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番外編その三 中編  何気ない日常ってすごく貴重だと思う

 目が覚めたら女の子二人に挟まれていた。


「……夢か。そうだろう。ジョニー」


 ジョニーって誰だ、とか自分に突っ込みを入れながら首を左右に動かす。


 右には薫がへばりつくようにして寝ていた。どうりでさっきから右腕に感覚がないと思ったら。こいつのせいだったのか。


 左には俺が家に置く事を決定した少女がいた。安らげる、といった感じで俺の腕にスリスリと頬を寄せてくる。暑苦しいからやめてほしい。


 その二人の姿を認識し、俺は大きくため息をついて――


「フンッ!」


 二人を腕から払いのけた。


『へうっ!?』


 異口同音に変な声を出した二人が布団から転げ落ちる。


「ったく……人の布団に潜り込むんじゃない」


 眠りの深い時間帯に入られたのだろう。でなければさすがに二人分の重さで気付く。


「あたた……それが夜中に恥を忍んで潜り込んだ女の子に対する態度か?」


 頭をぶつけたのか、後頭部をさすりながら薫が文句を言ってくる。ハッ、お前がそんなはしたない事やらないだろ。というか破廉恥だと言って真っ先に止める側だろ。


「安眠妨害した奴に対する態度だ」


 日曜日なのに六時に起きてしまったじゃないか。早く寝たってのもあるだろうけど、それ以上にこいつらの存在が原因であるはずだ。


「……んぅ、痛い」


 そして俺の左隣で寝ていた少女も瞼をこすって起き上がる。どうやら頭をぶつけてはいないらしい。


「そうか。自業自得だボケ」


「……お前はもっと人に優しくするべきだと思う。傷つけられた」


「誤解を招くような事言うんじゃない」


 そしてシーツで体を隠そうとするな。布団を整え直すの面倒だから。


 朝っぱらから頭に重い疲労感がのしかかる。こんな調子で一日やっていけるのだろうか……。


 果てしなく不安になりながら、俺は着替えるために二人を部屋から追い出した。






「静、ちょっと手抜きだぞ」


「もう少し量が欲しい」


「文句あるなら食うな」


 口々に俺の朝食に対して文句を言う二人組。何でこういう時に限って息が合うお前ら。


 ちなみに朝食の献立はトースト、牛乳、ジャム。サラダや目玉焼きは今の精神状態では作るのが面倒だった。


「食い終わったら出かけるぞ。薫、お前はいったん家帰ってお下がりになりそうな服見つくろってこい」


 少女の服を適当に買ってやらないといけない。しかし、金はかけたくないので、薫からもらう事にしよう。


「……お前、そんな趣味があったのか?」


 どこをどう曲解したのか、薫が俺を蔑むような目で見てきた。その眼差しに殺意を抱いたぞ。


「どんな趣味だ! こいつの服だよ! 着の身着のままじゃダメだろう!」


 こいつ本格的にダメになってるな。というかキサマはどこまで俺を特殊性癖にしたがれば気が済む。


「わ、分かっている。さっきのは冗談だ」


「その割には目が真剣だったぞ……」


 こいつと一緒にいると疲れるのは当然だが、今日はいつにも増して疲れる。まだ昼にもなってないのに、すでに俺の体力はレッドゾーンに入りかけている。


「……秋月静」


 暗殺者の少女が物言いたげな視線でこちらを見つめている。仲間にでも入れてほしいのだろうか。


「何だよ……ってそうか。いい加減お前の呼び方考えないとな」


 お前、とかそれ、とかじゃ味気ない。それにあまりいい気分もしない。


「名前ねえ……とっさには思いつかないな。薫はなんかないか?」


「……クロ」


 髪の色からだな。こいつは猫か。


「却下。そんな簡単に付けるんじゃない」


「……良い名前だと思うんだが」


「これからお前をポチと呼ぼうと思うんだが、」


「私が悪かったようだな」


