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星持ちと弁当屋  作者: 久吉
第二章 アカデミーと弁当屋
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星持ち様、心はどこに。

 イヴに連れられて戻った先程の場所には、アルドさんと見知らぬ男性がいた。二十代半ばくらいの、やや軽そうな焦げ茶の髪の男性。


「ごめんなさい、アル。ちょっと彼女を借りたわ」

 アルドさんが口を開く前にイヴがしれっと言う。


「…護衛がいたはずだが」

 アルドさんはとても不機嫌そうだ。隣にいる男性が青ざめているから、何か怒らせるようなことでもしたんだろうか。


「やだ、私があんなのにひけをとると思ったの?」

 イヴはころころと笑う。

 反して二人の空気はどんどん殺伐としていく。



 そのとき、どん、と一際大きな音がして、空に大輪が咲いた。

 近くにいる人たちから歓声が上がる。

 そろそろ祭の終わりが近いのかもしれない。



「あの、後夜祭終わっちゃう前に、広場に行きたいです」

 イヴとアルドさんの喧嘩を眺めてて後夜祭を見送るなんて悲しすぎる。

 あなたたちは毎年見られるかもしれませんが、私にはもう二度とないかもしれないんですよ。


「そうね、それがいいわ。今からなら最後の花火にも間に合うでしょ」

 邪魔した奴が何を言う、とちょっとイラッとするが、我慢。

 アルドさんを仰ぎ見ると、仕方がない、とばかりため息をついた。



 イヴと男性と別れて、やや足早に広場へ向かう。人でごった返しているのであまり急ぐことができないのだ。


 ふと、隣を歩いていたアルドさんが私の後頭部の髪に触れた。


「…ほどけている」

「え!どこですか?」

 イヴに連れていかれたとき、ほどけてしまったのだろうか?

 慌てて触ってみるが、公爵夫人にやってもらった髪は何がどうなっているのか鏡なしにはわからない。


「じっとしていろ」

 言われて手を下ろすと、アルドさんが再び髪に触れた。

 痛くないようにしてくれているのが妙にくすぐったい。優しく頭頂の髪と後頭の髪が結われていくのがわかる。

 恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。往来をいく人は花火に夢中だが、見られていないだろうか?怖くて顔を上げられない。


 わりとすぐにアルドさんは手を離して微笑んだ。


「これで帰るまでは大丈夫だろう。…似合っている」


 だから、無意味に罪を作りすぎですって。


 それにしても、アルドさんが髪をいじれるなんて意外すぎる。もしかして、恋人の?それともそっち系の趣味が…?


 じっと見つめると言いたいことが予想できたのか、アルドさんは苦笑した。


「妹が小さい頃はよく木の枝に引っかけたり転んだりして、結ってやることがあった」

「妹さんいらっしゃるんですね」

 そういえば、王子殿下二人に王女殿下が一人と習った気がする。


「さっき会っただろう」

 ……は?


「え、さっき?!イヴさんがですか?!」

 びっくりしてきくと、アルドさんは頷く。


「母親が違うから、あまり似ているとは言われないが、妹だ」

「えーと、じゃあエディくんのお姉さん?」

 エディくんよりは明らかに年上そうだ。


「ああ。イヴとエディは同じ母親だ。仲は非常に悪いが」

 あー。なんていうか、お互いマイペースすぎて合わなさそうだよね。

 自分がこっちって言ったらこっちなのに、なんで言うこときかない!とか怒ってそう。


「大変ですね、お兄ちゃん」

 イヴとエディくんの喧嘩を思い浮かべたら、つい笑ってしまう。


 苦労性のお兄ちゃんは、苦笑するのみだった。



 後夜祭の最後は、花火師と星持ちが協力しあって作り上げるショーで締めくくられる。

 ライラからその話をきいたとき、花火がこちらにもある嬉しさと、そこに星持ちが加わったらどうなるのかという期待でわくわくしたものだ。


 人混みにもまれながらたどり着いた広場の小高いところへ、二人で並んだ。

 どん、どん、と立て続けにきこえた音、遅れてまばゆい光が夜空を照らす。


「…イヴに、何を言われた」

 花火に見とれていたので、一瞬何のことかわからなかった。さっきのイヴに連れていかれたときのことですね。


「あー…。えっと」

 イヴには別れ際、このことは他言しないようにと強く言われていた。

 アルドさんには後から自分で説明するから、とも。

「私からは…。あとで自分から説明するって言ってました」

「…すまない」

 眉を寄せたアルドさんが小さく詫びた。

 首をかしげると、迷いつつ続ける。


「また…、こちらの事情に巻き込んでしまった。俺の家のことを考えれば、こうして出かけることも良くないことはわかっていたが」


 どん、どん、という音と共に昼間のように広場を照らす白い光。見る間に色を変えて勢いよく飛び散っていく。

 まるで、流れ星が砕けるようだ。このへんに星持ちの手が加わっているのかな。


「もう、退く気はない」


 一際大きな花火の音に続いて、どっ、と湧いた歓声。アルドさんが言ったことばがよくきこえなかった。

 え?と首を傾げたところを、そっと引き寄せられた。


 見れば、盛り上がった人たちが、最後の花火があがると共に、服を脱ぎ出したり酒をかけあったり、エライことになっている。私の隣のおじさんも、ものすごい雄叫びを上げて周囲の人と乾杯を繰り返している。

 巻き込まれたら大変そうだ。


「…時間切れだ。送っていこう」

「あ…。はい」

 そうだった。このまま一度公爵家に戻って、アカデミーまで帰らないといけない。

 祭りの終わりを告げられ、なんとも言えない寂しさが襲う。


「…また、連れてこよう」


 その瞳に、寂しさが見えた気がしたのは、私の淡い期待のせいなのかもしれない。





 ディルス公爵家に送ってもらい、公爵夫妻とライラに挨拶をしてアルドさんは帰っていった。

 しばらくは会うことも難しいだろう。

 あ、でもイヴに頼んだら外出時に会わせてもらえるかも?

 無理なお願いをきくんだから、そのくらいは叶えてもらえないかな。


「リリア、それ似合ってる」

「まあ、本当。殿下、いい趣味ねぇ」

 アカデミーに戻る前に着替えを、と再び公爵夫人の部屋へ招かれて、ライラと公爵夫人に口々に言われる。何のことだかわからない。


「髪飾り、もらったんでしょう?新年祭での贈り物は、この一年ずっと一緒にいられますようにって願いがこめられてるのよ」


 夫人の指さす先を辿ると、私の後頭部。手を伸ばすと、冷たい金属が触れた。

 髪を崩さないようそっと引くと、六角形の雪の結晶を象った髪飾りがあった。


「え、いつ…」

 贈られた覚えがない、と言いかけて、ハッと気づく。

 あのときか。髪がほどけていると結い直してもらったとき。


「あとでゆっくりきかせて」

「……!ライラだってきかせてよ」


 アカデミーに戻る馬車の中は、さぞうるさかったに違いない。

 御者さん、ごめんなさい。




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