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第2話 龍の義祖父

思わず嫌な汗が流れる。


『誰だ?儂を呼んだ、愚か者は‥‥』


姿は見えない。しかし、地の底から響いて来るような重低音の声がこの場の4人に届く。


まるで、心臓を鷲掴みにされたと錯覚するほどのプレッシャーを感じる。


咄嗟にリツェアとヴィルヘルムが構える。


止めとけ。お前たちじゃ、どう頑張っても傷一つ付けられない。格が違い過ぎる。


そう言う俺も、この方に戦いで勝った事はない。あの時は、【聖剣】を使って一対一だったけど、傷を与えるのが精一杯だった。元仲間がいて【聖剣】を使っても勝てる確率は低い。


領域が黒い闇に染まっている。


例え話ではない。本当に大地もそこに生える植物も全てがまるで絵の具で塗り潰した様に黒く染まっているのだ。


『応えぬか‥‥。ならば、貴様達を殺してその魂に効くまでだ!』


そして、黒い地面の闇から無数の魔物が溢れ出す。


その全てがアンデッドと呼ばれる類の厄介な魔物だ。


「何!死した獣(デッドビースト)にデスキメラだと!?」

「く、こっちには、デスナイトにリッチだ」

「み、見てください!?あの奥にいるの死を喰らう竜デス・ハング・ドラゴンです!!」


今、名前に出たのは全てCランク以上の魔物だ。


魔物には、F〜Sまでのランク付けがされていて、位が上がる程に強くなる。因みに、魔物を狩る冒険者はCランクなって一人前だと言われている。


ついでに、さっき名前に出てたリッチとデスキメラはB〜Aランク、死を喰らう竜デス・ハング・ドラゴンはSランクに位置付けられる魔物だ。


でも、こいつらにビビってる様じゃあの方にあった時、戦意喪失間違いなしだ。

なんたって、こいつらの主は冒険者ギルドから特別指定種、最高難度の『災厄級』を超えた『破滅級』って呼ばれてるんだからな。


『ん?人間、何故怯えぬ?』


「さぁ、何でだと思いますか?」


『!』


その瞬間、黒い領域から現れた巨大な竜種に似た手が俺を掴み握り締める。


「っ!」


「主!」

「「!!」」


『自惚れるなよ、人間!』


地より響く声に怒りが宿る。

凍りつく様な殺気がこの領域に満ちた。


『100年前、儂から大切な弟子を奪った憎き人間風情が、この儂を愚弄するか?』


「‥‥クククク」


嬉しいな、まさかそんなに俺の事を大切に思っていてくれてたなんてな。


『何を嗤う‥‥?いや、もう良い。死ね』


黒い鱗に覆われた手に力が入るより早く、俺は自分にかけていた全ての偽装を解く。


『何っ!?』


俺の全力の魔力に怯んだのか握っていた手から力が抜ける。


『この魔力!まさか!!』


「先生、久しぶりですね!俺です、凍夜です!」


俺が自分の名前を告げた瞬間、この場を支配していた凍てつく様な殺気が消えた。そして、地の闇から巨大な龍が姿を現した。


「「「!!!??」」」


全身は光を吸い込む様な漆黒の龍鱗、蒼と紅のオッドアイに飛ぶには適さないボロボロになった二対の翼。そして、一振りで並の城壁なら破壊出来そうな尻尾とその身体を支える逞しい肢体。


闇から現れた龍は未だに俺が自分の弟子だと信じられない様に、オッドアイの瞳で俺を先から先まで見つめている。


家族以外誰も信じないと決めた俺でも、この方だけは別だ。この方は、俺の先生であり、恩人でありーー


『本当にトウヤなのか?』


その声には、どうかそうであって欲しい、と言う優しさが込められていた。


「そうですよ、ローお爺ちゃん」


ーー義祖父なのだから。


その一言がトリガーとなったのか、漆黒の龍 ー先生が鱗のついた龍顔で頬を擦りつけて来る。


『本物じゃー!良くぞ、良くぞ生きて戻った、我が孫よー!!』


「「「ま、まごー!!!??」」」


盛大なツッコミと先程まで殺気丸出しだったアンデッドたちが涙を拭う素振りをしながら拍手を俺とローお爺ちゃんに送ってくれる。


もし、第三者が冷静にこの現状を見る事が出来たなら、破滅級の龍が人間の子供に甘え、その周りで拍手を送るアンデッド、そして顔面蒼白になり今にも倒れそうになっている可哀想な3人組がいる、何とも摩訶不思議な空間になっていた。