 即座に頭を下げてきたので許す事にする。やはり猫や犬の名前として代表的なので呼ばれるのは屈辱感あるよね。


「んー……アサシンから取ってサン、というのはどうだ?」


 後ろ暗い仕事である暗殺者から太陽(サン)だ。なかなか皮肉も利いた良い名前だと思うんだが。


「……お前だって安直じゃないか」


 薫の指摘ももっともで否定できない。しかし俺にネーミングセンスを求めるのが間違いだとなぜ気付かない。


「……それでいい」


「どっちだ?」


「サン」


 少女――サンが無表情に俺の名前を選んだ。


「だとよ」


 薫に勝ち誇った視線を向ける。薫は歯ぎしりが聞こえそうなくらいの顔をしていた。いい気味だ。






「動きやすくて良いな。これは」


 サンが薫のお下がりであるTシャツとジーンズを着てご満悦だ。評価するポイントが可愛さではなく、動きやすさであるあたり、やはり薫と似ていると思う。


「お前、サンに似合うような可愛いやつないのか?」


 しかし、見る側としては動きやすい服よりも可愛らしい服の方が嬉しいのは言うまでもない。なので薫に聞いてみたのだが、なぜかひどく落ち込み始めてしまった。


「あるにはあるのだが……ウエストが細過ぎて履けないそうだ」


「……俺が謝るべきか?」


 女性に対しての鬼門をついてしまったようだ。さすがの俺も居心地の悪さを感じて謝ろうとしたのだが、薫が止める。


「いや、下手な同情は余計に傷つくだけだ……。彼女が反則なんだよ……」


 華奢な奴だとは思っていたが、薫を上回るとは。薫は何やら落ち込んでいるが、男の俺にこいつを慰める方法はないので放置した。


「これからどうするのだ? 秋月静」


 心なしかウキウキした感じのサンが上目遣いで問いかけてくる。どうしたものかね。服自体は薫からのお下がりで何とかなるのが実証されてしまったし。


「もうやらん! もうやらんぞ! これ以上私のプライドを粉々にされてたまるか!」


 もっとお下がりをもらおうと薫の方を見たのだが、本人がやたらと嫌がっている。というかお前に女のプライドなどあったのか。


「……そこまで嫌がるなら仕方ない。サン、買い物に行くぞ」


 また食材の買い出しに行かないといけない。ってか食費が三人分とか死ねる。仕送りだけじゃそろそろキツそうだ。アルバイトで稼ぐ事も考えないといけないかもしれない。


「分かった。ついて行こう」


「素直でよろしい」


 薫だったら必ず文句を言うところだ。まあ、いつも荷物持ちに使って重い物を持たせているからだろうけど……。


「私も行く。お前一人でサンの面倒は見れなさそうだからな」


「へいへい」


 荷物持ち二人目確保。大量に買えそうだ。しばらく持つように買い込もう。






「……重い」


「静、持たせ過ぎだ」


「ああ、軽いなあ」


 薫とサンの二人に重い荷物を持たせ、俺は軽い荷物を持つ。男が女の荷物を持つべきだ? 俺に厄介事を運ぶ奴らは女だろうと子供だろうと容赦はしない主義だ。


 ……子供はちょっとだけ情けをかけるかもしれないけど。


 ブチブチと後ろから文句が聞こえるが、負け犬の遠吠えと思えば気にならない。むしろ晴れやかな気分になれる。


「そろそろ昼時か……」


 時計を確認すると、すでに十二時半だった。


「……あそこで食べてみたい」


 そう言ってサンが指差したのは大手のファーストフード店。まあ、安いし妥当な線だな。


「私もそれで良い」


「んじゃ、ウチ帰って素麺でも食べるか」


「聞いただけか!?」


 薫が悲鳴のような突っ込みを入れてくる。こいつが俺に突っ込みを入れるのは非常に珍しい。そして俺はボケたつもりは毛頭ない。


「もちろん」


 三人で食べるとなると、どこへ行ってもそれなりの値段になってしまう。だったら今が旬(安く売られるという意味で)の素麺でも食べていた方がマシだ。


「……そうめんとは?」


 サンにとっては未知の物だったか。まあ、おいおい教えていけば問題ないか。


