旅立ち ~胸に秘めた決意~ Ⅰ
それから日は落ちまた昇り、一番高いところから少し下がったくらいの時。
借りた部屋の家具を少し傷つけてしまったことにどうしようかと半日以上ブルブル怯えていたクリスは、エリオットが目覚めたとの報告を受ける。
本当に早い回復だなぁと感心しつつ、様子を伺って大体の人が見舞いを終わらせた頃に彼の病室へ入った。
他の無駄なまでに飾られた部屋とは違って、きちんと病人用の部屋なのだろう。
ほぼ白い家具で統一され、あまり色味のある物はない。
あまり大きくはない病人用のベッドで、彼はまるで抜け殻のように、花の置かれた出窓の外を見ていた。
体中が包帯で巻かれているようで、特に右腕は肌が全く露出していない。
「エリオットさん」
部屋に入ったにも関わらず反応する様子が無いので、クリスは自分から声を掛ける。
エリオットは声の持ち主に顔を向けることは無く、ただ押し黙っていた。
「あの時は、ありがとうございました」
あの時エリオットが槍を投げなければ、クリスはどうなっていたか分からない。
まず簡潔に礼を述べる。
しかし彼の口から出た言葉は、否定だった。
「俺はお前を助ける為に命を賭けたわけじゃない」
「…………」
クリスは黙って彼の言い分を聞く。
「ローズは、どうした」
クリスに向き直りもせず、窓を見たままエリオットは問いかける。
「助けられませんでした」
悔しい思いを押し殺して、クリスはなるべく端的に答えた。
「……俺では助けられないと思った。だから俺は命を賭けたんだ。お前を助ける為にじゃない、ローズを助ける為にだ」
「分かって、います……」
「分かっていながらどうして俺が生きているんだ!!」
物凄い剣幕でクリスに振り向き、彼は目の前の子供を怒鳴りつける。
今にも泣きそうな顔で、顔を歪ませ怒っている。
彼の、死を賭した想いを無駄にした相手に。
怒鳴りすぎたせいかゴホゴホとしばらく咳き込み、咳が落ち着いたと同時にまた怒鳴り始めた。
「……ッ、あの後俺を優先させただろ! でなきゃ俺が生きているわけがない!!」
クリスとしても言いたいことは沢山あるが、彼の怒りの全てを受け止めるつもりでしっかり聞いた。
怒鳴って怪我に響くのだろう。
苦虫を噛み潰したような表情になるがそれでも彼は咳き込みながら続ける。
「俺達の目的はローズだけだって言ってたじゃないか!!」
彼は肩を大きく揺らして息切れしながら、言いたい放題。
「何か言ったらどうだ……」
そして言うだけ言って、ずっと黙っていたクリスに返答を要求する我侭っぷりを見せる。
本当に酷い人だ。
クリスはそう思う。
けれど、
「……どんなに怒られても、そんなの無理ですよ。だから、ごめんなさい、それしか、言えません」
湧き上がる感情を堪えて、静かに言った。
しばしの沈黙が流れる。
窓からは静かに優しい風が流れ始め、カーテンが揺らめく。
だいぶ息も落ち着いてきたエリオットが、その沈黙を破った。
「ただの、八つ当たりだ……」
彼は不貞腐れながら、そう話す。
「知ってますよ。もし心の底から言っているならバカですからね」
「うるせぇ」
ぶっきらぼうに、ふいっと窓の外に向いて視線を外すと、その眼差しは遠くを見つめながらすぐに真剣なものとなった。
「ルフィーナは見つかったか?」
「いえ、レクチェさんも同様に見失ったままです」
あの時クリス達を助けた鳥人のレイアが捜索を指揮してくれているはずだが、クリスはまだ何の連絡も受けていない。
「俺はあの時ルフィーナがレクチェを連れて逃げる瞬間を見たんだ。あー、やられたと思ったね」
「ど、どういうことですか!」
「あの女は大体の展開を予測していたハズだぜ。そして契約が成就されたから報酬を持ち去ったんだ。よく考えたらルフィーナはな、ローズを『止める』としか約束していないんだよなコレが」
「止める、だけ……?」
クリスの詰まるような相槌に、エリオットは黙って頷く。
「お前には言ってなかったが……報酬は、レクチェだ」
「んなっ!」
その事実を知らなかったクリスは、まさかそんな要求をされていただなんて思っていなかったので思わず変な声をあげてしまう。
けれど、それも一瞬。
クリスの中で、レクチェを報酬とするほどの理由が何となく浮かんできたからだ。
すぐに考えをまとめ、口を開く。
「……でも今思うと、欲しがるのも分かる気がしますね。あの時少しの間ですが、レクチェさんは不思議な力で姉さんに応戦していましたし」
「そうだな、得体の知れない光を放っていたな。まるで……」
「まるで?」
「いや、気のせいだろう。全くの別物のはずだ」
「何かに似ていたんですか?」
「気のせいだって言っただろ」
ぶっちょ面でその先を話すことを拒むエリオット。
だがすぐに諦めて答えた。
「……俺の魔力に、だ」
エリオットの魔力。
それと、レクチェの力が似ている、とエリオットは言う。
時々手を光らせたりして何かやっているのはクリスの視界にも入っている。
クリスとしては正直何をしているのかさっぱり分からなかったものの、何か魔術や魔法でも使っているのだろうと思って深くは気に留めていなかった。
「エリオットさん、そういえばよく手から光出してますね」
あれが多分、エリオットの魔力なのだろう。
そこまで口に出したところで、クリスは少し引っ掛かりを覚えた。
何故魔力自体が光となって目に見えるのだろうか、と。
魔力自体ではなく、魔力が魔法を生み出す瞬間に薄らと光ることならばある。
特に火や雷などの熱を帯びた魔法の場合に。
しかし、ただ明かり目的として光を発現させるだけならば、それは魔法ではなく、魔術紋様を使ってそれらの現象を固定するような魔術に該当する。
だがエリオットの手から出されている光は、強い光度を保ちながら発現し続けており、そして、むしろ光そのものが物理的な衝撃を相手に与えている印象だ。
疑問を浮かべたクリスの表情に気付いたエリオットは、そのまま説明をする。
「俺は、一般的に言う魔法ってやつは一切使えない」
「ええっ!?」
まさかの発言にとにかく驚くクリス。
魔力が元々無いならまだしも、あるのに使えないとはどういうことか。
クリスですら出来ると言うのに、それほど才能が無いのかこの男は。
「炎も水も風も土も、全く魔力で操ることが出来ないんだ」
「ど、どゆことデスカネ……」
彼の今更過ぎる告白に、どぎまぎしながら問う。
「魔力でな、手順通りに魔法を使おうとしても何か別の物になっちまうんだ。俺の手にかかれば炎も水も風も土も、皆ゴミみたいな粉になっちまう」
初めて聞く現象に戸惑いの色を隠せない。
幼い子供が拙い魔法を使おうとしたってそんな失敗の仕方は有り得ないからだ。
「代わりにこの、ルフィーナ曰く『常人より少し硬質』な魔力で、色々な物質を崩せるんだ。前にクリスの槍を壊したことがあっただろ? あんな感じで、物という物を壊せる。金属とかなら上手にやれば粘土みたいに形を作り直すことも出来る」
「そ、それだけ聞けば便利ですね……」
「まぁな。あと魔力自体を練ってもっと硬質化させることも出来る。普段俺が使っている銃の弾丸はコレだ。手から出している光の剣やグローブもな」
普段クリスが見ていた手の光は、魔力の剣やグローブ。
斬るだけでなく乱暴に相手を殴ったりしていることもあったが、それは素手ではなく光る硬質な魔力を纏わせていたのだろう。
そして、銃弾のサイズ変更が可能な不思議銃のからくりはそういうことだったらしい。
口径自体は銃そのものに合わせなければならないが、長さだけならば調整も可能なのだろう。
普段複数の銃を所持しているようにも見えるため、複数の口径の銃を使い分けている可能性もある。
何にしても、
「不思議な能力なんですね。すんごく難しそうですけど……」
「ぶっちゃけ難しいぜ。そんなわけで六才くらいまでは魔法を使えないことが俺の一番の悩みだったね。そこへ俺の魔力分析をして使い方を考案してくれたのがルフィーナだったのさ」
「それで師匠、と」
ルフィーナの見た目からして、魔法の先生か何かとクリスは勝手に想像していたが、想像の範疇を超えた事情があったことに驚かされる。
「あれ、じゃあレクチェさんの光がエリオットさんの魔力と同じだったとしたら、何となくルフィーナさんとレクチェさんとの繋がりみたいなものが見えてきませんか?」
そんなクリスの言葉に、彼は首を横に振る。
