言葉のかわりに(95/143)縦書き表示RDF


言葉のかわりに
作:チェリ→



第三章 -20-


あれから数週間が過ぎて、長瀬が唯のところに現れる事はなかった。



あの始業式の日以来、また疎遠になったということか・・・?



唯は相変わらず音楽の勉強とレッスンで忙しいみたいだ。

加えて時々、仕事の打ち合わせだかなんだかで事務所にも行っている。

俺は俺でバンドの練習とミーティングやバイトで忙しく、

唯とは学校でしかまともに会っていなかった。

だから唯と昼休憩くらいゆっくり話がしたい・・・だけど、

昼休憩になると唯はいつも一人で教室を出て、どこかへ行っていた。

多分・・・音楽室だろうけど。



それに、最近なぜだか知らないけど同じクラスの有坂一美が

やたら俺に話しかけてくるようになった。

顔はどちらかと言うと可愛いと言うより、美人。

スタイルも悪くない方なんだろう。

なので・・・男子からの人気も高い。

その女が昼休憩以外の短い休憩時間にも話しかけてくるのだ。

特に唯と話していると必ず。

しかも、だいたいくだらない話ばっかりだ。

まったく、去年といい、今年といい文化祭の季節になると

俺の周りに変な女が寄ってくる。



なんなんだ・・・一体?



とはいえ、昼休憩はJuliusのファンの子達が教室にくるし、

有坂もちゃっかりファンに混じっていたりするから

結局、唯がいてもまともに話はできないけど・・・。

これじゃフラストレーションが溜まる一方だ。

それでも俺が爆発する寸前で唯と一緒に帰ったり、

夜に電話でゆっくり話せたりしているからなんとか抑えている。





10月になり、文化祭の1日目―――。

俺達のクラスはたこ焼き屋の模擬店をやっていた。

俺と拓未、唯と香奈は朝から昼の12時まで手伝う事になっていた。



料理がまったくダメな拓未は接客係、俺と唯と香奈がたこ焼きを焼く係だ。

俺と拓未がいる事を知ったからか、Juliusのファンの子達が

たくさん来てくれた。

おまけに唯の人気も手伝って男子生徒がわらわらと来た。

おかげで、たこ焼きの材料が足りなくなったらしい。



「篠原、悪いけど有坂さんと一緒にそこのスーパーで材料買い足して来てー。」

裏で材料を切っていたクラスメイトの男が俺に買出しを頼んで来た。



え・・・あの女と?



マジかよ・・・。



とは言え、みんな忙しそうに手を動かしているし、たこ焼き焼くのは唯と香奈で

今のところ間に合うし。

材料は小麦粉やソースなんかもあるから女の子一人じゃ持ち帰るのが辛いし、

二人でもキツイだろう。



「・・・わかった。」

俺は仕方なく、あの女と買出しに行く事にした。



「じゃ、篠原くん行こっ!」

満面の笑みを浮かべ、有坂は俺の腕に絡みついてきた。

しかも唯の目の前で。



「・・・。」

俺は無言で振り払い、足早に歩き始めた。



まったく・・・冗談じゃねぇ。

さっさと買出し終わらせて帰ってこよう。

もうすぐ12時だし。





スーパーに行く途中も有坂はやたらと俺に話しかけてきた。



「篠原くん待ってー、歩くの早いよー。」



俺は普通に歩いてるつもりだけどな。



「そんなに急がなくても大丈夫だよー?」



俺は早く買出しを済ませて戻りたいんだよっ。



「ねぇねぇ、篠原くんと神崎さんて・・・本当に付き合ってるの?」

「そーだけど?」

「どこがいいの?」

「はぁ?」

「ねぇ、神崎さんのどこがいいの?」



うぜぇー。



「別にそんな事あんたに答える必要ないだろ。」

「篠原くんて冷たいのねぇー。」



悪いかよ。





スーパーで買出しを済ませ、重そうな物はとりあえず俺が持った。

小麦粉とソースやマヨネーズだけでも結構な量だ。

これはさすがに女の子には持たせられない。

有坂の方になるべく軽いものを持たせたけど、それでも重いだろう。



ま、この女だからいっか。



「あ、ねぇ、篠原くん、買出し思ったより早く済んだし、

 そこのスタバで休んで行こうよー。」



はぁ〜っ?

つーか、早く済ませたんだよっ。



「そんなヒマない、早く戻らないと間に合わないぞ。」
 
「えー、ちょっとくらいいいじゃない。」

「んじゃ、一人で休んでいけよ。」

「もー、ホント冷たい!」



うるせー。



「神崎さんには、あんなに優しいのに・・・。」



当たり前だろ。





俺と有坂が模擬店に戻ると12時を少し過ぎたところだった。

拓未と香奈はもうどこかへ二人で行ったようだ。



・・・てか、唯がいない。



あれ?



「唯は?」

近くにいたクラスメイトに聞くと、12時の交代直前に唯の知り合いが

来たらしく、その人とどこかへ行ったらしい。



えー・・・。

マジかよー。



「どんなヤツだった?」



「スーツ着た二人組の男。一人は25,6才で銀縁のメガネかけてた。

 もう一人は20才過ぎくらいだったかな・・・。」



・・・橘だ。

もう一人の男は見たことないヤツだな・・・。



「神崎さんもひどいねー。篠原くんの事置いて他の男の人と

 どこかへ行くなんて。」

有坂は今の会話を横で聞いていたらしい。



「別に、ただの知り合いだし。」



「そーぉ?」



「つーか、その人達なら俺も知ってる人だし。」

一回だけ遠目から見たことあるだけだけど。



「神崎さんの事心配じゃないんだ?」



「信頼もしてる人だから。」



信頼・・・?

なにを・・・?



「ふーん。」

有坂は何か言いたそうな顔をしている。



・・・てか、俺、何ムキになって有坂に言ってんだろ。



「ねえ、じゃ一緒に模擬店巡り行こうよ!」

そして、唯がいないのをいい事に有坂がとんでもない事を言い出した。



はぁ?

俺は唯と行くんだよっ。

とはいえ肝心の唯がいつ帰ってくるかわかんないな・・・。



「ね、いこっ。」

有坂はまた俺の腕に絡み付いてきた。

今度は簡単に振り払えないようにしっかり絡み付いている。

すると、そこへちょうど唯が戻ってきた。

俺が有坂と腕を組んでいるところをバッチリ見られてしまった。



「・・・。」

唯は無言でくるりと背を向けて走り出した。



「唯!」

俺は追いかけようとしたが、有坂が腕を放さない。



「放せよ!」

俺が睨みつけて怒鳴ると、有坂はさすがに怯んだのか、

すぐに腕を放した。



俺は急いで教室を出て、唯が走っていった方向に目をやった。



だけど・・・すでに唯の姿はなかった・・・。








ぽちっと押して応援してください♪


小説の人気ランキングです。よろしければぽちっと・・・




++ チェリ→のぺぇ〜ぢ ++






ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう