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第二章 -8-
――文化祭が終わった翌日。



放課後、唯と香奈のクラスでは“執事・メイド喫茶”の収支報告と打ち上げがあった。

元々、赤字も黒字も出ないように計算をしていたが、写真撮影が思わぬ好評で大幅な黒字となった。



中でも一番人気だった唯はダントツで、利益をほとんど一人で稼いだようなものだった。

おかげで当初予定していた打ち上げよりかなり豪華な内容になった。





そして和磨と拓未のクラスでも“オバケ屋敷”の収支報告と打ち上げがあった。

しかし、こちらは赤字も黒字もなかったようだ。

と言う訳で、和磨達のクラスはジュースで乾杯しただけで打ち上げは終わった。



「こっちはあっさりした打ち上げだな」

拓未は苦笑いしながら言った。



「まぁ、赤字じゃないだけマシだろ」

和磨もそう言いながら苦笑している。



「香奈と唯ちゃんトコの打ち上げはすごいらしいぞ?」



「へぇー、黒字になったんだ?」



「例の写真撮影が大ヒットだったらしい」



「あぁ、あれか」



「利益のほとんどは唯ちゃんの撮影で稼いだんだってよ」



「え……」

和磨は唖然とした。



(確かに唯の人気はすごかったけど……)



「と言う訳で、あっちはまだまだ打ち上げがお開きになりそうにないから先に帰れってさ」

拓未が携帯の画面を和磨に向けた。

香奈からメールが来たのだろう。

メールには打ち上げの様子の画像も添付されている。

ドリンク類の他にピザとフライドポテト、チキンナゲットまで並べられている。



(唯からはメール来てないけど……)

……なんて、和磨が思っていると、

「ちなみに唯ちゃんはメールを打つ暇がないらしい」

拓未が苦笑いしながら言った。



「はぁ?」



「クラスの男子に捕まってるって」



「な……っ」



「だから、お前にも先に帰ってくれってさ」



「……」

(マジかよ……)

和磨は不機嫌そうな顔で黙り込んだ。





     ◆  ◆  ◆





そんな“不機嫌ボーイ”和磨と拓未の二人は楽器店に寄った後、その近くのファースフードに寄って帰る事にした。



「……あれ?」

そして、和磨達が店内に入ろうとした時、窓際の席によく知った顔があった。



「……っ!?」

思わず足を止める和磨。



(唯……?)



遠目から見ても楽しそうに誰かとしゃべっているのがわかる。



唯の目の前の席を見ると、戸田直樹が座っていた。

文化祭の時も唯と楽しそうにしゃべっていた男だ。



(あいつは……)



唯と直樹が座っている四人掛けのテーブルには他に誰もおらず、二人しかいない。



という事は、二人で来たのだろうか?



だけど何故こんな場所に?



「乗り込んでみるか?」

拓未は和磨をちらりと見た後、和磨の視線の先にいる二人に目をやった。



「……いや、いい」



「けど、気になってんだろ?」



「……」



「一緒にいる相手はともかく、なんでこんな所にいるのか」



「……いいって」

和磨はムッとした様子で言った。



「……ま、お前がいいならいいけど?」



「……」

和磨は唯と戸田にもう一度視線を移した後、踵を返し足早に歩き始めた――。





     ◆  ◆  ◆





和磨は家に帰ってからもずっと唯と直樹の事が気になっていた。



何故、戸田と一緒にいたのか?



何故、唯は家とは逆方向のあの場所にいたのか?



いつも行くファーストフードだと自分と会う可能性があるから?



考えていても仕方がない。

本人に直接訊けばいいんだし。



和磨は携帯を開いて唯に電話を掛けた。



「あれ……?」

だけどコール音の後、すぐに機械的な音声が流れてきた。

どうやら電源を切っているようだ。



(おかしいな……)





一時間後――、

もう一度掛けてみたがやはり繋がらない。



また電源を切ったまま忘れているのだろうか?