「俺も最初はそう思った。けど俺はあんな風な使い方は出来ない。出来ると思えない。だから気のせいだ、って言ったんだよ」
「あんな風……アレですか、全てを自然に還してお花を咲かせたりする、アレ」
「そう、アレ」
あの雪と瓦礫、そして死体と血に沈んだ村を、自然の力によって再生したかのような光景。
草花が芽吹く一連の様を早送りで見る経験など、そう無いだろう。
「神秘的、だったな。この世のものとは思えなかった……」
あの光景を思い出しているのか、エリオットはぼそりとそんなことを言う。
きっと誰もがエリオットと同様に目を奪われるに違いない。
もし信仰に酔うような類の人間であれば、あの光景を見ただけでレクチェを女神と崇めて陶酔してもおかしくはなかった。
それほどまでに、人智を超えたものだったのだから。
「そういえば」
「ん?」
「エリオットさん、これからどうするつもりなんですか?」
「どう、って……どういう意味でだ?」
問いの真意に気付いていないエリオットは質問に質問で返してくる。
「ライトさんが言っていたんですけどね、エリオットさんはお城から出して貰えないだろうって」
「あぁそういうこと……俺はローズの件が無くたって城に居る気は無いから、抜け出してバイバイだぜ」
クリスはその回答に少しだけ嬉しくなり、自然と笑みが零れ出てしまう。
気持ちのままに顔を緩ませた。
「…………」
「どうしたんですか?」
ふと、急に難しい顔をして黙ってしまったエリオットに気付いたクリスは、思わずその理由を尋ねる。
「いや……」
寝たまま頬を左手でぽりぽりと掻き、言葉を出し渋る彼。
視線をクリスと合わせないまま、彼はぼそりと、
「何でそんなに嬉しそうにするかなーって……」
「え? あぁ、それは嬉しかったからですよ」
「あっそ……」
「照れてるんですか? やめてください気持ち悪い」
「俺もそう思うわい!! トドメささんでくれ!!」
赤面してそう答える彼を、クリスは嫌いじゃないと思った。
それから少しの時間、クリスは腰を落ち着けてエリオットの容態について確認する。
前回は旅が出来るようになるまでに二週間掛かったが、今回はその半分くらいで動ける見立てとのこと。
それも、腕以外なら三日もあればほぼ問題無いらしい。
特に話題も無くなって来て、クリスが部屋に戻ろうと思った頃だった。
病室の白いドアから僅かに音が洩れる。
誰かが来た音だ。
ドアとはカーテンで隔たりがある為、誰が入ってきたかすぐには分からない。
ドアが開ききり、また閉められる音……そして最後にもう一つ、カチャリと鍵を閉めたような音。
入ってくる時にノックがあったわけでもないその不穏な立ち入りに、カーテンが引かれるまでの間クリス達は会話を止める。
「警戒しなければいけないようなことでも話していたのか?」
来たのは、ライトだった。
二人の間に走っていた緊張を察知して、先に指摘してくる。
エリオットは、ほぅ、と息を吐くと強張っていた肩を緩ませて傾斜になっているベッドに寝直した。
「別に何となく、だよ。ノックくらいしろよ」
「わざとだ、反応を見たかったんでな」
エリオットの言葉に、引っかかる物言いで返すライト。
彼はベッド脇の小さい椅子に座っているクリスと、ベッドの上のエリオットを交互に見た後、やれやれと言った困ったような表情で眉間に少し皺を寄せながら言う。
「その反応だと、また城を抜け出すつもりなんだろう?」
「むしろそんなの聞くまでもないよなぁ」
呆れ顔の友人の言葉に、からかうように答えたのはエリオット。
けれどそんなエリオットの態度に反して、ライトの目尻は怒りを帯びていた。
それに気付き、エリオットも釣られて目を細く鋭くする。
「……止める気か?」
今にも激突しそうなものに変わった二人の間の空気に、クリスはどちらの味方をすることも出来ず口を挟めなかった。
エリオットには来て欲しいけれど、ライトの気持ちも分かるからだ。
これは、付き合いの浅いクリスが軽々しく割って入っていい問題では無い。
「出ること自体を止めようとは思わん。だが自ら危険な問題に突っ込んで行くというのならそれは止めるに決まっている。俺はそんなことの為にお前を助けたわけじゃない」
「それは……」
反論しようの無いライトの言葉に、エリオットが口篭もる。
「それでもあの女をどうにか助けたいと言うのなら、今回の分と前回の呪いの分……きっちり借りを返してから行け。それで俺にはお前を止める権利は無くなる」
何も言えないエリオットに一つの提案をして、彼は少し離れたところにあるもう一つの椅子を引っ張ってきて腰を掛けた。
しかし借りを返すとは具体的にどう返すのか。
少なくともお金ではない、と感じているであろうエリオットも解かりかねているようで、しばらく俯いていた後気まずそうに聞く。
「何すりゃいいんだ……?」
その問いに白髪肌黒の獣人はさらりとこう答えた。
「お前が命の次に大事だと思うものを寄越せばいい。命を二度救った対価が、命の次の物なら安いものだろう」
「って言われても、俺にはローズ以外にそんな固執するものは……」
いつまで経っても答えを導き出せない彼に、痺れを切らした獣人は溜め息を吐いて言う。
「……プライド」
「へ?」
「命に見合う対価は心だ。今すぐここで捨ててみせろ」
そう、要求する。
「何だ、プライドの捨て方も分からないのか、王子様は」
そう言われてグッと腹の底から湧き上がるような怒りを、エリオットは必死に止めていた。
と言っても表情からはすぐにバレバレだが。
……少し突っつかれて、すぐに顔に出る。
それはまさに彼のプライドからくるものだろう。
それを捨てろとライトは言うのだ。
「クリスだったら捨てろと言われてどうする?」
ライトがこちらに急に話を振ってきた。
「えっ!? ええと、とりあえず自分を相手の下に下げます、かね」
「悪くない答えだ。よくあるのが三遍回ってワンと鳴け、だな」
クリスの答えに満足したのか、少し鋭かったライトの目つきがその時だけはふわりと和らぐ。
クリスはエリオットがワンと鳴く様を想像しようとした、がとてもではないが想像出来ない。
彼の性格上、誰かに催眠でも掛けられていない限り有り得ないことだからだろう。
「俺に回って鳴けってか?」
大層不満そうな顔でエリオットは確認した。
「別に他の方法でも構わんよ。お前の立場なら、跪いて詫びるだけでも十分だ」
「……分かった」
エリオットはまだ癒えてない身体を起こすと、両足を床に下ろしてゆっくりその固い床に膝を突いた。
何だか邪魔になりそうだったのでクリスは椅子を少し後ろに引いて、ライトとエリオットの間を空ける。
床に跪いて、右腕はギプスが添えられているため、そっと左手を胸に当てるエリオット。
後は詫びて請うだけだった。
「……っ」
しかしそこで彼は小さく呻き、ライトに視線を合わせようとせず、俯いてしまう。
ライトはエリオットの正面に居る為、俯いた彼の表情はもう見えていないが、クリスは二人の横に居るので王子のその苦悶の表情が痛いほど視界に入ってくる。
これは自分が見ててはいけないもののような気がして、後ろを向こうと椅子に座ったまま向きを変えようとした。
が、それはすぐに制止される。
「ちゃんと、見るんだ。第三者が見なければ意味が無い」
「はっ、はい!」
目を逸らすことも許されず、クリスその居た堪れない光景を見続けた。
クリスならばきっと、もっと早く跪いて詫びることなど出来ている。
それはクリスとエリオットの持つ、価値観の差なのだろう。
ようやくエリオットは再度顔を上げる。
ずっと薄く目を開けていたエリオットが、ふっと目を閉じたかと思うとその次にようやく唇が動いた。
「……救って貰った身で、またローズを追うことを……許して欲しい」
「お前は本当に下手だな、全くプライドを捨てられていないじゃないか」
そしてダメ出し。
彼は足元で懇願の姿勢を保ったままの王子に、
「あっ!!」
クリスは思わず声が出てしまった。
怒りに滲んだ表情でライトは、エリオットの頭を椅子に座ったまま足で小突いたのだ。
座ったままの体勢での行為で、エリオットの頭に力はあまり掛かっていないが、それでもこれはやり過ぎに思えてならない。
「そ、そこまでしなくとも……」
クリスの押さえ留める言葉など全く聞かずにライトは続けた。
「俺はただ詫びろと言ったわけじゃない、プライドを捨ててみろと言ったんだ。これくらいも出来ない覚悟で行くだなんて大概にしろ」
その声色は彼の深い怒りを示すのに充分なもの、そしてその言い分はクリスにそれ以上の制止を諦めさせるに足る内容だった。
王子の、自尊心を捨て切れていないその反抗的な表情が、ライトの目に映った。
互いに睨み付け合ったままその場が硬直する。
それを破ったのはライトの次の提案。
「靴を舐められるのなら、その表情のままでも許すぞ?」
「出来るわけがねぇだろ!!」
目の前の獣人の足首を、左手で掴んで振り払うエリオット。
そのままライトに掴みかかる直前だったところをクリスが横から抱き止めた。
「だっ、駄目です!」
「止めんなよ! コイツの悪趣味にこれ以上付き合ってられるか!!」
「いや、腕! 腕治ってないんですから!!」
そう、掴みかかってしまっては酷い怪我だった右腕にどんな負担がかかるか分からない。
先日あの雪の街で千切れかかっていたあの腕が、クリスの脳裏に蘇る。
エリオットの激昂に、先程まで怒りに満ちていたライトの顔は興を削がれたような表情になった。
「全く……」
白衣のポケットをごそりと弄り、取り出したのは煙草とマッチ。
火を点けようとした彼にエリオットはすかさず突っ込んだ。
「病室は禁煙!!」
しかし無視して火を点け、煙草をふかすライト。
しばらくぎゃあぎゃあと喚き散らすエリオットとそれを抑えるクリスを完全に無視して一本吸い終える。
一服して落ち着いたのか、彼は未だに頭に血が上ったままのエリオットを諭すように言う。
「いいか、命を簡単に捨てようとしたお前が、生き延びた後にプライドを捨てられないだなんて滑稽だ。だったら両方捨てずにいろ。今ぐらい足掻いて死んだのなら、文句も言わんさ」
彼の言葉にクリスもエリオットも、ただ黙る。
暴れていたエリオットはそのまま何も言わずに振り上げていた腕を下ろし、力なくベッドに腰掛けた。
「……悪かった」
そして呟く、謝罪の言葉を。
「俺も面白くてついやり過ぎてしまった。おあいこでいい」
「面白かったって何だよ!?」
ライトのやや不健全な発言に華麗にツッコミを入れると、エリオットは深い溜め息をついてだらしなくベッドに転がる。
「はぁ……怪我人は労われよ……」
「何言ってるんですか、一人で暴れていたのはエリオットさんですよ」
クリスも椅子に腰掛け直してそう真実を告げた。
ライトはエリオットの言葉を全く聞いていないんじゃないかと思うくらいの無反応っぷりで室内をぐるりと見渡した後、エリオットに視線を戻して、淡々と言う。
「何か要る物は?」
それが、衣類や本などを差しているわけではないことはすぐ分かった。
「銃やらは、全て取り上げられてやがる」
「用意しておこう」
彼は椅子から立ち上がって、床の灰を誤魔化すように靴の底で払う。
「城内で渡すのは面倒だ、城を出た後に一度俺のところへ来い。それまでに準備しておく」
「ありがとさん」
エリオットのお礼に返事をすること無く、ライトは来た時と同じように静かに去っていった。
……勿論、もう部屋の鍵は掛かっていない。
「私も服をどうにかしないといけませんねぇ」
そう、物騒なので武器はこの通り常に背負っている形になるが、クリスの服は先日汚れたり破いたり、換えの物もどこに置いてきたか分からないと言った状況なのだ。
「そういや金も手元には無いな……俺が持っていた金をお前に餞別として渡すように伝えておくよ」
「えっ、いいんですか?」
お金という響きに思わず声が裏返る。
クリスのその反応にげんなりとした表情で、エリオットは呆れたような返事をした。
「本当にお前にやるわけじゃねーよ! あのな、俺が持つって言ったら連中は警戒するだろ? 一旦餞別という名目でお前に預けるんだ、勘違いすんなよ」
「ちぇー」
「俺と同時期に居なくなるのは問題になりそうだからな、お前も金貰ったらさっさとライトのところにでも行って待ってろ」
「なるほど、それもそうですね」
クリスは彼の案にそのまま乗っかるとする。
確かにこのままずっと城で居るのも息苦しいからだ。
最後に部屋の隅にある洗面台へ行き、水をコップへ注ぐ。
そしてエリオットのベッドの窓際に飾られている花に水をやってから、
「ではまた」
と部屋を後にした。