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分解・再構築・物質変換5

『料理人』がコマンドではなく『自分の手で料理を作ること』で、『味のするまともな食事を作る事ができる。』 にゃん太の発見はこういうことだ。

 にゃん太の作ってみせた料理には、味があった。にゃん太が作ったアップルティーも、味があった。食べ物に関わらず、飲み物も対象。つまりこれが世界のルールだ。


『    』がコマンドではなく『    』で、『    』。


 例えば、大雑把にカッコを埋めると、


『何らかのスキル所持者』がコマンドではなく『なんらかのスキル内容を実践すること』で、『コマンドでは不可能な様々なことが実現可能になる。』


 こんな事だろうか。

 さて、お集まりのおのおの方!

 あなたならはカッコに何を入れる?






『錬金術師』がコマンドではなく『自分の手で錬成陣を書くこと』で、『 ・・・・・・・・・ 』


「ぬあああああ!最後の一個が埋まらねぇええええ!!」


「バカすけ、うるさい、黙れ」


 6人でパルムの深き場所を南下する。先頭は直継、続いてにゃん太。にゃん太にひっつくセララ。シロエ。恭介。アカツキの順で直列の隊形で歩く。

 ススキノへと北上していた先日と違い、レベルは低いもののセララという回復役がいるというのは中々心強い。にゃん太と直継でブルドーザーのように雑魚モンスターを排除しては、セララが脈動回復で対処し、直線距離をズンズン進む。

 恭介がうるさがられるのも当然で、ダンジョンの物陰に、うじゃうじゃとラットマンが隠れている。恭介の奇声にビクついているのすらわかる距離感で、うぞうぞとしているのだ。襲ってこないならそれはそれで放置したいところだ。


「だってよう!これなら面白いこと俺も出来そうじゃねえかよう!」


「ようよう」


 シロエが恭介の語尾をバカにしつつ繰り返す。

 もう、錬成陣は書けるのだ。水を分解する錬成陣。敵を殴りながらもう何千回とあの光る図形を見てきた。それこそ網膜に焼き付かんばかりに。

 メモ帳に何十と書き込んだし、地面にもガリガリとチョークの代わりに書き込んだ。だけども何も反応がない。そもそもにゃん太の極意(簡単な気付き、とシロエは表現していたが、恭介的には極意)を知る前から、メモ帳には幾つもの錬成陣を書き付けていたのだ。