(明日、直接訊くか……)

和磨は溜め息を吐き、携帯を閉じてベッドの上に放り投げた。





     ◆  ◆  ◆





――翌日。

土曜日のこの日はJuliusの練習もミーティングもなく、和磨は唯とゆっくり会えると思っていた。



ところが……、



和磨が電話をすると文化祭でレッスンを休んだ為、その振替レッスンが入っているとあっさり言われてしまった。

しかも土曜日だからコンクールの曲を一日中特訓するらしい。

つまり、会えない。



『ごめんね、かず君……』

電話の向こうで唯が申し訳なさそうに言った。



「あ……いや、レッスンなら仕方ないって……気にするなよ」



『うん……』



「……ところで……」



『あぁっ! もうこんな時間!? レッスン遅れちゃう! それじゃ、かず君、またね!』

和磨が昨日の事を訊こうとした時、運悪く出掛ける時間になったらしい。



時間切れ……そして、電話も切れた。



結局、和磨は唯に何も訊けなかった――。





     ◆  ◆  ◆





さらにその翌日の日曜日。

Juliusのスタジオ練習とミーティングが入っていた和磨はメンバーと別れた後、唯に電話をしてみた。

しかし、今日は何回コールしても出ない。



(またピアノ弾いてるのかな?)





家に帰ってからも和磨は電話をしてみた。

――が、結局、この日も唯が電話に出る事はなかった。



「おいー、マジかよ……」

和磨はバタリとベッドに倒れ込んだ。





     ◆  ◆  ◆





――月曜日。



朝、珍しく遅刻ギリギリで和磨が教室に飛び込んで来た。



「珍しいな? お前がギリギリに来るなんて」

拓未が全力疾走してきた和磨を見て笑いながら言った。



「ハァ、ハァ……目覚まし……セットし忘れた……」

まだ息があがったままの和磨は苦しそうだ。

昨夜、唯と連絡が取れず、そのまま不貞寝してしまったのだ。



「真相はわかったか?」

拓未は金曜日のあの事を言っているのだろう。



「……」



「恋愛初心者クン、こーゆー事は早めに解決が一番デスヨ」



「……恋愛、初心者……言うな」

和磨は軽く拓未を睨むと、まだ整っていない息でボソっと呟いた。





その日の昼休憩、和磨は唯の教室へ向かった。

しかし、唯の姿はなく、見渡せば香奈もいない。



(あれ……? どこに行ったんだ?)

和磨は眉間に皺を寄せた。



「篠原くん」

名前を呼ばれて和磨が振り返ると香奈が立っていた。



「唯に会いに来たの?」



「あ、うん」



「唯なら音楽室に行ったよ」



「音楽室?」



「うん、今日からコンクールに向けて音楽室のピアノを借りて昼休憩に練習するんだってー」



「ふーん」

(それなら邪魔しちゃ悪いな)



「行ってみれば?」



「いや……邪魔したくないからいい」



「けど、篠原くんがわざわざ来るぐらいだから急ぎの用だったんじゃないの?」



「ん、まぁ……」



「それに、多分夜も電話しても出ないと思うよ?」



「え? なんで?」



「唯の頭の中はすでにコンクールの事でいっぱいだから、夜もずっとピアノ弾いてると思う」



(確かに昨日も結局、電話に出なかったしな)

「……行ってみる」

和磨は音楽室に向かって歩き始めた――。





真相を確かめたいけれど知るのが怖いという思いと、音楽室に行けば唯のピアノを聴けるという

二つの思いが入り混じり、音楽室の前で足を止める和磨。



小さく息を吐き出してからそろそろとドアを開け、中を見渡す。



しかし、誰もいない。

ピアノの音もしていなかった。



「唯?」

人の気配すらしない音楽室の中に入り、和磨はピアノに近づいた。

だけど、やはり唯の姿はない。



(おかしいな……)



すると外から話し声が聞こえてきた。



「やっぱり、心配だから俺も一緒にいるよ」



「い、いいのに……」



(唯の声……?)



「まぁ、邪魔はしないから」



(一緒にいるのは……男? 誰だ?)



和磨が怪訝に思っていると音楽室のドアが開いて唯ともう一人の人物が入って来た。

ドアの方に視線を向け、入って来た人物を確認する。



「……っ」

それは唯と、もう一人は戸田直樹だった。



(……なんで、またコイツと一緒なんだ?)



「かず君!?」

唯はピアノの前に立っている和磨を見つけ、驚いた顔をした。



「……ど、どうしたの?」

唯は少し慌てている。



(ここに俺がいる事が予想外だったのか? それとも……戸田と一緒にいる所を見られたからか?)



「……」

唯は気まずそうな顔をしている。

その事で彼女と戸田の間に何かあったのだと直感し、和磨は何も言わず二人の前を通り過ぎて音楽室を出て行った。



しかし、唯は追い掛けて来る様子もなかった――。
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