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結婚においてもっとも大切なこと
作:ある。


「今回の決め手になったのは何ですか!?」
「やはり、以前に仰っていたように性格がぴったり合ったと言うことですか!?」 
 たかれるフラッシュは太陽を直視しているかのようにまぶしい。
「彼の手のぬくもりはどうでしたか!?」
 そして質問攻め。十分以上こんな感じだ。結婚は大勢の人に祝福されてなんぼだと思うが、こいつらはそもそも祝福なんてするつもりはない。あるのは好奇心と、スクープを持ち帰って満たされるであろう自分の財布の中身への限りない追求だ。食事にたかるハエとなんら変わりない。
「出会いのきっかけは!? なんでも、川に流されている所を助けたとか!」
「逆ですよね! 助けられたんですよね!?」
 始まりはただの冗談だった。四月一日でもないのについたちょっとした嘘。問題なのはそれれを本気で受け取った側にあると思う。
 私はとある財閥の、そろそろ結婚してもいい年頃の娘だ。ところがすり寄ってくる連中は私などには首はおろか視線さえ向けはしない。彼らの目的は私の首から下……体ではない、服やアクセサリー、それを買うだけのお金だ。
 私はそんな連中に嫌気がさした。お見合いは片っ端から断って、そのたびにグループ総帥である父はノイローゼ気味の患者が鎮静剤を打たれた時のような顔をしたものだ。
「いったいどんな男がいいというんだ、娘よ」
 私は言った。どんな物にも縛られない、自由気ままで、それでいてプライドが高く、寡黙で、生き様を背中で語り、何者よりも強い者がいいと。
 たとえるならそれはそう……。
「お相手の”トラちゃん”の、写真とかありますか!?」
 トラのような相手が良いと。



 検証しよう。
 今は結婚式の最中。私のウエディングドレス姿に、父と母はぼろぼろと泣いた。
「おぉ、美しい。若い頃の母さんそっくりだ」
「新郎も凛々しそうで、母さん安心だわ」
 どんなだ。
 さっきから檻の中でぐるぐると暴れ回ってる、アレのことを言っているのか?
 ベンガル虎。
 体長は大きいもので3メートル。百年前には人間を食べていたとかいう話もあるらしい。
 うわ、めっちゃ暴れてるよ。檻とか壊れないだろうな、結婚式場が一転して葬式場になるぞ?
「大丈夫よ、特別堅い金属でできているらしいから」
 ていうか、新郎を閉じこめるなよ、結婚式の主役を。
「だって、閉じこめないと私たちだって危ないでしょ?」
 分かってるなら結婚させるな。その私たちに私のことも含めてくださいお願いだから。
「だって、あなたの理想の相手でしょう?」
 私は言った。
 どんな物にも縛られない自由気まま。
 たしかにそうだろう。どこで暮らしていたかは知らないが。
 プライドが高く、寡黙。
 そもそもしゃべれないだろ。
 背中で生き様を語り、何人よりも強い者。
 まあ生き様がかっこいいのは認める。
「たとえるなら虎だと」
 ようなじゃない。そのものじゃないか。
「冗談じゃない。誤字か? 何で人間と虎を結婚させるんだ!」
「あなたの理想の相手に当てはまるのは、婿候補の中にはいなかったんだもの」
 そりゃそうだろ。みんな金持ち共のお坊ちゃんだ。世間知らずでそもそも逆境なんて辞書で引いたこともないような連中だ。
 だからこそ、私はそんな条件を出したんだから。
 なんでも住民票は取ったらしい。どっかの川に漂着したアザラシに住民票を与えたなんて話は昔あったが、虎が住民票を取れるものなのか?
「高いお金払ったんだから。さ、くだらないこと言ってないで、お色直し」
 母に引っ張られ、私は化粧部屋へと連れて行かれた。
 ……嘘だと言ってくれ、頼むから。
 ドッキリでも夢オチでもいい。私を助けてくれ。



「あー、新郎”トラ”」
 結婚式はすでに佳境を迎えていた。両親、それから友人代表のスピーチも無事に終わり、指輪の交換の場面だった。死ぬ、初夜を待たずしてここで死ぬ。
「あなたは、この新婦を永遠に愛し、病める時も健やかな時も守り抜くことを誓いますか?」
 返事は”がおがお”だった。
「新婦よ」
 新郎の両親の席は空席だった。共に行方不明らしい。
「あなたは病める時も健やかなる時も、この新郎を永遠に愛する事を誓いますか?」
 嫌だ。
 断固嫌だ。なんだこれ、結婚式といえば女のあこがれ、一生の夢だ。それがなんでこんな事になってる。
 母のほうを見る。満足げな表情だった。涙まで流してる。父に至っては虎の方に目をやって「娘をよろしく」とか呟いてやがる。ふざけんな。
 両親だけでなく、この場に参加している全ての人間の目が、本気だった。ロシアンルーレットに大金を賭けて挑むマフィアのような目をして、私たちを見守る視線はちっとも温かくなかった。
 考えなければ。
 このままでは虎の餌だ。
「……新婦?」
 だまってろ。
「どうした新婦? 彼に不満があるのか?」
 不満……そうだ!
 私はその場に崩れ、よよよと泣き崩れた。駆け寄ってこようとする人々を手で制した。
「ごめんなさい……言い出せなかったのですが」
 皆が息を呑む。次に私が言うことに耳を傾ける。
「彼とは性格が合いませんでした。お祝いしてくださっている皆さんの前に、言い出しにくくて」
「しかし、お前のいったとおりの性格の相手だぞ」
 父が反論する。虎はがおがお。
「あの時の私は、無理矢理結婚させようとするあなたに憤り、反対のことを申し上げてしまったのです」
「反対のこと?」
「本当は、堅実で、おしゃべりが上手くて、私のためだったらプライドなんか平気で捨てるか弱い人が好きなのです」
「……ふむ」
 父が思案する。しめた!
 そんなタイプの相手なら金持ちの御曹司にはごろごろいる。どうせこの式場にも来ているだろう。金目当てでもいい、誰か名乗りを上げろ、結婚しろ!
 十数分の会議の後、虎は退場となった。故郷に帰されるらしい。
 その日の式は取りやめとなった。


 数日後。
 母が私の部屋を尋ねてきた。くらい顔だった。
「それが……」
 なんでも私の結婚相手は見つからなかったらしい。皆一様に、自分はプライドは高い。強い人間だ、と繰り返すのだそうだ。
 これだからお坊ちゃんは。身の程をわきまえろよ。
「だからお父さんと相談して、今度こそあなたの結婚相手を決めたのよ」
 背筋がざわざわした。嫌な予感しかしない。
 私の心境なんて知るよしもない母は、相手のビデオがあるといって勝手に、テレビをつけてDVDを再生し始めた。
 堅実。そうだろうな、よく相手のいうことを聞いている。
 よく喋る。というか終始吠えていてやかましい。
 か弱い……まあ、可愛くなくはない。
 だが問題外。どうもこいつら結婚に関して一番重要な事を忘れているようだ。
「紹介するわ。チワワの”ロメオ”よ」
 私は母の肩胛骨のあたりを思い切りぶん殴って、そのまま家を飛び出した














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