「作ってやるから、それ見ろ。ほら、薫もぶつぶつ言ってないで帰るぞ」


「外食したって良いじゃないか」


「ダメだ。お前俺におごらせるじゃねえか」


「男が女におごるのは当然だろう?」


 素で首をかしげないでほしい。そしてさも当然のように男女差別を持ち出しやがった。チクショウ、女って便利だな。


「俺がそんな紳士だと思うか?」


「いや、お前ならむしろ私におごらせるだろうな」


「ご名答。それで良いなら喜んで行ってやるがどうする?」


「さあ、素麺をみんなで食べようじゃないか。量があるからしばらくは素麺尽くしだ」


 薫が俺の前を歩き出した。人に金を出させるくせに自分では出さないというのはどういう了見だと思わないでもない。


 ……まあ、こいつの面倒見てもらっているからって、東也さんにいくらかもらっているので別に気にしていないんだけど。


 とまあ、こんな感じに俺たちは日々を過ごした。俺自身、サンは悪い奴じゃないと思っていたし、この生活は新鮮で結構楽しかった。


 だからだと思う。俺があんな無茶をやった理由はそれくらいしか思いつかない。


 ……後にも先にも、あれだけ大きな組織に喧嘩を売るなんて真似は。






「秋月静。二階の掃除が終わったぞ」


 サンを家に置いて二週間ほどが経過していた。サンは物覚えが早く、素直なので家事を手伝ってくれて非常に助かっている。


「ああ、サンキュ」


 俺は冷蔵庫から冷たい麦茶を出して、コップに注いでサンに渡す。


 最近は冷えてきたとはいえ、やはり体を動かせば汗をかく。そういう時は冷たい飲み物の方が嬉しい。


「……何を見ていた?」


「ん? ああ、ニュースだよ。最近物騒だからな」


 どうもこの近辺で殺人事件が相次いでいるようだ。とりあえずスタンガンを準備して、犯人と出くわした際の備えをしておこう。


 被害者は政治家とか、金持ちとかに限定されているからウチが狙われる可能性なんてないだろうが、念のためだ。


「そうか。秋月静は私の知る限り不幸体質だ。準備をしておいた方が良いだろう」


「居候二週間目の奴にそんな事を言われるとは思ってなかったよ」


 こいつが家に来てから厄介事に巻き込まれたのはたったの七回だ。普通は二週間もあったら、すでに二ケタ超えてるぞ。


 それに巻き込まれた厄介事も不良に絡まれるとか、ヤのつく方々の末端構成員に絡まれる程度だ。本格的な抗争などには巻き込まれていない事から、割と運も良い方だと思う。


「……ところで、冬月薫はどうした?」


「薫か? あいつは……確かに何やってんだろう」


 たいていは俺の家にいるはずだ。あいつ、自分の家を寝床ぐらいにしか思ってないのかね? あんなに良い両親がいるのに。


「まあ、柄にもなく親孝行でもしてんじゃないのか?」


 東也さんの晩酌をするとか。きっと泣いて喜ぶよ。俺だったらまず薬が盛られてないか疑うけど。


「……この生活をずっと続けているのは問題があると思う」


 薫についての話だったのに、急に話を変えたサン。しかもそれがそこそこ的を射ている。


「ほぅ」


 正解だ。この生活を続けていても彼女に前進は見込めない。今はただ、停滞しているだけ。


 俺個人としてはあと一週間くらいはこの状態が続き、そこで俺が発破かけてようやく動き出す事を予測していた。予想は良い方に裏切られたな。


「そこに自分で気付いたのは偉いと思う。だが、具体的にはどうするつもりだ?」


「……私は、」


 サンが口を開こうとしたところで、インターホンが鳴る。薫か? 結構重要なところだったんだから空気読めよ。


「……はーい?」


 苛立ちを腹の奥に隠しながら、すぐにその怪しさに立ち止まる。


 薫がお行儀よくインターホンを鳴らす? あり得ねえだろ。あいつ、ウチの鍵持ってるぞ。それ使って入ってくるのが普通だ。ならば今インターホンを鳴らしているのはいったい誰?


