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第三章 -11-
唯は和磨と有坂一美が腕を組んでぴったりと寄り添っているところを目の当たりにし、思わず逃げ出した。



最近、有坂がよく和磨に話し掛けている。

昼休憩もファンの子に混じって和磨と話しているし……という事は有坂もJuliusのファンになったのかもしれない。

しかし、有坂の場合は一ファンとして……と言うより、なんだか違う気がした。

それに和磨はたいして相手にもしていないが、あからさまに拒絶もしていない。





唯は校庭まで出ると隅にあるベンチに座った。

溜め息と一緒に涙まで出て来そうだ。



「何、シケた面してんだよ?」

聞き慣れた声がしてハッと顔を上げると、孝太が目の前に立っていた。



「あっ! こら、待て!」

孝太は咄嗟に逃げようとした唯の腕を掴み、ベンチに座らせると自分も隣に腰を掛けた。



「なんで逃げようとするんだよ?」

「つ、つい……」

「ついって……なんだよ、それ」

孝太は眉間に皺を寄せた。



「……ごめん」



「まぁ、いいけど。……てか、この間は……悪かった」



「……うん……香奈から聞いた」



「そっか……まぁ、でも直接言いたかったし」



「……コウちゃん、そーゆートコ、昔と変わんないね」

孝太は昔からそうだった。

唯とケンカをして舞や香奈から「孝太が『ごめん』って言ってたよ」と聞いていても後で直接ちゃんと謝ってくる。



「そうかー?」



「うん」



「……つーか、お前……なんかあったのか?」

孝太は唯の様子がおかしいのに気が付いていた。

だから声を掛けたのだ。



「別に……なんでもないよ」

そう言いつつ、唯の黒い瞳からは涙がこぼれた。



「……ん」

孝太は唯が泣き出すのがわかっていたのか、素早くハンカチを唯に差し出した。



「……ありがと」



「なんでもあるから泣いてんだろ?」



「なんでもないもん……」

だけど唯の涙は止まらない。



「お前もそーゆートコ、昔と変わんねぇなー」

「なにが……?」

「泣き虫なクセして俺達になんにも言わねぇトコ」

「……」

「そーゆートコは……舞も同じだったけどな……」

「……うん」

「他は正反対だったけど……」

孝太は舞の事を思い出したのか、ふと寂しそうな顔をした。



「コウちゃん……」



「ん……?」



「舞の事……無理に忘れようとしてない……?」



「……」



「無理、しなくていいと思う」



「……」



「まだ三年も経ってないんだよ?」

唯はそう言うと孝太に視線を移した。



「……そうだな、俺には随分経ったように感じるけど」



「それに……、舞の事はどうしたって忘れられないでしょ?」



「あぁ……」

孝太は小さく溜め息を吐いた。



「コウちゃんは前を向いていないだけだよ」



「……え?」



「私もそうだった……」



「唯……」



「私もまだ完全に前を向いてる訳じゃないけどね」



「……ピアノ、また本格的にやり始めたみたいだから、すっかり立ち直ったんだと思ってたけど」



「そんな事、ないよ……」

唯はそう言って俯くとまた涙がこぼれた。





「こらっ! 孝太!」

唯がハンカチで涙を拭いていると少し遠くの方から香奈の声が響いた。



「うげっ、香奈……」

孝太はまずいところを見られたと言わんばかりに顔を顰めた。



「あんた、また唯を泣かせて!」

香奈はズカズカと大股で孝太の目の前に来ると仁王立ちをした。

その後ろからは拓未もついて来ている。



「ば、ばかっ! 違うっ」

孝太は慌てて首と手をブンブンと横に振った。



「何が違うのよ?」

「俺が来た時には既に泣きそうな顔してたんだよっ」

「じゃ、まだ泣いてなかったんじゃないの!」

「だからってなんで俺が泣かした事になるんだよ?」

「この間の事もあるしねー」

「あ……あれは……」

「ほら、やっぱり」

「つーか、唯! お前も泣いてないでなんとか言えよ!」



「香奈……コウちゃんの所為じゃ、ないから……」

唯は孝太に言われ、とりあえず違うと答えた。



「ホントに?」

香奈はまだ俯いたままの唯の顔を覗き込んだ。



「うん」



「ほら見ろ!」

唯が頷いたのを見ると孝太は口を尖らせた。



「何言ってんの? あんたは唯を泣かせるの常習犯でしょうが!」



「む……それは否定出来んな」



「前科がいっぱいあるからね」

香奈はフフンと笑った。



「……つーか、せっかく唯とラブラブだったのに……」

孝太はそう言うと「邪魔しやがって……」と呟いた。



「どこがラプラブよ」

香奈は半分呆れたように言った。



「二人でラブトークしてたとこだったのに、なぁ?」

孝太はそう言って唯の頭をポンポンと撫でた。



「……違うもん」



「へ?」

孝太はぽかんと口を開けた。



「コウちゃんとラブトークなんかしてないよーだ」

そう言って唯はベーッと舌を出した。



「お前……嘘泣きだったのかよっ」



「嘘泣きじゃないけど、コウちゃんが“ラブラブ”とか寒い事言うから、涙がひっこんだの」



「はぁ? 意味わかんねぇー」



「おー、唯、久しぶりの反撃だねぇ」

香奈は唯と孝太のやりとりをおもしろそうに見物し始めた。

拓未もクククッと笑いを堪えている。



「つーか、お前“寒い”ってなんだよ」



「だってコウちゃんが、私と“ラブラブ”なんて有り得ないもん」

唯はそう言って孝太からプイッと顔を背けた。



「えー、有り得ると思うんだけどなー?」

孝太はそう言うと「試してみる?」と唯の顔を覗き込んだ。



バチンッ――。



唯は孝太にデコピンをお見舞いした。



「いてっ!」



「私は舞じゃないから」

そして、そう言って立ち上がるとスタスタと歩き始めた。



「唯! 冗談だってば! おいっ、待てって!」

孝太は唯の背中に向かって叫んだ。

すると唯はピタリと止まった。



「あ、止まった」

香奈がそう言うと、唯はくるりと振り返り、再び孝太の前に歩み寄ると、

「返すの忘れてた……これ、ありがと」

孝太に借りていたハンカチを返した。



「唯、ごめん。今のは冗談だってば」

孝太はばつが悪そうに唯に謝った。



「わかってるよ」

唯はそう言って、孝太に微笑むと

「じゃ、またね」

孝太達三人に手を振って歩き始めた――。
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