「もう一体何やってるの!?」
日曜日の朝から怒鳴り声が響く。
原因は、あいつが私の部屋においてあった花瓶を倒したからだ。
「す、すみません!」
見た目は私と同じくらいで、気の弱そうな少年が、何度も頭を下げながら謝っている。
何回も頭を下げて、下げて、下げて・・・・・って下げすぎだ!?
「もう良いから他の所に行ってきなさい」
呆れたように私が言ったら。
「でも僕はお嬢様の・・・・・」
「いいから口答えしない」
「でもまだ・・・・」
あーっ!!もういいって言っているのに!?
「行きなさい!これは主の命令よ!」
私がきつく言ったら、あいつは流石に諦めた。
「は、はい!分かりました」
その少年は怖ず怖ずしながら下がって行き、出て行く瞬間に一言だけ言った。
「・・・・すみませんでした。お嬢様」
そう呟いて彼は出て行った。
「・・・・はぁ」
何となくため息が出る。
私ってそんなに怖いのかな?
とちょっと落ち込んだりしながら、あいつの事を考えた。
あいつの名は鏡家 俊一
この私、明善 棗の執事をやっている。
歳は私と同じ十五歳
あいつは小さい頃からここに一緒に住んでいる。そのため、幼馴染と言ってもあながち間違いじゃない。何でここに住んでいるのかというと、あいつの父親が、私の父の執事をしている。そのため、住み込みで親子で一緒にすんでいると言う訳だ。
所で、なんで彼が私の執事をしているのかと言うと、これにも色々理由があるのだが、まあ分かりやすい理由を一つ挙げると修行のためである。鏡家の子供は十二歳になると、立派な執事・メイドになるべく修行しなくてはならいらしい。そのための修行場として、現在私の執事をやっている。
だけどね・・・・あいつ・・・・執事に向いてないんだよね
周りを見てみると倒れた花瓶、散らかった服、バラバラに落ちている本。
これらはあいつが朝、私を起こしに来た時に色々失敗してこうなったのだ。
「・・・・はぁ」
なんであいつが私の執事なんだろう
私は執事なんて欲しいと思わない
それに・・・・私はあいつの言い方が気に入らない!!
昔は棗って呼んでいたのに・・・・・急にお嬢様って呼ぶようになったんだよ!!
確かに私はあいつの主だけど・・・・あれはないでしょう!?あれは!!
あいつ、執事になった途端急に態度が変わったんだよね・・・・
本当に・・・・なんでこうなっちゃったのかな?
「はぁ・・・・」
何か色々考えていたら少し泣きたくなってきた。
けど、これだけは言える。
私は執事なんて要らない!
だから少しだけ、本当に少しだけいいから・・・・私に構ってほしい。
好きな人に・・・・ちゃんと構ってほしい。
そう思いながらベットに転がった。
「はぁ、また怒られたな・・・・」
毎度の事だが、かなり落ち込む。
本当はちゃんとして褒めてもらうべきなんだろうけど・・・・
「・・・・・はぁ」
褒めてもらうどころか嫌われてるんじゃないかな?
自分で疑問に思った言葉にさらに落ち込む。
・・・・どうして僕が執事をやっているんだろ?
ただでさえ鈍臭い僕が執事に向いているはずない。
まあ、うちの家系がエリート執事・メイドってのは分かるけど・・・・どうも僕は向いてないような気がするんだよな。
それに・・・・いつも棗に迷惑をかけてるし。
「・・・・・はぁ」
ため息しか出てこない。
昔だったらこんな事には悩む必要なんてなかっただろうな。
と少し昔の事を思い出しながら・・・・懐かしむように笑った。
昔はただの泣き虫だったのに・・・・あんなに可愛くなちゃって。
そう言えば、その頃はまだ棗の事をお嬢様って呼んでいなかったよな・・・・
色々思い出してちょっと懐かしくなったな。
ま、こうなってしまったからには真面目にしないと。
「さて・・・・午後の仕事に入るかな」
それに・・・・まだ棗の執事だからいいかな。
そう考えたら、まだ少し嬉しい。
・・・・だけど。
「今の僕は執事だからな」
少し悲しそうに空を見てから呟いて、棗のいる部屋に向かった。
「・・・・ん?」
あたりは暗く月明かりのみで、部屋の電気がついていない。
もしかしてあの後寝ちゃった?
一日中寝てた?
貴重な休みの日を泣き寝入り?
・・・・恥ずかしいな。
顔が赤くなるのを感じながら急いでベットから出る。
・・・・出る?
「あれ?」
そう言えば私いつの間にベットの中に入ったっけ?
それに周りを見たら、朝の悲惨な状態とは違って部屋が片付いる。
「う〜ん、奇怪現象でも起きたのかな?」
そう思いながら部屋の電気スイッチの方を見たら、スイッチがある場所に、誰かがイスに座っていた。
「・・・・誰?」
ここからだと月光の影になって見えない。
少し見える部分だけ推測すると多分男。
「何か言いなさい!!」
少し怖くなって大きな声を出した。
「・・・・」
しかし相手はなんの反応を示さない。
・・・・あら?
「もしかして寝てる?」
恐る恐る近づいてみたら・・・・
「・・・・寝てる」
イスに座って壁にもたれるようにスヤスヤと寝ている。
しかも、その人物は鏡家俊一であった。
「驚かせないでよ」
寝ている人物に言っても仕方がないが、一応文句だけは言っておく。
「・・・・・」
なんだか寝顔を見てたら変な気分になってきた。
微妙に頬を赤くしながら、周りをきょろきょろと見渡し・・・・
「よし、誰もいない」
微妙に挙動不審になりながらも、彼の隣の空いている席に座った。
「うわぁ・・・・・」
距離が近い。
しかも、いつもと違って無防備だ。
俊一を見ていると、自分の顔が熱くなるのが分かる。
それに・・・・・可愛い。
中性的な顔だからかもしれないけど、寝ている姿はなんというか・・・・愛らしい。
まあそんな事を言ったら多分拗ねちゃうと思うけど、実際そうなのだから仕方がない。
「うふふふ♪」
何か得した気分だ。
それに私が寝ている間に色々としてくれたんだろう、現に私の部屋は見事に綺麗になっている。
・・・・・何かお礼をした方が良いのかな?
俊一の顔を見ながら考え・・・・良い方法を思いついた。
・・・・少し恥ずかしいけど・・・・寝てるから大丈夫だよね。
さらに自分の顔が赤くなるのを感じながら・・・・
「・・・・今日はありがとうね」
俊一の額に軽くキスをした。
・・・・願わくば、俊一が執事でなく、自分の意思で私の側に居ることを。
なんだか不思議な夢を見た。
棗が僕にお礼を言いながら、キスする夢を・・・・・
だけど・・・・別に嫌じゃなかった。
自分でも分からないけど、とても嬉しい気分だ。
こんな夢が見られるなら、予め、棗が寝ている間に部屋を片付けて置いてよかったと思う。
こんな夢のように・・・・明日は褒められるように頑張ろう。
棗のためにも、明日が良い日になりますように。
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