 真っ先に思い浮かんだのはサンに関わる連中だ。しかし、サンの言い分では力を著しく落としていると聞く。組織の力が十全の時にも関わらず壊滅寸前の打撃を与えた俺たちを力の落ちた状態で狙うか?


 確かに暗殺はあり得るかもしれないが、サンが手の内にいる以上そっちもほぼ考えられない。よってサンのいた組織という線は消えた。


「…………」


 こういう時はインターホンに設置されているカメラに映る姿を見て判断しよう。こんな簡単に答えを知る事ができるのに、何で俺は悩んでいたんだろう。


「……警察?」


 制服の色までは分からないのだが、奥の方に見えるパトカーで判断できた。


「…………」


 いつまでも出ないのはマズイ。居留守を使ってしまう事もできるのだが、カメラに写っている人たちは明らかに出直す雰囲気ではない。いなければ問答無用で家宅捜索くらいしそうなくらいに気が立っているのが分かる。


 チラリ、とサンの方を見るが首を横に振られる。彼女にも心当たりはないようだ。


 …………出るしかない、か。


「はい、どちらさまでしょう?」


 愛想笑いを浮かべつつ、玄関のドアを開ける。


「秋月さんのお宅ですね。我々はこういう者です」


 そう言って警察手帳を見せる警察官。何だ、俺を知らないって事は新人だな。


 あまり威張れる事ではないが、俺は警察には顔パスできるくらい名が知れている。この辺の騒動にはほぼ九割以上俺と薫が関わっているからだ。


「警察、ですか……いったいウチに何の用で?」


 俺に警察手帳を見せている人の後ろにはさらに何人か警官がいる。俺の顔を見ても無反応なので、この人たちも地方から飛ばされてきた人たちだろうと当たりを付ける。


「最近、この辺りで殺人事件が起きています。そして、あなたの家には最近になって新しい人がいる。相違ありませんね?」


 口調こそ丁寧だが、その声には応えないと許さないという威圧感が漂う。


 甘過ぎると言わざるを得ない。この程度の威圧感で根を上げるような神経はしていない。というかそんな繊細な神経だったらとっくにあの世行きだ。


「確かにウチには新しい居候がいますけど、それだけで任意同行はちょっと難しいんじゃありませんか? ただの偶然という可能性もありますし」


 俺が指摘すると、警官の人は勝ち誇ったような顔を見せる。俺となにを競っていた。


「こちらをご覧ください。殺害現場の監視カメラが捉えた映像です」


 そう言って写真が俺に手渡される。それを見て、俺は静かに息を呑んだ。


 サンと瓜二つの顔と背格好を持つ少女がそこにいたのだ。その手には鋭利なナイフが握られており、子供が見てもこの少女が犯人であると言うだろう。


 そんな、あからさま過ぎる写真を見せつけられる。


「これでお分かりでしょう? 私どもが聞き込んだあなたの居候の特徴とも一致します。これ以上私どもの邪魔をするならあなたも公務執行妨害になりますが」


 ハッ、俺がいつあんたらの邪魔をしたよ。そんな見え透いた脅しに誰が引っ掛かるかっての。


「そうですか。でしたら、私が彼女に会って話を聞きます。その上でやってないのなら、きちんとした証拠を出してもらいます。言い逃れなどできない完璧な証拠を」


「おやおや。あなたは殺人者であるかもしれない方の言葉と警察の言葉、どちらを信じるのです?」


 カチンときた。何だこの慇懃無礼な奴。きっと、署内でも嫌われているのだろう。




「家族の言葉を信じるに決まってるじゃないですか」




 当然の事だ。いきなり現れた警官よりも見知った家族の言い分を信じるのは。


「な……!」


「というわけで、少々お待ちを。本人に確認を取ってきます」


 ドアにチェーンをかけて中には入れないようにする。


 後ろから聞こえる喚き声にも似ている言葉を無視して、サンのもとへ向かう。


「サン、さっき俺が話した殺人事件あったろ。あれの重要参考人としてお前が疑われている」


「本当か……? 私はやってないぞ」


「だろうな。俺もお前がどこかへ行ったなんて話は聞いてない」


 基本的に俺の家事を手伝っていたし、夜は俺の部屋で布団を敷いて眠っていた。犯行可能な時間はほんのわずかだろう。


「それで、秋月静はこれからどうするのだ?」


「とりあえず、警察の人を適当にあしらう。それから薫を引っ張ってきて本当の犯人探しだな」


 ただ、上手くあしらえる自信がないため最悪実力行使だ。


「いやあ、お待たせしました」


 ふてぶてしい態度で玄関に戻る。警官はかなり苛立った様子でこちらを待っていた。


「……気は済みましたか? それでは、こちらに彼女を渡していただきたい! これ以上はあなたを本当に逮捕しますよ!」


 チッ、言葉でどうにかなる雰囲気じゃないな。下手に刺激したら一気に爆発しそうだ。




「――お断りだボケ。家族を売り渡せるわけねえだろ」




「な……っ!? がっ!」


 俺の啖呵に呆気に取られた隙を突いて、素早くチェーンを外してドアを開ける。そしてガラ空きの顎にアッパーを入れて意識を刈り取ってしまう。


「サン、行くぞ!」


 場が静まり返る一瞬を突いてドアを閉めて鍵もかける。がちゃがちゃと開けようとする音が聞こえるが、しばらくは持つだろう。


「わ、分かった!」


 サンと一緒に二階に向かい、慣れた足つきで屋根裏部屋から屋根に上がる。


「ずいぶんと脱出に慣れているな」


「家ん中にも厄介事が来るのは結構あるからな。それで慣れた」


 玄関前が暴走族に包囲されたりする事が割とある。そういう場合は屋根伝いに逃げるようにしている。


「よし、薫の家であのバカを連れ出すぞ」


「あ、待ってくれ!」


 サンの珍しい大声に呼ばれ、思わず足を止めてしまう。振り返ると、サンは聞きにくそうにもじもじしていたが、やがて意を決したように口を開いた。


「その……どうして私をそこまで信じてくれる? 私はお前を殺しに来た暗殺者だったんだぞ? 真っ先に疑うのが当然じゃないか?」


 それは否定しない。サンが来て間もない頃なら、俺はためらわずに警察に差し出していただろう。だけど、今は違う。


「“だった”んだろう? この二週間、お前の事は見てきた。その上で俺がお前を信頼するって言ってんだよ」


「……裏切るかも知れないぞ?」


「そん時はお前を見極められずに信頼なんて選択をした俺のミスだ。受け入れるさ」


 まあ、裏切らないと思っているが。本当に俺を暗殺したければいつでもチャンスはあった。それでも俺の首を狙わなかったのだから。


「……あり、がとう」


 照れ臭そうにサンがそう言った。初めて聞くその言葉に目を瞬かせるが、すぐに笑みが口元に浮かんでしまう。あの無表情な子が成長したものだ。


「どういたしまして。ほら、薫を呼びに行くぞ」


「ああ!」


 サンの笑顔を見て、どうしようもない苦笑が浮かぶ。この状況が彼女の成長になったのだとしたら皮肉だな、と思う。


 そして、俺はこの現状が気に食わない。


 黒幕が誰かは分からない。だが、そいつがサンと俺を良いように操っている。それがこの上なく腹立たしい。


 ご破算にしてやる。誰を敵に回したかその頭に刻み込んだ上でな――!

三日ぶりです。アンサズです。


静が珍しく自分から首を突っ込みます。彼は自分が誰かの手のひらで踊っているというのが大嫌いです。彼は何もかも自分で決めて自分で動くのを信条としていますので。


やはりというべきか、長くなり過ぎたので分けます。おそらく次で終わります。

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