 だけど、何の反応もない。


 『錬金術師』がコマンドではなく『自分の手で錬成陣を書くこと』で、『 ・・・・・・・・・ 』


 1つ目のカッコは確定だ。錬金術師を入れたいのだからそこは当然。

 2つ目のカッコが正常に処理されれば、なんらかの3つ目のカッコの反応があるはず。

 とすれば、2つ目のカッコは、『自分の手で錬成陣を書くこと』ではない、ということになる。

 書くことだけではダメなのか、それとも書くこと自体が違うのか。なにかヒントが欲しい、が誰に聞いても教えてくれまい。


「シロえもーん」


「便利ロボットみたいに呼ばないでください」


「だってシロえもーん」


「だってじゃないですよ」


「なんかヒントくれよ、ヒントー」


「ヒント、ですか」


「そう、『単純な気付きのようなもの』とか、シリアス顔で言い切ったのお前さんだろうが、責任取れ」


「転嫁もここまでくると清々しいですね。質問には答えましょう」


「あらうれしい。そもそもの料理人について教えてくれ。よく考えたら俺はよく知らん」


「料理人のスキル、ですか」


「知ってる限りでいい、前方でラブラブオーラをひっかぶってる猫人間をこっちの話に引っ張り込む必要はない」


「ですね」




 料理人

 生産系サブ職業で、料理を作り出すことができる。

 都市ゾーンに存在する大地人の料理人から手引書を購入することで転職可能。




「僕が知ってるのは、こんなところですかね」


「ほとんど知らねえってことだな」


「否定できませんね」


「ふむう。基本的にはコマンドを選択して実行すると、あのマズメシが出てくる、ってことでいいのか?」


「そうですね。錬金術士みたいにMPも消費しないんじゃないですかね、たぶん?」


「MPを消費しない?」


 どちらかと言えば、MPを消費しなければならないサブ職業スキルの方が少ないのだが、恭介は自分の錬金術のスキルしかしらないので、そんなもんだ。


「錬金術は術で、料理は特技、ってことかと」


「錬金術は術で、料理は特技、か」


 考えてみる。

 このエルダー・テイルの世界では、魔法を使う時も戦士が技を使う時もMPを消費する。

 MPって何?って問われれば、たぶんMagicPointと答える事だろう。Mが何かはメニューのどこにも詳しく書いてないので、たぶんだたぶん。

 それを考えれば、魔法ポイントなのに、戦士が攻撃系の特技を使うときに魔法ポイントを消費するのはなんだか違う気がする。

 あまりにも当然のようにMPをマジックポイントだと略しているが、本当にこの略は正しいのか?


「正解ですにゃ。料理をコマンドで作るときMPは消費しませんのにゃ」


 結局前方を歩いていた猫師匠から補足が入った。いま自分が考えていた事が正解なのではなく、料理する時にMPを消費しない、というのが正解ということだ。


「ふむう。他のサブ職業はどうなんだ?」


「私の家政婦もMPは消費しません」


 にゃん太の隣に居たセララが言う。


「俺の辺境巡視もそうだな。使える時はなんとなく使ってて、MPは消費してない」


 続いて直継。


「私のスキルには、いくつか消費するものがある」


 と、追跡者のサブスキルを持つアカツキ嬢。


「僕の筆写師はMP消費しないね」


 と、最後にシロエ。


「アカツキの追跡者で、MP消費するのはどういうスキルだ?」


「隠形術、に分類されるスニークやハイドシャドウがそれに当たる」


 おんぎょう術。それがなんなのか、アカツキの短い言葉ではよくわからないが、やはり言葉に術がついた。


「そういえば」


 セララが舌っ足らずな声をあげる。


「私のサブスキル、コマンド選択できるものはありません」


「ほう?どうやって使うんだ?」


「使うっていうか、掃除洗濯すると、レベルが上がるんです」


「で?」


「え?」


「それで?」


「すみませんすみませんそれだけです」


 ぶんぶん頭を一生懸命振り下ろすセララ。一体なんのためにそんなサブ職業が存在するんだ。。。。


「ロール系と生産系に、大きく別れるんですよ、サブ職業は」


 と、やはり解説のシロエさん。


「生産系ってのは恭介さんの錬金術師や、僕の筆写師なんかも当てはまります。アイテムを作り出すことができる。故に生産系」


 それは自分の事だからよくわかる。


「ロール系というのは演じる、という意味のRoleですね。これは冒険者の役割を演じるためにある、という意味で言葉をつけたのでしょうが、いまは少し違っています。

 例えば、交易商人。これは商談や値引きなんかができるようになります。あとは会計士とか?あれは金利が有利になるとか、そういうのです」


「そうか。サブ職業の一枠を埋める事で、特殊な恩恵が受けられるわけか」


「先ほどの2つはそうですね。直継の辺境巡視は戦闘後のアイテムの発見がしやすくなるとか、そういう効果があります」


「で?」


 と、恭介がまた一音を発する。前を歩くセララに聞こえるように大きな声で。


「それで?」


「えええええええ!?」


「恭介っち、ちょっと意地が悪いですにゃ」


「いやさ、ははは、面白くてさ、ごめん、もうやらない」


「ほんとですかぁ?」


「ほんとほんと。それで家政婦のサブ職業のセララちゃんには一体どんな恩恵が?」


「お」


「お?」


 にゃん太と恭介の顔を交互に見比べると、ちょこちょこと、なのに高速で恭介の元までやってきて耳打ちをするべく手をメガホンにする。疑問に思いながら腰をかがめて耳を近づけてやると、


「お嫁さんになれる」


 なに言ってんだこの娘。

 恭介はセララ=頭お花畑娘と認識した。








 さて一行は、パルムの深き場所を何事もなく抜け、そこからグリフォンを1日飛ばしたところで、天候の壁にぶち当たった。

 空を飛ぶグリフォンで嵐の中を飛ぶことは中々にシンドイ。アーブ高原(おそらく福島県のあぶくま高原のことだろう)のあたりで雷雲が見えてきたので、キャンプではなくどこかの村落で屋根を借りようという話となる。グリフォンを手近な距離の村落の近くへとおろし、そこからは徒歩で村へと向かう。

 村の世話役らしき白髮の好々爺に挨拶をして、一晩馬屋を借りることに成功。その夜は藁を寝床に6人で雑魚寝することとなった。

 にゃん太師匠の絶品料理をみんなで囲み、その家の人間にも振る舞った。


 どうでもいいがにゃん太師匠の料理を落ち着いて食べてみると、元の世界で食ったそこらのものより遥かに美味かった。素材が絶対天然素材だからとか、料理人のスキルでどうこう出来るレベルではなく、純粋ににゃん太の料理の腕がいいのだろうな、と恭介は感心した。




「恭介さんはこれからどうなさいます?」


 シロエが、食後のちょっとした休息時間に声をかけてきた。

 外は嵐で、先程から雨粒が厩を叩く音がうるさいぐらいだ。状況からして『いまから外行ってドッジしようぜ!恭介もどうよ!』ってことではないだろう。そもそもシロエのキャラじゃない。言いたいのは今後のことだ。


「そうだな、この料理スキルの件も含めて自分を高めたいところだな」


「そう言うと思いました。何人か高レベルの錬金術師を知ってますので紹介しましょうか?」


「いや」


 と、恭介は少し斜めを上を見ながら。


「エルダー・テイルの錬金術スキルを上げたところで、どうにもならんことだと思うんだよな」


「と、いうと?」


「もちろんスキルレベルが大事なのはわかるんだが、この料理スキルについては別の次元のはなしだと 思うんだ」


「大切なのはレベルじゃなくて、レベルの先にあるものだな」


「え、なんすか、パイセン、突然入ってきて、キモいっすよそのキメ顔」


「う、うるさい!大切なのは、そういうことだ!」


 突然話に入ってきおいてプリプリと話の輪から抜けていく直継。


「まあ、直継の言いたいことはだいたいだけど、でもだいたいその通りだと思いますよ。もう何か取っ掛かりを掴んでいるんでしょう?」


「おうさ。ありがとうな、シロエ、この道中本当に助かった。アキバまでは一緒に行くが、そこまでだな」




 思考を開始してから2日。恭介は一つの仮説にたどり着いていた。

 そもそもの錬金術のスキルについて、整理してみる。

 動作としては、こうだ。


 素材を準備して、錬金術のコマンド【分解・再構築・物質変換】のいずれかを押す、続いて素材を触ることで、素材が【分解・再構築・物質変換】される。


 この最後の、『素材が【分解・再構築・物質変換】される』こと自体が、つまり素材が別の素材になること、それそのものが錬金術師の能力かと考えていたが、どうやらそうでは無いのではないかと、わかりはじめた。

 『素材が【分解・再構築・物質変換】される』ときに生じる錬成陣のエフェクト、そのエフェクトそのものが、錬金術なのだ。

 錬成陣を具現化する能力。これが錬金術のすべてなのだ。錬成陣が発動することで素材が別のアイテムに変換されるのは、錬成陣が発現したことによる作用であって、術そのものではなく、言ってしまえばついでの事象なのだ。




 最初のカッコを再度埋めよう。


『錬金術師』がコマンドではなく『自分の手で錬成陣を発現させること』で、『アイテムを自由に錬成することができる』。


 これが、シロエの言う『簡単な気付きのようなもの』、だろう。

 恭介はこれを武器としてエルダー・テイルの世界を縦横無尽に駆け回ることになる。

 予定だ(どないやねん)。

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