょ?」
「……まぁ、確かに」
「それではこの後、任務を与える者を決めます」
会議はまだ続いている。
しかし、〝執行者〟第一席 暁明日羽の考える事は100年前に共に召喚された戦友にして、死別した一乃瀬凍夜に再開する事で一杯だった。
(あー、早く凍夜に会いたい!‥‥でも、ただ会うだけじゃつまらないよね)
明日羽の顔には狂気の笑みが張り付いていた。