第5話 ヴァーデン王国
空いた時間で書けたので、投稿させて頂きます( ̄^ ̄)ゞ
だだの説明回です
肉や野菜を切りつつ鍋の火加減を調節するなど忙しく動き回る俺と慣れない動きで皿を運ぶメデル。
今俺たちは、夕食作りをしている。
器用にフライパンを振り中の食材にタレを絡ませていく。
「メデル、そろそろ出来るから皿を取ってくれ」
「はい 主」
‥‥さて、どうして俺がこんな家政婦みたいな事をしているのかと言うと時間を遡って思い出してみる。
ヴィルヘルムと無理矢理主従の契約を結ばされた後のことだ。
「契約は無事完了じゃな」
もはや清々しいまでの笑顔を向けられ溜め息しか出ない俺とヴィルヘルム。
更にヴィルヘルムの場合は尻尾までダラリと力が抜けている。
そこまで露骨に嫌がられると何だか俺も複雑な気持ちになる。
「おい、契約の破棄は出来ないのか?」
「無理だ。先生の契約を破る力は俺にはない」
龍の契約は魔法とは違う。
俺も完全に理解している訳ではないが、魂を結ぶ術だと先生が前に言っていた。俺が行った龍の契約術はメデルの聖獣の血をインクに混ぜて行ったが、本来は竜や龍の血を使用して行う。
【暴食王】なら破れるかもしれないが、失敗した時にどんな副作用が起きるか分からない。
「では、契約通り10年は凍夜の僕として働いて貰う」
「ぅぅ‥‥俺が人間の‥‥」
「返事」
「‥‥はい」
「プククク‥‥」
尻尾を垂らし見るからに落ち込んでいるヴィルヘルムを見てリツェアが笑いを堪えている。
いや、堪えられず笑っているのをヴィルヘルムが睨み付けている。
先ほどまで顔色が優れなかったリツェアもどうやら調子を取り戻したようだ。
「‥‥日も暮れて来たし、そろそろ王国の家に行こうか」
先生に言われ空を見れば太陽が傾き、空を夕焼け色に染めていた。
しかし、気になる単語が、
「家、ですか?」
「おーそうじゃ、説明していなかったな。実は儂、80年前からヴァーデン王国で公爵の地位を得ているのじゃよ」
「え!?先生が公爵!」
貴族社会の中で公爵といったら王の次に高い身分だ。
でも、何でまた人間程度の地位を先生が持っているんだ?
俺の考えている事を悟ったのか先生が笑い出す。
「アッハッハ!まぁ、事情は夜にでもゆっくりと話すとしよう」
そう言うやいなや、俺たちの足下が黒く染まり沈んだ、というより落ちたと言った方が感覚的には近く感じる。
転移した先は塀で囲まれた一体何十人が住めるんだと思う程の大きな館の前だった。
あまりこういう物には詳しくない俺でも何だか凄いと思ってしまう。造られたのは今よりずっと昔なのだろうが、手入れが行き届いていて古さを感じさせる事はない。見た所、壊れたり傷んでいる様には見えなかった。
寧ろ、厳格さというか威厳を見る者に与える。
中に入って見てもその印象は変わらず、貴族らしい豪華さなどは必要最低限で質素という言葉が似合う館だった。
日本で言う、わびさび‥‥みたいな感じなのかな。
それにしても、
「誰もいないようですが?」
「実はこの家に立ち寄るのも30年振りなのじゃ」
カッカッカと笑う先生は更に言葉を続ける。
「だから、掃除と庭の手入れだけをして貰っておるのだ」
「‥‥だったら、こんなデカイ必要ないだろう」
ヴィルヘルムの呟きに全員が頷いた。
先生本人も「全くだ」と苦笑を浮かべていた。
その後は部屋を見て周り大体の部屋の場所は把握出来た。
1階は他人が出入りする、いわば社交の場となっている。書斎や食堂、キッチンなどがあった。
‥‥しかも、無駄に広い
2階は寝室が何部屋もあった。
どの部屋も綺麗で30年も人が住んでいなかったとは思えない。
地下には食料などを置いておける地下室があった。
改めて思うが、この世界の建物の設計は中世ヨーロッパと大して変わらない。
全ての部屋を見て周った頃、大きな音が聞こえた。
「グゥギュルルルルル」
「大きな音ですね」
「あははは!そんなに腹が減ったのか!」
「ぅ、うるせぇ!」
穴があったら入りたい!と言った現状のヴィルヘルムをリツェアとメデルがからかっている。
「では、これからご飯を作るか」
先生の一言で騒いでいた3人の動きがピタリと止まる。
そう、俺たちは現在不法入国中なのだ。
出歩いてこれ以上の問題を起こすのは4人とも避けたいと思っている。
だから明日、先生が王宮から許可を貰って来るまで街を出歩くのは避けたい。
つまりは、
「私は作れんぞ?」
「私も料理はまだ教わってません」
「「‥‥ジィ」」
「‥‥俺が作れる様に見えるか?」
「丸焼きなら」
「生で食いつきそうだな」
「バカにしてんのか!?」
「安心しろ」
先生に視線が集まり、当然その右手を肩に置かれている俺にも視線が集まる。
