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第一章 -4-
――翌朝、

唯は和磨と拓未に挟まれて歩いていた。



それは昨日の帰りの事――、



「唯ちゃん! 俺も明日から朝一緒に行っていい?」

拓未からそう訊かれ、唯が返事をするより先に、

「えっ! 拓未くんも一緒? マジ? いいに決まってるじゃん! もちろん全然OKよ! ね、唯?」

香奈が返事をしてしまい、彼女がTakumiのファンだと言う事もあり、その上唯自身も特に断る理由がないという事で

成り行き上こうなっいしまったのだ。





そして香奈の家に着き、唯がインターフォンを押そうとした時――、

「おっはよ♪」

満面の笑みを浮かべた香奈が手を振りながら玄関から出て来た。



「おはよう」

(今日は寝坊しなかったんだな)

和磨は少し苦笑いしていた。



「おぅ! おはよ!」

拓未も軽く手を上げ、香奈に笑みを向ける。



「おはよー。香奈……ど、どうしたの? 珍しい……」

一方、毎朝待たされる事に慣れている唯はキョトンとしていた。



「だって拓未くんと登校出来るんだよー?」

香奈は嬉しそうに言いながら拓未の隣に並んだ。



(そういう事ね……)

「雪が降る……」

唯は思わずボソッと呟いた。



「ん? なんか言った?」



「ううん、なんでもない」



和磨と拓未はそんな二人のやりとりを笑いながら見ていた。



こうして朝と帰り、周りから見れば“ダブルデートの図”は一週間繰り返された――。





     ◆  ◆  ◆





一週間後――。



学校からの帰り道、いつものように唯達四人はファーストフードに立ち寄った。



「唯、足もう完治した感じ? 痛くない?」



「うん、もう全然平気。みんなありがとね」



「いやいや、俺なんもしてねぇし」

香奈の隣に座っている拓未が笑いながら答えた。



「俺達にくっついてただけだもんな?」

和磨がすかさず突っ込みを入れた。



すると唯は少し言いにくそうに、

「えと……だからそのー……明日から送り迎えは……大丈夫だから……」

そう切り出し、「朝も大変だろうから」……と続けた。



(それに何より女の子達の視線が気になるし……)

一番の本音はそれなのだが。



香奈もさすがに朝起きるのが辛くなってきたのか反対もしないで聞いている。



「……うん、わかった」

和磨は少し考え、これ以上は唯にとって迷惑なのだろうと思い、承諾した。



「唯ちゃんがそう言うなら」

拓未もただ和磨にくっついていただけなので頷くしかなかった。



「ホントにありがとう」

唯は改めて和磨達にぺこりと頭を下げた。



「何言ってんだよ。俺が怪我させたんだから……」



「そうそう、唯ちゃんは気にしなくていいの」



「まあまあ、それよりさライブって今週末だよね?」

香奈は暗くなりかけた空気を察知し、Juliusのライブへと話題を変えた。



「約束通り、行くから♪」

にっこり笑う香奈。



「お、じゃあ、チケット」

拓未はライブのチケットを唯と香奈に渡そうとカバンを開けた。



「待った」

すると和磨が手でそれを制し、

「今回は俺が二人を招待」

唯と香奈にチケットを渡した。



「……え? いいの?」

唯は少し驚きながら和磨を見上げた。



「うん……だから、絶対来て?」

その意外にも真剣な和磨の瞳に、唯は思わずコクンと頷いた――。





     ◆  ◆  ◆





翌朝――、

「おぃっす♪」

和磨が登校していると後ろから拓未が駆け寄って来た。



「おう」

和磨が無表情な顔を向ける。



「わ、唯ちゃんいないから無表情に戻ってる」

すると、拓未がからかうように言った。



「神崎さんは関係ないだろ」



「自覚なしか……お前、唯ちゃんと一緒に登校してた時は表情も声も柔らかかったぞ?」



「そんな事ないだろ」

和磨は内心ドキリとしていた。

昨夜、目覚ましをセットする時ももう唯を迎えに行かなくていいんだと思うとなんだか寂しい気がした。

たった一週間だけだったが、唯と一緒に登下校した事が楽しかった。

特に二人で何を話すという訳でもなかったが、どんな女の子といるよりも和磨は“楽しい”と感じたのだ。



「まぁ、お前以上に俺は寂しさを感じてるけどなー」



「お前は女の子なら誰でもいいんだろ?」

拓未の性格をよく知る和磨は苦笑いしながら言った。





     ◆  ◆  ◆





――そして、いよいよ週末の土曜日。



ライブのリハーサルが終わり、楽屋に戻った和磨はふぅーっと息を吐き出してミネラルウォーターで喉を潤した。



後二時間程で本番が始まる。



(神崎さん、ホントに来てくれるかな……?)