久しぶりの再会を喜んだ後、これ以上騒ぎになるのを防ぐ為にもアンデットたちには速やかに戻って貰った。


特に死を喰らう竜デス・ハング・ドラゴンなんてそこにいるだけで、アンデッド以外にダメージを与えるスキルを持っているので直ぐさま帰って頂いた。


先生の使った領域を黒く染める技は、高位の転移系スキルだ。しかも、あんな大勢を同時に呼び出せるのは世界中探しても先生くらいだろう。


「さて、自己紹介が遅れてしまったな。儂の名は、ローエングリフ。古龍種にして、此処にいるトウヤの師であり、義祖父だ」


そう言ったのは、人型となった漆黒の龍 ーローエングリフだ。


人型となった先生の見た目は、長めの黒髪に蒼と赤のオッドアイ。整った顔立ちに細身でスラリとしたモデル体型の若い美男子だ。


先生曰く、龍の肉体は魔素と魔力によりできたものなので人型になることも簡単らしい。

そして、俺はこの姿の時の先生を絶対にロー爺ちゃんとは呼びたくない。


俺以外の3人は未だにショックから中々立ち直れておらず、若干の間が空いた。


その中でメデルが1番早くショックから戻り、先生に対して一礼した。


「‥‥失礼いたしました。私は、トウヤ様の眷属 メデューサ・デル・カーリス・シールバーと申します。メデルとお呼び下さい」


「ふむ、聖蛇か。義孫の眷属なら儂に気を使う必要はない」


メデルは苦笑を浮かべながらも、再度一礼した。


流石に先生は一目でメデルの正体を看破ったようだ。


その隣で、何故かヴィルヘルムとリツェアがメデルを見つめていた。


あぁ そう言えば、2人にメデルが聖蛇だってことを言って無かったな。


聖獣を特別視している他種族は多いからな。


「そこの2人は何者だ?」


「俺は、ヴィルヘルム・アーガストです!」

「私は、リツェア・ツェレス・クイーテルと申します!」


2人が勢い良く頭を下げる。


相手が破滅級の古龍で緊張するのは分かるが、それじゃ名前しか分かんねぇだろ。


「名前だけ聞いても分からん。‥‥儂が知りたいのは、貴様達がトウヤの敵か味方か?だ」


「そ、それは‥‥」

「あ、え〜と‥‥」


2人は当然の事ながら応えを言い淀んでいる。

それもそうだ。俺と2人の関係は契約で縛っただけの脆い物、見方とは言えない。

ヴィルヘルムの場合はヴァーデン王国に着けば敵になる。


はあー、面倒事になる前に俺が話すことにした。


「2人との関係は俺から話します」


そして、俺が召喚されてからこの場に来るまでの経緯とメデルが脱獄の話を先生に話していた。


「なるほど」


先生は目を瞑り考えているようだ。


それにしても、


「メデル、良くヴィルヘルムの頭に乗ってたな」


俺が言ったのは、移動の時は2人に手伝って貰え、と獣人族の毛は意外と気持ち良いぞ、の2つだけだ。なのに、どうしてそこから特別仲の良くないヴィルヘルムの頭に乗るなんていう行動を起こしたのか、俺には分からなかった。


「召喚の間までの道は私しか知らないのに、私を怒りのままに殺す様な愚かな方ではない、と思いましたので」


「その理由は?」


「主が選んだ方ですので」


「‥‥そうですか」


またメデルの忠誠心が上がった気がする。


偶然だが、今回の場合は相手がヴィルヘルムだから助かったようなもんだぞ。


「良かったな。ヴィルヘルムが意外と優しくて」


「うるせぇ‥‥!」


「プププ‥‥そう怒るな、優しいんだから」


「リツェア‥‥!」


その後、メデルも加わりからかっているとヴィルヘルムはガルル、と低く唸りだした。

怒っているのか、照れているのかは分からないが、白虎の姿の所為で迫力があり過ぎる。


まぁ、ヴィルヘルムが見かけによらず優しいのは間違いないだろう。今、『念話』でメデルから詳しく聞いたが脱出の間は戦闘力の低いメデルを常に気にしてくれていたみたいだしな。


‥‥人は見かけによらないって事だろう。


「トウヤと貴様達の関係は分かった」


先生がいつの間にか目を開けこちらを見ていた。それに、何故か少し嬉しそうだ。


「逃亡の為とは言え、他種族を助けるとは‥‥お前らしいな」


「利用しただけですよ」


この2人を知ったのは王都の街を下見していた時に、国民から近日に処刑が行われると言う話を聞いた時だ。


「そうか。君がそう思うなら、今はそれで良い」


「?」


この時の俺には、先生の言葉の意味が理解出来なかった。


「先生、それはーー」

「それで、行き先はヴァーデン王国で良いのだな?」


駄目だ、この時の先生はこっちの話を聞いてくれない。


俺以外の3人は先生の問いに頷いた。


はぁ、分からない事を考えてもしょうがないか……。


「お願いしてもよろしいですか?」


「孫の頼みだ、任せておけ!」


先生の足元から闇が広がった。


「「「えっ?」」」


俺たちは、まるで水の上に立っていたと錯覚する様に黒く染まった地面に沈んだ。


そして、


「「「えっ!?」」」


知らない森の中に出た。


「沈んだ筈なのに‥‥」

「頭から出たな」

「‥‥意味が分からん」

「相変わらずな転移の仕方ですね」


「最初は戸惑うだろうが、すぐ慣れるさ」


そう言い先生は笑った。

何も知らない女性が見れば惚れそうな程のイケメンスマイルだ。


これだけでも、一枚の絵になりそうだな。


そして、先生はその笑顔のまま俺とヴィルヘルムを見た。


「さて、舞台は整えた」


「「‥‥」」


「思う存分戦い給え」







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