「シェフはここにいる」
「先生‥‥」
「頼んだぞ?食料と調味料はキッチンにあったようじゃしな」
そして、現在に戻る。
「ほら出来たぞ!」
テーブルに並べたのは、野菜炒め、ご飯、コンソメスープ、森で狩っていた魔物の香草焼きだ。一応は好みもあると思って、ビックビーク、ストーンボア、フォレストリザードの三種類の肉を用意した。
この異世界には一部の地域で米の生産がされている。確か、何百年か前の勇者が伝えたそうだ。
調味料も同じ理由で、地球の物と似たものがいくつもある。
肉は100年前の元仲間たちに嫌ってほど捌き方を教わったので身体が覚えていた。
筋取りから火入れまで満足の出来だ。
「「「おぉおー!」」」
「さっ!主も席に着いて下さい」
メデルに進められ感嘆の声を上げる先生の隣に座る。その隣にメデルが座った。
「確か、異世界では〝いただきます〟と言って食べるんだったな」
俺は先生に頷く。
「では、いただきます!」
「「「「いただきます」」」」
それぞれが思い思いに食事を口に運ぶ。
「美味しい!流石はわたしの主です!」
「ガツガツ‥モキュモキュ……」
「シェフを呼べー!!」
「目の前にいるだろ‥‥」
「また腕を上げたな」
先生はそう言って褒めてくれた。
先生は龍だ。食事の必要はあまりないのだ。それに、龍になる前は死を喰らう竜だったそうなので食事の必要はない。
だから、先生にとって食事は嗜好品のような物だろう。
他の龍も俺は知っているが、先生の方が遥かに人間臭い龍だと思う。
あの方は滅多に人と関わろうとしないからな。
「お代わり」
「しょうがないですね」
ヴィルヘルムが早速メデルにお代わりを頼んでいた。
全員のお腹が満たされ食後の紅茶を飲んでいる時、先生が話を切り出した。
「さて、約束通り儂がヴァーデン王国の貴族になった経緯を話そう」
全員の視線が先生に集まる。
「それにはまず、この国の成り立ちを知って貰うか」
そして、先生はヴァーデン王国の成り立ちについて語り出した。
俺も聖王国で事前に調べていた内容に食い違いがないか照らし合わせながら聞いた。
ヴァーデン王国。
現在から約100年前に、魔族領との国境がある〝魔の森〟の近くに建国された小国だ。
人間の多くの国が他種族の共存を渋っていた時代に、他種族との共存を掲げ実際にそれを成し遂げた数少ない国なのだ。
しかし、他種族との共存と言うのは口で言うほど簡単なものではない。文化、思想、宗教、偏見など多くの問題がある。
それ以外にも魔族領と接している魔の森がある為、魔物の強さは人間領の中では最も高く、魔族領から迷い込んで来る強力な魔物や数年に一度魔の森から魔物が大量に溢れかえると言う現象も起きる。
つまりヴァーデン王国は、人間領で最も危険な国とも言える。
もちろん利点もある。
それは魔物から採取出来る貴重な素材や豊かな土壌など自然の恵みが豊富な事だ。
……と、ここまでは俺が聖王国で調べた内容と同じだった。
個人的な利点については、自然の恵以外にも聖王国から距離が離れておりそう簡単に戦争に巻き込まれる事はないという事や魔物が多く危険地帯だからこそ仕事には困らないと思ったからだ。
‥‥だって、俺現在無職だもん。
働かざる者、食うべからずって言うだろ?
そして、もう一つ利点と言う訳ではないが気になる事があった。100年前に建国したこのヴァーデン王国の国王は、俺を召喚した国の王の末弟なのだ。
‥‥流石に俺も国を建国しただけならそこまで気に止める事もなかった。
しかし、何故100年前、俺が消えた直後なんだ……。しかも、わざわざ他種族との共存まで掲げている。
だから‥‥どうしても気になってしまった。
「‥‥とま、この辺りでヴァーデン王国の簡単な説明は終わりだ」
最後まで聞いたが、やはり俺の知っている情報ばかりだった。
「しかし、この領域一体は人間が考えている以上に危険だった。国など出来る前に根刮ぎ破壊される程にな」
だろうな。
この地一体の魔物の強さは強力で凶暴な魔物ばかりが闊歩する魔族領と大して変わらない。そんな場所で一から人間が国を創ろうなんて、無謀としか言いようがない。
「だから、儂が提案してやったのだ。20年この国を守護してやるから公爵の爵位を寄越せ、とな」
後半完全に命令してますよね……。
「でも、どうしてですか?」
「トウヤと出会った事で人間を知るのも悪くないと思ったからだ」
え、俺の所為なの。
「まぁ、結果的に人間とは愚かで、矛盾を多く含み、容易く感情に流される種族だと分かった。‥‥儂には理解出来ない」
先生はそこで言葉を切り、また言葉を紡いだ。
「だが、だからこそ見ていて面白い」
そう言った先生の顔には小さな笑みが浮かんていた。