そんな事を考えながらまた一口、ミネラルウォーターを口に含むと、

「和磨、唯ちゃんが来てくれるか心配してんの?」

拓未にあっさりバレてしまった。

和磨は慌ててミネラルウォーターを飲み込んだ。



「別に……、そんなんじゃねぇよ」

正直思いっきり図星だが、なるべく平静を装って言い放つ。



「ふぅ~ん」

しかし、拓未はにやにやしている。



「“唯ちゃん”て誰よ?」

すると、ベースの准が興味深げに訊いてきた。



「もしかして和磨の新しい彼女?」

そしてドラムの智也も身を乗り出した。



「違う」

和磨は態とぶっきらぼうに答えた。



「けど、気になってんだろ?」

拓未はどうなんだ? と言う顔で訊ねる。



「……チケット渡したからには来てくれるか気になるのは当たり前だろ」

それだけ言って和磨は楽屋を出て行こうと立ち上がった。



「やっぱ気になってんじゃーん?」

背中の方で拓未がからかうように笑いながら言ったのが聞こえたが、これ以上ここにいたら

ボロが出そうなのでとりあえず無視をする。

それにライブハウスは地下にある為、携帯の電波が届かない。



(もしかしたら来れないって連絡があったかも……)

和磨は不安になって外に出た。



携帯を開き、不在着信やメールが来ていないかチェックをする。

だが、幸いな事に不在着信もメールも来ていなかった。



和磨はホッとして外の風にあたりながら空を見上げた。



(神崎さん……来てくれるといいな……)





     ◆  ◆  ◆





――午後六時。



唯は香奈に連れられ、ライブハウスという場所に初めて足を踏み入れた。

地下へと向かう狭い階段を降りて分厚く重いドアを開けると、うるさいくらいのBGMと煙草の煙や埃っぽい空気が流れ出てきた。



(わぁ……)

雰囲気に圧倒される唯。

中はもうファンの子達でいっぱいだ。



ここのライブハウスではメインのバンドの前に前座のバンドがいる。

今日のメインバンドはもちろんJuliusだ。

前座のバンドは香奈も知らないバンドだった。



普段はセッティングしてあるテーブルとイスも、Juliusのファンが多いからだろう、片付けられている。

唯と香奈は開演ギリギリに来た訳ではないが、既に前の方はファンの子達でいっぱいで行けない為、後ろの壁際に行った。



「すごい人……」

唯は前方でひしめき合っている女の子達を見て思わず口にした。



「Juliusは人気があるから、さすがにファンの数も多いね」



「もしかして、全員Juliusのファン?」



「うん、多分。前座のバンドのファンもいるだろうけどね」



「ほぇぇぇ~っ」

唯は改めて和磨達がいかに人気があるか思い知らされた気がした。



香奈のレクチャーによると、Juliusの曲は基本的にオリジナルでほとんど作曲はTakumiで作詞がKazuma。

もちろんそうじゃない曲もあるし、カバーも織り交ぜてやるらしい。




(篠原くんが書く詞って、どんなのかな?)

香奈の話を聞くうち、唯はどんどんJuliusというバンドはもちろん、和磨自身に興味を抱いていった。





そうして香奈からいろいろとJuliusについて教えて貰っているとあっという間に開演時間になった。



前座のバンドがステージに現れ、演奏が始まる。

確かにまったくファンがいない訳ではなさそうだが、真剣に聴いている人は少なそうだ。



ここはわりと名の知れたライブハウスで出演に至るまではオーディションがあるらしく、

前座のバンドも下手ではないが、それほど上手い訳でもない。





     ◆  ◆  ◆





四十分程の演奏は思っていたよりも早く終わり、幕が下りた後、前座のバンドとJuliusの機材の入れ替えが始まった。

それと同時に最前列では前座のバンドのファンと、Juliusのファンの入れ替わりも始まっていた。



「耳、大丈夫?」

香奈はステージ両側に置かれた巨大なメインアンプから流れ出るライブハウスならではの爆音に慣れていないであろう唯を気遣った。



「う、うん」



「唯、こういう場所初めてだから、音の大きさにびっくりしたでしょ?」



「うん、すごい音だね」



「次がJuliusだから耳ならしにはよかったかもね。いきなり慣れてない耳でJuliusの曲を聴いてもよくわかんなかっただろうし」



唯と香奈がそんな会話をしている頃――、

ステージでは機材の入れ替えをしながら拓未が和磨に耳打ちをした。

「唯ちゃん、来てるぞ」



「っ!」

和磨は思わず拓未の方に顔を向けた。



「今、ステージの袖から客席見てきた。香奈ちゃんと後ろの方にいる」

そう言って拓未はニッと笑い親指を立てると和磨も無言で微かに笑みを返した。





Juliusの機材のセッティングが終わると、客席の照明が落とされた。

もうすぐ演奏開始だ。

唯はドキドキしながらステージを見つめていた――。
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